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冒険者ギルド編

6話 3年後 ― 変わったものと変わらないもの ―

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あれから3年の月日が流れた。11歳となったアーノルドは周囲の人々が驚くほどの変化を遂げた。

まずは、緩み切った体は日々の鍛錬により鍛え上げられてスマートになり背丈も同年代の男の子たちより高くなった。
規則正しい生活とバランスの取れた食事をすることで肌もだいぶ綺麗になり、成長するごとに父である国王に似てきたと王妃に喜ばれている。
学力も真面目に取り組み始めた当初は、同年代の子供より遅れていることが分かりショックを受けたが、教師たちの厳しい授業に音を上げることなくついていき、今ではこの歳でも学園(15歳から入学できる)の試験を余裕でクリアできるだろうと太鼓判を押されるほどの優秀な生徒になった。
周囲はアーノルドの変わりように感心し、賞賛を送ったのだったがその中にアーノルドに取りいって甘い汁を吸おうと良からぬ考えを持つ奴等も現れ始めた。しかし、そういう輩のほとんどはアーノルドに近寄る前に従者のウィルが排除していった。そして、当のアーノルドも他人に興味を持つことはなかった。

たった一人、除いては。




そして現在、彼にとって少し由々しき事態が起こっていた。

「聞いているのか、アーノルド。」

「聞いております、父上。」

アーノルドは珍しく国王の執務室へと呼び出されていた。目の前にいる父は眉間にしわを寄せてかなり機嫌が悪そうだ。

「ではもう一度尋ねるが、お前の指示で影を使ってオルコット嬢の私生活を探らせていたというのは誠か?」

「はい、事実です。しかし、これには訳があります!」

一瞬、父の眉がピクリと動いたが俺の話を聞いてはくれるみたいだ、続きを促された。

「レーナ嬢は可憐さに磨きが増しているとのこと。そんな彼女に良からぬ事を考える奴らが現れるかもしれません。何かあっては遅いのです! 彼女を守るには影を使って見張らせるしかないのです!!!」

「このっ!大馬鹿ものが!! 影をそのようなものに使うでないわ!!! 本来、彼らは国家にとって重要な情報の収集や要人の護衛等を任務としている。それを一介の貴族令嬢の見張りをさせるなどもっての外。彼らの報酬は国家予算からでているのだ。王子だからといって勝手に使えるような者達ではない!!」

顔を真っ赤にさせて怒りを露わにしている父上をみて、それでもアーノルドは納得がいかなかった。

「しかし、私はレーナ嬢に何かあったらと考えると夜も眠れません!!」

「レーナ嬢は、オルコット侯爵家の令嬢だ。侯爵家ともなると警備の者も腕の確かな者達しか置いていないだろう。お前が心配するようなことは何も起こらんわ!!」

「それでも万が一の事があるかもしれないではないですか。彼女がどこかに出掛けた際に護衛の隙をついて攫われたりしたらどうするのですか!!」

アーノルドもレーナの身の安全にかかわってくることなので一歩も引くつもりはなかった。



「まあまあ、お二人とも落ち着いてください。」

そこで二人の間に入ったのは、国王の側に控えて成り行きを見ていた宰相だった。

「アーノルド殿下、殿下のオルコット嬢を心配するお気持ちはわかりますが、『影』は我が国家の要ともなる優秀な集団なのです。それはご理解いただけますか?」

アーノルドは頷いた。彼らが優秀なのは承知の上で今回、レーナ嬢の身の回りに不審なものはいないかと探らせていたのだ。もちろんレーナ本人には気取られないように。

「陛下、ではこうしたらいいのでは………。」

宰相が父上の近くによって何やらコソコソと話をし始めた。

「なるほど、それは良い提案だ。」

父上が宰相の言葉に頷いて俺の方へと視線を向けた。

「お前が影を使いたいというのなら一人だけ貸してやろう。但し、その報酬はお前の金で賄う事だ。言っておくがかなりの高額となる。それでもいいのなら影を使うことを許そう。どうだ?」

「……ちなみに報酬額はいくらになりますか?」

宰相が差し出した紙にひと月分の報酬額が書かれていた。

「っ!? こんなにするのですか?」

「そうですよ。彼らはプロなのでそれなりに報酬を与えないといけません。もしこの額を払えないのならば諦めてもらうしかありませんね。」

そう言って、宰相はにっこりと笑った。どうやらこれを理由に諦めさせようとしているのだと気づいた。しかし、アーノルドにレーナに関わる事で『諦める』という言葉はなかった。

「わかりました。この金額を何とかして作ります。」

「おい! 王妃や兄に工面してもらうのは駄目だぞ。……あと犯罪も。」

「もちろんですよ、そんなことはしません。必ず用意しますので約束は必ず守ってください。」

そう言って、父の執務室を出てからアーノルドは頭を抱えた。

「くそお、どうやって集めればいいんだ!!」

宰相に提示された金額は、アーノルドが使える小遣いの約半年位の金額だった。


今、流行っている先物取引をするのはどうだろう。いや駄目だ、あれは増やすのに時間がかかるし金額が多いほどハイリスクとなる。手っ取り早く稼げるものはないだろうか……。

そんなことを考えながら歩いていると従者のウィルが前から歩いてきたが。

「アーノルド様、陛下の説教は終わりましたか?」

「……お前が父上に告げ口したのだな。」

「はい、 それはもう!洗いざらい話しました。」

「裏切り者め!!」

「何言っているのですか、私の本当の主は陛下になります。主君に嘘は言えませんよ。」

「チッ」

こいつと話していても時間の無駄だと分かっているので舌打ちをして睨みつけた。
とにかく今の問題はどうにか金を作ることだ。

「あ、そうそう。明日、凄い人が来ますよ。」

「凄い人?」

「なんとS級冒険者のファーガスですよ!! あの伝説の人に会えるんですよ! 俺、握手してもらおうかな~。」

「冒険者……。」

その時、俺はあることを思いついた。

「これはいけるぞ!!」

「何がです?」

不思議そうな顔をするウィルを無視して、俺はその冒険者に会うことを決めたのだった。



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