ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 1st episode

2

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 俺の銃口の先には、こちらに銃を向ける、黒縁眼鏡の男が眉間にシワを寄せて睨んでいた。黒田もそれくらいでは怯まずに銃を向ける。
 なかなかの反射神経だ。俺ですらワンテンポ遅れたのに。

「誰だ貴様ら」
「ちゃんとした行政機関です」
「…良い度胸だな」

 二階で銃声がした。上手くやっているといいが。
 銃声を聞いて男は舌打ちをした。
 男は伊緒を見た。伊緒は男と目が合うと、びくっとした。

「貴様どこに逃げたかと思えばそんな犬畜生のところに懐いたか。死に損ないの野良猫の癖にな」

 嘲笑う男のその口調も目も、冷たいやいばのようなもので。

「伊緒、」

 俺の小さな呼び掛けに、伊緒が一瞬耳を傾けたのがわかる。

 目で合図。頷いて二人でドアを思いっきり開けっ広げた。
 騒然とするホール内のテーブルあたりに一発撃ち込んだ。どうやら、アタッシュケースに穴が開いたようだ。
 騒ぎ立てるフランス人二人と、こちらに向けられる銃口4つ。

「銃を捨てろ」

 手帳と捜査令状を掲げる。少しは効果があるだろうか。

「お上でーす。素直に従わないと連れてくよ?」
「なんだお前!」

 茶髪の胡散臭いあんちゃんが吠える。

「お前らが大好きなFBIデース。はーい、動かないでねー。動いたら撃つからねアタッシュケース」
「なんだと!」
御子貝みこがい、黙れ」

 アタッシュケースの前に座っていた長髪の男が茶髪の兄ちゃんに静かに言い放った。

「…手を出すな」

 男は、ゆっくりと立ち上がり、アタッシュケースを持った。

「そのままそいつをこっちに寄越して貰おうか」
「あぁ、こんなものいくらでもくれてやるよ。取りにおいで、伊緒」

 底冷えするような静かな声色。どこか冴え渡る狂気がこの男にはあった。
 銃を握る手が汗ばむ。珍しく、俺は恐怖を感じている。
 銃口はブレない。伊緒が硬直している。

「伊緒」
「…伊緒、行ってくれるか?いざとなったら俺が撃つから」

 そう俺が言うと我に帰ったようで、伊緒はぎこちなく頷いた。

「いい子だね。早くおいで。でないとこちらから出向くよ」

 少しずつ伊緒は男の元に歩んでいく。俺の横を通りすぎたとき、明かに伊緒の手が震えていた。

 俺も後ろからじわじわと男に近付く。

「そこに跪いて?」

 言われるまま伊緒は男の前に跪いた。
 次の瞬間に男は、フランス人のうち一人を撃ち殺した。

「伊緒」

 ヤツが伊緒に一声掛けると、伊緒はより硬直したように見て取れる。

「お前は俺を裏切るのか?この、俺を」
「えっ…」
「逃げられると思ってる?」

 男は伊緒の耳元で呟く。

「お前の母親、とても綺麗な死に方だったね。炎の中を高笑いしてお前の首を絞めて…。最後はその炎のように散った。誰が助けてやった?」
「あっ…」

 伊緒は男の話に頭を抱えてしまった。
 男が伊緒の髪を掴む。伊緒は脱け殻のような表情でただ涙を流していた。その涙を舌で舐めとる男の姿は、サイコパスとしか言いようがない。

「さぁ、わかったらあいつを撃ち殺すんだ。お前がその手で母親を殺してやったように。あの時を思い出して?手元に銃が転がっていたね。母親の額に銃口を押し当てて、そして」
「やめてください箕原さん…」

 男が伊緒の懐からシグザウエルを抜き、伊緒に握らせる。涙で濡れた朧気な瞳で伊緒は俺を見つめてくる。
 騒ぎ立てているもう一人のフランス人を御子貝が射殺。

 俺はもう一発撃った。今度はヤツの横だ。相手がこちらに銃を構え直す時間を与えず、御子貝と呼ばれた茶髪の腕を一弾擦った。
 連発して撃てる銃を装備しておいてよかった。

「痛ぇ!」
「下がれ御子貝。やめとけと言ったろ」

 御子貝を一言で切るように制する。御子貝の腕からは血がぼたぼたと流れていた。

江島えじま、手当てしてやれ」

 江島と呼ばれた坊主は、御子貝を庇い、少し下がった。怨めしく睨む御子貝から次に銃口はヤツに向けるが、ヤツは一つも表情を変えない。

「その男はただの犬畜生じゃない。狂犬だ。
 随分と成長したようだな、壽美田流星」

ん?

「あ?」

…あっ。

「忘れたのか?」
「…お前っ…生きてやがったのか」

 睨むような、鋭い目付きで言うその男の顔。
 7年前のあの日。
 思い出した。
 エレボス幹部を殲滅した日、あいつは確か、殺したヤツらの死体の中に一人、取り残されていた。
 そのまま保護したが、消息不明になったと聞いた。

「流星!」

 背後から声がした。恐らく政宗と早坂だ。だが、構ってもいられない。

「忘れもしないよ、君のことは」

 薄ら笑いを浮かべてヤツは言う。
 あの日と、同じ台詞。『忘れないよ』

「お前…」

気付くべきだった。

箕原みのはらかい…!」

 忘れていた。
いや、意図的に記憶から消し去っていたのかもしれない。

「…嬉しいよ。思い出してくれたね」
「…あぁ」
「俺は忘れない。君は創造主だ。あの日君は全てを破壊した」
「やめろ」
「伊緒、あいつは…、スミダリュウセイは、お前と同類だよ。あいつといたら君はまた、大切なものを失ってしまうよ。
 そうだろ?」
「やめろっつってんだろ」
「あいつはね、かつての俺の大切な人達を全員あの手で地獄へ葬った。それどころか自分の上司でもあった俺の唯一の神を、あの手で、無惨にも。
 たった一発の銃弾でね」
「うるせぇっつってんだよてめぇ!」

 銃口を向ける。動じもしない。
 伊緒が俺に銃を向けていた。
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