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閑話 最強!最凶? ご隠居組、いざ、出陣!
しおりを挟む城とも呼べる大きな屋敷の前に1台の馬車が止まった。
「さあ、旦那様。観念して降りてください。」
「う、うむ。」
執事のセバスチャンに促されてルイスが馬車を降りる。その後からヴィクトリアに変装したメイとアレクに変装したロイが降りてきた。
「おやあ、誰かと思ったら愚息か。」
屋敷の花壇に水をやっていた年配の男が振り返って言った。
「ち、ち、父上! なんて格好しているのですか!!」
金色の髪は麦わら帽子で隠れているが、その容姿はルイスによく似ており一目で親子だと分かる。この屋敷の主であるはずの者がヨレヨレのシャツ長ズボンに長靴の格好をしている。どう見ても庭師にしか見えない。
「いやあ、この服装の方が作業しやすいのだよ。… ああ、そうだ。一つだけ忠告してやろう。今のうちに腹ガードしとけ。」
「???」
バンッ!!
「こんのっ、バカ息子がーっ!!!」
屋敷の扉が乱暴に開けられてと思ったら1人の婦人が出てきた。見た目は30代後半といったところか綺麗な金色の髪と青い瞳をしていてすごい美女だが今はものすごい形相でルイスの元へ走ってきてそのまま腹に一撃、拳をぶち込んだ。
「ぐっはぁあ!!」
それから間髪入れずにルイスの腕をとって捻り上げた。
「痛い、痛いです! 母上っ。」
「まったく、リアちゃんをイジメたのも許されないけどこんなもの付けられるなんてメイスフィールドの名が泣きますよ!」
そう言って、不意にルイスの首筋にガッと手を入れると何かを捕まえて引き剥がす動作をした。
それと同時にルイスは糸が切れたようにぐったりとその場に崩れ落ちた。
「旦那様!!」
セバスチャンが慌ててルイスに駆け寄る。
「大丈夫よ、意識を失っているだけだから。すぐに目を覚ますわ。」
「アンジュ様、その手にされているものは…。」
先ほどは見えなかった何かはアンジュの手の中で半透明ながらも形が見えるようになった。ウネウネと動いていて大きな蜘蛛のようだ。
「これは『蟲』ね。こんな懐かしい術を使える者がまだいたとわね。」
「『蟲』とは何ですか?」
「一種の呪術的なものよ。宿主にとりついて精神を支配するってやつ。リュウいるー?」
「キュイ?」
どこからともなく1匹の赤いドラゴンが現れた。体長はおよそ50センチといったところか小さい背中の羽をバタバタさせて飛んでいる。
「あれ?前見た時より小さくなっていませんか?」
「ああ、あれから修行して体のサイズを自在に変更できるようになったのよ! 本当にリュウはおりこうさんね。」
「キュイ!」
褒められて嬉しかったのかなんとなく顔つきが誇らしげだ。
「はい、そんないい子のリュウちゃんにこれあげる。」
そう言って、ヒョイと『蟲』をドラゴンの口へと入れた。最初はムシャムシャと食べていたがやがて飲み込んだ。
「きゅい~…。」
「あら、あんま美味しくなかったみたいね。」
「アンジュ様! 『蟲』を調べれば誰が犯人かわかったのではないですか?」
せっかくの証拠となるものをドラゴンに食べさせたことに驚いた。
「大丈夫よ。おおよそ検討はついているわ。」
「もう、姉さまったらいきなり飛び出していくものだから驚きましたわ~。」
穏やかな表情を浮かべながら出てきた婦人はアンジュと顔の容姿は瓜二つだがアンジュと比べてややぽっちゃりした体形だ。その穏やかな表情はなんだか見ているだけで癒される雰囲気を持っている。
「ごめんね、エマ。バカ息子が帰ってきたからお仕置きしていたのよ。」
「あ、バズちゃん帰ってきたの~、なかなか顔を見せないから心配していたのよ~。」
「母上、いい年をした息子にちゃん付けで呼ぶのは止めてくださいと何度も言っているではないですか。」
「なんだ、セバスチャン。お前は母親に口答えするのか? 俺が直々にお仕置きしてやろうか?」
そう言ってエマの横に立ったのは夫であり、セバスチャンの父親のアンドリュー・スチュワートだ。
「アンディー、だめよ。」
「わかった、エマが言うなら止めよう。」
「このっ…万年バカップル夫婦が!」
真面目、堅物を絵にかいたようなアンドリューだが、妻のエマに対しては100%デレモードだ。
それを長年見せられている息子はたまったものではない。早々に引退して隠居生活してくれたのは助かったのだが、こうやって会う度に見せつけられるのも堪えるものがある。
「はいはい、そこのバカップル夫婦。イチャイチャしないで準備するわよ!」
「「「準備?」」」
「もちろん王都へ行く為の準備よ! うちのバカ息子と可愛い孫娘を泣かせた奴らに倍返ししてやらなきゃいけないからね!」
「でも、ルイス様がまだお目覚めになられていませんが。」
さっき、倒れてからずっとセバスチャンが抱えている状態のまま会話が進んでいた。
「まあ、そのうち目が覚めるわ! 誰か、8人くらい乗れる馬車用意して!急いで支度するわよ。」
「は、8人乗りですか!? 2台に分けても…。」
「それじゃあ、リュウが運ぶのに苦労するから1台でいいのよ。」
「リュウが運ぶ…?」
セバスチャンは何か嫌な予感がした。
「リュウが通常サイズになって私たちを馬車ごと運ぶのよ。そしたら1日で王都に着くわ。」
アンジュがこれはもう確定事項とばかりに満面の笑みを浮かべた。
そうしてその日のうちに1匹の巨大なドラゴンが1台の馬車を背に括りつけて王都へと飛び立った。
「…なあ、これって白昼夢ってやつかな。」
それまでずっと、事の流れを傍観していたロイが急速に流れていく窓の外の風景を眺めながら隣に座っているメイに聞いてきた。
「現実逃避はしないで下さい。…あの方々は特殊なんです。」
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