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弐
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額と、肩、項、背中あたりが急に冷たくなりすぐにはっと目が覚める。多分、時間はそう経っていないような雰囲気。
奈木が側にいて「大事ないか、」と…あてを支え手拭いで…恐らく身体を冷やしてくれている。
「よう覚えとったな、お前」
奈木はそう言いながら一度項を叩いてくる。
口から残りの血を吐き出した。
奈木は然り気無く下だけ布団を被せて隠してくれながら「おいそこの役者、安心しな、」と声を低くして言った。
「これ、鼻血やから。小屋の役者から貰ったんか、この匂い媚薬やね?お前、まさか直接中に入れたんか?
これは不幸にも今日、熱出しとってな、葛湯出してんよ、媚薬は例え慣れとったとしてもこんなんが重なったら鼻血……。
つぅかよ、血の流れが途切れてなぁ、即死しなくて…っよかったよなぁ!おい!」
奈木はあての背を手拭いで擦りながら、端で小さくなった邑楽を怒鳴り付けた。
「因みに俺や料理長くらいの歳ならこいつより危ねぇっつーか、こいつもこうやしいや若いんなら尚更血気盛んでわからへんけどお前逸物取れてへんか?あ?別に切れても縫うてやるわこちとら元医者でな」
「奈木おい、何喋ってっかわかんねぇよ。上方口早ぇわ、」
どうやら阿蘇さんが追加で水を持ってきたらしい。
ぬっと入り口に来て「よくやった要」と…そうか、要が呼んでくれたのか。
「泣くな、立派だ要。
奈木、それ、変わるけどあれ殴んなよ。またどっか飛ばされっかんな」
「…いやえーわどーもおーきに、蓬餅かなんか作ったってや、あれにぶつけるから」
「勿体ねぇよ食い物粗末にすんなっつってんだろ、次言ったら朝昼晩毎食、お前の大嫌いな銀杏入れっかんな。
一には一応伝えたが…来させない方がいいか?み空」
見下ろした阿蘇さんに取り敢えず頷くと「わかった。こいつが役者殴んねぇように見張ってろ」と、阿蘇さんは見世から去っていく。
「も……ヤダこんな仕事、なんなの、なんでこんなことしなきゃなんないの…っ、」
縮こまっていた邑楽は年相応…子供のように泣き始める。
ちっ、と舌打ちをした奈木を一度睨んだあと、あてはまず放っておいてしまった要を見る。
要は邑楽を唖然と眺め、そしてあての方を見た。
やっと目が合い、ありがとうと手を合わせ少し頷くように頭を下げると、「頭動かすなや阿呆」と奈木に言われたが、構わなかった。
少しだけはぁはぁしながら苦しそうに笑った要は、肩の力を抜いたらしい。
すりすりと奈木の元に寄り「安心しました…」と言った。
「……怖いけど」
「…よう言われますわ。せやからあとはあんたが耐えるだけやけど…」
あては怖がっている邑楽に手招きをしたが、より怖がったようだ。
これも必要だなと更に一度強めに手招きすれば圧倒されたのか、邑楽は「ごめんなさい…」と小さく謝るが、そうじゃないとまた一度手招きをする。
「なんや?引っ張ってくるか?」と言う江戸っ子気質のような奈木に軽く肘打ちをしたが、鳩尾に入ったらしい。身体を折りつつ「げ、元気やんっ、」と苦しそう。
恐る恐るとやってきた邑楽の頬を、あては一度軽く叩く。
「は!?役者やで、顔は」と喚く奈木に構わず今度は邑楽の頭を撫でたのだが、やっぱり一瞬ビクッとしてしまっていた。
ちょっとダルいし確かに腹も立つがまぁ、笑えたかなと思えば邑楽は俯き「ぅう…うぅ…」と泣き始めた。
この子もこの子で辛かったのだろう。
なんてことは言わない。我々演者は誇りにすがらなければやっていけないのだから。あんた、それがあんたの選んだ道なんやで。
自分で選んだからこそ誰に勝つかなんて、本当は自分以外の誰でもない。甘さ、嫌気、それは全部己の内からくるのだから。
無理なら帰れ。言ってやりたかった。
「あーまぁあんた今日で最後やと思っときぃ。今うちの番台が小屋に吹っ掛けに行っとるからお前さん、借金増えたな。
はは、却ってこっちしか来れんかったりしてなぁ」
邑楽がまたビクッとした。
まぁ…それは事実だろうとは思ったので口出しはしないことにしたが。
「…最後に。
要、今夜は悪いけどみ空を預かるわ。多分、明日にはなんとか…。鼻血も出たわけやし、血が頭に登ったのは直ったはずや。
まぁ、あんたら一回離れなさいとも実は思っとったから…この馬鹿役者と話でもしときぃや。
馬鹿役者、要を襲ったら次こそお前の逸物切ったるかんな」
指示をしながらも然り気無く着物をきちんと着せてくれた奈木はしゃがんで背を向け「手ぇ伸ばせるか」と言ってくる。指示通り首元にしがみついた。
「一回上がるかんな」と言われ背負われながら、「揺れるぞ」だの「あっついな!」だの、あぁ多分かなり動揺させたんだ、この人凄く喋ってる。
大抵上方の者はそうなるんだよなと、少し力も血も抜けたからかもしれない。眠たくなった。
奈木が側にいて「大事ないか、」と…あてを支え手拭いで…恐らく身体を冷やしてくれている。
「よう覚えとったな、お前」
奈木はそう言いながら一度項を叩いてくる。
口から残りの血を吐き出した。
奈木は然り気無く下だけ布団を被せて隠してくれながら「おいそこの役者、安心しな、」と声を低くして言った。
「これ、鼻血やから。小屋の役者から貰ったんか、この匂い媚薬やね?お前、まさか直接中に入れたんか?
これは不幸にも今日、熱出しとってな、葛湯出してんよ、媚薬は例え慣れとったとしてもこんなんが重なったら鼻血……。
つぅかよ、血の流れが途切れてなぁ、即死しなくて…っよかったよなぁ!おい!」
奈木はあての背を手拭いで擦りながら、端で小さくなった邑楽を怒鳴り付けた。
「因みに俺や料理長くらいの歳ならこいつより危ねぇっつーか、こいつもこうやしいや若いんなら尚更血気盛んでわからへんけどお前逸物取れてへんか?あ?別に切れても縫うてやるわこちとら元医者でな」
「奈木おい、何喋ってっかわかんねぇよ。上方口早ぇわ、」
どうやら阿蘇さんが追加で水を持ってきたらしい。
ぬっと入り口に来て「よくやった要」と…そうか、要が呼んでくれたのか。
「泣くな、立派だ要。
奈木、それ、変わるけどあれ殴んなよ。またどっか飛ばされっかんな」
「…いやえーわどーもおーきに、蓬餅かなんか作ったってや、あれにぶつけるから」
「勿体ねぇよ食い物粗末にすんなっつってんだろ、次言ったら朝昼晩毎食、お前の大嫌いな銀杏入れっかんな。
一には一応伝えたが…来させない方がいいか?み空」
見下ろした阿蘇さんに取り敢えず頷くと「わかった。こいつが役者殴んねぇように見張ってろ」と、阿蘇さんは見世から去っていく。
「も……ヤダこんな仕事、なんなの、なんでこんなことしなきゃなんないの…っ、」
縮こまっていた邑楽は年相応…子供のように泣き始める。
ちっ、と舌打ちをした奈木を一度睨んだあと、あてはまず放っておいてしまった要を見る。
要は邑楽を唖然と眺め、そしてあての方を見た。
やっと目が合い、ありがとうと手を合わせ少し頷くように頭を下げると、「頭動かすなや阿呆」と奈木に言われたが、構わなかった。
少しだけはぁはぁしながら苦しそうに笑った要は、肩の力を抜いたらしい。
すりすりと奈木の元に寄り「安心しました…」と言った。
「……怖いけど」
「…よう言われますわ。せやからあとはあんたが耐えるだけやけど…」
あては怖がっている邑楽に手招きをしたが、より怖がったようだ。
これも必要だなと更に一度強めに手招きすれば圧倒されたのか、邑楽は「ごめんなさい…」と小さく謝るが、そうじゃないとまた一度手招きをする。
「なんや?引っ張ってくるか?」と言う江戸っ子気質のような奈木に軽く肘打ちをしたが、鳩尾に入ったらしい。身体を折りつつ「げ、元気やんっ、」と苦しそう。
恐る恐るとやってきた邑楽の頬を、あては一度軽く叩く。
「は!?役者やで、顔は」と喚く奈木に構わず今度は邑楽の頭を撫でたのだが、やっぱり一瞬ビクッとしてしまっていた。
ちょっとダルいし確かに腹も立つがまぁ、笑えたかなと思えば邑楽は俯き「ぅう…うぅ…」と泣き始めた。
この子もこの子で辛かったのだろう。
なんてことは言わない。我々演者は誇りにすがらなければやっていけないのだから。あんた、それがあんたの選んだ道なんやで。
自分で選んだからこそ誰に勝つかなんて、本当は自分以外の誰でもない。甘さ、嫌気、それは全部己の内からくるのだから。
無理なら帰れ。言ってやりたかった。
「あーまぁあんた今日で最後やと思っときぃ。今うちの番台が小屋に吹っ掛けに行っとるからお前さん、借金増えたな。
はは、却ってこっちしか来れんかったりしてなぁ」
邑楽がまたビクッとした。
まぁ…それは事実だろうとは思ったので口出しはしないことにしたが。
「…最後に。
要、今夜は悪いけどみ空を預かるわ。多分、明日にはなんとか…。鼻血も出たわけやし、血が頭に登ったのは直ったはずや。
まぁ、あんたら一回離れなさいとも実は思っとったから…この馬鹿役者と話でもしときぃや。
馬鹿役者、要を襲ったら次こそお前の逸物切ったるかんな」
指示をしながらも然り気無く着物をきちんと着せてくれた奈木はしゃがんで背を向け「手ぇ伸ばせるか」と言ってくる。指示通り首元にしがみついた。
「一回上がるかんな」と言われ背負われながら、「揺れるぞ」だの「あっついな!」だの、あぁ多分かなり動揺させたんだ、この人凄く喋ってる。
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