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祭りの夜
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一週間かけて行われるという祭りを主催しているのは、二神山を降りた先にある大きな寺院だった。
大きくて立派な山門をくぐると、本堂まで長い参道が続き、道の左右には食べ物の屋台がずらりと並ぶ。
参道の上には、赤や青や黄の提灯が本堂の前に設置された櫓に向かって連なっていて、暗くなってきた夜道を幻想的に照らしている。
屋台からの呼び込みの声に混じって、リズミカルな太鼓の音が聞こえてくる。
参道には、祭りの見物客が数多く行き来していて、この前、大吉に連れられて人里に降りてきたとき比べて随分と賑やかだ。この前は、動きやすそうな洋服を着ている人ばかりだったが、今夜の祭りの見物客には由椰や烏月のように浴衣を着た人たちが多い。
和服姿の人たちや、カラコロと楽しげに地面を鳴らす下駄の音を聞いて、由椰はなんだかなつかしい気持ちになった。
「祭りの夜の賑わいは、昔も今も変わらないのですね」
「ここの祭りは昔から騒がしい」
三百年以上ぶりに訪れた祭りの雰囲気に胸を昂らせる由椰の隣で、烏月が少しばかり眉をしかめる。
何百年も二神山の奥深くの屋敷に籠って生活している烏月には、ここの祭りは五月蝿すぎるのかもしれない。
(私もあまりはしゃぎないようにしなくては……)
参道をゆっくりと気怠げに歩く烏月の隣で、由椰は背筋を伸ばして気を引き締める。けれど、参道に並ぶ屋台を横目に見ながら歩いていると、やはり子どもの頃のようなわくわくした気持ち込み上げてきた。
屋根に書かれた文字が読めず、それぞれの屋台で何が売られているのかはよくわからないが、すれ違う人が手に持っていたり、歩きながら食べているものは、由椰が人里で暮らしていた頃には見かけなかったものばかりだ。
なかでも、由椰が特に気になったのは、子どもが好んで食べている白いふわふわとした食べ物だ。
由椰が、母親に手を引かれながら歩いていく小さな子どもの手元をじっと見ていると、烏月がふっと息を吐くように笑う。
「腹が減ったか? 何が食べたい?」
「では、あの白い雲のような食べ物を……」
「雲……? ああ、わたがしのことか」
一瞬考えるように小首を傾げた烏月が、今度はくつくつと喉を鳴らして笑い始めた。
「それなら、まず白い雲を買いに行くか。他にも食べたいものがあれば、遠慮せずに言えばいい」
「では……、その、わたがしと言うものと、りんご飴を」
「どちらも甘い砂糖菓子じゃないか」
「あの白い雲は、お砂糖でできているのですか?」
「あれは一度砂糖を溶かして細い糸状に固めたものだ」
「そうなのですね」
烏月の話を聞いて、由椰はますます、白い雲のような食べ物が気になってしまう。
烏月は由椰をわたがしの屋台に連れて行くと、参道にできていた短い列に並んだ。
筒状の機械の中で、白い砂糖の糸が割り箸に巻き取られてふわふわした雲のように大きくなっていく様はとても不思議だ。
わたがしが作られていく過程を目を輝かせながら子どものように見つめる由椰を見て、烏月がまたくつくつと笑う。
「はい、どうぞ」
屋台の店主からわたがしを受け取ると、由椰はさっそくそれを口に含んだ。やわらかなわたがしは、口に入れればすぐに溶けてしまう。その感触も、べたつく甘さも、由椰にはとても新鮮だった。
「おいしいです」
「それはよかったな」
「はい。烏月様は、なにか食べてみたいものなどありますか」
わたがしを食べながら由椰が訊ねると、烏月が参道の屋台を見回す。それから、「おれは焼きそばだな」と小さくつぶやいた。
「蕎麦ですか? 私も蕎麦は大好きです。これを食べたら探しに行きましょう」
「たぶん、その蕎麦ではないぞ」
そう言われても由椰にはよくわからなかったが、烏月が食べたいと言った「焼きそば」は由椰の初めて見る食べ物だった。そばというから、麺であることには違いないのだが、細くて縮れた麺に肉や野菜を混ぜて焼いたもので、とても香ばしく食欲をそそる匂いがする。
烏月に分けてもらった焼きそばは、味が濃くて甘辛かった。
「私も、これを屋敷で作ることができるでしょうか?」
「泰吉に食材を調達させればできるんじゃないか。そんなに焼きそばが気に入ったのか?」
「はい。烏月様が美味しそうに食べられていたので」
見上げて笑いかけると、烏月が「そうか」と、由椰から視線をはずす。わずかにうつむいた烏月の左耳で、金のピアスがきらりと揺らめいた。その向こうで、パンッと何かが弾ける音がする。
ふと見ると、由椰よりも小さな男の子が、屋台の下で筒の長い銃を構えていた。
大きくて立派な山門をくぐると、本堂まで長い参道が続き、道の左右には食べ物の屋台がずらりと並ぶ。
参道の上には、赤や青や黄の提灯が本堂の前に設置された櫓に向かって連なっていて、暗くなってきた夜道を幻想的に照らしている。
屋台からの呼び込みの声に混じって、リズミカルな太鼓の音が聞こえてくる。
参道には、祭りの見物客が数多く行き来していて、この前、大吉に連れられて人里に降りてきたとき比べて随分と賑やかだ。この前は、動きやすそうな洋服を着ている人ばかりだったが、今夜の祭りの見物客には由椰や烏月のように浴衣を着た人たちが多い。
和服姿の人たちや、カラコロと楽しげに地面を鳴らす下駄の音を聞いて、由椰はなんだかなつかしい気持ちになった。
「祭りの夜の賑わいは、昔も今も変わらないのですね」
「ここの祭りは昔から騒がしい」
三百年以上ぶりに訪れた祭りの雰囲気に胸を昂らせる由椰の隣で、烏月が少しばかり眉をしかめる。
何百年も二神山の奥深くの屋敷に籠って生活している烏月には、ここの祭りは五月蝿すぎるのかもしれない。
(私もあまりはしゃぎないようにしなくては……)
参道をゆっくりと気怠げに歩く烏月の隣で、由椰は背筋を伸ばして気を引き締める。けれど、参道に並ぶ屋台を横目に見ながら歩いていると、やはり子どもの頃のようなわくわくした気持ち込み上げてきた。
屋根に書かれた文字が読めず、それぞれの屋台で何が売られているのかはよくわからないが、すれ違う人が手に持っていたり、歩きながら食べているものは、由椰が人里で暮らしていた頃には見かけなかったものばかりだ。
なかでも、由椰が特に気になったのは、子どもが好んで食べている白いふわふわとした食べ物だ。
由椰が、母親に手を引かれながら歩いていく小さな子どもの手元をじっと見ていると、烏月がふっと息を吐くように笑う。
「腹が減ったか? 何が食べたい?」
「では、あの白い雲のような食べ物を……」
「雲……? ああ、わたがしのことか」
一瞬考えるように小首を傾げた烏月が、今度はくつくつと喉を鳴らして笑い始めた。
「それなら、まず白い雲を買いに行くか。他にも食べたいものがあれば、遠慮せずに言えばいい」
「では……、その、わたがしと言うものと、りんご飴を」
「どちらも甘い砂糖菓子じゃないか」
「あの白い雲は、お砂糖でできているのですか?」
「あれは一度砂糖を溶かして細い糸状に固めたものだ」
「そうなのですね」
烏月の話を聞いて、由椰はますます、白い雲のような食べ物が気になってしまう。
烏月は由椰をわたがしの屋台に連れて行くと、参道にできていた短い列に並んだ。
筒状の機械の中で、白い砂糖の糸が割り箸に巻き取られてふわふわした雲のように大きくなっていく様はとても不思議だ。
わたがしが作られていく過程を目を輝かせながら子どものように見つめる由椰を見て、烏月がまたくつくつと笑う。
「はい、どうぞ」
屋台の店主からわたがしを受け取ると、由椰はさっそくそれを口に含んだ。やわらかなわたがしは、口に入れればすぐに溶けてしまう。その感触も、べたつく甘さも、由椰にはとても新鮮だった。
「おいしいです」
「それはよかったな」
「はい。烏月様は、なにか食べてみたいものなどありますか」
わたがしを食べながら由椰が訊ねると、烏月が参道の屋台を見回す。それから、「おれは焼きそばだな」と小さくつぶやいた。
「蕎麦ですか? 私も蕎麦は大好きです。これを食べたら探しに行きましょう」
「たぶん、その蕎麦ではないぞ」
そう言われても由椰にはよくわからなかったが、烏月が食べたいと言った「焼きそば」は由椰の初めて見る食べ物だった。そばというから、麺であることには違いないのだが、細くて縮れた麺に肉や野菜を混ぜて焼いたもので、とても香ばしく食欲をそそる匂いがする。
烏月に分けてもらった焼きそばは、味が濃くて甘辛かった。
「私も、これを屋敷で作ることができるでしょうか?」
「泰吉に食材を調達させればできるんじゃないか。そんなに焼きそばが気に入ったのか?」
「はい。烏月様が美味しそうに食べられていたので」
見上げて笑いかけると、烏月が「そうか」と、由椰から視線をはずす。わずかにうつむいた烏月の左耳で、金のピアスがきらりと揺らめいた。その向こうで、パンッと何かが弾ける音がする。
ふと見ると、由椰よりも小さな男の子が、屋台の下で筒の長い銃を構えていた。
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