ノスタルジック・エゴイスト

二色燕𠀋

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The 31st episode

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 流星は朝のうちにちゃっちゃと手続きを済ませた。それから火葬場で環ちゃんを密葬し、祥ちゃんとユミルと共にルイジアナに向かおう、これが次の日の最終飛行機だった。

 黒スーツに黒シャツ、黒ネクタイとキメすぎていた流星の荷物なんて、鞄ひとつと環ちゃんが入った骨壺だけだった。

 一回家に帰った祥ちゃんは俺に「ごめんね」と謝った。

「最悪ここに帰ってこれなかったら潤はまぁ、ホントに流星のところに転がり込んでね」

 これは病院で流星と祥ちゃんが決めたことらしい。
 伊緒はあれから、ショックで政宗の家に引きこもってしまったらしい。
 そしてこれからも、伊緒が立ち直り事件が終わるまではそうしようと決めたらしかった。

なんとなく俺は、
祥ちゃんはこの日本に帰らず、義父に殺されたいのかもしれないと思っている。

「嫌だからちゃんと帰ってこよう、流星なんて嫌だし」
「はは、まぁ同意」

 言う資格が俺にあるのか、
いや、言わなければこの破壊は恐らく止まらないんだ、そう言い聞かせてルイジアナへ発った。

 あれ以来会っていなかったユミルは、「怖い怖い怖いよケリーとかぁぁ!」と意外と元気にPTSDじみたいつものテンションで、「わーかってるから行くよ」と流星が押しきって連れて行った。

 流星は飛行機の中ではより寡黙だった。窓側の席で夜空を眺めているようで。

「飛行機初めてか潤」
「うん」
「星が綺麗だよ」
「あのさ、祥ちゃん」
「ん?」

案外。

「怖いかもしれん…」
「へ?」

高すぎる。
これ、間違ってビルに墜落して毎日テレビで流れる惨事とかになったら俺泣く。いや、もう泣く猶予ないじゃんマジで。

「た、高くない?高くない?」
「…そりゃぁ空飛んでるもん」
「空飛んでるって何ぃぃ!」
「え、もしかしてだけど高所恐怖症なの潤」

 俺は始終こんなんで。何度かトイレでゲロ吐く惨事に至ってしまった。

「…帰り本気で船が良い」
「捕まっちゃうねぇ。昨日のコンビニ飯がヤバかったかな」

 軽やかに祥ちゃんは笑うし、怖いと騒いでいたユミルまで「え、マジで大丈夫なの潤チャン」だったし。

 俺が落ち着いた頃、傍観を決め込む、というよりおセンチ決め込んでた流星がふと、「ふっ、」と破顔した。
 鉄面皮決壊に二人とも俺を構わなくなった。
 わかるよー、確かに優男風味漂うよねーこの泣き黒子狂犬。

 今度は「ドシタのリュウ」だの「やっぱ笑った方がまともだよねまだ」と流星の笑い顔に集中放火されて「いや、」と若干照れるという。
 野郎四人で何やってんだよ『魔の男子校、修学旅行』かよみたいな状態に陥った。

「…潤大丈夫か。胃も一緒に口から出てないか、腹の傷から出てないかおい」
「相変わらず口は悪いんだね流星」
「出てねぇよゲロしか」

 言えば「あのーすみません」とキャビンアテンダントに「ミネラルウォーター3本ください」と買ってくれた。

 大人しくそれを受け取れば、「まぁ、わかるかもね」と流星は言った。

「俺も昔雨さんに言ったよ。空と海って似てるけど、船はダメだねってさ」
「…は?」
「知らないか?
 俺、19、20の頃かな。3日くらいあそこに世話になったんだよ。強制的に留学が終了してな。樹実に連れていかれた」
「…マジ?」
「マジ。
 あの部屋、だからわかったんだよね。あそこ、借りたことあって」
「…よく借りようと思ったね」
「そのために掃除したもん。俺は地震が来たら死ぬだろうなってさ。開けた瞬間ホントにヤバかったな」

 またおセンチで流星が笑う。
…そうだったんだ。

「…歯ぁ磨いてくるわ」
「は?」
「いやゲロで気持ち悪いから」
「…あっそ。いってら」

 何も言えないで俺は水を持って席を立ち、一見綺麗そうだが間違いなく不衛生だろう洗面所に向かう。俺は飛行機に洗面所があるなんて知らなかった。
 果たして、この洗面所の水はどうやって仕入れているんだろう。考えただけで汚そうだが、ペットボトルなので関係ない。
 アメニティの歯ブラシで歯を磨く。俺ってなんでこういうのダメかって、本当に温室だからかもしれないな。

 誰か潔癖性な奴がいたわけでもないから、中途半端な潔癖性。家を渡り歩いた結果なのか、公衆便所の成れの果てか。あぁ、嫌だったなぁ。全部。

 寝起きに服着てないのも多分、そういうことだろうな、強引だけど。全部みたらいいんだよ、どうせ着る服は次に新しくなる、ズタボロだから。別に無理矢理プレイが好きなわけじゃないのに。幼きゃ抵抗なんて出来る訳ないんだ。

 思い出しそうになる。生かされていた自分を。
 ろくな思いでなんていままでない。雨さんとだって、幸せだったと思う、けども残虐だった。
 なのに納得したのは樹実さんだったからなんだ。もう、そこは仕方無いんだ。

 拳銃とUSBを俺に託した樹実さんの気持ちなんてわからない。あんたはエゴイストでしかないんだけど。どうして、仕方ないと許しているんだろう。

 考え込む前に席に戻った。
 祥ちゃんと流星が夜らしく穏やかに話している。ユミルはいつも通りテンションが高くて。

ルイジアナかぁ~…。

 想像なんて出来なかった。
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