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祠と供物
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泰吉と風夜が食事を終えて部屋を出て行くと、由椰は釜に残った釜飯でおにぎりを作った。
「風音さん、少し外に行ってきます」
おにぎりをふたつ載せた皿を手に、風音に声をかける。
「ご一緒しましょうか」
風音が訊ねてきたが、祠の場所は屋敷を出てすぐだ。風音に付き添ってもらうまでもないと思い、由椰は小さく首を横に振った。
「大丈夫です。これを祠に捧げて、少しお祈りをしてくるだけなので」
「わかりました。そのあいだに、私はここを片付けておきますね」
風音が食器を洗ってくれるようで、とても助かる。
「ありがとう。なるべく早く戻ります」
由椰は風音に頭を下げると、おにぎりの皿を大切に抱えて屋敷の玄関へと向かった。
由椰が来た頃、屋敷は烏月の神力で外からの侵入者を拒んで複雑な作りになっていた。だが、最近は由椰が屋敷の外へと自由に行けるように由椰の行動範囲内の屋敷の構造は簡易になっている。
風音が烏月に頼んで構造を変えてもらったようだが、居候の身の由椰には彼の小さな配慮が嬉しかった。だから、これから捧げにいくおにぎりには、由椰からの日頃の感謝の意味もこもっている。
外に出ると、大鳥居の内側にある烏月の屋敷の下だけが気持ちよく晴れていた。大鳥居の外側の空には、どんよりとした灰色の雲が広がっていて遠くのほうでピカッと稲妻が光っている。
屋敷の敷地内は烏月の力で一定の気候が保たれているそうだが、大鳥居から一歩外に出れば雨が降り、天気も荒れているのだろう。
ここだけが居心地の良い優しい空気に包まれていて、外の世界とは断絶している。
しばらく不思議な気持ちで大鳥居の向こうを見つめてから、由椰は小さな木造の祠へと歩み寄った。
由椰の前に泰吉も供物を捧げに来ていたのか、祠には新しい酒の瓶と小さな紙の箱が置いてある。そのなかには、由椰が見たことのない食べ物が透明な紙にひとつずつ包まれて入っていた。なんとなく、由椰の母が生きていた頃に一度だけ連れて行ってもらった町の市場で見たビスケットと呼ばれていたものに似ているような気がする。
今度、泰吉に会ったときにその名前を聞いてみよう。そう思いながら、由椰はきのこと山菜の釜飯で握ったおにぎりを祠に置いた。
「今日も私をここにおいてくださり、ありがとうございます」
祠の前で手を合わせると、烏月の顔を思い浮かべて感謝を述べる。
由椰が烏月と顔を合わせた回数はまだ少ない。
だが、目を閉じて烏月のことを思えば、由椰を見つめる金の瞳もどこか憂いを帯びた美しい顔を瞼の裏にくっきりと鮮明に描くことができるから不思議だ。
長い時間をかけて感謝の祈りを捧げてから、目を開ける。ふと見ると、供物を置いた祠の台座の淵に汚れがついていた。それが気になり、着物の袖から手拭いを出して拭く。ひとつ汚れを取ると、別のところにある汚れが気になる。
(そういえば、供物を捧げるだけでなく、祠のお掃除も烏月様の力になるのですよね……)
泰吉がそんな話をしていたのを思い出した由椰は、本格的に祠の拭き掃除を始めた。
夢中になって掃除をしているうちに、風音に「早く戻る」と約束したことなど忘れてしまう。
目に付く汚れを手拭いで全て拭き取って、ふーっと息を吐いたとき、ふいに周囲の気温が少し下がったような気がした。
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