消えたい神様と三百年の眠りから覚めた生贄

碧月あめり

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不可思議な空耳

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「由椰様、こんな感じで良いでしょうか?」

 由椰が餡子の中に餅を包んで丸めていると、風音が手のひらを開いて由椰に見せてきた。風音の色白の小さな手には、ぼたもちがのっている。

「完璧です。風音さんは、本当に何でも器用に作りますね」

 綺麗に丸められたぼたもちを見て由椰が感心していると、風音が嬉しそうに頬を染めた。

「私が器用なのではなく、由椰様の教え方が上手いのですよ」

 風音がそう言って、皿から丸めた餡子をとって手のひらに広げていく。そこに餅をのせると、小さな手で器用に包んで丸めていく。

 その手付きをしばらく眺めてから、由椰も自分の手を動かした。

 今日作っているぼたもちの材料は、一週間前に泰吉たちと人里で買ってきたものだ。

 餅を包む餡子は、買ってきた小豆をたっぷりの水に一晩浸けたあと、コトコトとじっくり煮込んで完成させた。

 冷めた餡子をひとくち味見してみたが、固すぎず、柔らかすぎず、ちょうどいい甘さに仕上がっていた。 

 風音と協力して作ったぼたもちは、全部で八十個。

「そろそろ、甘い匂いを嗅ぎつけた烏月様がこちらにいらっしゃる頃でしょうか」

 思いのほかたくさんできあがったぼたもちを見て、風音ともにクスクスと笑う。

(烏月様に喜んでいただけますように……)

 そんな思いで、由椰ができあがったぼたもちを重箱に詰めていると、廊下から物音がした。

 烏月にしては騒がしいなと思い、由椰が首を傾げると、狸姿の泰吉が炊事場に転がり込んでくる。

 無言で小上がりに乗った泰吉が、仰向けに倒れる。その態勢のまま、泰吉がぽんっと人型に変化した。

「おかえりなさい、泰吉さん」

 由椰が冷たい水を手渡すと、起き上がった泰吉がそれを一気に飲み干して息を吐いた。

「ありがとうございます」
「泰吉さん、随分とお疲れですね」

 由椰が小上がりに腰をかけると、泰吉がちょっと苦笑いする。

「どちらへ行かれていたんですか?」
「今日は、烏月様の命で、二神山の見回りをしてきました」
「見回り?」

「はい。月に数回、烏月様が泉を通して山の様子を見ておられるんですが、近頃は山の気が乱れているので……。オレたちの足を使った見回りも増やしているのです。由椰様のことを見つけられたのも、その見回りのときですよ」
「そうだったのですね」

 由椰も、烏月が泉で山の様子を見ていたところには一度だけ出くわしたことがある。

 そのときもたしか、烏月が風音に「山の気が乱れている」という話をしていた。

「山の気が乱れると、どうなるのですか?」
「どうなるというより……、山の気が乱れるのは烏月様の神力が弱まっているからなんです。山の気が乱れると、木が育たず山が荒れてしまったり、よその土地から追い出された凶暴なあやかしが棲みついたりして、人にとって危険な場所になってしまうんです」

 由椰と泰吉が話していると、風音がぼたもちをいくつか皿にのせて運んできた。

「おつかれさまです、泰吉さん。今日は兄がいなかったので大変でしたね」

 風音が労いの言葉をかけると、皿の上からひとつぼたもちをとった泰吉が、大きな口でかぶりつく。

「そうなんだよ。風夜のいない分、見回る範囲が広くめ骨が折れた。あ、由椰様、このぼたもち、上手いですね」

 泰吉がもごもごと口を動かしながら、あっという間にぼたもちを平らげる。その食べっぷりの良さに、由椰は思わず笑ってしまった。

「それはよかったです。たくさん食べて、元気を出してください」
「じゃあ、遠慮なく」

 泰吉がそう言って、ふたつめのぼたもちに手を伸ばす。

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