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24話 私が知らなかったこと。
しおりを挟む「わかったわ。今、行きます。」
昨日、あんなひどい事を言ってしまった手前、本当は会いづらいけどでもこのままでは駄目だと思った。
「―― 大丈夫か?」
アレクが少し心配そうな顔で聞いてきた。
「大丈夫ですよ。お父様も今日も昨日のようにいきなり魔力暴走しないでしょうし、今ならお互いに冷静に話すことが出来ると思います。」
「…そうか。なら、サロンを使うといい。」
「ありがとうございます。」
そう言って私はアレクの部屋を出て玄関へ向かった。
「おとう……ん? セバスチャン!? なんでお父様のふりしているの??」
玄関へ行くとお父様の格好をしたセバスチャンが立っていた。
ちなみにお父様の髪の色は金髪で髪形は左右に分けて軽くなでつけている。瞳の色は私と同じ青色だ。そしてセバスチャンは髪の色が栗色でオールバックにして眼鏡をかけている。瞳の色は透き通った緑色をしている。
お父様もセバスチャンも髪の色や瞳の色が違うだけで顔が瓜二つなのだ。お父様たちの母親(私からするとお祖母様)が双子だからなのだろうけど。
「さすがはお嬢様ですね。結構自信がございましたが、私もまだまだということですね。」
「あの、これは一体……。あれ? あなた昨日のいらっしゃった方?」
セバスチャンの隣には昨日のお昼にアレクからの手紙を持ってきた騎士様が立っていた。
「ちっーっす!また、会いましたね!かわいいお嬢ちゃっん!? ―― って!!」
騎士様は話している途中でいきなり脇腹を押さえて痛がりだした。
「おやおや、腹を下したのかもしれませんね。メイ、この方の介抱してさしあげなさい。お嬢様は私とアレク様の部屋へ参りましょう。いろいろとお話したいことがございますので。」
「いやっ、俺は腹を下したわけじゃ……。」
「こちらでございます、お客様。」
騎士様が引きずられるように屋敷の奥へと連れていかれた。
アレクの部屋の前でノックする。
許可の声が聞こえたのでセバスチャンと一緒に入った。
「おまえは……執事か。なぜ宰相の変装をしているのだ?」
アレクは一瞬驚いた表情を見せてすぐにセバスチャンと見破った。
「アレク様、すごいですわ! お父様とセバスチャンを見破るのはなかなか難しいのですよ?」
私も先ほどはすぐにわかったが、お父様に変装したセバスチャンに幼い頃は騙されたりしていた。何度か騙されるうちに見極められるようになったのに。
「さすがは『心眼』をお持ちの方だ。あなた様の前では偽ることはできませんね。」
「心眼?」
「まあ、その事は今、話すことではないだろう。で、宰相の格好までしてここに来るのには何かわけがあるのだろう?」
「はい、実はここへ来る前に王宮に行きまして陛下と会談してまいりました。」
「陛下と?」
「そうです。ジェフリー・クレイグ様とお嬢様の婚約についてです。」
「……っ。」
私は息をのんだ。そうだ、この婚約は陛下がお勧めになったものでジェフリーからの一方的な婚約破棄宣言とその後の私の暴挙は陛下の耳にも入っているはず何かお咎めがあったのではないか。
「ああ、お嬢様、そう心配なされますな。ジェフリー様との婚約は白紙になりました。―― もともと、そうなる予定でございましたのでお嬢様が気に病むことは何もございません。……そうですね、お嬢様には旦那様がお伝えしなかったことをお話ししましょう。」
時は遡って私が4歳の頃。
その当時、今の国王陛下が国王となられて日が浅く政敵であった王弟様の派閥も根強く残っていて国内はかなりピリピリしたムードだったらしい。
そんな中、とある噂が立ち始める。第一王子と宰相の娘である私が婚約するのではないかという噂だ。お父様はすぐに否定されたが、真に受けた者達がいた。それが王弟の派閥の貴族でその人達にとって、お父様はできれば排除したい相手。王族との繋がりをこれ以上もたせてしまえばますます自分たちの立場が悪くなる。と、そして時期を同じくして私の身の回りが怪しくなってきた。送られてきた品物に毒が塗られてあったり、攫われそうになったりしたこともあったそうだ。
そこで、お父様は皆の前で第一王子との婚約はないと宣言したのだという。まあ、それで少しは収まったようだが今度は王弟の一番の臣下ともいえるクレイグ家からジェフリー様との婚約の申し出があった。しかも王弟が自ら薦めてきたそうだ。王弟は大公となっていたがそれでも王族の身に変わりはないから簡単に無下にできるものでもなかった。
しかし、かわいいヴィクトリアをクレイグ家に嫁にやるなどしたくない。だが相手はあの王弟。王位継承争いでかなりあくどいやり方をしていた人だ。この縁談を飲まなければ何をされるかわからない。決断を迫られるお父様は日に日に憔悴していった。
それを陛下は見るに見かねておっしゃった。
「ルイス、余の力がないばっかりに苦労を背負わせてすまぬ。クレイグ家との婚約を引き受けてはもらえぬか。奴らはそれさえお前が飲めば溜飲が下がるだろう。しかし、ヴィクトリア嬢が成人を迎える前に必ず婚約を白紙にさせると約束しよう。それまで我慢してくれまいか。」
陛下のお言葉でお父様はしぶしぶクレイグ家との婚約を受けることにした。条件として二人が会うときは必ずメイスフィールド家でということを約束させた。
それから、あの光の魔法を使う少女 ―クララと親密だという事を聞きつけて最近ではいろいろ根回しをしていたらしい。
「それでは、最初からジェフリーとは婚約をなかったことにする予定だったの?それを私があんなことしでかしたもの、お父様がお怒りになられるのもわかるわ。……私、全然知らなかった。いつもお父様は『令嬢らしくしろ』『相手に失礼がないように』とかしか言わなかったから、てっきり嫌われていて、早く嫁にやりたいのだと思っていたの。」
「はあー、お二人は本当に親子でございますね。旦那様も昨夜『俺はずっとリアから嫌われていたのだ』としつこいくらいにおっしゃっていましたよ。肝心なことは言わないくせにまったく仕様がない人でございます。」
「ところで、お父様はどうなされたの? セバスチャンがお父様の代わりに陛下に会われたって。お父様に何か……。」
お父様は仕事をきっちりこなす方でセバスチャンと入れ替われることができるとわかっていても、入れ替わってセバスチャンに仕事に行かせるとか今までしていなかったはずだ。
お父様に何かあったの?
「ああ、いえいえ。今は王宮やこちらに来られる状態ではございませんでしたので私が代わってやらせていただきました。……まあ、半分は私の責任でもありますので。」
「どういうこと? お父様は大丈夫なの?」
セバスチャンは少し困ったように笑って言った。
「大丈夫です。ただの二日酔いですから」
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