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45話 ダリアの部屋で見つけたもの(side:アレク)

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ダリアの部屋まで案内されて、部屋の鍵を渡された。
鍵を使って部屋の中へ入ると乱雑に物やドレスが床にばらまかれていた。
クローゼットは開いたまま何かを探していたようだ。部屋にある机の上の金庫も開いていたが、金や宝石類には手を出されていないようだった。

一通り見終わった後、案内をしてきたトマスに話を聞いてみることにした。
トマスはこの『カトレア』でリリィの片腕として働いている男だ、この娼館の管理はすべてこの男に任されている。

「金庫の金があるが、娼婦の稼ぎにしては少なくないか? 宝石類もそんなに多くないように思えるが。」

「はい。ダリアは稼ぎのほとんどを誰かに渡しているようでした。……ここにいる娼婦たちはアレク様もご存知の通り、訳ありの女性が多いので個人の事に関しては立ち入らないという取り決めがございます。」

「なるほどな。」

「宝石類については、彼女があまり着飾るようなタイプではなかったのでそれで全部だと思います。」

「ふむ……。」

ダリアは、誰にお金を渡していたのか。父親である子爵は捕まっているし、母親にでも送っていたのかもしれない。
ダリアの金の送り先を調べないとな。
しかし、それじゃあこの部屋を荒らした犯人の目的はなんだ?
彼女が俺に会いたがっていたことに関係するのか。
ローガンが何かしらに関わっていることは推測できるが……。
何にしても、情報が足りないな、何かヒントになるようなものでもあればいいが。

それから俺は隈なく部屋の中を調べたがそれらしきものはなかった。

物取りの線も薄いし、彼女の誘拐だけが目的なら部屋を荒らす必要はないはずだ。どういうことだ?

俺が腕を組んで考え込んでいるといきなり部屋の扉が開いた。

バァンッ!!

「きゅ~い、きゅきゅっい!」
(わーい、あれくみっけ!)

「こら、待ちなさい! そっち言ったらダメなんだから!」

リュウに続いて女が3人わらわらと入ってくる。

「お前たち、これは何の騒ぎだ!」

トマスが厳しい口調で問いただす。

「あ、やば。」

「すみません! ケイが間違ってドラ子ちゃんに果実酒飲ませたみたいで‥‥。」

「果実水と思ったのです! すみません。」

入ってきた3人がそれぞれ口にした。

「ドラ子?」

「そのドラゴンちゃんの名前がわからなかったので、みんなで『ドラ子』と呼んでいました。色が赤いから女の子かな~と思って。」

「性別はあっている。こいつの名前は『リュウ』だ。」

「リュウちゃん!」

「いい名前!」

「ドラ子より、数倍いいじゃない。」

3人がころころと笑う。

「ちょうどいい、お前たちに聞きたいことがある。この部屋にいたダリアのことについて何でもいいから知っていることはないか?」

3人はそれぞれ見合わせた。

「まだ、ここに入って間もないのであまり知らないのですけど、すごく控えめで大人しい子でした。」

「所作が綺麗だったので、いいお家の出の人かなと思っていました。深くは聞きませんでしたけど、話をすればちゃんと返してくれるし、いい子でしたよ。」

「でも‥‥。」

「なんだ?」

「あの、時々ですけど遠くを見つめて誰かの事を考えているような…。そんな姿の何度か見たことがあります。」

「私もあるわ…、何かに思いつめているような顔をしていたことがあるの。確かアレク様の事を聞いてきた時だったかしら。」

「俺に会いたがっていたってやつか?」

「そうです。いつ頃に来られるのかって何人かの子たちに聞いて回っていたみたい。でもリリィ様に注意されてからは聞かれなくなったけど…。」

「なるほどな‥‥。」

やはり、彼女はなにか重要な事を俺に伝えたかったのではないだろうか。
彼女を早く見つけ出さないといけないな。
手遅れになる前に。


「きゅうきゅうう~~~。」
(あれく~、ぐるぐるまわってきもちわるい~)

部屋の真ん中で飛んでいたリュウが、ふらふら~っと壁に掛けられていた絵画に激突した。
リュウがぶつかった拍子に絵画が勢いよく下に落ちる。

「おいっ、リュウ! 大丈夫か!?」

リュウを腕の中に抱きあげると、落ちた絵画が目に入った。落ちた衝撃で額縁が綺麗に外れている。
そして絵と裏板の隙間に帳簿の様なものが挟まっていることに気づいた。

アレクはそれを取り中身を読み始めて、その書かれている内容に目を見張った。

「‥‥なるほど、必死に探すはずだ。リュウ、すごいな。これはお前のお手柄だ。」

アレクは腕の中にいるリュウの頭をやさしく撫でた。

「きゅう~きゅうきゅきゅ~ぐりゅりゅう~。」
(やったー、なんかわからないけどほめられた~、でもきもちわるい~)

褒められて嬉しそうなリュウだったが初めての飲酒で具合はあまりよくなさそうだ。そして次の日、リュウは初めての二日酔いを体験することになったのだった。


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