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The 1st episode
14
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「…練習か?」
「はい…」
「見てやろうか?」
「…そう…ですね。あの…」
「ん?」
「なんか、すみません。大切な話、してたみたいで」
それほど大切でも…ないけど。
「あぁ、いいよ。
あいつとはいつもあぁして喧嘩になるんだよ。ウマが合わないんだ」
「…俺には、そうは見えませんでしたけど」
「…ま、三発くらい撃ってみろよ」
俺がそう言うと伊緒は、シグザウエルを一発撃った。
「若干急所ズレるな。今は的が動いてないからあの位置だが、お前はどうも右に寄るな。
左に傾ける意識でやってみたら丁度よくならねぇかな?」
「こんな感じですか?」
そう言うと伊緒は俺に銃口を向けた。
「…そうだな、いい度胸だ」
だがすぐに、銃を下げる。
伊緒は俯いて目を閉じた。
「あんたはお人好しですね」
「…なんで?」
「だって。
目の前の大きな、しかも昔因縁があった敵の一味かもしれないガキを拾ってきて、こうして匿ってる。銃を向けられても動じない。貴方は、一体なんのために俺をここに連れてきたんですか 」
「…まぁ」
なんでだろ。
「なんとなく」
「は?」
「そーゆーお前はなんで俺についてきたの?」
「…そんなの、エレボスの目的を果たすため…ですよ」
なんかなぁ。
強がりを言ってるガキみたい。
「あっそう」
仕方ないなぁ。
「俺昔さ。
お前らの組織、ほとんどぶっ殺したんだ。一人で」
「…はい」
「お前の…何?リーダー?あいつ、会ったことあった。思い出した。あいつ、まだ俺らと歳もあんまり変わらなくてさ。未成年だったから保護されたんだ。だけど、失踪してさ」
「箕原さんが?」
「そう。
助けた気になったわけではなかった。参考人として保護をしたのも多分あった。あいつは、俺が作り上げた死体の山の中で、唯一生き残ってたんだよ。
俺が殺した男に、引き取られたガキだったそうだ。身寄りもないガキだったんだと。詳しくは知らないが。
俺は箕原から、まぁ言うなら家族を奪ったんだよ。今でも思い出すよ。あいつ、ただただ無言で死体の中で呆然としてた」
「…なんで、そんな話を」
「…お前もそうかなと思って」
「…俺は…」
「ただあいつには多分、世界がないのかなって。あの組織以外に。俺はそれを奪ったんだ。
だがその世界は、ひどく歪んでるのも事実で、それを増やしたら、また繰り返すんだよ。
だからお前が俺を殺すなら好きにしろ。受けて立つ」
「…あぁ…」
伊緒はしゃがみこみ、その場で地べたに座り込んだ。
「敵わないな。
ごめんなさい。意地悪言っただけです。俺別にあんたを恨んでなんかいないんだ」
そう言って伊緒は諦めたように笑った。
「…俺の名前、あの人がつけたんだ。俺が死んだ日。俺からすべてを奪った日に」
俺も隣に座ってみた。伊緒の手が、震えていた。
「でも別に恨んではいないんです。あの人のこと。それまでが地獄のような生活だったから。
毎日母親が狂っていく。何もない空中に虫がいると言って火を持ち出す。あの日もそうだった。しまいには俺が誰だかわからなくなっていたようで。
気付いたら…。
あの人はそんな俺を拾った。いま思えばあの人が諸悪の根元だったんだ。ただそのときは神様だと思ったんだ。
それからの生活も地獄だった。いつか殺してやる、そう思うんだけど、恐怖と、何よりあの人の持つ狂った哀愁にそれも出来ないままずっと過ごしていました。毎日が朝か夜。ただそれだけの日々なんです」
すべてを淡々と語る。恐ろしいほどにそこには感情がない。
「…あなたは、一体なんなんですか」
「ただの人殺しだよ」
そう答えると、伊緒は漸く感情を宿した目で俺をじっと見つめてきた。
「この足で様々な国へ行きこの手で何百人を殺したか最早わからない。
エレボスの幹部なんて始まりにすぎなかった」
「その…始まりが…」
「…そう。当時の、秘密捜査本部の部長を殺した」
タバコを取りだし、一本吸う。火をつけて、そのジッポを伊緒に渡した。
「これ、お前持ってて」
「え?」
「ほら、俺の遺品だと思って」
伊緒は不審な顔をしている。なかなか受け取ってくれない。
「…そのライターさ、見た目のわりに、オイルをいれるやつさ、改造されてて小さいんだよ。だからすぐなくなるんだ」
「え?」
「よく考えたよな。
遺品なんだ、それ」
「そんなの、俺が持ってちゃ…」
「いや、お前が持っててくれ。俺が道を踏み外したときのために。
俺を殺したくなったら、ライターの中を開けるといい」
よく、オイルが切れたと言っていた。
『100円ライターの方がマシだわ。ライターなくした時用にさ』
『なんっすかそれ…』
『これはお前が持ってて』
オイルが切れて補充したとき、その意味を知った。
頭に来てこんなもの、捨ててやるとそのとき思ったけど。
なんとなくいままで持っていた。
「…わかりました」
「お前、案外素直なやつだよな」
「そうですか?」
「うん。少なくとも、潤よりは」
そう言うと、ふと伊緒が笑った。
「戻りましょうか」
「そうだな」
これから仕事を少し進めたい。
二人で練習場を後にした。
それから正直言うと仕事は書類整理くらいしか出来なかったが、明日から取り敢えず本腰を入れようと言うことで早期解散した。
少しだけ残って捜査員の経歴やらなんやらに目を通した。
みんななんだかんだで実践向きだ。場数も悪くない。
明日からまた新たな捜査が始まる。
俺は一番最後に部署を後にした。
「はい…」
「見てやろうか?」
「…そう…ですね。あの…」
「ん?」
「なんか、すみません。大切な話、してたみたいで」
それほど大切でも…ないけど。
「あぁ、いいよ。
あいつとはいつもあぁして喧嘩になるんだよ。ウマが合わないんだ」
「…俺には、そうは見えませんでしたけど」
「…ま、三発くらい撃ってみろよ」
俺がそう言うと伊緒は、シグザウエルを一発撃った。
「若干急所ズレるな。今は的が動いてないからあの位置だが、お前はどうも右に寄るな。
左に傾ける意識でやってみたら丁度よくならねぇかな?」
「こんな感じですか?」
そう言うと伊緒は俺に銃口を向けた。
「…そうだな、いい度胸だ」
だがすぐに、銃を下げる。
伊緒は俯いて目を閉じた。
「あんたはお人好しですね」
「…なんで?」
「だって。
目の前の大きな、しかも昔因縁があった敵の一味かもしれないガキを拾ってきて、こうして匿ってる。銃を向けられても動じない。貴方は、一体なんのために俺をここに連れてきたんですか 」
「…まぁ」
なんでだろ。
「なんとなく」
「は?」
「そーゆーお前はなんで俺についてきたの?」
「…そんなの、エレボスの目的を果たすため…ですよ」
なんかなぁ。
強がりを言ってるガキみたい。
「あっそう」
仕方ないなぁ。
「俺昔さ。
お前らの組織、ほとんどぶっ殺したんだ。一人で」
「…はい」
「お前の…何?リーダー?あいつ、会ったことあった。思い出した。あいつ、まだ俺らと歳もあんまり変わらなくてさ。未成年だったから保護されたんだ。だけど、失踪してさ」
「箕原さんが?」
「そう。
助けた気になったわけではなかった。参考人として保護をしたのも多分あった。あいつは、俺が作り上げた死体の山の中で、唯一生き残ってたんだよ。
俺が殺した男に、引き取られたガキだったそうだ。身寄りもないガキだったんだと。詳しくは知らないが。
俺は箕原から、まぁ言うなら家族を奪ったんだよ。今でも思い出すよ。あいつ、ただただ無言で死体の中で呆然としてた」
「…なんで、そんな話を」
「…お前もそうかなと思って」
「…俺は…」
「ただあいつには多分、世界がないのかなって。あの組織以外に。俺はそれを奪ったんだ。
だがその世界は、ひどく歪んでるのも事実で、それを増やしたら、また繰り返すんだよ。
だからお前が俺を殺すなら好きにしろ。受けて立つ」
「…あぁ…」
伊緒はしゃがみこみ、その場で地べたに座り込んだ。
「敵わないな。
ごめんなさい。意地悪言っただけです。俺別にあんたを恨んでなんかいないんだ」
そう言って伊緒は諦めたように笑った。
「…俺の名前、あの人がつけたんだ。俺が死んだ日。俺からすべてを奪った日に」
俺も隣に座ってみた。伊緒の手が、震えていた。
「でも別に恨んではいないんです。あの人のこと。それまでが地獄のような生活だったから。
毎日母親が狂っていく。何もない空中に虫がいると言って火を持ち出す。あの日もそうだった。しまいには俺が誰だかわからなくなっていたようで。
気付いたら…。
あの人はそんな俺を拾った。いま思えばあの人が諸悪の根元だったんだ。ただそのときは神様だと思ったんだ。
それからの生活も地獄だった。いつか殺してやる、そう思うんだけど、恐怖と、何よりあの人の持つ狂った哀愁にそれも出来ないままずっと過ごしていました。毎日が朝か夜。ただそれだけの日々なんです」
すべてを淡々と語る。恐ろしいほどにそこには感情がない。
「…あなたは、一体なんなんですか」
「ただの人殺しだよ」
そう答えると、伊緒は漸く感情を宿した目で俺をじっと見つめてきた。
「この足で様々な国へ行きこの手で何百人を殺したか最早わからない。
エレボスの幹部なんて始まりにすぎなかった」
「その…始まりが…」
「…そう。当時の、秘密捜査本部の部長を殺した」
タバコを取りだし、一本吸う。火をつけて、そのジッポを伊緒に渡した。
「これ、お前持ってて」
「え?」
「ほら、俺の遺品だと思って」
伊緒は不審な顔をしている。なかなか受け取ってくれない。
「…そのライターさ、見た目のわりに、オイルをいれるやつさ、改造されてて小さいんだよ。だからすぐなくなるんだ」
「え?」
「よく考えたよな。
遺品なんだ、それ」
「そんなの、俺が持ってちゃ…」
「いや、お前が持っててくれ。俺が道を踏み外したときのために。
俺を殺したくなったら、ライターの中を開けるといい」
よく、オイルが切れたと言っていた。
『100円ライターの方がマシだわ。ライターなくした時用にさ』
『なんっすかそれ…』
『これはお前が持ってて』
オイルが切れて補充したとき、その意味を知った。
頭に来てこんなもの、捨ててやるとそのとき思ったけど。
なんとなくいままで持っていた。
「…わかりました」
「お前、案外素直なやつだよな」
「そうですか?」
「うん。少なくとも、潤よりは」
そう言うと、ふと伊緒が笑った。
「戻りましょうか」
「そうだな」
これから仕事を少し進めたい。
二人で練習場を後にした。
それから正直言うと仕事は書類整理くらいしか出来なかったが、明日から取り敢えず本腰を入れようと言うことで早期解散した。
少しだけ残って捜査員の経歴やらなんやらに目を通した。
みんななんだかんだで実践向きだ。場数も悪くない。
明日からまた新たな捜査が始まる。
俺は一番最後に部署を後にした。
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