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雨が激しく強く降る中、入り組んだ路地裏を走るローブを頭から羽織った男
ローブの隙間からは高級そうな装飾の服、指には大きく加工された宝石が指輪を着けている

「……ここまで来れば大丈夫だろう」

男は懐から高そうな装飾のされた瓶を取り出し飲み始める
瓶には【王家御用達】と記載されたラベルが貼ってある

「ふぅ~やはりこの酒は美味い。これからこの酒…いや、この国は私のモノになる!クックック!」

これからの薔薇色の人生を思い浮かべるとつい笑いが込み上げてくる
ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認する

「もうそろそろ合流の時間か。あいつらの事だ、もう待っているだろうな」

男は足早に目的の場所に向かう

☆★☆★

目的地に近付くにつれて辺りは一層に静かになる
王都外れにあり元々は富裕層の家が建ち並んでいた場所
今は王都が大きくなりこの場所に住んでいた富裕層達は軒並み王城近くに新しい家を建てて移り住んでいる
現在では空き家が多く住んでいる者は少ない

「はぁはぁ、もう少しだ。もう少しで私は…「もう少しで何になるんですか?」」

男は声が聞こえ、注意しながら周囲を見渡す
ガキの声か?
いない…何処かにいる……

男が後ろに気配を感じバッと後ろを振り返る

「いない?」

その直後肩をポンポンっと叩かれる

「こっちですよ?」

男はその場を離れ懐からナイフを取り出し前を見る

「だっ誰だ貴様は!私を誰だか知っているのか!」

「ガッド=イゾン公爵様ですよね?いえ、元公爵様になりますかね?」

暗闇が一瞬揺らりと揺れ、ガッド公爵の前に現れた男

「もっ元公爵様だと!私を馬鹿にしているのか貴様!不敬罪だ!ガキだろうが関係ないわ!今すぐ処刑してやるわ!」

ガッド公爵はナイフを振り上げて男に向かってくる

「とりあえずガッド公爵様だと確認できました。これより依頼を開始します」

男はボソッ喋ると向かってくるガッド公爵のナイフをその身で受ける

「んっ?」

確かに刺したのだが、刺した感触がない
ガッド公爵は何度も刺すが全く血が出てこない

「んぎゃ!?」

足元に強い衝撃が走り、ガッド公爵はその場でズッコケる

「足元がお留守ですよ。いつまで影を刺してるんですか?」

ガッド公爵は目を疑う
目の前には二人いるのだ
同じ風貌の男が二人

「これは僕の影です。ですから感触も血も出ませんよ?」

男の影と呼ばれた方がスーッと消える

「ひぃぃ!!」

ガッド公爵は慌てて立ち上がり目的の場所に向かって逃げ出す

「あっ!そっちは……」

☆★☆★

「何故だ……」

ガッド公爵が目的地に着くとそこら中に死体が散らばっていた
外傷はほぼ無かった
胸に穴が空いてる以外は

「見ない方が幸せだったと思いますよ?」

「ひぃぃぃぃ!!」

いつの間にかガッド公爵の後ろに立っていた男が話かけてくる

「きっ貴様は何者だ!そっそうだ!私に雇われんか?金ならいくらでも払う!私はこの国の支配者になる者だからな!
今仕えれば貴様にも良い思いをさせられるぞ!」

ガッド公爵は指に嵌めてあった指輪を全て外し、男の前に投げる

カチッ

「現地にて証言を確認。録音終了。これより対象を沈黙させます」

男は手に持つ結晶を操作しガッド公爵の証言を録音していた

「貴様…影……はっ!まさか…【王の影アサシン・ファントム】か!」

「その通りです。王の依頼にて貴方の身柄を確保、並びに王国に仇なす帝国の諜報員の駆除に来ました」

「クックック…まさか王の影アサシン・ファントムと呼ばれている奴がガキだとはなっ!!」

ガッド公爵はナイフを投げつけたが、男は指でナイフを掴む

「まだ罪を重ねますか…やはり一度罪を重ねた者は諦めが悪いですね」

「ほざけ!ガキに何がわか…「わかりたくもないですが、何人もの罪人を断罪してきましたから考えはわかります」」

男は手に魔力を込める

「ガッド公爵、貴方の罪を今僕が裁きます。
意識が戻ったら悔いを改めなさい【ナイトメア】」

男が魔法を放つとガッド公爵の体を暗闇の霧が包み込む
じたばた動いていたガッド公爵だが、徐々に動きが止まっていく

完全に動きが止まると男は中心街に向かい歩き出す

「ジャッジメント完了」

☆★☆★

アルステラ王国王城にて

アルステラ王国の王・サリアス=アルステラ
は玉座にて報告を受けていた

「王よ。ガッド公爵が自分の罪を認めました」

「ふむ。やはり帝国と繋がっていたか」

「はい。記録結晶でも認めていますが、自白した際に契約書の隠し場所を吐きました。
また、帝国に流した内容を今話しているので書記に書かせております」

「うむ。全て自白次第ガッド公爵の処分について会議をする!すぐに全員に通達せよ!」

「はっ!」

足早に去っていく宰相見てから、玉座に置いてある鈴を鳴らす

チリーンと一回鳴ると部屋の外に待つ兵士が中に入ってくる

「お呼びでしょうか!」

「うむ。オリバー軍団長
ノアを呼んできてくれ。話があると」

「今回の件でありますね?はっ!」

オリバーと呼ばれる男は笑顔になりながら部屋を後にする
オリバーは50歳過ぎながらも生涯現役を掲げて未だに成長し続けている軍団長
巷では【王国の獅子】と呼ばれている

☆★☆★

王都の外れにある小さい家に住んでいるノアはオリバーに連れられ王城に入る
門番には不思議な顔をされたが、オリバーがいるため問題はない

「それにしても今回もお手柄だったなノアよ!」

「いえ、いつも通りに依頼をこなしただけです」

「はっはっは!そう謙虚になるな!お前のお陰で王国は良くなって行ってる!」

オリバーはノアの頭をなでなでしなが話す
ノアは顔が少し赤くなり俯く

☆★☆★

「では私は戻ります!」

「うむ。話が終わり次第また呼ぶ。よろしく頼む」

「はっ!」

オリバーが退室すると玉座の間には王、宰相、ノアの三人になる

「ノアよ。この度は大儀であった。
今回の件で王国の膿を全て出し切ったと思う」

「はっ!有り難き幸せ!」

「硬っ苦しい言葉は止めよ。儂とお前の仲ではないか。
お前の師匠なんて一度もそんな言葉を使わんかったぞ?」

「わかりました…ですが、あの師匠らしいですね」

二人は笑顔になり笑い始める

☆★☆★

「今回の件で王国の闇に潜む者たちは大方片付いた。
ノアはこの先どう考えておる?」

王がノアの顔を見て話す

「師匠から王の影を受け継いでいるのもあり、僕は生涯王国の闇に潜みたいと思っています」

その一言に王と宰相は少し悲しい顔をする

「ふむ…それは嬉しいが、ノアは何かやりたい事はないのか?商人になってみたい、冒険者になってみたいとか」

「特にはないですね」

「うむむ……」
真顔で答えるノアに王が難しそうな顔をする

「エルトールよ。どうすればよい?ノアはまだ15歳。あのバカ師匠の後をついで3年
今まで血なまぐさい深い闇に生きてきたのをどうすれば普通の生活に戻せる?
儂もお主もオリバーも考えは同じはず」

「はい。私も同じ考え
今まであのバカ師匠の危険な仕事を受け継いで、少年の頃から命の取り合いをさせ続けたのを毎日のように見ていましたから
毎回心臓が止まりそうでしたよ…孫より歳下の子にこんな仕事をさせていたのに」

「それはわかっておるわ!儂も息子より歳下にやらせたくはなかったわい!
あやつのバカ師匠の教えが悪いんじゃい!」

王と宰相がヒソヒソ話をしているのを真剣に見つめているノア

☆★☆★

「んんっ!!ではノアよ。今回の依頼の報酬はいつも通り振り込ませておく」

「はっ!」

「そして新たな依頼を頼んでもいいかの?」

「…また闇がありました」

ノアがスンッとお仕事モードに入るのを見て王と宰相は慌てて話す

「いやいや、闇はナイナイ!また別の依頼なのだ」

「…では今回の件で帝国へのカチコミですか」

更にスンッと深いお仕事モードに入るのを見て王と宰相はまた慌てて話す

「違う!違うから!カチコミってあのバカ師匠がよく使って言葉!ノアは使わなくていいからの?」

「そうですか?では殴り込みに」

「んんー!殴り込みじゃないから!?依頼は別、別のだから」

慌てる二人を見て元のノアに戻るのん確認すると王は話始めた

「依頼は簡単じゃ。王立学園に入学して卒業してほしい」

学園?
ノアは王都内にある立派な建物を思い浮かべる

「あの2年前に学園内で奴隷を使って危ない研究をしていた学園長を消した学園でよろしいですか?」

「その通りだけど!だけども今は信頼のある学園長だから大丈夫だからね!?」

王は昔の危ない事件を思い出したが
今は健全アピールをする

「うむ。その学園に入学して友達を作って卒業してほしい。それが依頼じゃ!」

ノアは少し考えてから王に依頼内容を細かく確認する

「学園に入学して友達を作り卒業する
大まかには分かりましたが、友達の定義とは?そして友達を一人作ればよろしいでしょうか?」

王と宰相はガクッとなる

「ううむ…友達の定義……うむ!その者と遊びに行ったり、一緒に狩りに行ったり、自分の家に連れてきたりが友達の定義じゃな!
友達の数は…う~む。そういっぱいじゃ!」

「なるほど、遊び(訓練)、狩り(暗殺)、家に連れてく(捕縛)……
いっぱいはよくわかりませんが、後で確認します。
この依頼は長期になりますが、その都度報告は必要ですか?」

「そうじゃな。不定期でよいからオリバーに報告してくれ」

「わかりました。依頼承ります。すぐに準備して入学します」

ノアは立ち上がり部屋を後にする

「はぁ……あそこまで真面目だったかの?」

「そうですね…あのバカ師匠の一割でもいい加減さを取り入れてもらいたかったですね…」

「とりあえず第一歩は進んだかの…

部屋に残っている王と宰相は溜息を吐きながらも、ノアの新たな未来を考えていた
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