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人里にて
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泰吉が由椰を連れて行ってくれたのは、スーパーマーケットと呼ばれる店だった。
外の市場でしか買い物をしたことのない由椰は、電灯に照らされた明るくてまぶしい店内や棚に陳列された豊富な種類の食材に目を見張る。
「ここには、なんでもあるのですね……!」
並べられた商品をひとつひとつ見て回るのが楽しくて、少しも飽きない。物がたくさんありすぎて、必要なものを決めるのに迷うくらいだ。
ゆっくりと見て回って、泰吉に教えてもらいながらお金を支払ったときには、店に入ってから三時間近く経っていた。
何日か分の食材と、ぼたもちを作るためのもち米、小豆、砂糖、きな粉などを買うと、あっという間に買い物袋がいっぱいになる。
「さて、買い物も済んだし、どこかでお昼を食べて帰りましょうか」
泰吉がそう言ってズボンに手をあて、手のひらほどの大きさの葉っぱを取り出す。それを買い物袋にのせると、由椰の両手にいっぱいだった食材が煙に包まれて消えてしまった。
「た、泰吉さん!?」
「食事のときに邪魔になるので、少し隠しただけです。オレは由椰様を食事に連れていくけど、お前はどうする?」
泰吉が、買い物中もずっと無表情であとを着いてきていた風夜に声をかける。
人里に用があるからと、烏月に今日のお供を買って出た風夜は、今のところ、由椰たちにぴったりとくっついてきていて、どこかに用を済ませに行く気配はない。
「和食なら付き合う」
「着物を着ている由椰様も、そっちのほうが入りやすいな。そうしよう」
泰吉はうなずくと、どこか目当ての場所があるのか、由椰達を先導して歩き出した。
「風夜さん、もし何か用事があるようでしたら、遠慮せず行ってきてくださいね。今の人里の雰囲気にも少しずつ慣れてきましたし、私は大丈夫なので」
「あなたを心配しているわけではなく、ちょうど同じ方向に用があるので」
由椰が遠慮がちに声をかけると、風夜が無表情ですんとしている。
もしも風夜をつまらないことに無理やり付き合わせいるのだとしたら申し訳ない。由椰が気にして、少しそわそわしていると、先を歩いていた泰吉が振り向いてニヤリとした。
「気にしないで大丈夫ですよ、由椰様。本当は、人里に用事なんてないんですよ。風夜は由椰様と買い物したり昼ごはんが食べたくてついてきただけなので」
「え、そ、そうでしょうか……?」
泰吉の言葉が俄かに信じられない。由椰がそろりと横目で風夜を見ると、
「適当なことを言うな、狸」
かなり棘のある攻撃的な言葉が返ってきた。眦をつりあげて泰吉のことを睨む風夜は、随分と不機嫌そうだ。
泰吉と風夜は、顔を突き合わせると、些細なことでよく言い合いをする。たまにそれが喧嘩に発展することもあって、それを仲裁するのは風音や烏月の役目だ。
仲裁役のふたりがいない今、泰吉と風夜が喧嘩をはじめてらどうすればいいのだろう。由椰はふたりの間でハラハラとした。
「泰吉さん、風夜さんは怒っておいでなのでは……」
由椰が泰吉に近付きこっそり耳打ちすると、泰吉がククッと笑う。
「大丈夫ですよ、由椰様。あの男は、ツンデレなのです」
「ツン、……? なんですか?」
またもや、よくわからない言葉を口にする泰吉に、由椰が眉を下げて首を傾げる。
「あの澄まし顔の鴉も、由椰様のことが好きだということです」
「え……?」
由椰が信じられない気持ちで振り向くと、風夜が紫の瞳でギロリと睨んできた。その目を見る限り、風夜が由椰を好きだとは思えない。
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