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欲が沸く※
しおりを挟む燕白の寝床は、シュシュリとアヤリの部屋のすぐそばに用意された。
岩壁をくり抜いた寝床しかない、それは簡素な一室だった。
「燕白……これを着ろ。私たちの装束だが」
鎮守府から逃げ出したあの夜からずっと着っぱなしの燕白の寝間着は、すっかり汚れたり破れたりとぼろぼろになっていた。
シュシュリは男物の服を分けてもらい、燕白にそれを渡す。
長袖の長衣の上から綿入りの袖のない上着を羽織り、足にぴたりと添う下穿きを纏うテン族の装いは、円華人の燕白にはあまり似合うとは言えなかった。
「似合わないな」
シュシュリの率直な感想に、燕白は微かに眉を寄せた。傷付いたのかもしれない。
「髭も乱れてきたなぁ、整えたいのだが……」
「持たせると思うか? 刃物を」
「小さな剃刀ひとつで、わしになにができると?」
おそらくなにもできない。とはシュシュリも思う。だが、だからといって刃物を持たせるわけにはいかなかった。
まだ燕白は敵国人であり、信用しようにもとことん胡散臭い。
「剃刀があれば、自害はできるし……」
ぽつりとこぼした言葉に、シュシュリ自身が驚いた。
燕白も細い目を軽く見開いている。
「貴様を、死なせるわけにはいかない!」
「……わかっておるとも。いや、うん。たしかにそうだなぁ。剃刀一本あれば、わしにも自害くらいはできる」
おかしそうに繰り返す燕白に、シュシュリは居心地の悪さを覚えた。
「しかし、ここで自害はせんよ。そなたに情けなく命乞いまでしておいて、不自然だろう?」
「そうだ……! 貴様、なぜ長老たちにあんなこと……よくもああまで口からでまかせをペラペラと喋れたものだな」
燕白は笑った。
「まさかあの場で、テン族の掟を持ち出してそなたを抱いた、とは言えまい。そんなことを言ったら、あのヨエとかいう若者にすぱりとやられていそうだし」
「なっ……あ、あたりまえだ、そんなこと!」
言えるわけがない。
シュシュリの頬がカッと熱くなる。
この男の必死の懇願に流された一度目。
そして逃避行のうちに熱を分け与えるためと称しての二度目。
あの日の自分は、きっとどうかしていたのだとシュシュリは思う。
改めて思い返すと、恥ずかしさが沸々とシュシュリを苛んだ。
「心配するな、シュシュリよ。……あれは、あの夜限りのこと。もちろん人には言わぬし、そなたに今後迫るような真似もせん」
「……え、ぁ、だ、だが。村で、私は」
「はは。骨の髄までとかなんとか……? 確かにあの時そうは言われたが。そなたのような若い娘を、わしのような男がいつまでもどうこうは許されまい。心配せずとも、シュシュリ。求められれば、わしの知る範囲のことは幾らでも教えよう」
燕白は寝台に腰を下ろし、息を吐いた。
袂から覗く白い手首に、痛々しい縄目の痕が浮かんでいる。
アヤリの眠っていた三日の間、この男はずっと縛られて転がされていたのだ。
若くもない、鍛えてもいない体は、さぞかしあちこち痛むだろうと思えた。
その姿を見ながら、シュシュリは、妙な失望感を覚えていた。
ざわざわとした胸騒ぎもある。
「い、言っておくが、テン族の女は身持ちが固いぞ。いくら、貴様が口八丁とはいえ、ここの女たちを口説けるなどとは思わないことだ」
燕白の眉が片方跳ねた。怪訝そうにシュシュリに向けられたその顔に、シュシュリは居た堪れないものを感じた。
(な、なに言ってるんだ私は……)
動揺と羞恥に耐え切れず、シュシュリは踵を返す。
「と、とにかく。妙なまねをしたらすぐにわかる。私はすぐそこの部屋に……」
「シュシュリ、待ってくれ」
燕白の呼び止める声に、シュシュリはびくりと肩を震わせた。
もう用はない。振り切ってさっさと出て行かなければ。アヤリも待っている。そうぐるぐると巡る思考とは裏腹に、シュシュリは部屋を出て行くことができなかった。
「シュシュリ。……そなたは」
燕白にしては珍しく、やや口籠った。
そう思ってから、珍しく、などと言えるほどこの男のことを知っているわけではないことにシュシュリは気付く。
閨を共にし、一夜をかけた逃避行。
思えば、燕白と過ごした時間はほんの一日程度のものでしかなかった。
扉に掛けた手から力が抜けて、シュシュリは進むことも戻ることもできずに、燕白にも背を向けたままでその場に佇む。
「そなたは心優しいおなごだ。わしのいかにも情けなく憐れげな様子に、情が沸いたのだろう。……心配せずとも、自害はしないし、幾らでも知っていることは話すし、美人ばかりのテン族とはいえ口説いたりはせんとも」
燕白の、どこか無味乾燥した声音と笑った気配。
「気の迷いさ、シュシュリ。いや、そうさせたのはわしのせいだな。ついあのようなことを言ってしまって、そなたには悪いことをしたと思う。まさか、その……いや、初めてとは思ってもいなく……」
気の迷い。とは、なんだろう。
シュシュリは、カッとまた頭に血が昇るのを感じた。
ついさっきまで、前にも後にも行けずにいた足が自然と動き、気付けば燕白の襟首をギリギリと締め上げていた。
「ぅぐぐっ……!」
「あんなことって……や、やっぱり、ただの方便だったのか。私を、綺麗だとか美しいだとか、色々言ったのは……! 本当に愛らしく美しい女を見て、正気に戻ったとでも!?」
苦しげに呻く燕白が、シュシュリの力の籠る手を軽く宥めるように叩いた。
「ち、違う……! 誤解だ、それはさすがにとんでもなく誤解だ!」
淡々と感情の見えなかった燕白から、にわかに強い感情の乗った声が漏れた。
シュシュリの手が緩む。
「なにがどうしてそういう結論になったのか……いやぁ、乙女心は難解なこと」
しみじみと燕白がこぼす。
シュシュリは思わず拳を握った。
何かを察したらしい燕白が、さっと両手を開いて見せながら降伏の仕草をする。
「シュシュリ、シュシュリよ。そなたの目に、わしはたいそう胡散臭く見えるのだろうが……だがな、わしがそなたに言ったこと……そなたが美しいのも愛らしいのもまことだとも。一片の嘘もなく。……シュシュリよ、もっと自信を持て。そなたはまことに美しいおなごだ」
燕白の節くれだった細長い指が、シュシュリの頬に伸ばされ、優しく撫でていく。
日に焼け、荒れて、傷だらけの頬だ。
小さな頃に作った切り傷も、うっすらとだが残っている。
なめらかな柔らかい女の肌とはあまりにも違う。シュシュリは、それをよくわかっていた。
燕白のその手を払い除けるように顔を背ける。
「そんなこと……」
シュシュリは、苛立っていた。
なぜ、こんなぐにもつかないことをごちゃごちゃと思い悩んでいるのか。
戦士を目指したとき、女であることは捨てていた。
跳ねっ返りの男勝りだと、村の誰からも女扱いはされなかった。
「おまえだって、本当は思っただろう。アヤリを見て……寝室に現れたのが、替え玉の私ではなく、本当にアヤリだったら、って……」
いまさら。
愛らしく美しく、そして特別なアヤリを羨んでいる自分に気付いてしまった。
醜く、恥ずかしいその感情に。
シュシュリは顔を歪めた。
「シュシュリ……アヤリ殿の美しさと、そなたの美しさは、それぞれ違うものではないか。そんなことは、そなたもわかっているのだろうに。……シュシュリ」
燕白の手が、シュシュリの手を取る。
剣だこにまみれた、硬くゴツゴツとしたシュシュリの手。
その指の一本一本を、燕白の指が優しく撫でて辿っていく。
「わしが、必死で抑制しているというのに。そなたも罪なおなごだな」
燕白の唇が、シュシュリの指先に触れた。
シュシュリは目を見開き、手を引く。
「な、なにをっ」
「抱かせてくれるのでは、ないのか。シュシュリよ。……そなたの、美しくしなやかな身体を、わしにもう一度……味わわせてくれるのでは?」
燕白の手が伸びてくる。
シュシュリの手を掴み、引き寄せ、寝台の上に押し倒される。
シュシュリの力と技能なら、燕白を振り払い蹴り飛ばすこともできた。
命や掟を盾に脅されているわけでもない。
「シュシュリ、嫌なら嫌と。言うのだぞ」
燕白の手が、衣の合わせからするりと入り込み、シュシュリの乳房を包み込む。
少しかさついた骨張った大きな手が、シュシュリの小振りながらも張りのある乳房をやわやわと揉み、撫でる。
「っん……!」
シュシュリの腰がぴくんと跳ねた。
むにむにと揉みしだかれる胸から、じわりと甘い痺れにも似た感覚が広がっていき、シュシュリの体から力が抜けていった。
抵抗のないのを良いことに、燕白のもう片方の手がシュシュリの衣の留め具を外していく。
ひんやりとした空気が肌に触れ、シュシュリは自分の体が思った以上に火照っていることを自覚した。
「シュシュリ……嫌なら嫌と、いつでも言うのだぞ」
「っ、し、しつこい……!」
燕白の再三の忠告に、シュシュリはカッとなる。
訳の分からない衝動に駆られる子供のようだと言われているようで悔しかった。
そうするうちにも、燕白は素早くシュシュリの上衣をはだけさせ、薄褐色の肌が露わになる。
小振の胸の先は淡く色付く。
「可愛い子には優しくしたいたちなのだよ。……シュシュリ、そなたは、どこもかしこも美味そうだな」
「は……な、なにか、もっと違う言い方……っぁんっ!」
キュッと、燕白の指がシュシュリの胸の先端を摘んだ。
その瞬間、ビリッと走り抜けた感覚に、シュシュリの声が跳ねる。
もう片側の先端が、ぬるりと生温い熱に包まれたかと思うと、ジュッと吸われた。
「んぁっ……ぁっ、ゃぅっ!」
シュシュリの体がくねり、よじれる。
燕白の口の中で、コロコロと舐られ転がされる胸の頂は、ジワジワと熱を持ち硬くなっていった。
ツンと上向き、ふるりと震えるそれは、色付きよく熟れた果実そのもののように燕白を誘うものだった。
くりくりと指でこね、摘んだり潰したりしながら、燕白はその硬くなった実を愉しんでいるようだった。
「やっ、ぁ……っ、あっ、そ、そこ、ぁっ……ぅぁん!」
シュシュリの口から漏れるのは、意味をなさない嬌声だった。
執拗に胸だけを責められ、痺れるような快感と共に、もどかしいような切なさが下腹をじわじと支配していく。
ムズムズするようなじわじわと滲み出る不可思議な感覚に、シュシュリは脚を擦り合わせ、切なげな声を出す。
「くっ……ふ、ぅっ、んぅ……、ぁ、ん、」
「シュシュリ……可愛い声だ。まったく……そそることだなぁ」
燕白の手が、胸から腹を辿り、ゆっくりと這い下りていく。
下穿きの帯を解き緩めた中に、するりと入り込んだ手が、シュシュリの下着と下生えを掻き分けながら更に奥へと伸びていく。
クチュ、と、湿った音がした。
「っう、ぅ……」
燕白の指がぬるぬると入り込む。
トロトロと溢れた蜜が指に絡みつくのが、シュシュリ自身でもわかるような気がした。
ぬちゅ、クチュ、と湿った音を立てながら、燕白の指がシュシュリの秘所を探り、暴き、擦り上げていく。
開かれた花弁の中で、震える花芯を捉え、クチュクチュと音をさせながらシュシュリの脚をも開かせていく。
「あっ……んぅっ、あっ……! ひ、っんんっ!」
ビリ、ピリピリと甘やかな痺れが走り抜け、爪先まで蕩けて、シュシュリの身体から力が抜けた。
もっと、と欲しがってでもいるように脚はなおも大きく広がり開いて、腰がゆらゆらとくねる。
「んっ……ぅうっ!」
燕白の指が、シュシュリの期待に応えるようにグチュリと蜜を絡め、ぬぷぬぷとその中にまで入り込んでいった。
「あっ……ぁ、あ!」
シュシュリの腰がびくびくと浮き、震え、ガクガクと揺れる。
燕白はなおも胸をちゅうちゅうと吸い、しゃぶりながら、シュシュリの腰の動きに合わせるように指をグチュグチュと動かした。
「っ……っっ……っっっア!」
シュシュリの首が仰け反り、声すら飛んで、はくはくと口が動く。
ビリビリと突き抜けたような痺れに、痙攣したようにビクビクと身を震わせた。
「シュシュリ……シュシュリよ……。そなたは美しい。死んでも良いと思うのに、そなたを見るとどうにもいかん。欲が沸く。……もっと、味わいたいと」
はぁはぁと荒い呼吸をしながら、シュシュリは燕白を見た。
ひとりで勝手によがって、これでは燕白にねだるばかりの子供のようだと自戒する。
だが、シュシュリにはやはり、どう振る舞えば良いのかまだわからなかった。
ぎゅ、と唇を噛むシュシュリに、燕白の手が伸びる。赤銅色の髪を撫でながら、燕白の唇がシュシュリの額に触れた。
ちくちくと当たる髭がくすぐったい。
「……こどもじゃ、ないぞ。私は」
「こどもには欲情せんなぁ、わしも」
拗ねたような口振りはどうにも子供っぽかったが、燕白はただ笑った。
そうしてもう一度、額に唇が触れる。
そのくすぐったさが妙に心地良かった。
「燕白……、い、……いれ、て」
せめて少しは良くなって欲しい、と。
振り絞った言葉はしかし羞恥に掠れた。
居た堪れずにぎゅっと目を閉じると、今度はその目蓋に唇が触れた。
「良いのだな。もう、嫌だと言っても止められんぞ」
シュシュリはこくんと頷いた。
燕白の手が、シュシュリの脚をぐっと開かせていく。
どうにも恥ずかしくて、シュシュリはぎゅっと目を瞑ったままでいた。
硬く、温かいモノが、ぐりっとシュシュリの濡れた口に押し当てられる。
存分に可愛がられ、解されて熟れきったはずのそこは、しかし未だに狭くもあった。
ギチギチと押し入ってくるモノに、シュシュリは圧迫感を覚えてぐっと息を呑む。
硬く大きな太いものが、遠慮なく、自らの中に入り込んで来る。何者も侵入することのなかったそこに、三度やってきたそれが。
「ぅっ……ぁ、ふっ!」
じわじわと、ゆっくりと、馴染んでいく。
その感覚に、シュシュリはふわりと浮き上がるような満たされたものを感じて。
「え、燕白っ……」
堪らず首に腕を絡め、ぎゅっと抱きつく。
燕白の腕が、応えるようにシュシュリの背中に回される。
シュシュリは、知らず腰を擦り付け、中に入ったモノを喜ばせようとでもいうように身を揺らす。
「シュシュリ……」
燕白の声が、無味乾燥だったその声が、今ばかりは艶めいて甘やかだった。
シュシュリの体が解れていく。
身も心も蕩けていく。
そうして。
「あっ、ぅあっ……あっっ!」
ずちゅ、ずちゅ、と律動に嬌声を上げる。
「シュシュリっ、はぁっ、あっ、ぁあっ!」
打ち付けられるたびシュシュリの身体が跳ね、声が跳ね、歓喜に震えて仰け反った。
燕白の声からも余裕はもうなく、キュウッと締め付けるシュシュリの中で、弾けて果てる。
「――っ!」
ビリリッと電流が走り、シュシュリの意識はそこで途切れた。
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