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思わぬ贈り物

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(そんなことあるはずない……)

 心の中で思うが、右手に重ねられた烏月の手を振り解けない。右側の顔を覆う手を烏月の大きな手にぎゅっと握り込まれて、ゆっくり、そっと、包帯の下の傷痕を確かめるように引き剥がされる。

 そうして鏡に映された由椰の顔は、怯えていたほど恐ろしいものではなかった。

 金と青の左右で色違いの目は、一目見たその瞬間は妙な感じがするだけで、顔の中の配置も、大きさも他の人間と変わらない。

 二重のはっきりとした由椰の目は、左右対称にぱっちりとしていて、自分で思ったよりも綺麗な形をしていた。

 化粧した色白の肌に、由椰の瞳は金と青の宝石のように映えている。右側の金の眼は、由椰の後ろから一緒に鏡を覗いている烏月の瞳の色とよく似ていた。

「どうだ? 心配することなど何もないだろう」

 烏月がふっと笑って、手鏡を風音に渡す。

「では、行くか」

 由椰の帯に回していた手を離した烏月が、大鳥居のほうに向かってゆっくりと歩き出した。

 物音を立てずに歩くことの多い烏月の下駄が、今日はカラン、カランと軽やかな音を鳴らす。その音に混じって、ドン、ドンッ――と、和太鼓の音が遠くに聞こえるような気がする。

「いってらっしゃいませ、由椰様」

 手鏡を入れた木箱を抱えた風音が、由椰に向かって恭しく頭を下げる。

「待ってください、風音さんっ……。本当に、烏月様とふたりだけで……?」

 先を行く烏月の背中を気にしながら、困惑気味に眉を下げる由椰に、風音が妖しくふふっと笑う。

「なにかあったときのために、兄や泰吉さん、それに私も後ほど、姿を隠して祭りに伺います。ですが、あくまでもなにかあったときに烏月様と由椰様をお守りするため。ここからは烏月様とおふたりで……、今宵の祭りをゆるりとお楽しみください」

 風音が由椰の背中に触れると、意思に反して体が動く。

 気付けば由椰は烏月の隣に並んでいて、差し出された手に導かれるままに、大鳥居の外に出た。


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