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新しい契約

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 パチン、と指が鳴った。
 ふいに、クローヴェルの体を這い回り、良いように蹂躙していたおぞましい感覚が消え失せていく。
「っ……ぁあっ!」
 全てが一瞬で、ゆえにか。決定的な快感には何かが足りず、クローヴェルの身に残るのはただ熱く火照る情欲の余韻だった。
 反り返りそそり立つ昂ぶりは薄い腹に触れるほどで、その先からはトロトロと透明な汁が滴り溢れていく。
 溜まりに溜まった欲を未だに吐き出す決定打に欠けてふるふると心許なく震えすらした。
 後ろ手は相変わらずいましめたまま、悪魔はクローヴェルの肉付きの薄い貧相と言える腰に腕を回す。
 その感覚にか、クローヴェルの体がびくりと震え、竦んだ気配がした。
「もう限界か、司祭様よ……。憐れなザマだねぇ。……ま、上手にちゃんとおねだりできたからなァ、ちゃんと楽にしてやるよ」
「っ……あ、悪魔め、き、貴様など……に」
 後ろを振り返り、尚もまだ強がりを口にする司祭の様子に、悪魔は心から愉しげに口を歪ませた。
「口だけは達者だなァ? まぁいいさ、どうせすぐにヒンヒン啼いてグズグズに蕩ける羽目になる。ほら、待望の逞しい俺のイチモツ、しっかり咥えて堪能しなァ」
 ヒルによって散々解され熟し切った後孔に、ぐりゅ、と悪魔の硬く逞しく太い先端が押しつけられる。
 ヒルたちとは比べものにならないその圧迫感と存在感とに、クローヴェルの喉がひゅっと鳴った。
 息を呑んだのか、俄に強張り震える体に。悪魔の尖った長い爪を持つ手がするすると触れて撫でていく。
 あばらの浮き上がる脇腹を擽りながら、ピンと立ち上がった胸の頂をぎゅうときつく抓った。
「ぅ、あぁッ……!」
 クローヴェルの体は面白いほどに反応し、びくんと大きく体がしなる。
 力が抜け、ゆるんだその時を逃さず、ひくつく孔に悪魔の昂ぶりが押し込まれた。
 ずぷり、と突き入るそれは、ぬるぬるとしたヒルどもの粘液に濡れる中にことのほかあっさりと迎え入れられる。
「ん、んぅうう!!」
 更に高まる圧迫感にか、本来の用途を無視して踏み込まれた屈辱にか、それとも恐怖すら覚えるほどのどうしようもない快感にか。
 クローヴェルの体はなおも戦慄き、漏れる声はどうしても甘い。
「くッ……すっかり、解して広がったと思ったがなァ、いい締め付けじゃねぇか」
 悪魔の雄々しい昂ぶりは、司祭の中で更にぐんっと大きくなった。脈打つ熱が、中からクローヴェルの腰を伝い全身に波状していくようで、キュウッと孔を締め付けながらクローヴェルは床に額を擦りつけた。
 結果的にそれは一層腰を突き上げ尻を割り開くことにもなる。
 耐えようとして無意識に快楽を受け入れようとでもいうような、その仕草が悪魔により愉悦を与えた。
「あぁ、いいねぇ。いい眺めだ。……誇り高く清らかな司祭様がよぉ、敬愛する女神様の御前で、いやぁらしく尻突き上げてねだるなんてなァ」
「っ……ぁ、く、ちが……違うっ、ねだ、てなど……ぁんっ!」
 どれほど口答えしようと、こうしてくれと言ったのはクローヴェル本人だった。
 それ以外の道がなかったというのも言い訳にしかならないのは、おそらく本人も痛感している。 
 ぐり、と太く硬い先端でまだ浅い部分を抉るだけで、クローヴェルの口からは抑えきれない情欲に濡れた声が溢れた。
「違う? なにが違う。違わねぇよなァ。前も後ろもたまらなくて、早くめちゃくちゃに犯されたかったんだろう? ……ほら、お望み通りやってやるよ」
 悪魔の両手ががしりとクローヴェルの腰を掴んだ。そうして太いモノが更に奥へと一気に突き込まれる。
「ッア……! ぐっ……ぅ、あっ」
 クローヴェルの体が跳ね、床に擦りつけていた顔も上を向く。ビリビリと電流を流されたように全身が小刻みに震え、溢れ出る汁の量が増えてぱたぱたと床にまで零れていった。 
 その反応に気をよくして、悪魔はニヤリと笑う。
 強く掴んだ腰をますます高く持ち上げながら、ゆっくりと引き抜き、また一気に押し込んだ。
「んぁああっ!! あっ、ぁ、ひンぅ」
 クローヴェルの足がガクガクと震えながら力を失い、爪先がピンッと張り詰める。
 透明な汁だったものに、どろりと濁った白いものが混じりながらぽたぽたと更に床を汚して。
「ふ……く、く……おいおい司祭様よぉ。前も触らんまま憎き悪魔に掘られてイッちまったのかァ……? ……これじゃぁ、もう、女神様に顔向けできんな?」
「ぅ、ふぅ、ぅ……ぁ、あ、んんっ……」
 ジワジワと止め処ない快感に襲われてか、悪魔の嘲弄の言葉にも反応できないようで、ピリピリとなおも小刻みに震える腰。
 ひく、ひく、とまだ物欲しげに開閉する孔が、ギュウと咥え込んだモノを強く締め付け奥深くへと誘おうとする。
 無意識だろう、ゆらゆらと揺れる腰は、悪魔の本能を煽り立てるのには十分な効果があった。
「そうか、まだ足りないか……スキモノだねぇ、おまえ……。高潔ぶった顔をして、本当は……ずっと誰かにこうされたかったんじゃねえのか? ひひっ……」
 悪魔が嘲弄めいた言葉をぶつけるたび、キュウッと切なげに締め付ける孔と震えながら反り返るモノがあった。
「っあ、……ぐ、だ、誰がっ……そ、のよう、な……は、ぁあっ……! ……違う、違う、私は……私はっ」
 ぶんっと首を振るクローヴェルに、悪魔は更に奥までズプッと突き込んだ。
「ひぁっんん……!」
 ビクビクと震える体を片手で抱きかかえ、もう片方の手がガシッと髪を掴んで顔をむりやり後ろに向けさせる。
 ぎゅうときつく眉を寄せ深く皺の刻まれた眉間と、紅潮した白い肌。苦しげに潤む切れ長の目が、悪魔をぎっと睨み付けた。
「なにも、違わないだろ。……司祭、一突きするたびに床を汚しているのはおまえの精だよ。浅ましく不埒なザマだ。……もっと、女神様によく見てもらうか?」
 ニヤァ、と笑う悪魔の顔に、クローヴェルは言い知れぬ恐怖を覚えたように顔色をなくした。

 ◆

「ふっ、ぁ、ぁあっ……! や、いや……だ、ぁあッ」
 悪魔に奥深くまで貫かれたまま、その体を抱え上げられて飛び上がった先は、高い天井に大きく据えられた女神像の顔の前だった。 
 慈悲深く伏せがちの女神の眼差しが、情けなく悪魔のモノを咥え込みなおも萎えることなく反り返るクローヴェルのモノを、見つめていた。
 その物言わぬ眼差しが、憐れみとも軽蔑とも思えてクローヴェルを苛む。そうでありながらぐちゅぐちゅと揺すられ抉られて淫靡な音を立てる中は、キュウッと締め付け悦んですらいた。
 クローヴェルの心も信仰も裏切って、体は更なる快感を得ようと震えよがる。
 飛び上がる悪魔の両手に太股を抱えられて恥ずかしく大股開きにされた体は、貫くそれから逃れようにもその術もない。
 身をよじっても太く張り出した雁首が内壁を擦り上げ、そのたびにキュンッと走り抜ける快感の電流がクローヴェルを貫いていくばかりだった。
「あっ……ふ、ぅぁ……ぁあ、も、あぁ……た、たのむ、こ、こんな……罪深い、こと……神よ、どうかお許し、をっ……んぁ、ぁあ!」
 パンッと悪魔が強く腰を打ち付け深く抉る。許しを請う懇願の言葉はそのまま震える嬌声に呑まれて消える。
 パンッ、パチュッ、ぐちゅんっ、とヒルの粘液に濡れきった中はずっとぐずぐずで滑り良く、どこまでも悪魔のそれを歓迎した。
 もういやだ、もうやめてくれ、と泣き言が嬌声の合間に混じり、クローヴェルの目尻からは涙が溢れていく。
 ステンドグラスが月明かりに照らされて荘厳な教会で、女神の目前で行われるおぞましく浅ましいまぐわいは、クローヴェルの自尊心を千々に切り刻んでいくことに他ならなかった。
「あっ……ぁんっ……ひ、ぁ……ゃ、ぁ……も、もう……もう……ゆる……」
 貫かれるたびに漏れる嬌声で喉はすっかり嗄れていた。
 それでも勃ち上がったままのそれはトロトロと白く液をずっと溢れさせ、クローヴェルの太股を伝って孔の方まで至り、それが一層悪魔の律動と抜き挿しをよくする。
「そんなこと言ってもなァ、司祭様……。まだまだずっと気持ちよさそうじゃねぇか。こっちはもっともっとってキュウキュウ吸い付いてちっとも離す気はなさそうだ」
 ぐちゅんっ! と強く突き込み揺らしながら、悪魔はクローヴェルの耳元で囁く。
「っあ、ぁあ……!」
 どぷっ。と、またそそり立つクローヴェルの先から押し出されたように白いものが溢れた。
 クローヴェルの頭がふるふると左右に振れ、涙ながらに震える声が漏れる。
「も、もう……本当に……いやだ、こんな……辱めを、……た、耐えられ……」
「じゃぁ、約束は反故にするのか? 街の連中を見放して、俺が好き勝手人間どもを蹂躙するのを黙って見ておくかねぇ」
「っ……ぁあ! う、ぐ……」
 ゴリ、と中を抉りながらの悪魔の言葉に、クローヴェルの悩み深い眉間の皺がより深くなった。
「だ、だめだ……そ、んな……、こと」
「くく……この期に及んでまだ、他人の心配するとは立派立派! ……ならどうする。司祭……あぁ、そうだ。なら新しい契約をするかァ?」
 ふいに、悪魔の律動が止む。与えられる快楽の刺激が止まって、クローヴェルの体はねだるように揺れた。
「ぁ、んぅ……あ、あたらし、ぃ、けいやく……だと」
 物足りなげにひくつく孔をやわやわと悪魔の脈動が刺激する。苦しげに顔を顰めるクローヴェルに、悪魔は優しげな声で囁いた。
「おまえが、俺をずぅっと満足させてくれるなら……ほかの人間どもには手を出さないでやる。どうだ……? このまま朝を迎えて信徒にあられもない姿を見られるか、俺と契約して平和をもぎ取るか。二つにひとつ」
 クローヴェルはぐっと押し黙って、その言葉に眉を寄せた。
 このまま朝まで、というのがなにより引っかかる。
 この悪魔は、この状態でずっとクローヴェルを生かさず殺さず堪能しようというはらのようだった。
 クローヴェルにとっては、どう転んでも喜ばしい事態ではないのは明白だ。
(嗚呼……神よ……)
 朝になればセレミアがやってくる。彼女にこんな姿を見られたくはなかった。もちろん、ほかの誰にだって見られるわけにはいかなかったが。
 クローヴェルは苦悶に目を閉じ、ただ短く祈りを捧げた。
「……あ、あたらしい、契約を交わせば……もう、やめて、くれるのか。これ、を……。本当に、ほかの人間には、手を出さないのだな」
 悪魔は、ニヤァと笑みを深くした。
「あぁ、悪魔は嘘をつかない。契約は絶対だ」
「……」
 長い沈黙。その間も、繋がったところはくちゅ、くちゅり、と小さく揺れていやらしく音を立てていた。
「わ、わかった……。契約、を……」
 苦渋の決断。クローヴェルは頷いた。
「あぁ、いいねぇ。いい。……それじゃぁ、司祭様。お名前を。ちゃんとフルネームで言うんだ」
「……っ、……、……ヘルムート・クローヴェル……」
 きつく目を閉じ、躊躇いがちに告げられた名が。悪魔との契約を確かなものにいた。
「ヘルムート・クローヴェル。ヘルムート、それじゃ……今日のところは、一発いって終わりにしてやろう。これからずっと愉しめるんだからなァ……ひひひ!」
 悪魔は目論見を成功させた喜びに笑うと、ぐいと抱えたクローヴェルの足を更に広げて開かせ、グチュンッと深く貫いた。
「ぁあああ!!」
 自重で沈む体に太く脈打つモノが再び奥深く穿たれて、クローヴェルの体が大きく戦慄く。
 反り返る首と、上下する喉仏と。
 パンッ、パンッ、ばちゅっ、ぐちゅんっ、パチュンッ! と弾けてぶつかり合う肌の触れ合う音が教会の荘厳な静謐を穢していく。「あっ、あっ……んぁ……あぁっ……ぁあん! あぅっ」
 抑えようのない嬌声がクローヴェルの喉を震わせ、それは悪魔の耳をおおいに愉しませた。
「はっ、ぁ、はぁ、はぁ、ぁっ……あ、イく……イく……イくぞ!」
「ぁ、や、ぁあっ!」
 クローヴェルはそれでもなお抵抗するように首を振る。それを意にも介さず、悪魔はその奥深くに熱く迸る精を叩き付けた。

 ◆

 夜明けの光が教会に差し込み、クローヴェルは床の上で目を開く。
「っ……ぁ」
 身を起こそうとして、その体に広がる恐ろしいほどの倦怠感に呻いた。
 足腰に力が入らず、生まれたての子鹿のようにガクガクと震える。
 それでも漸くと立ち上がると、ツゥ、と尻の中から流れて溢れ出るものが股の間を伝っていった。
「……!」
 強い倦怠感とこのおぞましいモノが、この夜に起きたことが現実だと強く物語る。
「……や、ヤツは……」
 辺りを見渡せど、しかし、あの悪魔の姿は見つけられなかった。
「あぁ、せめて……身を、清め……いや、床も、拭いて……」
 自分の出したものが床を汚している。目を背けたくなるような現実に、体はますます脱力していく。
 堪らずぎゅっと目を閉じて、手を組み合わせ祈りを捧げようとして。
「嗚呼……しかし、私は……」
 女神像の前で晒した痴態を思えば、それすらも憚られて煩悶する。
「く……っ、お悩みですねぇ司祭様」
 その様子をどこからか見ていたらしいあの悪魔の声が聞こえ、クローヴェルはハッとして顔を上げた。
 その視線が声のした方に向けられ、それはますます驚きの表情になる。
 司祭服を身に纏い、クローヴェルの元へ歩み来たる男がひとり。やや垂れ目がちの甘いマスクに、クローヴェルほどではないが長身の均整の取れたスタイル。
 手には湯気立てる桶と布巾を抱えて。
「ぁ、な、……貴様……そ、の、姿は」
 震える声を絞り出すようにクローヴェルが言う。美しい顔をニヤリと歪ませて男は笑った。
「助祭としておまえの身の回りを助けてやることにしたのさ、ヘルムート。あぁ、俺のことは……ギレール、と呼んでくれ。そういう名前を大昔に手に入れたんでなァ」
 悪びれもせずに告げる悪魔が、力の入らないクローヴェルの体を抱き起こす。
 人の姿をとった悪魔より背の高い、しかし肉付きの薄いクローヴェルの腰を抱き寄せて、ギレールと名乗った悪魔は微笑んだ。
「契約したんだ、おまえの体は俺のもの。代わりに、ほかの人間には手を出さん。……せいぜい、愉しませてくれよぉ、司祭様ァ」
 ぐり、と筋張った人間の指がクローヴェルの、まだ精と粘液にまみれた孔を抉る。
「ひぁんッ……!?」
 それだけでクローヴェルの身に残る快楽の余韻は呼び起こされ、あられもない声が溢れてくたりと力が抜けた。
「さて……ひひっ、そんなザマで勤めが果たせるのか、みものだなァ?」
「っあ、ぁ、ぅ……く、き、貴様……ぁ、あく、ま……め」
 罵倒にもならない罵倒を口にして。
 それを聞いて、悪魔はただただ可笑しげに笑うばかりであった。
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