季節はずれの桜の下で

碧月あめり

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7.永遠のさようなら

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『おれは、桜の木の下の幽霊だから』

 桜介くんにそう告げられた日の夜、わたしはなかなか眠ることができなかった。

 ベッドに入ってからも、わたしの前で姿を消してしまった桜介くんのことばかりが頭に浮かんでしまうのだ。

 桜介くんは、わたしだけに見えていた幻だったのかな。

 夜中ずっと考えても、心の整理はつかないまま。朝が来てもベッドから起き上がれず、迎えに来てくれたハルちゃんには先に学校に行ってもらった。

 いっそのこと、今日は学校を休んでもよかったけど……。風邪をひいたわけでもないし、お母さんにあまり心配はかけたくない。

 それに、桜介くんにこのまま会えなくなるのは嫌だった。

 知り合ってからまだ一週間も経っていないけれど、わたし桜介くんに会えてよかったと思ってる。

 校庭の桜の木の下は、わたしにとって大切な居場所。

 幽霊でもなんでもいいから、わたしは桜介くんに会いたい。

 でも……。一時間目を遅刻して学校に行ったわたしは、すぐに桜の木のそばに向かうことができなかった。

 きのうまではまだ少し残っていた校庭の桜の花が、完全に散っているのを見てしまったのだ。

 ウワサでは、桜の木の下の幽霊は花が咲く頃にあらわれるらしい。

『おれが心桜ちゃんと会えるのは、桜が咲いてるあいだだけなんだ』

 桜介くんがそう言われたときは、どうしてって思って悲しい気持ちになったけど……。桜介くんが桜の木の下の幽霊だってわかった今なら意味がわかる。

 桜介くんは知っていたんだ。

 桜の花が咲いている時期しか、わたしに姿を見せることができないってことを。

 もしかしたら、きのうが最後のお別れの日だったのかもしれない。

 もう、桜介くんには会えないかもしれない。

 桜の木の下に誰もいないときのことを考えたら……。怖くて、桜介くんに会いに行く勇気が出ない。

 結局、わたしは桜の木のそばには行かず、二時間目の授業から出席した。

 だけど、授業中もずっと桜介くんのことが気になって仕方なくて。

 桜介くんのところに行くべきかどうか迷っているうちに、一日が過ぎていった。

 ホームルームが終わったあと帰る用意をしていると、ハルちゃんが教室までわたしを迎えに来た。

「心桜、体調大丈夫?」

 スクールバッグを持って廊下に出ると、ハルちゃんが学校に遅刻したわましのことをすごく心配してくれた。

《心配かけてごめんね》

 スマホのメモアプリに文字を打って見せると、ハルちゃんがにこっと笑いかけてくれる。

「心桜が元気ならいいんだよ。帰ろっか」

 ハルちゃんの言葉にうなずきながら、わたしは桜介くんのことを考えていた。

 このまま、桜の下に行かずに帰ってしまっていいのかな。

 迷っていると、教室から出てきた大和くんたちの男子グループがわたしとハルちゃんの横を通り過ぎていった。

 そのあとすぐに教室から出てきたみさとちゃんと綾香ちゃんが大和くんたちに声をかける。

「ねえ、今日、みんなで遊んで帰らない?」
「いいよ、どこ行く?」

 誘われた男子たちは、遊びに行くのに乗り気みたい。だけど……。

「ごめん。おれ、今日は行かない」

 いつもだったら一番に誘いにのるはずの大和くんが、そんなふうに断っていた。

「え、なんで? 大和行かないの?」

 そっけない態度で歩いていこうとする大和くんを、みさとちゃんが追いかける。

「待って。大和も行こうよ。大和いないとつまんないよ」

「気分がのらない」

「そんなこと言わないでよ。今日は桜の木を伐るから、校庭の部活は全部中止でしょ。せっかくだし、みんなで遊ぼうよ」

 大和くんを引き止めようとするみさとちゃん。聞こえてきたその言葉に、ドキッとした。

 今、なんて……? 桜の木を、伐るって言った……?
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