45 / 110
白昼夢の痙攣
6
しおりを挟む
沈黙は続く。
西東、諦め、「僕さぁ」と繋げた。
「結婚はマジなの。陽介」
「はぁ」
「僕の過去とか性格とか、全部わかった上で結婚するんだけどね。多分短いんだ」
「なんで」
「彼女、ちょっと」
西東が胸あたりを差した。
「けど僕はそれでいいやって。だって結婚って、一生もんって言うじゃない?僕、彼女の一生もんになれれば、もうそれで、まぁ夢みたいなこと言うけど、死んじゃってもいいやって。なんなら一緒に死んじゃうかぁって」
「なにそれ」
「だから陽介もそれまで生きてよ。ほら僕さみしがり屋だから大切な人死んじゃうと、死んじゃうじゃない?」
「いま言ってること無茶苦茶なのわかってるかお前」
「全然。だって僕センスねぇし。
子供生まれたら別かもねぇ、あぁ、女の子がいいなぁ。ねぇ、そしたらさぁ、陽介が取り上げて」
「は?」
急に一之江が不機嫌になった。
だが西東は構わない。長い付き合い、この男を不機嫌にすることには慣れている。
「喧嘩売ってんのかお前」
「売ってる売ってる。夢も売ってやるから買え、500万で。
君の過去とか、僕の夢には、君の未来には関係ないもん。僕ずっと夢を観たいの。僕には陽介が取り上げてくれた娘も愛する人も陽介もいて、好きな音楽に囲まれながら幸せな老後を過ごしてクソみてえに燃やされて灰になって死ぬの、日本で誰よりも先に」
「…勝手だな」
「うん、そうなの。でも夢だから、ただの。本当の夢はみんな明るく死にたいなんてセンスないこといい歳こいてまだ、なんもしてない若者が言っちゃいけないと思って。
だって僕、出合った人救ったことないんだもん。君にはわからないよこの孤独。救えないから、せめて夢くらい観たい、与えたいじゃない」
「…なんだかなぁ」
良い奴なんだか悪い奴なんだか。
「僕はだから、君があまちゃん拾ったのならそれは凄い進歩だと思う。だって僕の子供取り上げる夢は切り捨てるのに」
「だって」
「似てるから?それもエゴだ。なら僕にも分けて。僕は君にだって夢を観せたいの。これも僕のエゴだ。
君は優しい。僕は優しくはない。どうしてかな」
少し悲しそうに笑う西東の心理は。
心理学的にはそう、ムカつくことに自分の心をこいつは鷲掴んでくる。これがもしかすると親友なのかもしれない。
「…バカじゃねぇの?
お前な、俺が500払っても俺がお前にやってやることを考えたら、お前なんて借金地獄だ。死ねねぇな」
「マジか。一回落ちてもダメそう?」
「全然足りねえよ5回は落ちろよ」
「最早犯罪だね。治してくれるよね?」
「それ上乗せだね」
「違う人に安く頼もう」
バカなことを言っている。
しかしまぁ。
そんなことを言いに来たのか。だとしたら、笑ってしまう。
「なに陽介、楽しい?」
「全然楽しくねぇよ、アホ!」
「…本当はね。
ちょっと、子供は諦めてたから、なんかそう、笑ってくれるなら、まあ、いっか。陽介、一緒に夢観てもいい?」
「…わかんね。俺も正直ほら、あの…」
「わかってるよ。ごめん。けど陽介がいいんだよ。痛みをわかってくれるから。
多分彼女は帝王切開だ。だからこそ」
忘れられない。
外科医の研修だった頃の、失敗を。あれも、帝王切開で。
研修だった自分は対して何もしなかった。だけど見せつけられた、小さな固まりになってしまった子供を思い返すことがある。
だから外科医はすぐに辞めてしまった。本気で恐怖を感じたあの日以来、外科関係は、立ち入れないのだ、未だに。
「…陽介」
「わかってる」
「いつか僕は、君になら、そうだなぁ、殺されてもいいや。仕方ないから」
「…そうだな、いつかな」
そんな日は来ないだろう。
夢のようにこいつは恐らく、老衰で死ぬ。しかし、昏睡状態になったら?
俺は、こいつを殺すのだろうか。
どこかで願ってしまう。事故とかで、一発で死んでくれたらいいのにと。
じゃないと自分が易々と死ねない。
「…で、まぁ未来はいいや。
だからさ、真樹は?」
「あぁ、あまちゃん、忘れてた。
一応精神科の先生に預けてきた。わりと君、嫌われてたから名乗りをあげた先生がたくさんいて。
あとなんだろ、あの子少し光るものはあるね。凄くモテてた。なんなら整体の先生までしゃしゃり出てた」
「…嵐の予感しかしねぇけど」
「最終的になんか一番患者が少ない、30くらいの…メガネのママさんバレーみたいな女の先生が」
「マジかよ」
何故か一之江が絶句。「どうしたの?」と西東が言えば「いや…」とどもる。
「優秀な医師だがまぁ、うん。肝っ玉母ちゃんタイプの先生でな。影で“気性荒子”と呼ばれてんだよ」
「なにそれおもろい」
「あいつ大丈夫かな…」
沈黙が流れ、見つめ合う。
「どっちに転ぶかなぁ…」
「僕は気性さんを知らないからなぁ。でもその感じだと」
「わりと昔の厳しい先生タイプだな」
「なにそれおもろい」
「暴れちまうかな」
「過保護だなぁ」
そわそわし始め、しまいには立ち上がり行こうとする一之江を「待ちなさい待ちなさい」と押さえつける。
「そんなに言うならこっそり二人で見に行けばいいじゃん」
「まぁそうなんですけど!」
「つかそんなやべぇの?気性荒子」
「ヤバくなかったら気性荒子なんてあだ名つかねぇよ、きっと」
「せーしん科医としてどうなのよそれ」
「だから患者もあんまいない。患者に説教するんだよ。
ただ…」
「ただ?」
「…まぁ優秀なのは投与もそうだが、かかった患者が必ず言うんだよなぁ、「あの人でよかった」って」
「ちなみにさ、本名は?」
西東、諦め、「僕さぁ」と繋げた。
「結婚はマジなの。陽介」
「はぁ」
「僕の過去とか性格とか、全部わかった上で結婚するんだけどね。多分短いんだ」
「なんで」
「彼女、ちょっと」
西東が胸あたりを差した。
「けど僕はそれでいいやって。だって結婚って、一生もんって言うじゃない?僕、彼女の一生もんになれれば、もうそれで、まぁ夢みたいなこと言うけど、死んじゃってもいいやって。なんなら一緒に死んじゃうかぁって」
「なにそれ」
「だから陽介もそれまで生きてよ。ほら僕さみしがり屋だから大切な人死んじゃうと、死んじゃうじゃない?」
「いま言ってること無茶苦茶なのわかってるかお前」
「全然。だって僕センスねぇし。
子供生まれたら別かもねぇ、あぁ、女の子がいいなぁ。ねぇ、そしたらさぁ、陽介が取り上げて」
「は?」
急に一之江が不機嫌になった。
だが西東は構わない。長い付き合い、この男を不機嫌にすることには慣れている。
「喧嘩売ってんのかお前」
「売ってる売ってる。夢も売ってやるから買え、500万で。
君の過去とか、僕の夢には、君の未来には関係ないもん。僕ずっと夢を観たいの。僕には陽介が取り上げてくれた娘も愛する人も陽介もいて、好きな音楽に囲まれながら幸せな老後を過ごしてクソみてえに燃やされて灰になって死ぬの、日本で誰よりも先に」
「…勝手だな」
「うん、そうなの。でも夢だから、ただの。本当の夢はみんな明るく死にたいなんてセンスないこといい歳こいてまだ、なんもしてない若者が言っちゃいけないと思って。
だって僕、出合った人救ったことないんだもん。君にはわからないよこの孤独。救えないから、せめて夢くらい観たい、与えたいじゃない」
「…なんだかなぁ」
良い奴なんだか悪い奴なんだか。
「僕はだから、君があまちゃん拾ったのならそれは凄い進歩だと思う。だって僕の子供取り上げる夢は切り捨てるのに」
「だって」
「似てるから?それもエゴだ。なら僕にも分けて。僕は君にだって夢を観せたいの。これも僕のエゴだ。
君は優しい。僕は優しくはない。どうしてかな」
少し悲しそうに笑う西東の心理は。
心理学的にはそう、ムカつくことに自分の心をこいつは鷲掴んでくる。これがもしかすると親友なのかもしれない。
「…バカじゃねぇの?
お前な、俺が500払っても俺がお前にやってやることを考えたら、お前なんて借金地獄だ。死ねねぇな」
「マジか。一回落ちてもダメそう?」
「全然足りねえよ5回は落ちろよ」
「最早犯罪だね。治してくれるよね?」
「それ上乗せだね」
「違う人に安く頼もう」
バカなことを言っている。
しかしまぁ。
そんなことを言いに来たのか。だとしたら、笑ってしまう。
「なに陽介、楽しい?」
「全然楽しくねぇよ、アホ!」
「…本当はね。
ちょっと、子供は諦めてたから、なんかそう、笑ってくれるなら、まあ、いっか。陽介、一緒に夢観てもいい?」
「…わかんね。俺も正直ほら、あの…」
「わかってるよ。ごめん。けど陽介がいいんだよ。痛みをわかってくれるから。
多分彼女は帝王切開だ。だからこそ」
忘れられない。
外科医の研修だった頃の、失敗を。あれも、帝王切開で。
研修だった自分は対して何もしなかった。だけど見せつけられた、小さな固まりになってしまった子供を思い返すことがある。
だから外科医はすぐに辞めてしまった。本気で恐怖を感じたあの日以来、外科関係は、立ち入れないのだ、未だに。
「…陽介」
「わかってる」
「いつか僕は、君になら、そうだなぁ、殺されてもいいや。仕方ないから」
「…そうだな、いつかな」
そんな日は来ないだろう。
夢のようにこいつは恐らく、老衰で死ぬ。しかし、昏睡状態になったら?
俺は、こいつを殺すのだろうか。
どこかで願ってしまう。事故とかで、一発で死んでくれたらいいのにと。
じゃないと自分が易々と死ねない。
「…で、まぁ未来はいいや。
だからさ、真樹は?」
「あぁ、あまちゃん、忘れてた。
一応精神科の先生に預けてきた。わりと君、嫌われてたから名乗りをあげた先生がたくさんいて。
あとなんだろ、あの子少し光るものはあるね。凄くモテてた。なんなら整体の先生までしゃしゃり出てた」
「…嵐の予感しかしねぇけど」
「最終的になんか一番患者が少ない、30くらいの…メガネのママさんバレーみたいな女の先生が」
「マジかよ」
何故か一之江が絶句。「どうしたの?」と西東が言えば「いや…」とどもる。
「優秀な医師だがまぁ、うん。肝っ玉母ちゃんタイプの先生でな。影で“気性荒子”と呼ばれてんだよ」
「なにそれおもろい」
「あいつ大丈夫かな…」
沈黙が流れ、見つめ合う。
「どっちに転ぶかなぁ…」
「僕は気性さんを知らないからなぁ。でもその感じだと」
「わりと昔の厳しい先生タイプだな」
「なにそれおもろい」
「暴れちまうかな」
「過保護だなぁ」
そわそわし始め、しまいには立ち上がり行こうとする一之江を「待ちなさい待ちなさい」と押さえつける。
「そんなに言うならこっそり二人で見に行けばいいじゃん」
「まぁそうなんですけど!」
「つかそんなやべぇの?気性荒子」
「ヤバくなかったら気性荒子なんてあだ名つかねぇよ、きっと」
「せーしん科医としてどうなのよそれ」
「だから患者もあんまいない。患者に説教するんだよ。
ただ…」
「ただ?」
「…まぁ優秀なのは投与もそうだが、かかった患者が必ず言うんだよなぁ、「あの人でよかった」って」
「ちなみにさ、本名は?」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる