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乃愛の憂鬱
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「本当にそれでいいのね?」
「ああ、いいよ」
私は先に池上に断って、千春のもとへ行くことにした。
まずは先日の不審な行動……あまりに混乱して、というか……奢るなんて言っておきながら金だけ置いて先に帰ってしまったことを、謝る。
そして、謝りがてら千春が唐沢と付き合ってみたい、というのであれば応援するということを伝えに。
私たちは友達だ。
くだらない嫉妬に狂って気分を害するなんてことがあってはならない。
友達が幸せになれる様、見守ることだって友達の務めだと私は考えたのだ。
池上が先日言っていた様に、今のこの青春は今しかないのだから。
とは言えまだ夏休みの今日、学校で千春に会うことはできない。
なので私は緊張しながらも千春に連絡を入れた。
これから会えないかと。
そんな私を池上はやれやれ、と言った顔で見る。
私はまた何かを間違えているのではないだろうか。
すぐに連絡が折り返されて、大丈夫という旨の内容を確認する。
場所を指定して、私は池上に別れを告げて千春の待つ場所へと赴いた。
「乃愛さん、大丈夫?様子が変だったから、心配したんだよ?」
「ああ、ごめん……でも、大丈夫だから。それより千春」
「何?どうしたの?」
「こないだは、ごめん。私、ちょっとどうかしてた」
「どうかしてたって……確かに様子はおかしかったけど……」
「千春、お前が唐沢と付き合ってみたいっていうんだったら、私はちゃんと応援するから。何か困ったこととかあったら、言ってくれよ」
「え、どうしたの突然……」
「いや……やっぱり友達が幸せになりたいって思うんだったら、それを応援するのも友達の役目だって思ったから」
「そう、なんだ……うん、わかったよ。要件って、それ?」
千春は心なしか、少し翳りのある表情をしていた様に見える。
私の応援が、嬉しくはないのだろうか。
しかしすぐに千春は、いつもの表情に戻った様に見える。
「ああ、それ……でも、千春が彼氏持ちかぁ……」
「ま、まだ決定ってわけじゃないけど……それにそうなっても、どうなるかなんてわからないし……」
「大丈夫、きっとうまくいくって。頑張って来いよ」
心にもないのはもう百も承知だ。
だけど、こうでも言わなかったら私は私でいられない気がして、無理やりにでも、何が何でも千春を応援しようと決めたのだ。
千春と別れて、私は一人来たこともない公園に来ていた。
嫌になるくらい天気がいい。
快晴ってやつなんだろうけど、普段ならこんなところに一人できたりなんて考えられない。
暑いし日差しはまぶしいし。
最近千春のことがあって寝不足だった私の目には、この日差しが私の目を潰しにかかっている様に思えてならない。
「これで、良かったんだ」
私は一人ごちる。
孤独を気取っているつもりはないが、それでも以前の私に一歩近づいてしまっている。
進んで一人を選んでいる。
それだけが、これからの千春との付き合い方に悪影響を及ぼすのではないかと思った。
だけど、千春がこれで幸せになれるんだったら、と無理やり自分を納得させる。
こんなことを、もう何度繰り返してきたのだろうか。
池上にも母にも、本当にそれでいいのかと言われた。
本音を言えば、良くない。
良い訳がない。
それでも、千春は幸せになるべきなんだ。
家族のことがあって、私のせいで消えることのない傷を負って。
そんな私が、千春のことを止めるなんておこがましい。
千春には千春の人生があるのだ。
私を照らしていた光は、唐沢に引き継がれるべきなんだ。
そう思うことで、私は以前よりも活気を失って行った。
数日後、千春から唐沢と付き合うことにした、と連絡があった。
私はそれに対して、おめでとう、と返した。
とうとうこれで、千春は晴れて彼氏持ちになったのだ。
付き合い始めということもあるので、私たちが邪魔をしてはいけない、と思って私は千春に自発的に連絡を取ることをやめた。
「もう遅いのかもしれないけど……本当に良かったの?」
「しつこいなお前……千春が幸せそうなんだったら、それでいいじゃないか」
「もう……無理しすぎじゃない?何だか最近やつれて見えるわよ?」
「気のせいだろ。ちゃんと飯は食ってる」
「睡眠はあんまり、とれてなさそうに見えるけどね」
「…………」
翌日の昼下がりの公園で、池上がまだ食い下がってくる。
もう付き合い始めてしまっているのに、これ以上私に何ができるというのか。
イラ立つ気持ちがないわけではない。
だが、無理やりにでも納得させた心は以前よりも落ち着きを取り戻した様に思える。
呼び出してまでこんなことを私に言いたいのか、池上は。
「佐々木さんによれば、だけど……交際自体は順調そうよ」
「そうか、それは何よりだな」
「だけど……男の子ってみんなそうなのかしら。どうも先走る傾向が強いみたいで」
「先走るって、何が?まさか先汁でも出してるっての?」
「……そうじゃなくて……接触が多い、って」
接触……ボディタッチか?
付き合ってるならいずれ、そういうことだって……そう思うのに、心がやたらとざわつく。
私は唐沢のことを良く知らない。
ただ、千春を見初めたということは見る目だけはあるのかな、なんて呑気なことを考えていた。
「佐々木さんて男の子に、免疫あんまりなさそうじゃない?」
「まぁ……どうなんだろうな。男友達の話とかは聞かないよな、確かに」
「そんな佐々木さんに、どうやって連絡先聞いたのかしらね」
「それは……私も少し気になってたけど」
「佐々木さん、嫌だったとしても強く言えなそうよね」
「…………」
無理やり聞きだしたり、したのだろうか。
勢いに押されて断れなくて、なんてことがあったのかもしれない。
もちろん、他の方法だってあるとは思うが……。
「このまま本当に順調にいくのかしらね」
「さぁな。それでだめになるなら、それはそれだろ。私の口出す様な話じゃない」
「これは……言わないでおこうって思ったんだけど」
「何だよ」
「佐々木さん、宇堂さんに止めてもらいたかったんじゃないかなって思うの」
「…………」
それこそ憶測の域を出ない話だ。
仮にそうだったとして、私が止めたら千春は彼氏ができない。
この先もずっと、そんなことになったとしたら。
私にその責任が取れるのか?
「宇堂さん、責任って言葉好きよね。でも、そこまで重く考えないといけないことなのかしら」
「何が言いたい?責任は重要だろ。無責任に何でもやっていいなら、この世に秩序なんて言葉は必要なくなる」
「もちろん、そうよ?だけど佐々木さんが宇堂さんにそんなの求めるのかなって」
「責任は必ずしも求められるものじゃないよ。自分から果たさないといけない責任だって確かにあるんだ」
私は父の言葉を思い返す。
ちょっと前に、父は今私が言ったことと同じことを言った。
私や刹那、亜紀と言った子供たちが各母親に宿ったときのことを語ってくれた時の話だ。
高校生のときに、責任について考える機会があった、と父は言っていた。
「でも、世の中のカップルすべてがうまく行くわけじゃないわ。私もそうだったけど……佐々木さんが危ない目に遭ったりする様なら……」
「それでも、私は……」
「もう!まだそんなこと言ってるの!?……呆れた!宇堂さんは、悔しいだけよね!!ぽっと出の男に佐々木さんを、横取りされたみたいで!!」
「……何だと?」
「そうでしょ!そんな顔して自分だけ不幸です、みたいな……そんな顔するくらいだったら、みっともなく縋り付いてでも止めるべきだったのよ!」
「……勝手なことばっか言うな!!あいつは、私にカッコよさを求めてるんだ!私はあいつの中でカッコよくないといけないんだよ!!なのにみっともなく縋り付けだぁ!?何も知らないくせに!!」
「そうよ、知らないわよ!!だって宇堂さん、必死でそういうの隠そうとするんだもの!!それでも、宇堂さんだから佐々木さんは告白されたこと、打ち明けたのよ!カッコ良くても悪くても、佐々木さんは宇堂さんなら止めてくれるって、信じてたのよ!!」
「お前にあいつの何がわかる!?あいつがそう言ったのか!?」
「そうよ!!でも、止めてくれなかったって!!泣いてたのよ!!このわからず屋!頭でっかち!!」
そう言って池上は私にビンタを見舞った。
頬に鋭い痛みが走り、しだいに熱を帯びる。
反射的に手を振り上げてしまって、我に返った。
いけない……池上を殴るなんて……!
「どうしたのよ、殴りなさいよ!!そこまでされてもまだ女は殴れないとか言うつもり!?」
叫ぶやもう一発、今度は拳が飛んできた。
これはちょっとだけ効いた。
「この、いい加減に……!」
思わず手が出てしまった。
それでも無意識に、手加減はしたと思う。
なのに何故か、裏拳が池上の顔にめり込んでしまった。
「あ……」
「っつ……けど、平気よ……宇堂さん……いえ、乃愛さん……女の子だって、そう簡単に壊れたりなんかしないんだから……」
「お前、何言って……」
「私たちのこと、壊れものでも触る様に大事にしてたの、知ってるんだから……」
はっとさせられる様な一言だった。
私は、友達だからって思って大事にしていたつもりだった。
それが、池上にはそう映っていたのか。
いや、池上にそう見えるってことは……千春にだってそう見えていたに違いない。
「だったら何だ……いまさら、私に何ができる……」
「何だってできるでしょ!?あなたの力は一体何のためにあるの?あなたはずっと、私たちを助けるためにその力を使ってきたじゃない!!」
「…………」
そうかもしれない。
自分では無意識だったし、いたずら心で使ったこともあった。
だけど、結果として……二人を助けるためにその力を行使してきた。
「佐々木さんはきっと今も、あなたの力を求めてる。そんな彼女に、あなたはどう応えるの?」
私は……。
一人、家路について考える。
そもそも千春は幸せなのか?
私は決めつけていた。
千春に彼氏ができれば、きっと幸せであるのだと。
それが彼女の為なのだと。
だが、それは自分の気持ちに気づいてしまうことを恐れた結果の、臆病な行動でしかなかった。
今千春は、何をしているのだろう。
もうやらないと決めていた、監視の目を再び私は使った。
千春が泣いているのが見える。
あんなにも明るく、楽しげでさえあった千春。
それが今、涙に濡れている。
唐沢に、泣かされる様なことでもされたのか。
それとも、私のせい……。
どちらにしても、またしても胸の中がムカムカとしてくるのがわかる。
いてもたってもいられず、私は歩きだした。
道行く人が、怯えた様に私とすれ違うのがわかる。
どんな顔をしてるのか気になって、鏡を取り出して自分の顔を見た。
青いとも赤いとも言えないその顔は、人を怯えさせるには十分な恐ろしさを持っているかもしれない。
ムカムカしすぎて、危うく私は封印を解いてしまいそうになった。
気づけば、千春の家の前まできていた。
千春が泣いていたのはおそらく、家のはず。
だからって、何で……。
だけど、ここで千春に会わなかったら後悔する。
私の本能がそう告げている。
少し迷って、私はチャイムを押す。
あの継母が出てきたらどうしよう、という思いがないわけでもない。
しかし、今はそんなことよりも大事なことがある。
だけどなかなか千春は出てこない。
トイレにでも行っているのかも、ともう少し待つことにした。
天気が少し崩れてきたかもしれない、なんて空を見上げて思っていると、ドアが開く。
「乃愛さん……?」
「千春……」
泣き腫らしたその顔を隠す様に、少し俯き加減なのが気になる。
「お前、何で……」
「何が?」
「泣いてたんだろう?」
「ううん、眠くて目をこすってただけだから……それより、上がってく?今誰もいないんだけど」
千春はドアを開けて私を招く。
継母がいないという一言に、安心感を覚えた。
「お茶、入れるから」
「いや、いいよ……お構いなく」
「どうしたの、乃愛さん……突然訪ねてくるなんて……珍しいね。私に会いたくなっちゃった?……なんて」
「そうだよ」
「え?」
「お前に、会いたくなったんだ。だから、きた。今お前に会わなかったら、私はきっと後悔するから」
千春は泣き腫らした顔を隠すかの様に、俯いている。
「ダメだよ、乃愛さん……そんなこと言ったら……。私、もう唐沢くんと付き合ってるんだから……」
「唐沢は……千春のこと、大事にしてくれてるのか?」
「そりゃ……当たり前でしょ……」
嘘をついている、と直感的に思った。
根拠なんてない。
だけど、これは千春の本心ではない。
「なら、何で……」
「の、乃愛さん……ごめん、私……これから唐沢くんと会う約束してて……」
「……そ、そうか……そんなときにごめん、邪魔して……帰るわ……」
やんわりとだが拒絶された。
そのことが私を、千春から遠ざけるのに十分なダメージを与えた。
無言で千春の家を出て、フラフラと歩く。
すべてが億劫に感じられた。
足が鉛でもついているかの様に重い。
空模様のせいか、人の通りは大分少なくなっていた。
しかし、すれ違う人は何故か私を心配するかの様に見ていく。
そうか、千春は……唐沢といて幸せなんだ。
なら、良かったじゃないか。
そう思うはずなのに、何故か祝福しようという気持ちに一向にならない。
それどころか、私の存在そのものが要らないものなんじゃないかとさえ思えてくる。
消えてしまいたい、という衝動に駆られるが、それさえももはや億劫だった。
重い足を引きずる様にして歩き、千春の家が見えなくなる位置までは何とか来られた。
こんな私を、千春に見られるわけにはいかない。
ふと周りを見回すと、公園があるのが見えた。
木陰にベンチもある。
せめてそこまでは頑張って歩いて、少し休もう。
そう思って、私は何とか力を絞り出す。
天気がどんどん悪くなってきている様で、雨雲のせいで辺りはどんどん薄暗くなってきていた。
木陰のベンチに腰掛けると、辺りは夕方から夜にかけてと同じくらいの暗さに思えてくる。
やはり私は、間違えていたのだ。
何であの時、あんな心にもないことを言ったのか。
何で行くなと、言ってやらなかったのか。
あれほど池上も親身になってくれていたというのに。
涙が出そうになるのを懸命に堪える。
私に、泣いたりする資格はない。
自分で招いたこの結末を、私は受け入れなくてはならない。
そのために、前に進むために私は泣いている場合じゃないのだ。
「やめてって言ってるでしょ!!何でわかってくれないの!?待ってって言ってるだけなんだよ!?」
「何で待たないといけないんだ!?俺たちはもう付き合ってるんだぞ!?」
男女の言い争う声が聞こえる。
というか、この女の方の声、聞き覚えが……千春?
こんなところで会う約束してたのか……。
しかし、何だか雰囲気が穏やかでない感じがする。
「だから、もう少しだけ待ってって言ってるだけなのに、何で!?そんなに急いでやらないといけないことじゃないでしょ!?」
「好きだからそうしたいってことだってあるだろ!そっちこそ何でわかってくれないんだ!!」
……上手く行ってないのか?
唐沢は千春に、何をするつもりなのか。
決まってる。
付き合ってる男女がすることなんて……。
私にどうこう言う資格なんか、ない。
「やだ!!やめてよ!!やめてってば!!!」
次第に拒絶の意志が悲鳴に変わり、傍観している場合じゃない、と心が警鐘を鳴らす。
このまま放置して、取り返しのつかないことになってもいいのか?
ほんの数秒の自問自答。
しかし答えはもう既に出ていた。
先ほどまで鉛のついた様に重かった足は勝手に動き出し、二人の元へ勝手に歩き出していた。
「え……?」
千春が驚きの表情を浮かべ、私を見る。
だが私は構わずそのまま後ろから唐沢の首根っこを掴んで、そのまま放り投げた。
「っつ!!な、なんだお前……う、宇堂さん……?」
「いい加減にしとけよ、このゲス野郎……」
限界だった。
もうストーカー扱いされようが構うもんか。
千春が傷つけられるのを、黙ってみているなんて、私にはできない。
「な、何だよその腕……」
気づいたら私は封印を解いてしまっていた。
勝手にリミッターが外れ、抑制ができない。
噴き出すオーラを止めることができない。
「何だっていいよ。それよりお前、千春に何をしようとした……?」
「お、お前には関係ない!これは二人の問題だろう!!」
「黙れ……無理やり千春に……」
「の、乃愛さん……」
「殺すぞ……!!」
目から殺気を迸らせ、私は唐沢をにらんだ。
唐沢は私の姿と殺気と両方に怯え、腰を抜かしている。
私はその唐沢めがけて右腕を振り上げる。
唐沢には、私が悪魔にでも見えていることだろう。
この禍々しい右腕による、鉄槌を……。
そう思って振り下ろそうとしたその時、右腕に暖かいものが触れ、しがみつくのがわかる。
千春だった。
「ダメ!!ダメだよ乃愛さん、殺しちゃダメ!!」
「だけど、こいつは、お前を……」
「私は大丈夫だから!傷つけられたりしてないから!!」
千春が唐沢に向き直って、叫ぶ。
「ごめんなさい!唐沢くん、私……あなたとは付き合えない!だって、乃愛さんが大事なんだもん!!大切なんだもん!!唐沢くんを、それ以上に大事に思うことができないの……!!」
「…………」
唐沢がヨロヨロと立ち上がって、しかし膝をつく。
そして悔しそうに地面を叩いた。
雨が、雷鳴を伴って降り出してきた。
雨粒が私を、千春を、唐沢を、濡らす。
千春はそのまま、私の胸に顔をうずめて泣き出した。
私はそんな千春を、悪魔の様な右腕で抱きしめる。
「……わかってた。千春が、俺のことなんか見てないってこと」
「…………」
「宇堂さん……だよな?その姿、訳ありなんだろうし、僕は誰にも言わないよ。その代わり……千春のこと、頼む。僕じゃ、ダメなんだ。千春、怖い思いさせてごめん。これからは……できるなら友達としてよろしく頼むよ」
それだけ言って、唐沢はフラフラと私たちの前から立ち去った。
これで、本当に良かったのだろうか。
他に方法があったんじゃないか?
そう思って千春を見ると、千春は私の胸でまだ鼻をぐすぐすとやっている。
「あーあ……私、フラれちゃった……どうしてくれるの、乃愛さん……」
「あ、えっと……」
雨が降り注いで、少しずつ頭が冷えてくると、私の意識も冷静さを取り戻してくる。
もしかして私は、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。
その思いが頭を支配する。
「乃愛さん……これでもう、私きっと彼氏なんかできないよ。どうしてくれるの?」
「そ、それは、その……」
やっぱりそうだよな……どうすればいいんだろうか。
正直、私ももう混乱し始めている。
結局、千春は私が大事で大切だと言った。
それって、どういうことなんだろう。
唐沢も、私に千春のことを頼むって言ってた。
私に、千春をどうしろっていうんだろうか。
「乃愛さん、何で私を助けてくれようとしたの?」
「そ、それは……友達だから……」
「それだけ?」
「え、えっと……」
この気持ちは一体、何なのだろう。
私はどう答えたら良いのだろうか。
「えっと……その、私も……千春が大事なんだと思う……」
「知ってる……」
「だから、その……大事で、大切な……友達、かな」
「……はぁ?」
千春が私の胸から顔を話して、何とも言えない表情をしていた。
目が、こいつ何言ってるの?と言ってる様な気がする。
また何か間違えたのか、私は……。
「乃愛さん、本当は私のこと嫌いなの?」
「い、いやそんなことはないと……」
「もう……本当、乃愛さんは乃愛さんだなぁ……」
「わ、私が私じゃなかったら一体何なんだよ……」
「そういうこと言ってるんじゃないのに……」
ひとまず雨が強まってきて、このままじゃ風邪をひく、ということで私は千春と一緒に自宅へワープした。
家には誰かいるかもしれないが、もうそんなことに構っている場合じゃない。
「あれ、乃愛ちゃんずぶ濡れ……その子、お友達よね?」
「ああ、風呂貸してやってくれる?」
「一緒に入っちゃえばいいのに」
「う、うるさいな!いいから早く入れてやれって言ってるの!」
千春は丁寧にあいさつをして、タオルを借りて髪を拭いたりしている。
母が挨拶を返して、シャワーでよかったらすぐ使えるから、と千春をバスルームに案内した。
私もタオルで濡れた髪を拭って、一人自室にこもる。
母が千春の着替えを用意したりと忙しいので、私の封印はまだ解かれたままだ。
千春は私に何を求めているんだろうか。
いなくなった彼氏の代わり?
まさかな。
一生一緒にいてくれや、とか言い出すんじゃないだろうな……さすがに友達だって、一生一緒ってなかなか難しいと思うんだけど。
「千春ちゃん、可愛いね」
「ああ?いきなり何だよ」
「んー、乃愛ちゃんがあんなにも必死で助けようとしたのが、わかるかなって」
「だから何だよ……」
「気づいてないの?」
「だから何を……」
「ああ、これは千春ちゃん苦労しそうだなぁ……まさか大輝の朴念仁が遺伝してるなんて……」
「はぁ?やめてよ。あの人のはもう病気レベルでしょ」
「いやいや、乃愛ちゃんのも似た様なレベルだから」
言うに事欠いて、あの人と同レベルの朴念仁とか失礼にもほどがある。
私はこう見えて他人の機微には敏感だし、観察力だってそこそこあるつもりだ。
「まぁいいや、ここからは二人の問題、だからね?でも一個だけ、人生の先輩からアドバイス」
「いらねーっつの、はよどっかいけ」
「まぁまぁ、そう言わず……千春ちゃんの言った大事、とか大切、っていうのはもう愛情レベルだよ」
「……何言ってんの?」
「お節介はここまで。もうすぐ千春ちゃん出てくるから、準備しときなさいね」
母は鼻歌を歌いながら私に封印を施し、食事を作りに戻った。
一体何がしたかったんだ……。
「お風呂、ありがとうございました」
千春の声がした。
じゃあ、私も入ってしまうか、と着替えを用意する。
「乃愛さん、あとで話しよう」
「え?」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
千春がすれ違い様に、ぼそっと言う。
手早くシャワーを済ませ、脱衣所で服を着る。
リビングに行くと、食事の準備ができている様だった。
「乃愛ちゃんもほら、座って。今日、千春ちゃん泊まっていくからね」
「は?初耳なんだけど」
「嫌なの……?」
「そ、そうじゃないって。大丈夫なのか?」
「うん、もう親にも連絡入れたから」
三人で夕食をとり、母は千春に色々聞いていた。
私は一人黙々と食べていたが、千春が時折私に意味深な視線を送ってくるのが気になる。
そんな私たちを、母は微笑みながら見つめる。
本当、何なのか。
少し早いが、そろそろ寝ようということになって千春の分の枕を母が手渡す。
千春は私と一緒に寝たいらしい。
変わったやつだ。
別に寝相が悪いということはないと思うが、私と寝て何が楽しいのか。
歯ぎしりとかしてたら嫌だな、なんて思ったりしたが、千春だってもしかしたらいびきくらいかいたりするかもしれない。
……あんまり想像したくないな。
「乃愛さん、さっき話しようって言ったの覚えてる?」
「ああ、覚えてる」
ベッドの中での、色気のかけらもないピロートーク。
事後というわけでもないし、抱き合ってるわけでもない。
「私ね、これからもっと乃愛さんのこと色々知りたいって思ってるんだ」
「はぁ?もう結構知ってる方じゃないの?」
「だから、そういうんじゃないんだって……」
「ええ……わかんないよ……」
千春が何を言ってるのか、よくわからない。
きっと眠くなってきていて、こんなことを口走ってしまっているんだ、私はそう思った。
「私、これからすごく大事なこと聞くから。ちゃんと答えてね?」
「大事なこと?」
「うん、大事なこと……女の子が女の子を好きになるのって、変だと思う?」
「は?」
ひどく真剣な顔をして、千春が言う。
意図するところが全く見えないが、千春がまじめに聞いてるんだということだけは理解できる。
あ、そうか、わかった。
なるほど、そういうことだったのか。
何で私はこんなことに気づかなかったのか。
「お前、もしかして……」
「えっ……」
「私のこと、好きになったのか?」
千春が固まっている。
ちょっと、直球過ぎただろうか。
「あ、あの、乃愛さん?」
「何だよ、そういうことなら早くそう言えよ。私なら、別にそんなの気にしないっていうか……」
「乃愛さん!」
「え?」
「ねぇ、本当にそう思ってる?私、ちょっとおかしいかも、って思ってる。だって、乃愛さんのことばっかり考えてる、最近」
「わ、私だってそうだ。千春のことばっかり考えて……」
「じゃあ、私のこと、好きになってくれるの?」
「え、えっと」
あれ?
私は何を言った?
「女の子同士だよ?おかしいって本当に思わない?」
「だって、今別にそういうの……そこまで珍しくもないだろ。それに、千春が望むんだったら……男にだってなってやれる。そこまでしてでも……千春に、離れてほしくないって思ったから……」
「本当に?」
「ああ……だって、千春は大事な友達で……」
「まだ友達なの!?何で!?」
「な、何でって……じゃあ何?千春はどうしたいの?」
「わ、私は……乃愛さんと、色々……エッチなことだってしたい」
「エッチなことって……エッチなこと?」
「だって、唐沢くんのこと考えても何とも思わなかったのに、乃愛さんのこと考えると、切なくなるっていうか……」
えっと、マジで言ってるのかこれ。
冗談めかして言ったつもりだったんだけど。
でも千春がマジな顔してる。
切ないって、何?
もしかして私オカズにされたってこと?
私のこと考えながらマスターベーションしてたとか?
「ち、千春、お前……」
「私は乃愛さんとキスだってしたい。その先だって。乃愛さんは、どうなの?」
「わ、私か?そ、そうだな……その、キスくらいは別に……」
「じゃあ、今してみる……?」
千春が、女の顔をしている。
いや、生まれたときから女だとは思うけど。
でも、ここで拒否ったりしたら、千春絶対傷つくよな。
私は本当は千春を、どう思ってるんだ?
なんて思ってる間に、千春の顔がどんどん近づいてきてる気がする。
てかここ、自宅だよね。
母に筒抜けだったりしないのか?
気を利かせて接続切ってくれてるなら別に……って、そこまで思えるなら、もう認めてもいいんじゃないか?
「乃愛さん、私のこと好き?」
「……多分」
「何それ!台無し!」
「だ、だってわかんないよ……大事にはもちろん思ってるけど……可愛いとも思ってるけど……」
「私みたいなぺったんこじゃ、何とも思わない?」
「ち、違う、そうじゃなくて……」
「乃愛さん、初恋とか覚えてる?」
「うんにゃ、未経験……」
「…………」
何だよその顔……言いたいことあんなら言えよ。
千春は私を、遊び人か何かとでも思ってたのだろうか。
「私が無理やりにでもって迫ったら、乃愛さん拒絶する?受け入れてくれる?」
「ええ……千春って実は肉食だったの?」
「わかんない……けど、乃愛さんがほしくてたまらない。今こうしてるだけでも、私少しおかしくなりそう」
「それ、間違いなく肉食だよね……」
「で、どうなの?」
「……拒絶は、しないと思う。ただ……先に進むのが怖いだけなのかもしれない」
「それは、興味はあるってこと?」
「ど、どうなんだろ……とりあえず、してみる……?」
つい心が逸ってしまう。
千春の決意を、無駄にしてはいけない気がして。
確かに今私たちは女同士で……だけど、別にキスくらい……いや、それだけで済むのか?
だけど、キスくらいは……してみたい。
そう思うと、もう何かよくわからず体が勝手に動いた様な気がする。
「って!!」
ガチっと音がして、二人が離れる。
勢い付き過ぎて二人の歯がぶつかった音だ。
結構痛い。
「あ、千春……血出てる……」
「ったぁ……乃愛さん、唾液には消毒効果があるって、聞いたことない?」
「あ、あるけど……じゃあぺろぺろしてれば治るんじゃない?」
「何でそうなるの!?本当朴念仁!信じられない!」
あ、私になめろって言ってる?
ていうか、その気になればそんな傷一瞬で治してやれるんだけど。
「あ……不思議な力で治したりしたら、しばらく乃愛さんと口利くのやめるから」
何故わかったのか。
だって、千春の唇舐めるなんて……いいのか?
私なんかがそんな……。
「乃愛さんに、してほしいんだけどな……このままじゃ血、止まらないかも」
「いや止まると思うけど……それに、私だって初めてのチュウ捧げたんだから……」
「やり直しを要求します!」
「……わかったよ……」
どうやらこの子に私は頭が上がらない。
観念して、今度はゆっくりと、千春を抱き寄せてキスをした。
女同士なのに、という思いがないでもない。
けど、そこにこだわるのであれば今度は男になってやってみるのもいいだろう。
千春をこれで離さずにいられるなら、私の意地くらいは犬にでも食わせればいい、そう思える様になった。
「ああ、いいよ」
私は先に池上に断って、千春のもとへ行くことにした。
まずは先日の不審な行動……あまりに混乱して、というか……奢るなんて言っておきながら金だけ置いて先に帰ってしまったことを、謝る。
そして、謝りがてら千春が唐沢と付き合ってみたい、というのであれば応援するということを伝えに。
私たちは友達だ。
くだらない嫉妬に狂って気分を害するなんてことがあってはならない。
友達が幸せになれる様、見守ることだって友達の務めだと私は考えたのだ。
池上が先日言っていた様に、今のこの青春は今しかないのだから。
とは言えまだ夏休みの今日、学校で千春に会うことはできない。
なので私は緊張しながらも千春に連絡を入れた。
これから会えないかと。
そんな私を池上はやれやれ、と言った顔で見る。
私はまた何かを間違えているのではないだろうか。
すぐに連絡が折り返されて、大丈夫という旨の内容を確認する。
場所を指定して、私は池上に別れを告げて千春の待つ場所へと赴いた。
「乃愛さん、大丈夫?様子が変だったから、心配したんだよ?」
「ああ、ごめん……でも、大丈夫だから。それより千春」
「何?どうしたの?」
「こないだは、ごめん。私、ちょっとどうかしてた」
「どうかしてたって……確かに様子はおかしかったけど……」
「千春、お前が唐沢と付き合ってみたいっていうんだったら、私はちゃんと応援するから。何か困ったこととかあったら、言ってくれよ」
「え、どうしたの突然……」
「いや……やっぱり友達が幸せになりたいって思うんだったら、それを応援するのも友達の役目だって思ったから」
「そう、なんだ……うん、わかったよ。要件って、それ?」
千春は心なしか、少し翳りのある表情をしていた様に見える。
私の応援が、嬉しくはないのだろうか。
しかしすぐに千春は、いつもの表情に戻った様に見える。
「ああ、それ……でも、千春が彼氏持ちかぁ……」
「ま、まだ決定ってわけじゃないけど……それにそうなっても、どうなるかなんてわからないし……」
「大丈夫、きっとうまくいくって。頑張って来いよ」
心にもないのはもう百も承知だ。
だけど、こうでも言わなかったら私は私でいられない気がして、無理やりにでも、何が何でも千春を応援しようと決めたのだ。
千春と別れて、私は一人来たこともない公園に来ていた。
嫌になるくらい天気がいい。
快晴ってやつなんだろうけど、普段ならこんなところに一人できたりなんて考えられない。
暑いし日差しはまぶしいし。
最近千春のことがあって寝不足だった私の目には、この日差しが私の目を潰しにかかっている様に思えてならない。
「これで、良かったんだ」
私は一人ごちる。
孤独を気取っているつもりはないが、それでも以前の私に一歩近づいてしまっている。
進んで一人を選んでいる。
それだけが、これからの千春との付き合い方に悪影響を及ぼすのではないかと思った。
だけど、千春がこれで幸せになれるんだったら、と無理やり自分を納得させる。
こんなことを、もう何度繰り返してきたのだろうか。
池上にも母にも、本当にそれでいいのかと言われた。
本音を言えば、良くない。
良い訳がない。
それでも、千春は幸せになるべきなんだ。
家族のことがあって、私のせいで消えることのない傷を負って。
そんな私が、千春のことを止めるなんておこがましい。
千春には千春の人生があるのだ。
私を照らしていた光は、唐沢に引き継がれるべきなんだ。
そう思うことで、私は以前よりも活気を失って行った。
数日後、千春から唐沢と付き合うことにした、と連絡があった。
私はそれに対して、おめでとう、と返した。
とうとうこれで、千春は晴れて彼氏持ちになったのだ。
付き合い始めということもあるので、私たちが邪魔をしてはいけない、と思って私は千春に自発的に連絡を取ることをやめた。
「もう遅いのかもしれないけど……本当に良かったの?」
「しつこいなお前……千春が幸せそうなんだったら、それでいいじゃないか」
「もう……無理しすぎじゃない?何だか最近やつれて見えるわよ?」
「気のせいだろ。ちゃんと飯は食ってる」
「睡眠はあんまり、とれてなさそうに見えるけどね」
「…………」
翌日の昼下がりの公園で、池上がまだ食い下がってくる。
もう付き合い始めてしまっているのに、これ以上私に何ができるというのか。
イラ立つ気持ちがないわけではない。
だが、無理やりにでも納得させた心は以前よりも落ち着きを取り戻した様に思える。
呼び出してまでこんなことを私に言いたいのか、池上は。
「佐々木さんによれば、だけど……交際自体は順調そうよ」
「そうか、それは何よりだな」
「だけど……男の子ってみんなそうなのかしら。どうも先走る傾向が強いみたいで」
「先走るって、何が?まさか先汁でも出してるっての?」
「……そうじゃなくて……接触が多い、って」
接触……ボディタッチか?
付き合ってるならいずれ、そういうことだって……そう思うのに、心がやたらとざわつく。
私は唐沢のことを良く知らない。
ただ、千春を見初めたということは見る目だけはあるのかな、なんて呑気なことを考えていた。
「佐々木さんて男の子に、免疫あんまりなさそうじゃない?」
「まぁ……どうなんだろうな。男友達の話とかは聞かないよな、確かに」
「そんな佐々木さんに、どうやって連絡先聞いたのかしらね」
「それは……私も少し気になってたけど」
「佐々木さん、嫌だったとしても強く言えなそうよね」
「…………」
無理やり聞きだしたり、したのだろうか。
勢いに押されて断れなくて、なんてことがあったのかもしれない。
もちろん、他の方法だってあるとは思うが……。
「このまま本当に順調にいくのかしらね」
「さぁな。それでだめになるなら、それはそれだろ。私の口出す様な話じゃない」
「これは……言わないでおこうって思ったんだけど」
「何だよ」
「佐々木さん、宇堂さんに止めてもらいたかったんじゃないかなって思うの」
「…………」
それこそ憶測の域を出ない話だ。
仮にそうだったとして、私が止めたら千春は彼氏ができない。
この先もずっと、そんなことになったとしたら。
私にその責任が取れるのか?
「宇堂さん、責任って言葉好きよね。でも、そこまで重く考えないといけないことなのかしら」
「何が言いたい?責任は重要だろ。無責任に何でもやっていいなら、この世に秩序なんて言葉は必要なくなる」
「もちろん、そうよ?だけど佐々木さんが宇堂さんにそんなの求めるのかなって」
「責任は必ずしも求められるものじゃないよ。自分から果たさないといけない責任だって確かにあるんだ」
私は父の言葉を思い返す。
ちょっと前に、父は今私が言ったことと同じことを言った。
私や刹那、亜紀と言った子供たちが各母親に宿ったときのことを語ってくれた時の話だ。
高校生のときに、責任について考える機会があった、と父は言っていた。
「でも、世の中のカップルすべてがうまく行くわけじゃないわ。私もそうだったけど……佐々木さんが危ない目に遭ったりする様なら……」
「それでも、私は……」
「もう!まだそんなこと言ってるの!?……呆れた!宇堂さんは、悔しいだけよね!!ぽっと出の男に佐々木さんを、横取りされたみたいで!!」
「……何だと?」
「そうでしょ!そんな顔して自分だけ不幸です、みたいな……そんな顔するくらいだったら、みっともなく縋り付いてでも止めるべきだったのよ!」
「……勝手なことばっか言うな!!あいつは、私にカッコよさを求めてるんだ!私はあいつの中でカッコよくないといけないんだよ!!なのにみっともなく縋り付けだぁ!?何も知らないくせに!!」
「そうよ、知らないわよ!!だって宇堂さん、必死でそういうの隠そうとするんだもの!!それでも、宇堂さんだから佐々木さんは告白されたこと、打ち明けたのよ!カッコ良くても悪くても、佐々木さんは宇堂さんなら止めてくれるって、信じてたのよ!!」
「お前にあいつの何がわかる!?あいつがそう言ったのか!?」
「そうよ!!でも、止めてくれなかったって!!泣いてたのよ!!このわからず屋!頭でっかち!!」
そう言って池上は私にビンタを見舞った。
頬に鋭い痛みが走り、しだいに熱を帯びる。
反射的に手を振り上げてしまって、我に返った。
いけない……池上を殴るなんて……!
「どうしたのよ、殴りなさいよ!!そこまでされてもまだ女は殴れないとか言うつもり!?」
叫ぶやもう一発、今度は拳が飛んできた。
これはちょっとだけ効いた。
「この、いい加減に……!」
思わず手が出てしまった。
それでも無意識に、手加減はしたと思う。
なのに何故か、裏拳が池上の顔にめり込んでしまった。
「あ……」
「っつ……けど、平気よ……宇堂さん……いえ、乃愛さん……女の子だって、そう簡単に壊れたりなんかしないんだから……」
「お前、何言って……」
「私たちのこと、壊れものでも触る様に大事にしてたの、知ってるんだから……」
はっとさせられる様な一言だった。
私は、友達だからって思って大事にしていたつもりだった。
それが、池上にはそう映っていたのか。
いや、池上にそう見えるってことは……千春にだってそう見えていたに違いない。
「だったら何だ……いまさら、私に何ができる……」
「何だってできるでしょ!?あなたの力は一体何のためにあるの?あなたはずっと、私たちを助けるためにその力を使ってきたじゃない!!」
「…………」
そうかもしれない。
自分では無意識だったし、いたずら心で使ったこともあった。
だけど、結果として……二人を助けるためにその力を行使してきた。
「佐々木さんはきっと今も、あなたの力を求めてる。そんな彼女に、あなたはどう応えるの?」
私は……。
一人、家路について考える。
そもそも千春は幸せなのか?
私は決めつけていた。
千春に彼氏ができれば、きっと幸せであるのだと。
それが彼女の為なのだと。
だが、それは自分の気持ちに気づいてしまうことを恐れた結果の、臆病な行動でしかなかった。
今千春は、何をしているのだろう。
もうやらないと決めていた、監視の目を再び私は使った。
千春が泣いているのが見える。
あんなにも明るく、楽しげでさえあった千春。
それが今、涙に濡れている。
唐沢に、泣かされる様なことでもされたのか。
それとも、私のせい……。
どちらにしても、またしても胸の中がムカムカとしてくるのがわかる。
いてもたってもいられず、私は歩きだした。
道行く人が、怯えた様に私とすれ違うのがわかる。
どんな顔をしてるのか気になって、鏡を取り出して自分の顔を見た。
青いとも赤いとも言えないその顔は、人を怯えさせるには十分な恐ろしさを持っているかもしれない。
ムカムカしすぎて、危うく私は封印を解いてしまいそうになった。
気づけば、千春の家の前まできていた。
千春が泣いていたのはおそらく、家のはず。
だからって、何で……。
だけど、ここで千春に会わなかったら後悔する。
私の本能がそう告げている。
少し迷って、私はチャイムを押す。
あの継母が出てきたらどうしよう、という思いがないわけでもない。
しかし、今はそんなことよりも大事なことがある。
だけどなかなか千春は出てこない。
トイレにでも行っているのかも、ともう少し待つことにした。
天気が少し崩れてきたかもしれない、なんて空を見上げて思っていると、ドアが開く。
「乃愛さん……?」
「千春……」
泣き腫らしたその顔を隠す様に、少し俯き加減なのが気になる。
「お前、何で……」
「何が?」
「泣いてたんだろう?」
「ううん、眠くて目をこすってただけだから……それより、上がってく?今誰もいないんだけど」
千春はドアを開けて私を招く。
継母がいないという一言に、安心感を覚えた。
「お茶、入れるから」
「いや、いいよ……お構いなく」
「どうしたの、乃愛さん……突然訪ねてくるなんて……珍しいね。私に会いたくなっちゃった?……なんて」
「そうだよ」
「え?」
「お前に、会いたくなったんだ。だから、きた。今お前に会わなかったら、私はきっと後悔するから」
千春は泣き腫らした顔を隠すかの様に、俯いている。
「ダメだよ、乃愛さん……そんなこと言ったら……。私、もう唐沢くんと付き合ってるんだから……」
「唐沢は……千春のこと、大事にしてくれてるのか?」
「そりゃ……当たり前でしょ……」
嘘をついている、と直感的に思った。
根拠なんてない。
だけど、これは千春の本心ではない。
「なら、何で……」
「の、乃愛さん……ごめん、私……これから唐沢くんと会う約束してて……」
「……そ、そうか……そんなときにごめん、邪魔して……帰るわ……」
やんわりとだが拒絶された。
そのことが私を、千春から遠ざけるのに十分なダメージを与えた。
無言で千春の家を出て、フラフラと歩く。
すべてが億劫に感じられた。
足が鉛でもついているかの様に重い。
空模様のせいか、人の通りは大分少なくなっていた。
しかし、すれ違う人は何故か私を心配するかの様に見ていく。
そうか、千春は……唐沢といて幸せなんだ。
なら、良かったじゃないか。
そう思うはずなのに、何故か祝福しようという気持ちに一向にならない。
それどころか、私の存在そのものが要らないものなんじゃないかとさえ思えてくる。
消えてしまいたい、という衝動に駆られるが、それさえももはや億劫だった。
重い足を引きずる様にして歩き、千春の家が見えなくなる位置までは何とか来られた。
こんな私を、千春に見られるわけにはいかない。
ふと周りを見回すと、公園があるのが見えた。
木陰にベンチもある。
せめてそこまでは頑張って歩いて、少し休もう。
そう思って、私は何とか力を絞り出す。
天気がどんどん悪くなってきている様で、雨雲のせいで辺りはどんどん薄暗くなってきていた。
木陰のベンチに腰掛けると、辺りは夕方から夜にかけてと同じくらいの暗さに思えてくる。
やはり私は、間違えていたのだ。
何であの時、あんな心にもないことを言ったのか。
何で行くなと、言ってやらなかったのか。
あれほど池上も親身になってくれていたというのに。
涙が出そうになるのを懸命に堪える。
私に、泣いたりする資格はない。
自分で招いたこの結末を、私は受け入れなくてはならない。
そのために、前に進むために私は泣いている場合じゃないのだ。
「やめてって言ってるでしょ!!何でわかってくれないの!?待ってって言ってるだけなんだよ!?」
「何で待たないといけないんだ!?俺たちはもう付き合ってるんだぞ!?」
男女の言い争う声が聞こえる。
というか、この女の方の声、聞き覚えが……千春?
こんなところで会う約束してたのか……。
しかし、何だか雰囲気が穏やかでない感じがする。
「だから、もう少しだけ待ってって言ってるだけなのに、何で!?そんなに急いでやらないといけないことじゃないでしょ!?」
「好きだからそうしたいってことだってあるだろ!そっちこそ何でわかってくれないんだ!!」
……上手く行ってないのか?
唐沢は千春に、何をするつもりなのか。
決まってる。
付き合ってる男女がすることなんて……。
私にどうこう言う資格なんか、ない。
「やだ!!やめてよ!!やめてってば!!!」
次第に拒絶の意志が悲鳴に変わり、傍観している場合じゃない、と心が警鐘を鳴らす。
このまま放置して、取り返しのつかないことになってもいいのか?
ほんの数秒の自問自答。
しかし答えはもう既に出ていた。
先ほどまで鉛のついた様に重かった足は勝手に動き出し、二人の元へ勝手に歩き出していた。
「え……?」
千春が驚きの表情を浮かべ、私を見る。
だが私は構わずそのまま後ろから唐沢の首根っこを掴んで、そのまま放り投げた。
「っつ!!な、なんだお前……う、宇堂さん……?」
「いい加減にしとけよ、このゲス野郎……」
限界だった。
もうストーカー扱いされようが構うもんか。
千春が傷つけられるのを、黙ってみているなんて、私にはできない。
「な、何だよその腕……」
気づいたら私は封印を解いてしまっていた。
勝手にリミッターが外れ、抑制ができない。
噴き出すオーラを止めることができない。
「何だっていいよ。それよりお前、千春に何をしようとした……?」
「お、お前には関係ない!これは二人の問題だろう!!」
「黙れ……無理やり千春に……」
「の、乃愛さん……」
「殺すぞ……!!」
目から殺気を迸らせ、私は唐沢をにらんだ。
唐沢は私の姿と殺気と両方に怯え、腰を抜かしている。
私はその唐沢めがけて右腕を振り上げる。
唐沢には、私が悪魔にでも見えていることだろう。
この禍々しい右腕による、鉄槌を……。
そう思って振り下ろそうとしたその時、右腕に暖かいものが触れ、しがみつくのがわかる。
千春だった。
「ダメ!!ダメだよ乃愛さん、殺しちゃダメ!!」
「だけど、こいつは、お前を……」
「私は大丈夫だから!傷つけられたりしてないから!!」
千春が唐沢に向き直って、叫ぶ。
「ごめんなさい!唐沢くん、私……あなたとは付き合えない!だって、乃愛さんが大事なんだもん!!大切なんだもん!!唐沢くんを、それ以上に大事に思うことができないの……!!」
「…………」
唐沢がヨロヨロと立ち上がって、しかし膝をつく。
そして悔しそうに地面を叩いた。
雨が、雷鳴を伴って降り出してきた。
雨粒が私を、千春を、唐沢を、濡らす。
千春はそのまま、私の胸に顔をうずめて泣き出した。
私はそんな千春を、悪魔の様な右腕で抱きしめる。
「……わかってた。千春が、俺のことなんか見てないってこと」
「…………」
「宇堂さん……だよな?その姿、訳ありなんだろうし、僕は誰にも言わないよ。その代わり……千春のこと、頼む。僕じゃ、ダメなんだ。千春、怖い思いさせてごめん。これからは……できるなら友達としてよろしく頼むよ」
それだけ言って、唐沢はフラフラと私たちの前から立ち去った。
これで、本当に良かったのだろうか。
他に方法があったんじゃないか?
そう思って千春を見ると、千春は私の胸でまだ鼻をぐすぐすとやっている。
「あーあ……私、フラれちゃった……どうしてくれるの、乃愛さん……」
「あ、えっと……」
雨が降り注いで、少しずつ頭が冷えてくると、私の意識も冷静さを取り戻してくる。
もしかして私は、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。
その思いが頭を支配する。
「乃愛さん……これでもう、私きっと彼氏なんかできないよ。どうしてくれるの?」
「そ、それは、その……」
やっぱりそうだよな……どうすればいいんだろうか。
正直、私ももう混乱し始めている。
結局、千春は私が大事で大切だと言った。
それって、どういうことなんだろう。
唐沢も、私に千春のことを頼むって言ってた。
私に、千春をどうしろっていうんだろうか。
「乃愛さん、何で私を助けてくれようとしたの?」
「そ、それは……友達だから……」
「それだけ?」
「え、えっと……」
この気持ちは一体、何なのだろう。
私はどう答えたら良いのだろうか。
「えっと……その、私も……千春が大事なんだと思う……」
「知ってる……」
「だから、その……大事で、大切な……友達、かな」
「……はぁ?」
千春が私の胸から顔を話して、何とも言えない表情をしていた。
目が、こいつ何言ってるの?と言ってる様な気がする。
また何か間違えたのか、私は……。
「乃愛さん、本当は私のこと嫌いなの?」
「い、いやそんなことはないと……」
「もう……本当、乃愛さんは乃愛さんだなぁ……」
「わ、私が私じゃなかったら一体何なんだよ……」
「そういうこと言ってるんじゃないのに……」
ひとまず雨が強まってきて、このままじゃ風邪をひく、ということで私は千春と一緒に自宅へワープした。
家には誰かいるかもしれないが、もうそんなことに構っている場合じゃない。
「あれ、乃愛ちゃんずぶ濡れ……その子、お友達よね?」
「ああ、風呂貸してやってくれる?」
「一緒に入っちゃえばいいのに」
「う、うるさいな!いいから早く入れてやれって言ってるの!」
千春は丁寧にあいさつをして、タオルを借りて髪を拭いたりしている。
母が挨拶を返して、シャワーでよかったらすぐ使えるから、と千春をバスルームに案内した。
私もタオルで濡れた髪を拭って、一人自室にこもる。
母が千春の着替えを用意したりと忙しいので、私の封印はまだ解かれたままだ。
千春は私に何を求めているんだろうか。
いなくなった彼氏の代わり?
まさかな。
一生一緒にいてくれや、とか言い出すんじゃないだろうな……さすがに友達だって、一生一緒ってなかなか難しいと思うんだけど。
「千春ちゃん、可愛いね」
「ああ?いきなり何だよ」
「んー、乃愛ちゃんがあんなにも必死で助けようとしたのが、わかるかなって」
「だから何だよ……」
「気づいてないの?」
「だから何を……」
「ああ、これは千春ちゃん苦労しそうだなぁ……まさか大輝の朴念仁が遺伝してるなんて……」
「はぁ?やめてよ。あの人のはもう病気レベルでしょ」
「いやいや、乃愛ちゃんのも似た様なレベルだから」
言うに事欠いて、あの人と同レベルの朴念仁とか失礼にもほどがある。
私はこう見えて他人の機微には敏感だし、観察力だってそこそこあるつもりだ。
「まぁいいや、ここからは二人の問題、だからね?でも一個だけ、人生の先輩からアドバイス」
「いらねーっつの、はよどっかいけ」
「まぁまぁ、そう言わず……千春ちゃんの言った大事、とか大切、っていうのはもう愛情レベルだよ」
「……何言ってんの?」
「お節介はここまで。もうすぐ千春ちゃん出てくるから、準備しときなさいね」
母は鼻歌を歌いながら私に封印を施し、食事を作りに戻った。
一体何がしたかったんだ……。
「お風呂、ありがとうございました」
千春の声がした。
じゃあ、私も入ってしまうか、と着替えを用意する。
「乃愛さん、あとで話しよう」
「え?」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
千春がすれ違い様に、ぼそっと言う。
手早くシャワーを済ませ、脱衣所で服を着る。
リビングに行くと、食事の準備ができている様だった。
「乃愛ちゃんもほら、座って。今日、千春ちゃん泊まっていくからね」
「は?初耳なんだけど」
「嫌なの……?」
「そ、そうじゃないって。大丈夫なのか?」
「うん、もう親にも連絡入れたから」
三人で夕食をとり、母は千春に色々聞いていた。
私は一人黙々と食べていたが、千春が時折私に意味深な視線を送ってくるのが気になる。
そんな私たちを、母は微笑みながら見つめる。
本当、何なのか。
少し早いが、そろそろ寝ようということになって千春の分の枕を母が手渡す。
千春は私と一緒に寝たいらしい。
変わったやつだ。
別に寝相が悪いということはないと思うが、私と寝て何が楽しいのか。
歯ぎしりとかしてたら嫌だな、なんて思ったりしたが、千春だってもしかしたらいびきくらいかいたりするかもしれない。
……あんまり想像したくないな。
「乃愛さん、さっき話しようって言ったの覚えてる?」
「ああ、覚えてる」
ベッドの中での、色気のかけらもないピロートーク。
事後というわけでもないし、抱き合ってるわけでもない。
「私ね、これからもっと乃愛さんのこと色々知りたいって思ってるんだ」
「はぁ?もう結構知ってる方じゃないの?」
「だから、そういうんじゃないんだって……」
「ええ……わかんないよ……」
千春が何を言ってるのか、よくわからない。
きっと眠くなってきていて、こんなことを口走ってしまっているんだ、私はそう思った。
「私、これからすごく大事なこと聞くから。ちゃんと答えてね?」
「大事なこと?」
「うん、大事なこと……女の子が女の子を好きになるのって、変だと思う?」
「は?」
ひどく真剣な顔をして、千春が言う。
意図するところが全く見えないが、千春がまじめに聞いてるんだということだけは理解できる。
あ、そうか、わかった。
なるほど、そういうことだったのか。
何で私はこんなことに気づかなかったのか。
「お前、もしかして……」
「えっ……」
「私のこと、好きになったのか?」
千春が固まっている。
ちょっと、直球過ぎただろうか。
「あ、あの、乃愛さん?」
「何だよ、そういうことなら早くそう言えよ。私なら、別にそんなの気にしないっていうか……」
「乃愛さん!」
「え?」
「ねぇ、本当にそう思ってる?私、ちょっとおかしいかも、って思ってる。だって、乃愛さんのことばっかり考えてる、最近」
「わ、私だってそうだ。千春のことばっかり考えて……」
「じゃあ、私のこと、好きになってくれるの?」
「え、えっと」
あれ?
私は何を言った?
「女の子同士だよ?おかしいって本当に思わない?」
「だって、今別にそういうの……そこまで珍しくもないだろ。それに、千春が望むんだったら……男にだってなってやれる。そこまでしてでも……千春に、離れてほしくないって思ったから……」
「本当に?」
「ああ……だって、千春は大事な友達で……」
「まだ友達なの!?何で!?」
「な、何でって……じゃあ何?千春はどうしたいの?」
「わ、私は……乃愛さんと、色々……エッチなことだってしたい」
「エッチなことって……エッチなこと?」
「だって、唐沢くんのこと考えても何とも思わなかったのに、乃愛さんのこと考えると、切なくなるっていうか……」
えっと、マジで言ってるのかこれ。
冗談めかして言ったつもりだったんだけど。
でも千春がマジな顔してる。
切ないって、何?
もしかして私オカズにされたってこと?
私のこと考えながらマスターベーションしてたとか?
「ち、千春、お前……」
「私は乃愛さんとキスだってしたい。その先だって。乃愛さんは、どうなの?」
「わ、私か?そ、そうだな……その、キスくらいは別に……」
「じゃあ、今してみる……?」
千春が、女の顔をしている。
いや、生まれたときから女だとは思うけど。
でも、ここで拒否ったりしたら、千春絶対傷つくよな。
私は本当は千春を、どう思ってるんだ?
なんて思ってる間に、千春の顔がどんどん近づいてきてる気がする。
てかここ、自宅だよね。
母に筒抜けだったりしないのか?
気を利かせて接続切ってくれてるなら別に……って、そこまで思えるなら、もう認めてもいいんじゃないか?
「乃愛さん、私のこと好き?」
「……多分」
「何それ!台無し!」
「だ、だってわかんないよ……大事にはもちろん思ってるけど……可愛いとも思ってるけど……」
「私みたいなぺったんこじゃ、何とも思わない?」
「ち、違う、そうじゃなくて……」
「乃愛さん、初恋とか覚えてる?」
「うんにゃ、未経験……」
「…………」
何だよその顔……言いたいことあんなら言えよ。
千春は私を、遊び人か何かとでも思ってたのだろうか。
「私が無理やりにでもって迫ったら、乃愛さん拒絶する?受け入れてくれる?」
「ええ……千春って実は肉食だったの?」
「わかんない……けど、乃愛さんがほしくてたまらない。今こうしてるだけでも、私少しおかしくなりそう」
「それ、間違いなく肉食だよね……」
「で、どうなの?」
「……拒絶は、しないと思う。ただ……先に進むのが怖いだけなのかもしれない」
「それは、興味はあるってこと?」
「ど、どうなんだろ……とりあえず、してみる……?」
つい心が逸ってしまう。
千春の決意を、無駄にしてはいけない気がして。
確かに今私たちは女同士で……だけど、別にキスくらい……いや、それだけで済むのか?
だけど、キスくらいは……してみたい。
そう思うと、もう何かよくわからず体が勝手に動いた様な気がする。
「って!!」
ガチっと音がして、二人が離れる。
勢い付き過ぎて二人の歯がぶつかった音だ。
結構痛い。
「あ、千春……血出てる……」
「ったぁ……乃愛さん、唾液には消毒効果があるって、聞いたことない?」
「あ、あるけど……じゃあぺろぺろしてれば治るんじゃない?」
「何でそうなるの!?本当朴念仁!信じられない!」
あ、私になめろって言ってる?
ていうか、その気になればそんな傷一瞬で治してやれるんだけど。
「あ……不思議な力で治したりしたら、しばらく乃愛さんと口利くのやめるから」
何故わかったのか。
だって、千春の唇舐めるなんて……いいのか?
私なんかがそんな……。
「乃愛さんに、してほしいんだけどな……このままじゃ血、止まらないかも」
「いや止まると思うけど……それに、私だって初めてのチュウ捧げたんだから……」
「やり直しを要求します!」
「……わかったよ……」
どうやらこの子に私は頭が上がらない。
観念して、今度はゆっくりと、千春を抱き寄せてキスをした。
女同士なのに、という思いがないでもない。
けど、そこにこだわるのであれば今度は男になってやってみるのもいいだろう。
千春をこれで離さずにいられるなら、私の意地くらいは犬にでも食わせればいい、そう思える様になった。
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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