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Two
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しおりを挟む「沙里?」
健吾くんの戸惑ったような声が落ちてくる。それもそのはずだ。今のわたしたちの距離は、父親と年頃の娘の距離じゃない。
見る角度によっては、わたしが健吾くんに抱きついているように見えるだろう。もしも、このあいだのように誰かに見られて写真でも撮られてしまったら何の言い逃れもできない。どんなに鈍感な人にも、わたしの健吾くんへの気持ちは簡単に見破られてしまうだろう。
「好き……」
堪えきれなくなった感情が、唇から漏れる。それは、母と健吾くんの結婚が決まったときに消さなければいけないと思った感情だった。
母や健吾くんの幸せを考えたら、一生口にしてはいけない想いだった。だけど……。
わたしは未熟でバカだから、目の前にいる人への「好き」の気持ちをどうやって抑え込めばいいのかわからない。
だって、そばにいて優しく笑いかけられたら期待してしまう。もしかしたら、もしかしたら……って。限りなくゼロに近い可能性を、どうしたって捨てきれない。
「わたし、健吾くんのことが好き」
「俺も、沙里のこと好きだよ」
わたしの気持ちに、健吾くんはふっと息を漏らしてそう答えた。健吾くんが漏らした吐息は、笑い声のようでもあったし、わたしをあやすようでもあった。
わたしが言葉にした「好き」は、嘘でも冗談でもなくて本気なのに。健吾くんには少しも伝わっていない。
健吾くんが返してくれた「好き」は、義理の娘に対する家族愛。だけど、わたしの「好き」は違う。
「そうじゃないよ。わたしの健吾くんに対する『好き』は──……」
告白をなかったことにはされたくなくて、健吾くんのシャツの袖をつかんで顔を上げる。目が合った瞬間、健吾くんが複雑そうな表情を浮かべてわたしから視線をはずした。
その反応で、全部わかってしまった。健吾くんが本当は、わたしが伝えた「好き」の意味に気が付いていることに。
健吾くんは、わたしの気持ちに気が付いていて、わざと鈍感なフリをしている。
わたしを傷付けないようにするための優しさもあるかもしれないけれど。それ以上に、母との関係は壊したくないからだ。
最悪だ、と思った。誕生日にこんなことを思い知らされるなんて。
ふたりきりで大人のデートの真似事をしてみたって、あざとく触れてみたって、健吾くんの心には届かない。
彼は、わたしに振り向いてなんてくれない。
「沙里。俺、少し先のコンビニで絆創膏買ってくるよ」
気まずい沈黙を破ったのは、健吾くんだった。
「一緒にコンビニまで付いて歩ける? それとも、ここで待ってる?」
健吾くんが、車道の向こう側にあるコンビニを少し不自然な動きで指差す。
わたし達が立ち止まっているのは狭い歩道の真ん中で、しかも辺りは既に真っ暗だ。
普段ならこんなところで置き去りにされるのなんてごめんだし、靴擦れしていたとしても痛みを我慢して付いていくと思う。だけど、遠回しに振られて何事もなかったみたいにできるほど、わたしは能天気でも鈍感でもなかった。
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