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雷鳴
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保健室の前に、一度忘れかけたが文杜はちゃんと真樹をナトリに託し、ベースを持って保健室へ向かうことにした。
ゲリラ雷雨は曖昧になりかけている。すぐ近くの教室が空いていて、そこには進路だかなんだかよくわからんがたくさんの参考書、大学案内、そんな本ばかりのカビ臭い物置のような場所で。
開けてみれば一人、机に向かって参考書を必死に書き写している生徒がいた。
その生徒は、思わぬ来訪者に驚いたのか、文杜を見て、びくっとしたが、またぎこちなく机に向かい、ただただ参考書を眺め始めた。
心の中で文杜は彼に、『ノビタ』というあだ名をつける。つまりそんな見た目の、制服も着崩すことなく上までボタンをピッチリ閉めちゃうような、theマジメな見た目だった。眼鏡だし。
しかし。
ふと気が付いた。
廊下には教師のやる気があるのかないのかわからない、眠そうな読経じみた授業が聴こえている。ここは1階。 予想だが3年のフロアだ。なんせ多分中学がそうだった。なんでこの人、ここにわざわざ一人でいるんだろう。
「あの」
ノビタの肩がびくっとした。
そりゃぁ、そうだろうけど。
「あんた、なにしてるんですか?」
「は、はい?」
「いや、授業じゃないの?まぁ俺が言えたことじゃないんですけど。3年ですか?」
「まぁ、そうでしょうけど」
そうでしょうけど?
日本語出来ねぇのかこのバカ高校。末期だな。そこ最低限じゃねぇのか日本人なら。
「2年…ですかねぇ、僕」
「は?」
「まぁ、ダブり」
えぇぇぇぇ。
なるほどね。ごめんなさい罵って。
「はぁ、そう。なんかすんません」
「いえ。あの…君も?」
「いえ。一年」
「そうですか」
人は見かけによらないもんだ。なんだろう。変な人。
取り敢えず文杜は、窓際に立て掛けたギターケースを取りに歩いた。ぼんやりとそれを眺めるノビタは「それ…」と呟いた。
「君のですか」
「はぁ、」
「凄いですね」
そう言ってノビタはほんのり微笑んだ。それが少し、なんだか新鮮。
「僕もそういうの、やってみたいなあ」
「…なんで?」
「いや、楽しいかなって」
なんだろう、なんか。
「あんた、ちょっと変」
「はは、そうですね」
「クラスで言われない?」
「言われました。だからいまこうしてます」
ははん。
なるほど。
「へぇ、あそう。
ちなみに楽しいですよベース。まぁあんまり弾けないけどね。始めてそんな経ってないし。まぁでも世界変わる」
「そっかぁ」
「うん。
あんた名前は?俺文杜」
「うーん、かなで」
「かなで?」
「奏でるって書きます」
「かっこいいね。俺文に木と土」
「文学的」
なにそれ。
「変な人」
「そうだね」
「まぁまた会えたら」
「そうですね」
それだけ言って文杜は教室を出た。
教室の名前は『進路指導室』。変なの。誰もいないじゃない。でもそれって。
ひんやりした廊下。響く教師のダルい声。
つまんねぇ。
閉鎖的。でも日常。流石入学式。いつもと違うイベントだけある。
再び下駄箱の横を通ったとき、文杜はふと思い出して、先程のエロ本三冊を手に取り、外へ回り窓からさっきの教室へ訪問。
窓を叩けば驚いた顔をした奏が開けてくれたので、そのまま手渡した。
「えっ、なにこれ」
「わかんない。暇でしょ?あげる。俺の友達の鞄に入ってたん」
「まぁ…うん、どうも…」
顔が凶悪で、格好もヤンキー。正直ゴミを押し付けてきたようにしか思えないが、恐る恐る受け取れば、彼はなんだか凄く嬉しそうな笑顔を見せ、「じゃぁねぇ」とのんびりやる気なく言って片手を振り、急ぐように去るもんだから。
変な人だなぁ、と思った。だが、また明日でもいい。ここで会えたらいいかもしれないなぁとぼんやり奏は考えた。なんせ、この学校に入学して初めての体験だ。
自分は本当に小さな小さな存在で居ても居なくても変わらない。現に今あの、殺伐としたクラスの中で馴染めず、それどころかありきたりな話だが苛めの対象に成り下がり現在こうしているというのに、何事もなかったかのような日常でしかなくて。
自分ってなに、自分って、誰なんだ一体と向き合えないから進路を考えるという排他に辟易としていた。
それがなんなんだあれ。
あれはあれで排他的。だけどどうして自由に見えてしまったのか。エロ本効果なのだろうか。僕、多分人生でこんな、ここまでイヤらしいバカみたいな雑誌、初めて手にしてる。
「ちょっと…」
彼は果たして何に急いで何処に行くんだろう、こんな時間に。多分サボりでしょう。だって僕がそうだから。
『まぁまた会えたら』
それって凄く。
「カッコいいなぁ」
一人、誰も聞くこともない呟きだからこそ試してみた。そしたら急に高揚感。一人だけの狭まった自由な声に、珍しく希望を感じた。
試しに机に戻って奏はエロ本を開いてみた。
衝撃的すぎてすぐに閉じ、「いや…、」と、誰もいないのに羞恥が勝った。
これはきっとよくない。けど誰もいないんだここは。ただ、恐怖心と背徳と、だけど歓喜があって、恐れ多くて辛いがマスかけなかった。耐えた。これはこれででも辛いと、やっぱり後半、奏はトイレに行った。足が震えるかと思った。
そして結局件のエロ本は、テキトーに倦怠感からトイレの鏡台の上にまとめて置いといた。いつか誰かが、捨てるだろう。
トイレから出て、奏は一度、硬直した。
「あ、石田じゃん」
嬉しそうに言う、学ラン前開けの生徒を目にして、思わず思考が停止してしまった。
ゲリラ雷雨は曖昧になりかけている。すぐ近くの教室が空いていて、そこには進路だかなんだかよくわからんがたくさんの参考書、大学案内、そんな本ばかりのカビ臭い物置のような場所で。
開けてみれば一人、机に向かって参考書を必死に書き写している生徒がいた。
その生徒は、思わぬ来訪者に驚いたのか、文杜を見て、びくっとしたが、またぎこちなく机に向かい、ただただ参考書を眺め始めた。
心の中で文杜は彼に、『ノビタ』というあだ名をつける。つまりそんな見た目の、制服も着崩すことなく上までボタンをピッチリ閉めちゃうような、theマジメな見た目だった。眼鏡だし。
しかし。
ふと気が付いた。
廊下には教師のやる気があるのかないのかわからない、眠そうな読経じみた授業が聴こえている。ここは1階。 予想だが3年のフロアだ。なんせ多分中学がそうだった。なんでこの人、ここにわざわざ一人でいるんだろう。
「あの」
ノビタの肩がびくっとした。
そりゃぁ、そうだろうけど。
「あんた、なにしてるんですか?」
「は、はい?」
「いや、授業じゃないの?まぁ俺が言えたことじゃないんですけど。3年ですか?」
「まぁ、そうでしょうけど」
そうでしょうけど?
日本語出来ねぇのかこのバカ高校。末期だな。そこ最低限じゃねぇのか日本人なら。
「2年…ですかねぇ、僕」
「は?」
「まぁ、ダブり」
えぇぇぇぇ。
なるほどね。ごめんなさい罵って。
「はぁ、そう。なんかすんません」
「いえ。あの…君も?」
「いえ。一年」
「そうですか」
人は見かけによらないもんだ。なんだろう。変な人。
取り敢えず文杜は、窓際に立て掛けたギターケースを取りに歩いた。ぼんやりとそれを眺めるノビタは「それ…」と呟いた。
「君のですか」
「はぁ、」
「凄いですね」
そう言ってノビタはほんのり微笑んだ。それが少し、なんだか新鮮。
「僕もそういうの、やってみたいなあ」
「…なんで?」
「いや、楽しいかなって」
なんだろう、なんか。
「あんた、ちょっと変」
「はは、そうですね」
「クラスで言われない?」
「言われました。だからいまこうしてます」
ははん。
なるほど。
「へぇ、あそう。
ちなみに楽しいですよベース。まぁあんまり弾けないけどね。始めてそんな経ってないし。まぁでも世界変わる」
「そっかぁ」
「うん。
あんた名前は?俺文杜」
「うーん、かなで」
「かなで?」
「奏でるって書きます」
「かっこいいね。俺文に木と土」
「文学的」
なにそれ。
「変な人」
「そうだね」
「まぁまた会えたら」
「そうですね」
それだけ言って文杜は教室を出た。
教室の名前は『進路指導室』。変なの。誰もいないじゃない。でもそれって。
ひんやりした廊下。響く教師のダルい声。
つまんねぇ。
閉鎖的。でも日常。流石入学式。いつもと違うイベントだけある。
再び下駄箱の横を通ったとき、文杜はふと思い出して、先程のエロ本三冊を手に取り、外へ回り窓からさっきの教室へ訪問。
窓を叩けば驚いた顔をした奏が開けてくれたので、そのまま手渡した。
「えっ、なにこれ」
「わかんない。暇でしょ?あげる。俺の友達の鞄に入ってたん」
「まぁ…うん、どうも…」
顔が凶悪で、格好もヤンキー。正直ゴミを押し付けてきたようにしか思えないが、恐る恐る受け取れば、彼はなんだか凄く嬉しそうな笑顔を見せ、「じゃぁねぇ」とのんびりやる気なく言って片手を振り、急ぐように去るもんだから。
変な人だなぁ、と思った。だが、また明日でもいい。ここで会えたらいいかもしれないなぁとぼんやり奏は考えた。なんせ、この学校に入学して初めての体験だ。
自分は本当に小さな小さな存在で居ても居なくても変わらない。現に今あの、殺伐としたクラスの中で馴染めず、それどころかありきたりな話だが苛めの対象に成り下がり現在こうしているというのに、何事もなかったかのような日常でしかなくて。
自分ってなに、自分って、誰なんだ一体と向き合えないから進路を考えるという排他に辟易としていた。
それがなんなんだあれ。
あれはあれで排他的。だけどどうして自由に見えてしまったのか。エロ本効果なのだろうか。僕、多分人生でこんな、ここまでイヤらしいバカみたいな雑誌、初めて手にしてる。
「ちょっと…」
彼は果たして何に急いで何処に行くんだろう、こんな時間に。多分サボりでしょう。だって僕がそうだから。
『まぁまた会えたら』
それって凄く。
「カッコいいなぁ」
一人、誰も聞くこともない呟きだからこそ試してみた。そしたら急に高揚感。一人だけの狭まった自由な声に、珍しく希望を感じた。
試しに机に戻って奏はエロ本を開いてみた。
衝撃的すぎてすぐに閉じ、「いや…、」と、誰もいないのに羞恥が勝った。
これはきっとよくない。けど誰もいないんだここは。ただ、恐怖心と背徳と、だけど歓喜があって、恐れ多くて辛いがマスかけなかった。耐えた。これはこれででも辛いと、やっぱり後半、奏はトイレに行った。足が震えるかと思った。
そして結局件のエロ本は、テキトーに倦怠感からトイレの鏡台の上にまとめて置いといた。いつか誰かが、捨てるだろう。
トイレから出て、奏は一度、硬直した。
「あ、石田じゃん」
嬉しそうに言う、学ラン前開けの生徒を目にして、思わず思考が停止してしまった。
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