【完結】禁断の契約〜スライムと秘めた愛の日々〜

vllam40591

文字の大きさ
5 / 6

第五章:運命の展示会

しおりを挟む
シアン商会の大展示場は人で溢れていた。「人間と魔物の共生」をテーマにした年次展示会は、業界関係者だけでなく一般市民も多く訪れる一大イベントだ。会場には様々な魔物の標本や研究成果が展示され、最先端の魔法技術が紹介されていた。

中央ステージでは片桐一馬が講演を行っていた。

「人間と魔物が共存する未来。それは夢ではなく、私たちの手が届く現実です」

聴衆は熱心に聞き入っている。片桐の横には桐生涼子が立ち、満面の笑みを浮かべていた。

会場の裏手にある小さな部屋で、麻里、陣内、高瀬の三人は最終確認をしていた。

「片桐は20分後にメインステージで特別発表を行う」高瀬は小さな通信機器を耳に当てながら言った。「その時が私たちのチャンスです」

麻里は母のノートを最後にもう一度確認した。一晩中解読に取り組み、ようやく装置の使い方を理解できたと思う。母の綿密な研究に、彼女は改めて敬意を覚えた。

「本当にこれで片桐の装置を無効化できるの?」麻里は不安そうに尋ねた。

「理論上は可能だ」陣内は小さな装置を調整しながら答えた。「この装置は魂の共鳴の周波数を調整する。片桐の増幅器が私たちの契約エネルギーを奪い取る前に、別の周波数に変換するんだ」

高瀬はタブレットで会場の図面を確認していた。「問題は罠に嵌らないように進入することです。入口には全て魔物検知装置が設置されています」

陣内はニヤリと笑った。「それは心配いらない」

彼は麻里の側に立ち、その体が徐々にスライム化していった。「私は形を変えられる」

青い透明な物質が麻里の腕に巻き付き、やがて液体状になって彼女の肌に吸収されていくかのように見えた。

「これで...?」麻里は自分の体を見下ろした。見た目は変わらないが、皮膚の下に微かな青い光が流れているのが分かる。

「私はあなたの中に潜む」陣内の声が彼女の頭の中で響いた。「検知装置には反応しない。そして必要な時に再び姿を現す」

高瀬は目を見開いた。「すごい...これも契約の力なんですね」

麻里は身震いした。陣内が彼女の体内に入ったことで、奇妙な感覚に包まれていた。まるで全身の血管を温かい液体が流れているかのようだ。

「では行きましょう」麻里は深呼吸して決意を固めた。「母の遺志を継ぐために」

---

麻里は一般来場者を装って展示会場に入った。高瀬は別の入口から忍び込み、バックヤードで待機している。幸い、陣内が言った通り、魔物検知装置は反応しなかった。

会場内を歩きながら、麻里は周囲を観察した。警備員が例年より多く、彼らは明らかに誰かを探している様子だった。

「麻里さん、気をつけて」高瀬の声が小型イヤホンから聞こえた。「涼子部長があなたの写真を警備員全員に配っています」

麻里は帽子を深く被り、サングラスを調整した。変装は完璧ではないが、少なくとも一目では彼女と分からないはずだ。

「片桐博士のメイン発表まであと10分です」高瀬の声が続いた。「ステージ裏に向かってください」

麻里は人混みをかき分け、会場奥へと進んだ。その時、彼女の視界の端に見覚えのある姿が。

「高瀬さん、涼子部長が近くにいるわ」麻里は小声で伝えた。

「避けてください。彼女はあなたを見つけたら即座に通報します」

麻里は別の通路に進路を変えた。しかし、その先にも警備員の姿が。彼女は身をかがめ、展示物の陰に隠れた。

「陣内、大丈夫?」麻里は心の中で問いかけた。

「問題ない」陣内の声が彼女の意識に響く。「だが警備が予想より厳重だ。注意しろ」

麻里が次の展示コーナーに進もうとした時、突然肩を掴まれた。

「あなた...」

振り返ると、そこにはかつての同僚・村田が立っていた。彼女の目が麻里を認識し、驚きに見開かれる。

「麻里さん!?」

麻里は彼女の口を手で覆った。「静かに。お願い」

村田は混乱した様子だったが、頷いた。麻里が手を離すと、彼女は小声で言った。「何してるの?あなた危険人物として指名手配されてるのよ」

「それは嘘よ」麻里は必死に説明した。「片桐博士に騙されているの。彼は危険な実験を計画している」

村田は信じがたい様子だったが、麻里の真剣な表情に何かを感じ取ったようだ。「どういうこと?」

「時間がないわ」麻里は彼女の腕を掴んだ。「お願い、ステージ裏に行くのを手伝って」

村田は迷いながらも、やがて頷いた。「分かった...ついてきて」

彼女は麻里を人目につかない通路へと導いた。二人は展示物の陰を通り、スタッフ専用の裏通路へとたどり着いた。

「これより先はセキュリティが厳重よ」村田は警告した。

「ありがとう、ここまでで大丈夫」麻里は感謝の言葉を述べた。

村田は彼女をじっと見つめた。「麻里さん、何が起きているの?本当のこと教えて」

麻里はためらったが、この状況では信頼できる味方が必要だった。「片桐博士は危険な実験をしようとしているの。私の母...瀬戸佳織を10年前に殺した男よ」

「佳織先生が...殺された?」村田の顔から血の気が引いた。「私は佳織先生の学生だったの。彼女が事故で亡くなったと...」

麻里は驚いた。「あなたも母の学生だったの?」

「最後の一年だけ...」村田の目に涙が浮かんだ。「彼女は素晴らしい先生だった。そして片桐博士が...?」

「全てを話している時間はないわ」麻里は言った。「でも信じて。彼は今日、人間と魔物を支配する力を手に入れようとしている」

村田は決意の表情を見せた。「分かった。私も協力する」

その時、館内放送が流れた。
「お待たせいたしました。メインステージでの片桐一馬博士による特別発表『魔物との新時代』を間もなく開始いたします」

「急がないと」麻里は言った。

村田は頷き、「こっち」と言って麻里を誘導した。二人はスタッフ専用の通路を進み、ついにステージ裏に到達した。

「高瀬さん、位置は?」麻里はイヤホンに向かって囁いた。

「ステージ左側のテクニカルボックスにいます」高瀬の声が返ってきた。「片桐博士の装置はステージ中央の黒い箱です。起動したら合図します」

麻里は村田に向き直った。「ここからは危険かもしれない。あなたは引き返したほうが...」

「いいえ」村田は首を振った。「佳織先生のために、最後まで協力します」

ステージでは片桐の発表が始まっていた。拍手喝采の中、彼は自信に満ちた表情で話している。

「今日、私は人間と魔物の関係を永遠に変える発明を披露します」

片桐の後ろには大きな黒い装置が設置されていた。それが魂の共鳴増幅装置に違いない。

「準備するわ」麻里は母のノートから作った小さな装置を取り出した。「陣内、準備はいい?」

「いつでも」彼女の体内から陣内の声が響いた。

ステージでは、片桐が演説を続けていた。
「魔物の特性を理解し、制御することで、私たちは新たな時代を切り拓くことができます。そして本日、その実証実験を行います」

彼は会場を見渡し、微笑んだ。「実は、この会場には特別なゲストがいるはずです。瀬戸麻里さん...そこにいるなら、姿を現してください」

会場がざわめいた。麻里は身を固くした。

「麻里さん、動かないで」高瀬の声がイヤホンから聞こえた。「彼はあなたを挑発しています」

片桐は続けた。「瀬戸麻里さんは、危険な魔物と禁断の契約を結び、その力を悪用しようとしています。彼女の捕獲は私たちの安全のために不可欠です」

麻里は怒りに震えた。「嘘つき...」

その時、突然イヤホンからノイズが入り、「麻里さん!見つかりました!警備が...」と高瀬の声が途切れた。

「高瀬さん?高瀬さん!」麻里は呼びかけたが、応答はない。

「動きなさい、麻里」

背後から冷たい声がした。振り返ると、桐生涼子が数人の警備員と共に立っていた。

「ついに見つけたわ」涼子は勝ち誇ったように笑った。「おとなしく来なさい」

麻里は一歩後ずさった。「涼子部長...あなたも片桐博士に騙されているのよ」

「騙されているのはあなたよ」涼子は冷たく言った。「あの魔物に心を奪われて」

村田が麻里の前に立ちはだかった。「涼子部長、これは間違っています。麻里さんの言うことを聞くべきです」

「村田?あなたまで...」涼子は呆れたように言った。「どいなさい。これは命令よ」

村田は動かなかった。「すみません、部長。でも佳織先生のために、私は...」

彼女の言葉は涼子の平手打ちで遮られた。「黙りなさい!警備員、二人とも連れて行きなさい」

警備員たちが近づいてくる。麻里は絶望的な状況に追い込まれていた。

「陣内...もう時間がないわ」

「わかっている」陣内の声が彼女の中から響いた。「準備はいい。だが代償は大きいぞ」

「代償なんて気にしないわ」麻里は決意を固めた。「今よ!」

突然、麻里の体から青い光が放射され始めた。警備員たちが驚いて立ち止まる。

「何...?」涼子は後ずさった。

麻里の肌の下を青い光の筋が走り、やがて彼女の体から青いスライム状の物質が滲み出し始めた。それは徐々に形を成し、陣内の姿となった。

「不可能...」涼子は震える声で言った。

陣内は完全に姿を現し、麻里の前に立ちはだかった。彼の体は半分が人間、半分がスライム状という不思議な姿だった。

「もう誰にも彼女を傷つけさせない」陣内の声は冷たく響いた。

ステージ上の片桐がその光景に気づいた。「捕らえろ!彼らを捕らえるんだ!」

警備員たちが一斉に動き出したが、陣内のスライム体が伸び、壁のように広がって彼らを阻んだ。

「麻里、今だ!」陣内が叫んだ。

麻里は母の装置を起動させた。小さな装置から青白い光が放たれ、ステージ上の片桐の黒い装置に向かって伸びていく。

「何をする気だ!」片桐は叫んだ。彼は慌てて自分の装置のスイッチを入れた。「これで終わりだ、瀬戸麻里!」

黒い装置が起動し、轟音と共に紫色の光線が放たれた。それは麻里と陣内に向かって伸びていく。

二つの光線が衝突した瞬間、爆発的なエネルギーが解放された。会場全体が青と紫の光に包まれ、観客たちが悲鳴を上げて逃げ出す。

「陣内!」麻里は叫んだ。

陣内の体が不安定になり、人間とスライムの形態を行き来し始めた。「耐えろ...もう少しだ...」

片桐の装置から煙が上がり始めた。「不可能だ...このエネルギーは...」

麻里は母の装置を強く握りしめた。
「母さん、力を貸して...」

麻里の体から青白い光が溢れ出した。陣内との契約の力が最大限に高まっている。二人の魂の共鳴が作り出すエネルギーは、母の装置を通して増幅され、片桐の機械と対抗していた。

「やめろ!」片桐は叫んだ。「そのエネルギーは危険すぎる!」

麻里はよろめきながらも前に進んだ。「あなたこそ...やめるべきだったわ。10年前に...」

彼女は一歩ずつステージに近づいていく。陣内は彼女の周りを青い霧のように包み、保護するように広がっていた。

「佳織の娘め...」片桐の表情が歪んだ。「母親と同じく愚かな...」

「母は正しかった!」麻里は叫んだ。「魔物と人間は支配と被支配の関係じゃない。共生できるのよ!」

陣内のスライム体が彼女の言葉に反応し、さらに明るく輝いた。「麻里...あと少しだ...」

その時、ステージの側面から高瀬が現れた。彼の頬には血が流れ、服は裂けていたが、彼は片桐の装置に向かって走った。

「高瀬さん!」麻里は驚いて叫んだ。

「止めるんだ!」片桐は警備員に指示した。

しかし高瀬は素早く動き、片桐の装置に到達した。彼はポケットから小さな装置を取り出し、主装置に取り付けた。

「これで終わりです、片桐博士!」高瀬は叫んだ。

小さな爆発音と共に、片桐の装置から煙が上がり、紫色の光線が消えた。代わりに麻里の装置からの青い光線が片桐の機械を貫いた。

「不可能だ...」片桐は呆然と立ち尽くした。

会場内の混乱の中、麻里はステージに駆け上がった。陣内の一部は彼女と共に動き、一部は警備員たちを押しとどめていた。

「片桐博士」麻里はステージ中央で声を上げた。マイクが近くにあり、彼女の声は会場全体に響き渡った。「あなたの嘘は終わりです」

逃げようとする観客たちが足を止め、ステージを見上げた。

「私は瀬戸麻里。瀬戸佳織の娘です」彼女は続けた。「10年前、母はこの男によって殺されました。彼女が魔物と人間の支配という彼の計画に反対したからです」

片桐は怒りに顔を歪めた。「黙れ!誰もお前の言うことなど...」

「証拠があります」高瀬が前に出て言った。「私は佳織先生の学生でした。彼女の研究記録と、片桐博士の秘密実験の証拠を持っています」

彼はタブレットを掲げ、スクリーンに映像を映し出した。そこには片桐が行った実験の記録と、佳織の死の瞬間が記録されていた。

会場から衝撃の声が上がった。片桐は後ずさった。「捏造だ!これは...」

「さらに証人もいます」麻里は続けた。「陣内遼...母の元研究助手であり、片桐博士の実験によって魔物と融合させられた被害者です」

陣内がゆっくりと人間の姿に変化し、麻里の側に立った。彼の体は透明感があり、部分的にスライム状だったが、確かに人間の顔と姿を持っていた。

「私は陣内遼」彼は静かに言った。「佳織先生の死の瞬間に立ち会い、片桐の実験の犠牲となった」

彼の言葉に会場が静まり返った。

「馬鹿な...」片桐は呟いた。彼の機械は完全に停止し、煙を上げていた。

会場の後方から男性が前に出てきた。シアン商会の会長だ。

「片桐博士、これは本当なのか?」会長は厳しい口調で尋ねた。

片桐は狼狽えた様子で答えた。「会長...これは誤解です。彼らは危険な魔物に操られているのです」

「それは嘘よ」

声の主は桐生涼子だった。彼女はステージに上がってきた。その表情には複雑な感情が浮かんでいた。

「涼子...」片桐は不信の目で彼女を見た。

「私も長い間、あなたに騙されていました」涼子は言った。「あなたが瀬戸佳織先生を殺したのは事実です。そして...」

彼女は麻里に向き直った。「麻里さん、ごめんなさい。私はあなたの母親の学生でもありました。嫉妬と羨望から、あなたをいじめてしまった。そして片桐博士に協力してしまった」

麻里は驚いた。「涼子部長も...母の学生だったの?」

「ええ」涼子は悲しげに頷いた。「佳織先生は私のあこがれでした。でも片桐博士に心を奪われ...」

その時、片桐が突然動いた。彼はポケットから小さな装置を取り出し、「これで終わりにする!」と叫んだ。

装置のボタンが押された瞬間、破壊された増幅器が再び活動を始めた。だが今度は制御を失い、紫と青の光が無秩序に放出され始めた。

「逃げて!」陣内が叫んだ。「装置が暴走している!」

会場が再び混乱に陥る中、麻里は母の装置に駆け寄った。「これを止めなきゃ!」

「無理だ!」高瀬が叫んだ。「もう制御不能になっている!」

陣内は麻里の側に現れた。「一つだけ方法がある...」

彼の目が決意に満ちていた。「私が装置のエネルギーを吸収する。インキュバススライムは魂のエネルギーを取り込める」

「でも、それじゃあなたが...」麻里は恐怖に目を見開いた。

「他に方法はない」陣内は静かに言った。「人々を守るために...あなたを守るために」

麻里は涙を浮かべた。「だめ...私も行くわ」

「麻里...」

「契約は一方的なものじゃない」麻里は彼の手を強く握った。「私たちは共に生き、共に戦う。そして必要なら...」

陣内は彼女を見つめ、やがて微笑んだ。「わかった...一緒に」

二人は手を繋ぎ、暴走する装置へと向かった。片桐は恐怖に怯えながら、ステージの端に退いていた。

「何をする気だ?」彼は震える声で尋ねた。

麻里は彼を冷たく見つめた。「あなたが始めたことを、私たちが終わらせるの」

陣内の体が完全にスライム化し始め、麻里を包み込むように広がった。彼女の体からも青い光が放たれ、二人は一つの青白い光の球体となった。

「陣内...怖くないわ」麻里は光の中で囁いた。「あなたと一緒なら...」

「ああ...」陣内の意識が彼女の中に流れ込んできた。「これが本当の契約...魂の完全な共鳴だ」

光の球体が暴走する装置に近づき、接触した瞬間、爆発的な光が会場全体を包み込んだ。

観客たちは目を覆い、一部は逃げ出した。しかし、光は彼らを傷つけることなく、天井へと上昇していった。

光が消えた後、ステージ中央には麻里と陣内が横たわっていた。装置は完全に破壊され、煙と灰になっていた。

「麻里さん!」高瀬が駆け寄った。

会場は静まり返り、全ての目がステージに注がれた。

麻里はゆっくりと目を開けた。彼女の体は無傷だったが、激しい疲労を感じていた。

「陣内...?」彼女は弱々しく呼びかけた。

彼女の隣には半透明の青いスライムがあった。それは形を持たず、微かに脈動しているだけだった。

「陣内!」麻里は起き上がり、スライムに触れた。「目を覚まして...」

反応はない。スライムは生きているが、意識がないようだった。

「彼は...自分の生命力のほとんどを使って、エネルギーを吸収した」高瀬は震える声で説明した。「麻里さんを守るために...」

涙が麻里の頬を伝った。「ばか...約束したでしょう。一緒にって...」

彼女の涙がスライムに落ち、青い物質の中に吸収されていった。

「戻ってきて...」麻里は祈るように呟いた。「私は...あなたを愛してる」

その言葉と共に、彼女の体から再び光が放たれた。母から受け継いだ魔力が最後の力を振り絞るように輝いた。

スライムが微かに震え始め、ゆっくりと形を取り始めた。最初は手、次に腕、そして人間の上半身が形成されていった。

「陣内...」

彼の青い瞳が開き、麻里を見つめた。彼の姿は半分が人間、半分がスライムという不完全なものだったが、確かに陣内だった。

「麻里...」彼は弱々しく微笑んだ。「成功したな...」

麻里は彼を抱きしめた。「二度と私を置いて行かないで...」

会場から拍手が起こり始めた。最初は数人から、やがて全体へと広がっていった。人々は麻里と陣内の勇気に称賛を送っていた。

後方では、片桐が警備員に取り押さえられていた。彼は敗北の表情で、遠くを見つめていた。

シアン商会の会長が前に出てきた。「瀬戸さん、陣内さん...貴重な実証を見せていただきました」

彼は二人に深く頭を下げた。「魔物と人間の真の共生...佳織博士の夢を、あなたたちは実現しました」

麻里は陣内を支えながら立ち上がった。「母の研究...それは決して終わっていませんでした」

「これからは」会長は真剣な表情で言った。「シアン商会は本当の意味での共生研究を進めていきます。あなたたちの協力を得られれば...」

麻里と陣内は顔を見合わせた。陣内の体は徐々に安定してきており、人間の形態が優勢になっていた。

「私たちも...まだ完全な答えを見つけたわけではないわ」麻里は静かに言った。「でも、一緒に探していきたい」

陣内は頷いた。「契約は永遠だ...魂の共鳴は続いていく」

彼の言葉に、麻里は微笑んだ。二人の間には目に見えない絆が流れていた。それは契約という名の愛だった。

---

一ヶ月後、シアン商会の新しい研究施設。

麻里は明るい研究室で資料を整理していた。彼女は「人間・魔物共生研究部」の責任者として、新たな一歩を踏み出していた。

「麻里さん、新しいデータが揃いました」

高瀬が笑顔で資料を持ってきた。彼は麻里の右腕として、共生研究に全力を注いでいた。

「ありがとう」麻里は微笑んだ。「陣内は?」

「実験室にいますよ」高瀬は答えた。「村田さんと新しい装置の調整をしています」

麻里はうなずき、実験室へと向かった。通りすがりの研究員たちが彼女に敬意を込めて挨拶をする。かつて彼女を見下していた同僚たちは、今や彼女の部下となっていた。

実験室のドアを開けると、陣内と村田が大きな装置の前で作業していた。陣内の姿は以前より安定しており、必要な時だけスライム形態に変化できるようになっていた。

「進展あり?」麻里は二人に声をかけた。

陣内が振り返り、彼女を見るとその青い瞳が優しく輝いた。「ああ。母さんの理論が正しかったことが証明されつつある」

麻里は彼の隣に立ち、肩に手を置いた。「母さん、ですって?」

陣内は少し照れたように微笑んだ。「佳織先生は私にとっても母親のような存在だった...」

麻里は嬉しそうに頷いた。「母も喜んでるわ」

「二人とも、ちょっと見てください」村田が装置のモニターを指さした。「契約エネルギーの波形が安定しています」

画面には青と紫の波形が映し出されていた。それらは互いに干渉することなく、調和して流れている。

「完璧な共鳴...」麻里は感嘆の声を上げた。

「まだ始まりに過ぎない」陣内は真剣な表情で言った。「だが、これが証明する。私たちの契約は...」

「愛そのものだということを」麻里は彼の言葉を引き継いだ。

二人は互いを見つめ、静かに手を繋いだ。麻里の指の間から青い光が漏れ出し、陣内の体の一部がスライム状に変化して彼女の手に絡みついた。

それは禁断の契約から始まった、新たな絆の証だった。

---

深夜、麻里のアパートのベッドで、陣内は彼女を抱きしめていた。月明かりが窓から差し込み、彼の青みがかった肌を幻想的に照らしている。

「考えてもみなかった」陣内は麻里の髪を優しく撫でながら言った。「あの保管室で出会った時、こんな未来が待っているとは」

麻里は彼の胸に頬を寄せた。「母は知っていたのかも...私たちが出会うことを」

「かもな」陣内は微笑んだ。「佳織は常に先を見ていた」

麻里は陣内の体を見上げた。月光の下で彼の体の一部が透明に変化し、内側から青く光っていた。

「美しい...」麻里は思わず呟いた。

陣内は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。「この姿に慣れるのは時間がかかるだろう」

「いいえ」麻里は彼の頬に手を当てた。「あなたはあなたのままで完璧よ」

彼女の言葉に、陣内の体がさらに輝きを増した。彼の腕がスライム状に変化し、麻里の体を優しく包み込む。

「また...エネルギーを分け合おうか」彼は囁いた。

麻里は微笑んで頷いた。「ええ...永遠に」

二人の体が溶け合うように一つになり、青い光が部屋全体を包み込んだ。それは禁断の契約から始まった愛の証であり、これからも続いていく永遠の絆だった。

(終)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

公爵令嬢のひとりごと

鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛情に気づかない鈍感な私

はなおくら
恋愛
幼少の頃、まだ5歳にも満たない私たちは政略結婚という形で夫婦になった。初めて顔を合わせた時、嬉し恥ずかしながら笑い合い、私たちは友達になった。大きくなるにつれて、夫婦が友人同士というのにも違和感を覚えた私は、成人を迎えるその日離婚をするつもりでいた。だけど、彼は私の考えを聞いた瞬間豹変した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

閨から始まる拗らせ公爵の初恋

ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。 何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯ 明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。 目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。 流行りの転生というものなのか? でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに! *マークは性表現があります ■マークは20年程前の過去話です side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。 誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7

離縁希望の側室と王の寵愛

イセヤ レキ
恋愛
辺境伯の娘であるサマリナは、一度も会った事のない国王から求婚され、側室に召し上げられた。 国民は、正室のいない国王は側室を愛しているのだとシンデレラストーリーを噂するが、実際の扱われ方は酷いものである。 いつか離縁してくれるに違いない、と願いながらサマリナは暇な後宮生活を、唯一相手になってくれる守護騎士の幼なじみと過ごすのだが──? ※ストーリー構成上、ヒーロー以外との絡みあります。 シリアス/ ほのぼの /幼なじみ /ヒロインが男前/ 一途/ 騎士/ 王/ ハッピーエンド/ ヒーロー以外との絡み

処理中です...