君だけのアオイロ

碧月あめり

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時瀬 蒼生・3

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「と、時瀬くん……?」

 戸惑う榊の手を引いて向かった場所は、アクセサリー雑貨の店だ。

 男物のかっこいいアクセが多くて、値段も高校生的には手頃。だから、たまに買い物に来る。

 ひとりだったらシルバーとかレザーのものを見たりするけど、色が目立つものがいいなと思って店内を歩き回っていたら、シルバーのトップスがついた、付けっぱなしにしておけるコードブレスレットを見つけた。

 コード部分の色は赤とか青とかグリーン系とかいくつかカラーバリエーションがあって、可愛い系だけど男女選ばず付けられそうなデザインだ。

「榊の好きな色って何? やっぱり、赤系?」

 スニーカーの赤色を誉めてたしな。

 足元にちらっと視線を向けてから、ラックに引っ掛けられているブレスレットの赤色に吸い寄せられるように手を伸ばす。

「赤とかピンクも可愛いけど、一番好きなのは、あお、かな……」

 ふいに聞こえてきた声に、ドキッとした。蒼生あお、って。榊から名前を呼ばれたような気がしたから。

「青、ね……」

 赤いブレスレットに伸ばしかけていた手を、青色が引っ掛けられているラックにゆっくりと移動させる。

 青系は、群青に近い濃い青とやや緑みを帯びたターコイズブルーと二種類で。おれは、少し迷ったあとに二色ともラックから外してレジに持って行った。

 レジのお姉さんに袋の有無を聞かれて断ると、彼女がおれの斜め後ろにいる榊に気付いて、「返品不可になりますがタグ切りましょうか?」と妙な気を利かせてきた。

「ああ、じゃあ……」

 無愛想な返事をしてお金をレジ台のトレーに置くと、お姉さんが笑顔で精算し、ブレスレットのタグを切って手渡してくれる。

 おれはぎごちない動きでそれを受け取って会釈すると、「行こ」と榊を促した。


 ブレスレットを買った店が入っているショッピングモールをぶらぶら見て回ったあと、おれたちは同じビルの中にある展望広場のベンチで休憩した。

 買ってからずっとズボンのポケットに入れっぱなしていたブレスレットを取り出すと、榊がおれの手元をじっと見てきた。

「それ、二個とも青でよかったの? あくまで、わたしの個人的意見だったのに」

 こちらの思惑など知らない榊は、おれが青系のブレスレットを二本選んだことを少し気にしているらしい。

「榊の好みのほうがいいんだよ」

 ぼそりとつぶやくと、おれは購入したブレスレットのうち濃い青色のほうを自分の左手首に付けた。

「これ、今日からおれの目印ね。ずっと付けとくから。髪切っても、夏服でも冬服でも、これは絶対に変わらない目印だから。おれのこと、ちゃんと見分けて」

 手首が見えるように顔の前まで上げて笑いかけると、榊が「え?」と間抜けに口を開いた。

 母親譲りの地毛の明るい茶髪と、人に睨んでると誤解されがちな目力強めのつり目。自分の容姿なんて、悪目立ちして誤解されるばかりで少しも良いところがない。そう思っていたのに、榊には、おれと他の人間との区別がつかない。

 彼女にとっては、おれも他人もみんな同じようにしか見えていなくて。一度人混みに紛れてしまえば、見つけてすらもらえない。

 だけど、それでは嫌だと思った。

 態度が悪いとか生意気だとか、周囲からそんな評価ばかりされてきたおれを「優しい」なんて過大評価してくれる君に。不安そうな顔ばかりしているくせに、ときどき無防備で裏表のない笑顔を見せてくれる君に。おれの心は揺らされてばかりで、その理由に今はもう気付いてしまっているから。

 おれは君のなかで、誰よりも一番に目立ちたい。

「もしよかったら、こっちは榊がつけてくれない?」

 ターコイズブルーのブレスレットを榊の顔の前で揺らすと、彼女が戸惑ったように視線を泳がせた。

「え、でも、それだと――」

 おそろいみたいだよね……? と、口籠った榊の声が聞こえてくるような気がする。

「うん、あえておそろいにした」

 頷いて肯定すると、口をもごもごさせながら言葉を飲み込んだ榊の顔が、じわじわ赤くなる。

 うつむいて照れる彼女を見たのは、これで、今日何度目だろう。おれの些細な言動に、いちいちピュアな反応を示してくれるのが可愛い。

 照れてくれるってことは、少しはおれのことを意識してもらえてるってことなんだろうから。


「これ、もらってくれる?」

 緊張した声で訊ねると、榊が足元に視線を落としてコクンと頷く。

「つけてもいい?」

 続けて訊ねると、子どもみたいな仕草でコクンと頭を縦に振った榊が左手首を差し出してきた。

 受け入れてもらえたことが嬉しくて、ドキドキして。榊の左手首におれのと色違いのプレスレットをつけると、ぎゅっと彼女の手を包む。


「ありがとう……」

 うつむいた榊の髪の隙間から覗く耳の先は、今日イチで真っ赤になっていて。その反応に浮かれたおれは、ちょっと調子にのってしまった。

「さらによければなんだけど……、おれの彼女になってもらえませんか」

 心臓が暴れて飛び出してきそうな胸を抑えて思いきって伝えたら、真っ赤な顔を上げた榊が心底驚いたように目を見開いた。

「でも、わたし……。時瀬くんに迷惑かけてばっかりなのに……」

 こんな話をしていても、榊とおれの視線はもどかしいくらいに微妙に交わらない。目線や表情で認識してもらえらない分、言葉ではっきりと口にしなければおれの本気は伝わらない。

「榊のこと迷惑なんて思ったことないし。好きな子にかけられる迷惑なら、おれは嬉しいけど。だから、今の告白の返事は、そういう基準で考えないで」

 真顔で伝えたら、榊が溢れそうになった笑いを堪えるように左手の甲を口元にあてた。

「やっぱり、時瀬くんてモテそうだよね……」

「だから、そんなのないって」

 だって、おれが今、この瞬間に全力でモテたいのは榊だし。

 むっとした声で言い返すと、榊がついに、ふふっと笑い声を溢した。

「今日は、始まりから全部想定外。だけど……、全部嬉しい」

 口元から手を離した榊が、ふわっと無防備に、幸せそうに笑う。その笑顔が今日イチでおれの胸をぐっと締め付けてきて。

 もう、どうしようもなく、この子が好きだって思った。

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