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依存
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「よう乃愛、元気そうだな」
天気の良い日曜の朝に、愛美おばさんがノックもせずに私の部屋に入ってくる。
マスターベーション中とかだったらどうするつもりなんだろう。
でもこの人相手だと、私の方がお見苦しいところを、なんて言って恥らわなければならないかもしれない。
だから年頃の娘の部屋に入るのであれば、ノックくらいはちゃんとしてほしい。
「愛美おばさん、こんにちは」
「おばさんいらない。お姉さんならいいぞ」
「お、お姉さん」
「そうだ、よくできたな」
愛美おばさんのとこの息子は、確か私と同い年だったはずだ。
何ヶ月か前に顔を合わせたっきり会ってないが、元気にしてるんだろうか。
「ああ、あいつなら今日バイトあるとか言ってたから置いてきた」
「そうなんですか」
別に会いたいとは思ってないが、元気そうだしそれならそれで。
実際腹違いの兄弟みたいなものだけど、仲良しかと言われると別にって感じ。
変な名前で、愛輝って愛美おばさんがつけたんだって言ってたかな。
二人の子どもだから名前から一文字ずつ取ったんだろうけど、安直だし何か呼びにくい。
父はもう少し捻ろう、みたいに言ってたみたいだけど、愛美おばさんが一蹴したのだとか。
愛美おばさんと愛輝くんもそうだが、うちの両親以外の女勢は皆別のところで暮らしている。
ノルンおばさんにロヴンおばさん、フレイヤおばさんは神界で、愛美おばさん、和歌おばさん、朋美おばさん、桜子おばさん、明日香おばさんはこの世界で。
愛美おばさんは元々暮らしていたマンションをそのまま借りていて、和歌おばさんと明日香おばさんは明日香おばさんの家で。
桜子おばさんは実家で。
朋美おばさんはこっちに家を借りているとのことだった。
子どもたちは、ロヴンおばさんとフレイヤおばさんの娘が神界で、ノルンおばさんの息子がこっちにいる。
人間界出身のおばさんたちの子どもはみんな人間界にいるはずだが、和歌おばさんの子どもだけ確か魔物がいるというロキおじさんの作った世界に行ってるんだったかな。
ちなみに、人間界出身のおばさん……おばさんて言葉がゲシュタルト崩壊しそうだ。
話が逸れた、人間界出身のおばさんと子どもを作るに当たって、父は女神化してふたなりになって子を作ったらしい。
結果として、全員の子どもが神の力を持って生まれることができた。
人間界で暮らすなら、と母やノルンおばさんという元が女神である存在が封印を施したりしている。
和歌おばさんの子どもだけは別に羽が生えてても問題ない、と本人が言ったので封印はしていないという。
「今日お父さんは確か、朋美おばさんのとこだったと思いますよ」
「ああ、知ってる。睦月と話にきただけだから」
持参した茶を私に見せて、はにかむ。
愛美おばさんも、割といい歳のはずだけど若々しい、というか若い。
どう見ても二十代にしか見えない。
もちろん、神式アンチエイジングとか言う名目で、見た目と中身の年齢を定期的に母たちが弄っているのもあって、この人たちは歳を取りながらもとっていないというチートが展開されているのだ。
そして悪いところがあれば瞬時に治すという、まさしく医者要らずの体なわけだ。
「そういや、友達できたんだって?」
「…………」
余計なことを、と母を睨むと、母は目を逸らして笑った。
「いいことじゃん。多感な時期なんだから友達ガンガン作っとけよ。人生、刺激は大事だぞ?」
「私にはそんなに沢山の友達は必要ないから……」
「まぁ、出来る時は自然と出来るもんだからなぁ。今度あたしにも会わせてくれよ」
二人が話に花を咲かせ始めたので、私は自室へ退避する。
今は茶で済ませているが、愛美おばさんはこの後酒を飲むに違いない。
そうなるとグダグダ絡まれて非常にめんどくさい。
母は面白いからいいじゃん、とか言ってたが、私はああいうのはごめん被る。
部屋で携帯を確認すると、千春からメールが来ていた。
『今日暇だったら、少しお出かけしない?』
何とも簡潔な内容だ。
継母との事件から早くも二週間が経過していて、千春の一家の関係は少しぎこちないながらも、良好になりつつあると聞いている。
そして千春は意外なことに鬼メールを送ってくる様なことはなかった。
本当なら今日はバイトの予定だったが、急遽新人が入るとかで休みを昨日言い渡されている。
『何処か行くの?場所の提案求む』
私も人のことは言えない。
かなり簡潔で、現役JKとは思えない文章だ。
だからと言って絵文字で煌びやかにしてわけのわからない言語を用いてのメールなんかをする気にはとてもなれない。
そういう友達ならさすがにめんどくさいからいらないかな。
『ご飯食べない?美味しいお店見つけたんだ』
ふむ、ご飯か。
お昼目的で行くなら、少しお茶でもして時間を潰すのも良いだろう。
前ならこんなこと考えなかったし、だけど今は千春と過ごす時間も楽しめる自分がいる。
人間変われば変わるものだ……女神だけど。
「乃愛さん、お待たせ」
待ち合わせた店の前に千春がやってきた。
包帯はもう取れて、今はガーゼを換えるだけになっている様だ。
あれから何度か、私は傷を消してやると提案したが、いずれも返事はノーだった。
言っているうちに自分が責任から逃れたいだけな気がしてきたので、私は提案をやめた。
「とりあえずお昼まではまだ時間あるし、お茶でもする?」
「そうだね、このお店ケーキが美味しいんだよ」
ケーキ好きだよな、千春。
こいつと出かけると、三回に一回はケーキを食べている気がする。
そのうちぶくぶくと太りだしたりしないだろうか。
凹凸の少ない千春の体が、腹だけやたら出てきたら……ちょっと目も当てられない気がする。
顔は悪くないというか、多分一般的には可愛らしい部類だと思うけど。
「今日はおばさんがきててさ。ちょっと家に居づらいというかで。誘ってくれて少し助かった」
「おばさん?」
「ああ……話したっけ、うちの父、母のほかに女が八人もいんの」
「は、八人!?」
「言ってなかったっけか。しかも父が高校の頃からだって言うから、もうどうかしてるよね」
「普通じゃないって、そういうことだったの?」
「いや、まぁそれもあるけど……母と父、籍入れてないしね」
千春はケーキを食べながら、目を白黒させている。
きっと、私が不幸な生い立ちか何かだと思ってるんだろう。
だが、そうじゃないということを一応説明しておく。
女神であることはもう見られてしまっているし、隠しておく意味がないので、伏せたりせずに説明した。
「えっと……乃愛さんて何者なの?」
「だから、女神なんだって。悪魔みたいで悪かったな」
「そ、そうじゃないよ!……何て言ったらいいのかな……非日常って言うの?そんなんだから、私には理解が追いつかないっていうか……」
「まぁそれが普通の反応なんだけどね。でも、あんた私の本当の姿見ても怖がらなかったね。何で?」
「だって、乃愛さんだって普通にわかったから。乃愛さんが優しい子だってこと、私は知ってるもん」
「やめろよ。別に優しいわけじゃないから。基本自分以外の他人はどうでもいいんだぞ、私は」
「嘘だよ。乃愛さんはそう言ってるけど、常に人のこと気にかけてるの知ってるもん」
「……言ってろ」
千春は微笑みながらケーキを頬張る。
少し物足りなそうだったから、私の分もくれてやった。
ふははは、太るがいい。
……別に気にかけてるってわけじゃない。
ただ、可哀想な状況とか見てて胸糞悪くなるだけだ。
痛そうとか辛そうな表情って、見ててイライラしてくる。
だからその原因を取り除いてしまえば、私だってイラつかなくて済むし、本人だって楽になってWinWinじゃないか。
「まぁ、こんな環境で生まれた私だから、ちょっと人とは違う経験もしてきてるっていうか……正直何でもありだからね。人生がチートみたいなもんさ」
「チート?って何?」
こんな純粋な子にチートなんて言ってもそりゃ通じないよな。
「まぁ、簡単に言ったらズルってことかな。そのチートを使って、父は昔おばさんの中の一人のお父さんと戦ったこともあるんだってさ」
「戦う……ってすごいね……殴りあったりとか?」
「ほぼ殺し合いに近かったって聞いてるけど、どうなんだろ。そのことあんまり話したがらないんだよね、父は」
「何でもありの相手と殺し合いって、もう何か想像つかないんだけど……」
「千春は漫画とか読む方?」
「少女マンガなら、たまに?戦いが多い、男の子が読む様なのはあんまり」
「そうか、ならそういうの想像できなくても仕方ないかもしれないね」
私はコーヒーをブラックで飲んで、千春がケーキを食べるのを見守る。
本当に美味しそうに食べる。
見てると腹減るんだよね。
「ん?何?食べたかった?」
「いや、食べちゃっていいから。美味しそうに食べるよねって」
「ご飯でも何でも、誰かと食べるのって、やっぱり美味しいから」
本当、こんなに毒が無い人間と接するのは初めてだ。
まだこんなやつがこの世界にいるなんてことが、私には信じられなかった。
「それより、そんなに食べちゃって昼飯食えるか?」
「大丈夫、私太り難いみたいだから」
「将来やばいパターンだなそれ。油断してると肉ダルマになってたりするかもしれないから、気をつけるんだね」
「嫌なこと言うなぁ……」
「まぁ、強制ダイエットみたいなこともできなくはないけど。昔母が、一般人にいたずらで能力使って、視界をうんこまみれに……」
「え、何それ……ていうか食事中にうんことかやめて……」
下らない話をしながらお茶を済ませた。
十二年前にこいつと知り合ってたら、私の人生は少しは華やかなものになっていたのだろうか。
そんなことを考えながら会計を済ませる。
「少し歩いておく?」
「うん、ていうかちょっと離れたところにあるから。腹ごなしに丁度いいよ」
雑談をしながら街を歩く。
ティッシュ配りに精を出す人や、客引きの為にメイド服を着ている女の人。
カップルなんかが多く歩いている。
「どけぇ!!」
突如男の怒号の様なものが聞こえて、街が騒然となる。
声のした方向を見ると、人波が二つに割れてその間をいかつい男が走っていた。
手には女物のバッグを持っている。
ひったくりか?
その後を、女が追いかけている。
「そ、そいつ、誰か、捕まえて……!」
息も絶え絶えの様子でその女は叫ぶが、ほとんど声になっていない。
体力の限界が近いのかもしれない。
というかこいつ、どこかで……。
「乃愛さん……?」
こちらに向かって走ってくる男。
私はその男に対して迎撃体制を取り、カウンター気味にデコピンを食らわせた。
「!?」
周囲がざわついて、千春も驚愕の表情を浮かべた。
女は立ち止まってぽかんとしている。
私のデコピンを食らった男は、バク宙の要領で一回転して地面にうつ伏せに倒れた。
「…………」
「ちょっと加減間違ったかな……」
「だ、ダメだよ乃愛さん、いきなり暴力なんて……」
「暴力じゃないし。見てたでしょ?ただのデコピンだから」
長い距離追っかけていたのか、膝をガクガクさせながら女がこちらに歩いてくる。
周りは今の出来事が信じられない、と言った様子でざわつきながら写真を撮ったりしていた。
「あ、ありがとうございます。この男にバッグ、ひったくられて……」
「ああやっぱり……ていうかあんた……」
「あ、池上さんじゃない?うちのクラスの」
「あ……宇堂さんと……佐々木さん?」
道理で見覚えがあるわけだ。
やけに大人びた格好をしているから、全然わからなかった。
「それより、ひったくりの現行犯なんだし、警察呼んでおかないと」
「あ、そうだよね」
「あ、え、えっとそれはちょっと……」
「ん?何かまずいことでもあんの?この男知り合いとか?」
そんなことを話しているうちに周りの誰かが警察を呼んでいたのか、パトカーが到着する。
「あら、お早い到着だ」
「これ、逃げたらダメなやつかな」
「任意同行とかってやつになるんじゃない?別に悪いことはしてないけどね、私ら」
とはいえ、相手をのしてしまったという手前逃げるのはやや気が引ける。
「すみません、今ここで暴行事件が起きたと聞いたのですが……」
「は?暴行事件?いやいや、引ったくりでしょ?その犯人をのしたのは私だけど……」
「そ、そうなんですか?ちょっと詳しい話を聞かせてもらってもいいですか?」
若い男性警官が恐る恐ると言った様子で話しかけてくる。
池上愛理はどうしたら良いのか、という顔で私を見ていた。
千春は私にぴったりくっついている。
レズカップルか何かと勘違いされそうだからちょっとやめてもらいたい。
とりあえずその場で何があったのかを簡単に説明して、流れで池上を見る。
池上がやや躊躇いがちに男との関係を説明した。
「は?彼氏?」
「何で彼氏が鞄持って逃げるの?」
「えっと……」
「まぁ、これだけの騒ぎになってしまっているので……とりあえずその彼氏さん?大丈夫ですか?」
「気を失ってはいますが、大丈夫かなと……」
何だかこのまま行くと面倒なことになりそうだ。
私は気が進まなかったが、とりあえず警察に催眠術の様なものをかけて解散する様発言させた。
池上の彼氏という男については、ひとまず救急車を呼んで病院に運ばせる。
あまりにも突然警察が解散を言い渡したからか、千春も池上も何が起きているのかと目を疑っている様だった。
「で、本当のところはどうなの?まさか普通の彼氏です、なんて言わないんでしょ?」
千春が行こうと提案していた店に三人で移動して、注文を済ませる。
とんかつ屋の様だが、高校生でも金銭的な圧迫をされない様な値段設定で……量がすごい。
一人前で、ロースかつ二枚とか載ってるのが普通だった。
メニューを見ただけでちょっと胃もたれしそうだったが、私はちょっと冒険してみようと、敢えてロースかつ定食を頼んだ。
「えっと、彼氏なんだけど……その……」
何とも歯切れが悪い。
人に言い難い様な話なのだろうか。
「ねぇ池上さん、その二の腕の痣ってもしかしてその彼氏さん……?」
千春が池上の左腕にある痣を差して言う。
よく見ないと気づかないほど薄くなってはいるが、確かに痣があった。
よく気づいたな、こんなの。
「え、ええ……なんていうか、彼ちょっと気性が激しいところがあって……」
「それってDVとかいうやつじゃないの?もしかして日常的にされてたりするわけ?」
「頻度は少し高めかもしれない……気に入らないことがあると、割と殴られたりってことは……」
女に手を上げる男とかマジでクズ。
死んでしまえばいいと思う。
男女の力の差を、何とも思わないのだろうか。
そんな憤りを感じている私を、千春が心配そうに見る。
「乃愛さん、落ち着いて?」
「あ?ああ……大丈夫。んで、何であんたの鞄持って逃げてたわけ?」
おおよその予想はついているが、敢えて確認する。
「その、ギャンブル依存に近いところがあって……種銭っていうのかな、ほしかったみたいで。私がダメだよ、って言ったら怒ってバッグごと……」
「……あんた、バカ?そんな弱腰でダメだよぉ、とか言っても効果あるわけないよね」
「ちょっと、乃愛さん!?」
「結局あんた、あの男に依存してるんでしょ。私がいないと彼はダメなんだぁ、とか。彼がいないと私、生きていけないのぉ、とかさ……きんもっ」
「い、言いすぎだよ……」
「そうよ、あの人は私がいないと生きていけないし、私だって彼がいるから生きていられるの!!文句ある!?」
「あるに決まってんだろ?見ててイライラすんだよ、そういうの。大体、誰かがいなかったら生きてられないとかそういうのお腹いっぱい。本の中だけで十分だっつの。このダメ男キャッチャーが」
「い、池上さん……気持ちはわからないこともないけど、その……何で彼がいないと生きていけないの?」
白熱しそうな私と池上を見て、千春が慌てて水を差した。
ああ、本当にイライラする。
誰かがいないと生きていけないなら、離れた瞬間死ね。
それでこそ本当に生きていけない、だろうが。
人気の無い山奥にでも行って存分にイチャつき倒して、そのまま二人で死んでしまえばいいんだ。
「だって彼は……私に普段は優しくしてくれるし……そりゃ気性は激しいこともあるけど……」
「そんなの、ヒモ野郎の常套手段じゃん。そんなのにまんまと引っかかって、恥ずかしくないわけ?貴重な青春の時間をそんなクズに浪費することそのものが、愚かしいって考えに至らない時点であんた、もう頭やられてるよ。殴られすぎておかしくなってんじゃない?」
「何よ!彼氏とか大事な人がいないあなたに何がわかるの!?」
「彼氏は確かにいないけどな、大事な人なら……」
つい売り言葉に買い言葉で口走って、しまった、と口を噤む。
千春が呆気に取られながらも口の端を引きつらせ、次第にニヤけ面になっていく。
「おい、その顔今すぐやめろ。てか今のなし。なしだから」
「いや、もう聞いちゃったから。なしとか言われても……いひゃひゃひゃ!!」
千春のニヤけた口の両端を、左右に引っ張る。
「生意気なこと言うのはこの口か?今すぐ忘れろ。じゃなかったらあんたの視界もうんこまみれにしてやるから」
「わふぁっふぁ!わふぁっふぁはは……」
「……仲良いのね……デキてるの?」
「は?あんたの目は節穴か?何処をどう見たらそう見えるわけ?」
「いや、そうにしか見えないんだけど……」
「私のことはいいんだよ!今はあんたのことだろ!?」
「私のことは……ほっといてよ……」
「おい、本当にいいのかよ?今のままあんなのと付き合ってたら、あんたの人生お先真っ暗だぞ。搾取されるだけされて、最後はポイだ」
私の言葉に、池上がはっとする。
わなわなと震えだして、キッと私を睨んだ。
「お待たせしました、ロースかつ定食です」
池上が何か言おうとしたとき、注文の品が運ばれてきた。
こうして見ているだけだと、旨そうなんだよなぁ。
まぁいっか、食べ切れなかったら千春に押し付けよう。
「とりあえず飯、食おうぜ。冷めちまったらもったいないから」
お通夜の様な雰囲気で、静かに食事を採る。
咀嚼する音と、箸や食器がぶつかり合う音と、周りの喧騒だけが店内に響いていた。
味は悪くない。
揚げたてだからというのもあるのだろうが、千春がお勧めしてきただけのことはあるかもしれない。
だが、やはりいかんせん量が……。
「え?いいの?乃愛さん足りた?」
「ああ、もうお腹いっぱい。食べちゃってくれ」
食べかけのだけは自分で処理して、箸をつけてないものを千春に押し付ける。
池上はその様子を何だか羨ましげに見つめている。
「あんたんとこ、こういうことないの?」
「え?あ、あるわよ」
「ほーん?あるんだ?無理やり取られたりとかじゃなくて?」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
「熱くなんなよ。図星ですって顔に書いてあんぞ」
何だか見ていて不憫になる。
そういえば父の周りの女もある意味でダメ男キャッチャーか?
いや、あれで一応父はちゃんと働いてはいるんだよなぁ。
明日香おばさんの組の手伝いもしてるし、神界でロヴンおばさんの手伝いもしてたし。
そう考えると割と忙しいな、あの人。
ん?こんだけ依存してるなら……。
「ああ、いいこと思いついたわ。あんたのその病気、私が治してやるよ」
「病気って言わないでよ!!」
「乃愛さん、また何か思いついたの?」
「まぁな。ちょっと面白いことになりそうだ」
そう言って私は席を立ち、三人分の会計をする。
「さ、出るよ。池上もちょっと着いてきてもらおうか」
三人で店を出て、池上を見る。
「じゃあ、荒療治にはなるけど池上の治療作戦、始めようか」
千春は心配そうな顔で私と池上、交互の顔を見ている。
池上はこれから何をされるのかと、生きた心地がしない様な表情だった。
天気の良い日曜の朝に、愛美おばさんがノックもせずに私の部屋に入ってくる。
マスターベーション中とかだったらどうするつもりなんだろう。
でもこの人相手だと、私の方がお見苦しいところを、なんて言って恥らわなければならないかもしれない。
だから年頃の娘の部屋に入るのであれば、ノックくらいはちゃんとしてほしい。
「愛美おばさん、こんにちは」
「おばさんいらない。お姉さんならいいぞ」
「お、お姉さん」
「そうだ、よくできたな」
愛美おばさんのとこの息子は、確か私と同い年だったはずだ。
何ヶ月か前に顔を合わせたっきり会ってないが、元気にしてるんだろうか。
「ああ、あいつなら今日バイトあるとか言ってたから置いてきた」
「そうなんですか」
別に会いたいとは思ってないが、元気そうだしそれならそれで。
実際腹違いの兄弟みたいなものだけど、仲良しかと言われると別にって感じ。
変な名前で、愛輝って愛美おばさんがつけたんだって言ってたかな。
二人の子どもだから名前から一文字ずつ取ったんだろうけど、安直だし何か呼びにくい。
父はもう少し捻ろう、みたいに言ってたみたいだけど、愛美おばさんが一蹴したのだとか。
愛美おばさんと愛輝くんもそうだが、うちの両親以外の女勢は皆別のところで暮らしている。
ノルンおばさんにロヴンおばさん、フレイヤおばさんは神界で、愛美おばさん、和歌おばさん、朋美おばさん、桜子おばさん、明日香おばさんはこの世界で。
愛美おばさんは元々暮らしていたマンションをそのまま借りていて、和歌おばさんと明日香おばさんは明日香おばさんの家で。
桜子おばさんは実家で。
朋美おばさんはこっちに家を借りているとのことだった。
子どもたちは、ロヴンおばさんとフレイヤおばさんの娘が神界で、ノルンおばさんの息子がこっちにいる。
人間界出身のおばさんたちの子どもはみんな人間界にいるはずだが、和歌おばさんの子どもだけ確か魔物がいるというロキおじさんの作った世界に行ってるんだったかな。
ちなみに、人間界出身のおばさん……おばさんて言葉がゲシュタルト崩壊しそうだ。
話が逸れた、人間界出身のおばさんと子どもを作るに当たって、父は女神化してふたなりになって子を作ったらしい。
結果として、全員の子どもが神の力を持って生まれることができた。
人間界で暮らすなら、と母やノルンおばさんという元が女神である存在が封印を施したりしている。
和歌おばさんの子どもだけは別に羽が生えてても問題ない、と本人が言ったので封印はしていないという。
「今日お父さんは確か、朋美おばさんのとこだったと思いますよ」
「ああ、知ってる。睦月と話にきただけだから」
持参した茶を私に見せて、はにかむ。
愛美おばさんも、割といい歳のはずだけど若々しい、というか若い。
どう見ても二十代にしか見えない。
もちろん、神式アンチエイジングとか言う名目で、見た目と中身の年齢を定期的に母たちが弄っているのもあって、この人たちは歳を取りながらもとっていないというチートが展開されているのだ。
そして悪いところがあれば瞬時に治すという、まさしく医者要らずの体なわけだ。
「そういや、友達できたんだって?」
「…………」
余計なことを、と母を睨むと、母は目を逸らして笑った。
「いいことじゃん。多感な時期なんだから友達ガンガン作っとけよ。人生、刺激は大事だぞ?」
「私にはそんなに沢山の友達は必要ないから……」
「まぁ、出来る時は自然と出来るもんだからなぁ。今度あたしにも会わせてくれよ」
二人が話に花を咲かせ始めたので、私は自室へ退避する。
今は茶で済ませているが、愛美おばさんはこの後酒を飲むに違いない。
そうなるとグダグダ絡まれて非常にめんどくさい。
母は面白いからいいじゃん、とか言ってたが、私はああいうのはごめん被る。
部屋で携帯を確認すると、千春からメールが来ていた。
『今日暇だったら、少しお出かけしない?』
何とも簡潔な内容だ。
継母との事件から早くも二週間が経過していて、千春の一家の関係は少しぎこちないながらも、良好になりつつあると聞いている。
そして千春は意外なことに鬼メールを送ってくる様なことはなかった。
本当なら今日はバイトの予定だったが、急遽新人が入るとかで休みを昨日言い渡されている。
『何処か行くの?場所の提案求む』
私も人のことは言えない。
かなり簡潔で、現役JKとは思えない文章だ。
だからと言って絵文字で煌びやかにしてわけのわからない言語を用いてのメールなんかをする気にはとてもなれない。
そういう友達ならさすがにめんどくさいからいらないかな。
『ご飯食べない?美味しいお店見つけたんだ』
ふむ、ご飯か。
お昼目的で行くなら、少しお茶でもして時間を潰すのも良いだろう。
前ならこんなこと考えなかったし、だけど今は千春と過ごす時間も楽しめる自分がいる。
人間変われば変わるものだ……女神だけど。
「乃愛さん、お待たせ」
待ち合わせた店の前に千春がやってきた。
包帯はもう取れて、今はガーゼを換えるだけになっている様だ。
あれから何度か、私は傷を消してやると提案したが、いずれも返事はノーだった。
言っているうちに自分が責任から逃れたいだけな気がしてきたので、私は提案をやめた。
「とりあえずお昼まではまだ時間あるし、お茶でもする?」
「そうだね、このお店ケーキが美味しいんだよ」
ケーキ好きだよな、千春。
こいつと出かけると、三回に一回はケーキを食べている気がする。
そのうちぶくぶくと太りだしたりしないだろうか。
凹凸の少ない千春の体が、腹だけやたら出てきたら……ちょっと目も当てられない気がする。
顔は悪くないというか、多分一般的には可愛らしい部類だと思うけど。
「今日はおばさんがきててさ。ちょっと家に居づらいというかで。誘ってくれて少し助かった」
「おばさん?」
「ああ……話したっけ、うちの父、母のほかに女が八人もいんの」
「は、八人!?」
「言ってなかったっけか。しかも父が高校の頃からだって言うから、もうどうかしてるよね」
「普通じゃないって、そういうことだったの?」
「いや、まぁそれもあるけど……母と父、籍入れてないしね」
千春はケーキを食べながら、目を白黒させている。
きっと、私が不幸な生い立ちか何かだと思ってるんだろう。
だが、そうじゃないということを一応説明しておく。
女神であることはもう見られてしまっているし、隠しておく意味がないので、伏せたりせずに説明した。
「えっと……乃愛さんて何者なの?」
「だから、女神なんだって。悪魔みたいで悪かったな」
「そ、そうじゃないよ!……何て言ったらいいのかな……非日常って言うの?そんなんだから、私には理解が追いつかないっていうか……」
「まぁそれが普通の反応なんだけどね。でも、あんた私の本当の姿見ても怖がらなかったね。何で?」
「だって、乃愛さんだって普通にわかったから。乃愛さんが優しい子だってこと、私は知ってるもん」
「やめろよ。別に優しいわけじゃないから。基本自分以外の他人はどうでもいいんだぞ、私は」
「嘘だよ。乃愛さんはそう言ってるけど、常に人のこと気にかけてるの知ってるもん」
「……言ってろ」
千春は微笑みながらケーキを頬張る。
少し物足りなそうだったから、私の分もくれてやった。
ふははは、太るがいい。
……別に気にかけてるってわけじゃない。
ただ、可哀想な状況とか見てて胸糞悪くなるだけだ。
痛そうとか辛そうな表情って、見ててイライラしてくる。
だからその原因を取り除いてしまえば、私だってイラつかなくて済むし、本人だって楽になってWinWinじゃないか。
「まぁ、こんな環境で生まれた私だから、ちょっと人とは違う経験もしてきてるっていうか……正直何でもありだからね。人生がチートみたいなもんさ」
「チート?って何?」
こんな純粋な子にチートなんて言ってもそりゃ通じないよな。
「まぁ、簡単に言ったらズルってことかな。そのチートを使って、父は昔おばさんの中の一人のお父さんと戦ったこともあるんだってさ」
「戦う……ってすごいね……殴りあったりとか?」
「ほぼ殺し合いに近かったって聞いてるけど、どうなんだろ。そのことあんまり話したがらないんだよね、父は」
「何でもありの相手と殺し合いって、もう何か想像つかないんだけど……」
「千春は漫画とか読む方?」
「少女マンガなら、たまに?戦いが多い、男の子が読む様なのはあんまり」
「そうか、ならそういうの想像できなくても仕方ないかもしれないね」
私はコーヒーをブラックで飲んで、千春がケーキを食べるのを見守る。
本当に美味しそうに食べる。
見てると腹減るんだよね。
「ん?何?食べたかった?」
「いや、食べちゃっていいから。美味しそうに食べるよねって」
「ご飯でも何でも、誰かと食べるのって、やっぱり美味しいから」
本当、こんなに毒が無い人間と接するのは初めてだ。
まだこんなやつがこの世界にいるなんてことが、私には信じられなかった。
「それより、そんなに食べちゃって昼飯食えるか?」
「大丈夫、私太り難いみたいだから」
「将来やばいパターンだなそれ。油断してると肉ダルマになってたりするかもしれないから、気をつけるんだね」
「嫌なこと言うなぁ……」
「まぁ、強制ダイエットみたいなこともできなくはないけど。昔母が、一般人にいたずらで能力使って、視界をうんこまみれに……」
「え、何それ……ていうか食事中にうんことかやめて……」
下らない話をしながらお茶を済ませた。
十二年前にこいつと知り合ってたら、私の人生は少しは華やかなものになっていたのだろうか。
そんなことを考えながら会計を済ませる。
「少し歩いておく?」
「うん、ていうかちょっと離れたところにあるから。腹ごなしに丁度いいよ」
雑談をしながら街を歩く。
ティッシュ配りに精を出す人や、客引きの為にメイド服を着ている女の人。
カップルなんかが多く歩いている。
「どけぇ!!」
突如男の怒号の様なものが聞こえて、街が騒然となる。
声のした方向を見ると、人波が二つに割れてその間をいかつい男が走っていた。
手には女物のバッグを持っている。
ひったくりか?
その後を、女が追いかけている。
「そ、そいつ、誰か、捕まえて……!」
息も絶え絶えの様子でその女は叫ぶが、ほとんど声になっていない。
体力の限界が近いのかもしれない。
というかこいつ、どこかで……。
「乃愛さん……?」
こちらに向かって走ってくる男。
私はその男に対して迎撃体制を取り、カウンター気味にデコピンを食らわせた。
「!?」
周囲がざわついて、千春も驚愕の表情を浮かべた。
女は立ち止まってぽかんとしている。
私のデコピンを食らった男は、バク宙の要領で一回転して地面にうつ伏せに倒れた。
「…………」
「ちょっと加減間違ったかな……」
「だ、ダメだよ乃愛さん、いきなり暴力なんて……」
「暴力じゃないし。見てたでしょ?ただのデコピンだから」
長い距離追っかけていたのか、膝をガクガクさせながら女がこちらに歩いてくる。
周りは今の出来事が信じられない、と言った様子でざわつきながら写真を撮ったりしていた。
「あ、ありがとうございます。この男にバッグ、ひったくられて……」
「ああやっぱり……ていうかあんた……」
「あ、池上さんじゃない?うちのクラスの」
「あ……宇堂さんと……佐々木さん?」
道理で見覚えがあるわけだ。
やけに大人びた格好をしているから、全然わからなかった。
「それより、ひったくりの現行犯なんだし、警察呼んでおかないと」
「あ、そうだよね」
「あ、え、えっとそれはちょっと……」
「ん?何かまずいことでもあんの?この男知り合いとか?」
そんなことを話しているうちに周りの誰かが警察を呼んでいたのか、パトカーが到着する。
「あら、お早い到着だ」
「これ、逃げたらダメなやつかな」
「任意同行とかってやつになるんじゃない?別に悪いことはしてないけどね、私ら」
とはいえ、相手をのしてしまったという手前逃げるのはやや気が引ける。
「すみません、今ここで暴行事件が起きたと聞いたのですが……」
「は?暴行事件?いやいや、引ったくりでしょ?その犯人をのしたのは私だけど……」
「そ、そうなんですか?ちょっと詳しい話を聞かせてもらってもいいですか?」
若い男性警官が恐る恐ると言った様子で話しかけてくる。
池上愛理はどうしたら良いのか、という顔で私を見ていた。
千春は私にぴったりくっついている。
レズカップルか何かと勘違いされそうだからちょっとやめてもらいたい。
とりあえずその場で何があったのかを簡単に説明して、流れで池上を見る。
池上がやや躊躇いがちに男との関係を説明した。
「は?彼氏?」
「何で彼氏が鞄持って逃げるの?」
「えっと……」
「まぁ、これだけの騒ぎになってしまっているので……とりあえずその彼氏さん?大丈夫ですか?」
「気を失ってはいますが、大丈夫かなと……」
何だかこのまま行くと面倒なことになりそうだ。
私は気が進まなかったが、とりあえず警察に催眠術の様なものをかけて解散する様発言させた。
池上の彼氏という男については、ひとまず救急車を呼んで病院に運ばせる。
あまりにも突然警察が解散を言い渡したからか、千春も池上も何が起きているのかと目を疑っている様だった。
「で、本当のところはどうなの?まさか普通の彼氏です、なんて言わないんでしょ?」
千春が行こうと提案していた店に三人で移動して、注文を済ませる。
とんかつ屋の様だが、高校生でも金銭的な圧迫をされない様な値段設定で……量がすごい。
一人前で、ロースかつ二枚とか載ってるのが普通だった。
メニューを見ただけでちょっと胃もたれしそうだったが、私はちょっと冒険してみようと、敢えてロースかつ定食を頼んだ。
「えっと、彼氏なんだけど……その……」
何とも歯切れが悪い。
人に言い難い様な話なのだろうか。
「ねぇ池上さん、その二の腕の痣ってもしかしてその彼氏さん……?」
千春が池上の左腕にある痣を差して言う。
よく見ないと気づかないほど薄くなってはいるが、確かに痣があった。
よく気づいたな、こんなの。
「え、ええ……なんていうか、彼ちょっと気性が激しいところがあって……」
「それってDVとかいうやつじゃないの?もしかして日常的にされてたりするわけ?」
「頻度は少し高めかもしれない……気に入らないことがあると、割と殴られたりってことは……」
女に手を上げる男とかマジでクズ。
死んでしまえばいいと思う。
男女の力の差を、何とも思わないのだろうか。
そんな憤りを感じている私を、千春が心配そうに見る。
「乃愛さん、落ち着いて?」
「あ?ああ……大丈夫。んで、何であんたの鞄持って逃げてたわけ?」
おおよその予想はついているが、敢えて確認する。
「その、ギャンブル依存に近いところがあって……種銭っていうのかな、ほしかったみたいで。私がダメだよ、って言ったら怒ってバッグごと……」
「……あんた、バカ?そんな弱腰でダメだよぉ、とか言っても効果あるわけないよね」
「ちょっと、乃愛さん!?」
「結局あんた、あの男に依存してるんでしょ。私がいないと彼はダメなんだぁ、とか。彼がいないと私、生きていけないのぉ、とかさ……きんもっ」
「い、言いすぎだよ……」
「そうよ、あの人は私がいないと生きていけないし、私だって彼がいるから生きていられるの!!文句ある!?」
「あるに決まってんだろ?見ててイライラすんだよ、そういうの。大体、誰かがいなかったら生きてられないとかそういうのお腹いっぱい。本の中だけで十分だっつの。このダメ男キャッチャーが」
「い、池上さん……気持ちはわからないこともないけど、その……何で彼がいないと生きていけないの?」
白熱しそうな私と池上を見て、千春が慌てて水を差した。
ああ、本当にイライラする。
誰かがいないと生きていけないなら、離れた瞬間死ね。
それでこそ本当に生きていけない、だろうが。
人気の無い山奥にでも行って存分にイチャつき倒して、そのまま二人で死んでしまえばいいんだ。
「だって彼は……私に普段は優しくしてくれるし……そりゃ気性は激しいこともあるけど……」
「そんなの、ヒモ野郎の常套手段じゃん。そんなのにまんまと引っかかって、恥ずかしくないわけ?貴重な青春の時間をそんなクズに浪費することそのものが、愚かしいって考えに至らない時点であんた、もう頭やられてるよ。殴られすぎておかしくなってんじゃない?」
「何よ!彼氏とか大事な人がいないあなたに何がわかるの!?」
「彼氏は確かにいないけどな、大事な人なら……」
つい売り言葉に買い言葉で口走って、しまった、と口を噤む。
千春が呆気に取られながらも口の端を引きつらせ、次第にニヤけ面になっていく。
「おい、その顔今すぐやめろ。てか今のなし。なしだから」
「いや、もう聞いちゃったから。なしとか言われても……いひゃひゃひゃ!!」
千春のニヤけた口の両端を、左右に引っ張る。
「生意気なこと言うのはこの口か?今すぐ忘れろ。じゃなかったらあんたの視界もうんこまみれにしてやるから」
「わふぁっふぁ!わふぁっふぁはは……」
「……仲良いのね……デキてるの?」
「は?あんたの目は節穴か?何処をどう見たらそう見えるわけ?」
「いや、そうにしか見えないんだけど……」
「私のことはいいんだよ!今はあんたのことだろ!?」
「私のことは……ほっといてよ……」
「おい、本当にいいのかよ?今のままあんなのと付き合ってたら、あんたの人生お先真っ暗だぞ。搾取されるだけされて、最後はポイだ」
私の言葉に、池上がはっとする。
わなわなと震えだして、キッと私を睨んだ。
「お待たせしました、ロースかつ定食です」
池上が何か言おうとしたとき、注文の品が運ばれてきた。
こうして見ているだけだと、旨そうなんだよなぁ。
まぁいっか、食べ切れなかったら千春に押し付けよう。
「とりあえず飯、食おうぜ。冷めちまったらもったいないから」
お通夜の様な雰囲気で、静かに食事を採る。
咀嚼する音と、箸や食器がぶつかり合う音と、周りの喧騒だけが店内に響いていた。
味は悪くない。
揚げたてだからというのもあるのだろうが、千春がお勧めしてきただけのことはあるかもしれない。
だが、やはりいかんせん量が……。
「え?いいの?乃愛さん足りた?」
「ああ、もうお腹いっぱい。食べちゃってくれ」
食べかけのだけは自分で処理して、箸をつけてないものを千春に押し付ける。
池上はその様子を何だか羨ましげに見つめている。
「あんたんとこ、こういうことないの?」
「え?あ、あるわよ」
「ほーん?あるんだ?無理やり取られたりとかじゃなくて?」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
「熱くなんなよ。図星ですって顔に書いてあんぞ」
何だか見ていて不憫になる。
そういえば父の周りの女もある意味でダメ男キャッチャーか?
いや、あれで一応父はちゃんと働いてはいるんだよなぁ。
明日香おばさんの組の手伝いもしてるし、神界でロヴンおばさんの手伝いもしてたし。
そう考えると割と忙しいな、あの人。
ん?こんだけ依存してるなら……。
「ああ、いいこと思いついたわ。あんたのその病気、私が治してやるよ」
「病気って言わないでよ!!」
「乃愛さん、また何か思いついたの?」
「まぁな。ちょっと面白いことになりそうだ」
そう言って私は席を立ち、三人分の会計をする。
「さ、出るよ。池上もちょっと着いてきてもらおうか」
三人で店を出て、池上を見る。
「じゃあ、荒療治にはなるけど池上の治療作戦、始めようか」
千春は心配そうな顔で私と池上、交互の顔を見ている。
池上はこれから何をされるのかと、生きた心地がしない様な表情だった。
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