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時瀬 蒼生・2
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しおりを挟む「なんか、ごめん」
武下と西沢の背中にため息を吐きながら謝ると、榊が首を横に振った。
「時瀬くんの友達、勢いすごくて台風みたいだね。土曜日、ちょっと不安だけど……。時瀬くんに迷惑がかからないように気をつけるね」
抱きかかえたカバンに顔を埋めるようにして、榊がふふっと笑う。
笑顔を見せているわりに、榊の言葉はなんだか意味深で。不安だとか、迷惑かからないようにという彼女の言葉が妙に耳に引っかかった。
「土曜日のこと、榊が気が進まなければ断っていいよ。武下にはおれから話すし」
「ううん、大丈夫だよ。だけどわたし、今まで人数合わせでもグループデートみたいなのに誘われたことないから。うまくできなかったらごめんね」
榊が首を傾げて笑いかけてくる。
「あー、うん……」
榊は人数合わせだから仕方なくおれに付き合ってくれるんだよな。だとしたら、それはそれで少し複雑かもしれない。結局おれは、榊がどんな反応をしても複雑な気持ちになるんだな……。
苦笑いを浮かべると、先に教室の外に出ていた武下と西沢に、廊下から「蒼生ー」と呼ばれた。
「呼ばれてるから、おれも行くわ」
「時瀬くん、ちょっと待って」
武下たちを追いかけようとしたら、榊がおれを呼び止める。
「土曜日に遊ぶなら、連絡先を教えておいてほしい」
「あー、うん……」
カバンからスマホを出す榊に、胸がそわそわとした。
土曜日の待ち合わせを口実に、タイミングを見計らっておれから連絡先交換しようと思っていたけど。まさか、榊のほうから先に切り出してくるとは思わなかった。
単純だけど、それだけのことでちょっとテンションが上がる。
スマホでおれのラインのQRコードを読み取った榊が「よろしくお願いします」とペコッと頭を下げている犬のスタンプを送ってくる。
スタンプの犬の黒目がちの大きな瞳が榊の雰囲気に重なって見えて、ふと口元が緩んだ。
にやけそうになる口元を手のひらで押さえながら榊の連絡先を登録していると、彼女が「あと、一個お願いがあって……」と、もごもご言ってくる。
「お願い?」
「うん、あのね。土曜日なんだけど、この前時瀬くんと一緒にマックに寄った日に履いてたのと同じスニーカーで来てもらえないかな」
「赤のやつ?」
榊が「目立っていい」と褒めていたスポーツブランドの深い赤色のスニーカー。それを思い浮かべて首を傾げると、榊が両手で持ったスマホをいじいじと触りながらコクリと頷いた。
「いいけど。そんな気に入ったなら、調べて送ろうか? レディースでも似たやつあるんじゃねーかな。ショッピングモールぶらついてるときに、靴屋でふつうに見つけたやつだし。特別珍しいやつじゃないよ」
そのままスマホでネット検索しようとすると、榊がプルプルと小さく頭を左右に振った。
「ううん、違うの。自分で履きたいとかではなくて、時瀬くんに履いてきてほしい。待ち合わせのとき、わかりやすいから」
「目印にってこと? 人いっぱいいるところで待ち合わせると、友達がどこにいるか一瞬わかんないときあるもんな」
「うん、そうなの!」
おれが何気なく言った言葉に、榊が過剰反応気味に大きく頷く。そこまで強く共感されるような話はしてないはずだけど、榊の頬は興奮したみたいにほんのり赤くなっていて少し可愛かった。
「赤のスニーカーね。覚えとく」
「ありがとう。そうしてくれたら、きっと間違えないと思うんだ」
間違えないって、なんか変な言い方するよな。
ふっと笑うと、榊がおれの目線より少し上を見る。微妙に交わらない榊との視線。彼女の言動は、だいたいがおれにとっては不可解でもどかしい。
だけど重なりそうで重ならない視線の先で榊に笑いかけられると、キュッと胸が狭まって、不可解さももどかしさも、その痛みに紛れてしまう。
「あーお。おれら、先に帰ったほうがいい感じ?」
榊の笑顔を見つめているおれの耳に武下の声が届く。
振り向くと、教室のドアに凭れてニヤニヤしている武下と西沢と目が合って。おれは今度こそ、榊から離れてふたりの元に急いだ。
「榊さんとふたりで何しゃべってたんだよ」
「あのまま、ふたりで帰っちゃえばよかったんじゃね」
おれの右と左に並んだ武下と西沢が、肩に手をのせて、顔を寄せながらそれぞれにからかってくる。
「別に、そんなんじゃねーし」
ムッと眉根を寄せて、両肩にのっかる武下と西沢の手を振り払う。
じゃあ、何なんだって言われたらうまく説明できないけど。
おれが榊のことを見てしまうのは、最初に話したときから今までずっと、彼女の言動が他のやつとは少し違ってるからだと思う。
おれに無関心かと思えば無防備に笑いかけてきたり、不安だって口にしながら遊ぶ約束を受け入れてくれたり、珍しくもない赤のスニーカーを待ち合わせの目印に指定してきたり。
わからないことが多いから、モヤモヤして少し気になる。ただ、それだけだ。
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