Slow Down

二色燕𠀋

文字の大きさ
13 / 110
水道

2

しおりを挟む
 締まりが悪い鉄の、鼻につく臭い。捻る音と水が流れて頭が冷えて。

 呼吸が許されなくなった。

 脳みその思考が著しく低下し始めた頃、ふいにベルトに手が伸ばされて。

 身の危険から真樹が顔をあげようとするが、また水と許さぬ押さえつけられた力。
 だが耳元に聞こえる熱く生々しい吐息と内腿辺りに当たる布越しにわかる、性欲。

 伸ばされた膝から、性器にかけてのクソほどうざったい北郷の手付き。

 ヤバい。本気で犯される。どうしよう。困った。いや困ったなんてもんじゃない、醜態だ。思わず肘打ちをかますも取られてしまう。

 頭の中が真っ白。最早血の気が引いた頃だった。「てんめぇぇぇ!」と叫び声、そして解放感と、鈍い音。

 はっとして真樹が振り向けば北郷は離れ背中を向けている。なんなら三人まとめて何かを取り囲んでいて。
 その取り囲んでる先には、自分が助けた筈の生徒が倒れて伸びていて、今にも北郷が馬乗りになって殴らん勢い。足元に転がっているさっき蹴っ飛ばしたバケツ。

 状況を理解した。

 取り敢えず真樹は外れかけたベルトを締めて後ろから腕で北郷の首を閉めてぶん投げた。

「てめぇら、ほん、殺すぞ、クソがァ!」

と、真樹が出ない声でありったけに叫べばその姿がクレイジー。ラリってる。
 しかし真樹も必死だ。思い付く限りの攻撃を、叫びながら「うらぁぁぁ!」と繰り出す。チャイムが鳴った。

 我に返り、三人は逃げよう、そう考えた。

「ねぇ、ちょっ、おき、起きて、あんた、ねぇ、」

 最早騎乗位のような見た目で真樹は伸びた奏の腹に乗り、頬をぶっ叩いたりして声を掛けた。応答がない。

「どうしよう、どうしよう…、」

 一人パニックに陥ってる最中、「なーにやってんだお前」と、聞き慣れた声が聞こえて。

「ハゲ!」

 声の方(入り口)を見れば、「はーい3人、上がりぃ!」ばきぃ!と、優しい笑顔で先程の三人を蹴っ飛ばしながら入ってきた文杜ふみとと、ナトリがそこにいた。

「まぁ真樹ちゃんなにそれぇ!」
「ね、これ、ちょ、」
「あわ、ちょ、泣くなよ真樹!」

 泣き出してしまった真樹に思わずナトリは掛け寄り、一度真樹を奏から退かして奏を壁に凭れさせてから真樹の背中を擦る。漸く奏は薄目を開け、「あっ…」と朦朧とした。

「あ、」
「ね、ぁ、いじょ、ぶぅ?あの…」
「あー…君は…?君こそ…」
「俺はいい、君、ねぇ、起きてる?」

 全然ナトリも文杜も状況は掴めないが取り敢えず、ひょんなことから文杜は奏を知っている。知らないナトリが見てもこの状況。

 叫び声がした方を見れば真っ青な顔をして出てきた三人、そして場所はトイレ。一人が失神、一人が泣いてる。互いが互いを案じていて。

 人物は真樹。真樹はびしょ濡れ、失神してるやつもびしょ濡れ。てか真樹は若干衣服乱れてるし血ぃついてるし。これ一目瞭然っしょ。ぶん殴ってよし。

「待て待てふみ」

 半分くらい死にかけの踞ってるやつらを一人一人文杜は踏みつける。それで文杜の暴力は終了し、あとは冷たく殺人鬼のような目で三人を睨み付けていた。

「さぁ、ウチの真樹ちゃん泣かしたのどこのクソインポテンツだ手ぇ上げろ殺すじゃすまねぇんだよ、おら、あぁ?誰だって、聞いてんだろ、なあ、おい。てめぇら全員真樹になにした奏になにしたさっさと言えよ、早く、なにしたかって聞いてんだよオラァア!
 死ね全員いつまで寝てんだ死ね。ぶっ殺すっつってんだよおら早よ立たんかいなえ?腰抜け殺すぞ」

 先程から文杜は我慢してるのか、ガンガンと入り口の扉を蹴っ飛ばしまくっている。いい加減鏡が割れる。そんな勢いだ。

「文杜お前いい加減にしろよ」
「あ?いい加減にするってなんだよ、こっち怒ってんだよわかんだろ空気読め台湾」
「だから言ってんだよ。文杜、そいつら素人だから。虐めっ子だよただの。お前今やってることそいつらとかわんねぇぞおい」
「…もういっぺん言えこの、」
「やーい虐めっ子単車乗りクソヤンキー!バーカ!このヤクザ!」
「あんだとこのファッキン、」

 殴りかかろうと文杜がナトリの方へ向かって行った瞬間、「うるさい」と、真樹が渾身込めた掠れ声で放った。

「うるさっ。嫌。まずよーちゃん。
 俺の気も知らないでなんなの。もー嫌。素直にそこのゴミにレイプされて泣き寝入った方がよかったわクソが。黙れよもう死ね、誰かこの人心配しろよクソ、」

 また泣き出してしまった。それを見たナトリがまた、「あぁぁ、おい!」と真樹に手を貸すも、「うるさい!」と真樹は払い退けた。

「…ごめんなさい、僕が…。
 僕が、その、弱かったから」
「はぁ?」
「だって、」
「やめてよバカじゃないの?ねえ違う、そんなの違う、なんで、なんでそう…」
「あぁあ、ごめんなさい、だから、うん、えっと。
 ありがとう。でも助かった。君はカッコよかった。そして凄く…良いヤツだ。でも僕は君を助けられなくて、その、」
「もういいもういい!んなん俺だって、うぅ、もう、」
「あぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさい」

なんだか。
似てるんだか似てないんだか。

「…まぁすんません。真樹ちょっと変なんです。そして文杜も変なんです。でも、そう、そんなやつなんです」
「ふ、ははっ」

初めて。
奏が笑った。

「うん変。でも、カッコいいし、いいなぁ」

何がだろう。

 だけど素直になれた。そんな、あどけない笑顔で。

「真樹ちゃん」

 ふと文杜が言う。

「謝らない、怒ってる。けどごめん要素あり。ごめん。
 ただ無茶したお前も謝れ」
「…ごめんなさい」
「うん、いいよ。君のそんなとこ好きだから」
「…変なやつ。して然り気無ぇなクソ狂犬」
「仕方ないよね。俺こんなやつなん」

 狂犬の開き直りはムカつくが、言ってしまったのは自分だ、同意するしかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...