ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 1st episode

1

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 侵入出来そうなところは、正面玄関と後ろにある非常口。
 こちらが侵入することは最早相手方も予想しているだろう。

「裏口なんかより堂々と正面から行ってやろうか」
「正面?」
「だって相手はどうせ、俺たちが来ることなんて予想くらいしているだろう。俺なら、大使館なんていくらでも受付通してもらえるしな」
「あぁ、なるほど」
伊緒いおと俺と黒田くんは正面から入る。政宗と早坂くんは庭園から。
それぞれ無線もあるし、連絡はマメに。
 俺的には一般非公開のホールか会議室が怪しいかなとは思うが正直わからん。場所の特定も含めた潜入捜査ということで」

 軽い打ち合せを済ませ、それぞれ正面入口と裏口に向かう。

 入口には、フランス人のFBIの屈強そうな男が一人立っていた。
 怪訝そうな顔をしていたが俺は手帳を見せ、「明日の会合で日本の警視庁に、少しばかり警備をお願いしたので中を拝見したい」と伝えるが、なかなか通してくれない。

 仕方なく俺が手帳の官位のところを分かりやすく指で差して教えてやると、少し躊躇いがちに、「ただいま外交官の側付きとお宅の官房長官の側付きが対談中だ」とそいつは答えた。

「Quoi?(え?)」
「C'est la r’union de la r’union de demain.Bien, parce que le secr’taire a un caract’re difficile.
(明日の会合の打ち合せだ。 なんせ、書記官は気難しい性格だからな)」
「Je vois….(なるほど…)」

 これはどうやって突破しようか。

「あの…」

 黒田がさっぱり疑問顔だ。

「あ、あぁ。
 なんか、書記官の側付きと官房長の側付きが明日の会合の打ち合せをしているらしい。書記官がなかなか気難しい性格だからってさ」
「…壽美田すみださん…何者なんですか」
「なんで?」
「いや…」
「どーやって突破すっかなぁ…」
「そもそもなんでいま打ち合わせをしているの、官房長の側付きなんですか?」

 言われてみれば確かに。

「明日の対談って、外交官と書記官でしょ?」
「伊緒、良いところに気が付いたな」

 再び俺は門番の捜査官にコンタクトを取ってみる。具体的に官房長の側付きとは誰か、聞いてみたが、返答は曖昧だ。
 試しに、いま同時刻に起きている立て籠り事件の話や、官房長の運転手が少し怪しい話などをしてみる。
 だがそいつは物怖じしない。むしろ少し冷ややかな態度になり、「お引き取りください」と言われた。

「Vous, le nom?(君、名前は?)」

 答えない。手帳すら、見せない。
 もしかするとこいつ。

「tes-vous vraiment le FBI ?
(あんた本当にFBIか?)」
「Ta gueule!!(黙れ!!)」

あぁ、やっぱり。

 俺が銃を向ける方が早かった。顔面の横に一発撃つと、少し怖じけ付いたようで。

「D’gage. Vous assassine.
(退け。殺すぞ。)」

 言い捨てればそいつは手を挙げ、降参。

「…You'er crazy.」
「…Thanks.
 黒田くん、取り敢えずそいつに手錠を掛けとけ。
 入るぞ」
「はい」

 黒田はフランス人に手慣れたように手錠を掛ける。侵入はこれであっさり成功した。

 大使館内は静かで、一気に緊張感が漂った。急にタバコが吸いたくなって火をつける。

「…政宗さんと昔一緒にやっていたんでしたっけ?」
「…まぁ」

 タバコを挟んだ俺の指を眺めて黒田は言った。

「政宗さんは嫌煙家ですよね」
「あ、そう…」

 昔は、あいつも現場でスパスパ吸っていたけどな。

「…タバコを吸う奴は長生きしないって、言ってました」
「あぁ…」

なるほどな。
あの人も吸っていたからな。政宗が言うことも間違っていない。

「…黒田くん、いくつ?」
「…今年で21になります」

 21の頃、俺は。

「君はまだ若いなぁ」
「…まぁ、そうですね。男には少しネックになります」
「そうだな。その頃は、そう思うんだよな。
 って言っても俺もまだまだな歳だろうけどな」

もう結構どうでもよくなっていて。俺は21の頃には自暴自棄だった。

 …いまはそれすら通り越した気がする。そんなことを言ってられるほど、まともな生活をしてはいないんだ。

「貴方は?」

 黒田は伊緒に話を振った。

「俺は18です」
「…凄いですね。18歳で、ここにいるなんて」

 感情が感じられないほどの真顔で黒田は言った。こいつはどうも感情の起伏が読み取れない。

 一階の、非公開ホールの前に着いた。念のため無線をマトリ2人に入れる。二人も侵入には成功し、今は二階に居るようだった。
 防音だ。試しに少しだけ開けて覗いてみる。

 恐らくフランス人であろう2人と、日本人5人。
 一人、長い金髪のスラッとした白いスーツの男は椅子に座って事の成り行きを見ている。テーブルにはアタッシュケースが置かれていて。そいつの右側には坊主頭の、いかにもヤクザっぽい見た目でがたいが良い男と、左側にはオールバックで細身の男が立っていた。

 その他はフランス人と交渉しているっぽい、胡散臭い茶髪の若い男と、データで見た、官房長の運転手がフランス人側に立っていた。

取り敢えずビンゴ。

 一度扉を閉めて無線のスイッチを入れる。

『流星、丁度いい』
「なにかありました?」
『あぁ。証拠というか、なんと言うか。まぁただ、マトリ物件じゃねぇな』
「人身売買ですね」
『あぁ、それももう、生の状態だったり、まだ息を殺していたりな』
「…何人ですか?」
『うーん、何人分だろう。生きてんのが2人、その他は…』
「あー、もういいです。猪越いのこしさんに無線で」
『お前意外とダメだよな。あいよ。そっちは?』
「その様子だと敵とか居なそうですね」
『いや、見張り一人いるよ』
「なんだよ、よくも悠々と語ったな。
 まぁ来れそうになったら来てくださいね。一階の南側です」

 無線を切ったのと同じタイミングで、黒田くんが後方へ銃を向けた。
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