消えたい神様と三百年の眠りから覚めた生贄

碧月あめり

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祠と供物

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 由椰は泰吉と風夜を座敷に案内すると、風音とともに食事を運んだ。

「わあ~! 美味しそうですね! 誰かの手作り料理なんて、ひさしぶりだ。いただきます!」

 泰吉が、目を輝かせながら箸を手に取る。

「お口に合えばいいですが……」

 麓の村にいた頃は毎日のように料理を作っていたが、誰かに食べてもらうのは由椰にとってもひさしぶりのことだ。

「由椰様、めちゃくちゃ美味いです!」

 由椰が少しそわそわしていると、泰吉が口の中を釜飯でいっぱいにしながら、モゴモゴと言う。

「おい、狸。行儀が悪いぞ」

 泰吉の食べ方に眉をひそめる風夜だったが、彼も由椰の料理には満更でもなさそうな顔をしていて。由椰は、ほっと息を吐いた。

「喜んでいただけてよかったです」

 由椰ができることは、あまり多くない。だから、自分が役に立てることがひとつでもあってよかったと思う。

 小さく微笑むと、由椰も小上がりの座敷に腰をおろした。

「よければ、おかわりもしてくださいね」
「じゃあ、遠慮なく」

 由椰の言葉に、一気に釜飯を平らげた泰吉が茶碗を差し出してくる。

「はい、おかわりですね」

 由椰は泰吉から茶碗を受け取ると、炊事場で釜飯をよそって座敷に戻った。

「どうぞ、泰吉さん」
「ありがとうございます。由椰様がいると、何だか伊世様がいたときのことを思い出します」

 由椰が茶碗を置くと、泰吉が由椰を見てなつかしそうに目を細める。

「オレ達は、あまり食事を摂らなくても生きていけるんですけど、伊世様は人里から運んできたもので料理をするのが好きだったんですよ。昔は烏月様の屋敷でよく宴も開かれていて、にぎやかで楽しかったです」
「そうなのですね」

 烏月の屋敷は朝も昼も真夜中のように静かで、ここが賑わっている様子が由椰にはうまく想像できない。

「伊世様がいらっしゃった頃は、烏月様もみなさんのように人里から運んできたものを召し上がっていたのですか?」
「そうですね。あの頃は、烏月様も伊世様が作った料理を口にして、オレ達といっしょに酒を飲んでいましたよ。なつかしいよな、風夜」

 同意を求められた風夜が、ふんっと鼻を鳴らして泰吉をあしらう。

 仲が良いのか悪いのかわからない二人の様子に、ふっと笑いつつ、由椰は釜飯と団子汁に視線を落とした。

「私が作った料理も、供物として祠に捧げれば、少しは喜んでいただけるでしょうか」

 由椰が美しい金の眼をした神様の顔を思い浮かべながらつぶやくと、

「よそ者が、余計なことをしないほうがいい」

 風夜がすぐさま反応した。

 風夜の冷たい言葉が、チクリと由椰の胸を刺す。

「由椰様によそ者なんて言うな」
「そうですよ、兄様。由椰様は烏月様の大切なお客様なんですから」

 泰吉と風音が、きゅっと眦を上げて風夜を睨む。

「由椰様が一生懸命作った料理です。とても美味しいですし、供物として捧げれば烏月様もきっと喜ばれますよ」
「適当なことは言わないほうがいいぞ、風音」
「兄様っ!」

 泰吉と風音は由椰を庇ってくれたが、風夜の口にした「よそ者」という言葉が由椰の心の中に深く残った。

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