36 / 49
7.永遠のさようなら
1
しおりを挟む『おれは、桜の木の下の幽霊だから』
桜介くんにそう告げられた日の夜、わたしはなかなか眠ることができなかった。
ベッドに入ってからも、わたしの前で姿を消してしまった桜介くんのことばかりが頭に浮かんでしまうのだ。
桜介くんは、わたしだけに見えていた幻だったのかな。
夜中ずっと考えても、心の整理はつかないまま。朝が来てもベッドから起き上がれず、迎えに来てくれたハルちゃんには先に学校に行ってもらった。
いっそのこと、今日は学校を休んでもよかったけど……。風邪をひいたわけでもないし、お母さんにあまり心配はかけたくない。
それに、桜介くんにこのまま会えなくなるのは嫌だった。
知り合ってからまだ一週間も経っていないけれど、わたし桜介くんに会えてよかったと思ってる。
校庭の桜の木の下は、わたしにとって大切な居場所。
幽霊でもなんでもいいから、わたしは桜介くんに会いたい。
でも……。一時間目を遅刻して学校に行ったわたしは、すぐに桜の木のそばに向かうことができなかった。
きのうまではまだ少し残っていた校庭の桜の花が、完全に散っているのを見てしまったのだ。
ウワサでは、桜の木の下の幽霊は花が咲く頃にあらわれるらしい。
『おれが心桜ちゃんと会えるのは、桜が咲いてるあいだだけなんだ』
桜介くんがそう言われたときは、どうしてって思って悲しい気持ちになったけど……。桜介くんが桜の木の下の幽霊だってわかった今なら意味がわかる。
桜介くんは知っていたんだ。
桜の花が咲いている時期しか、わたしに姿を見せることができないってことを。
もしかしたら、きのうが最後のお別れの日だったのかもしれない。
もう、桜介くんには会えないかもしれない。
桜の木の下に誰もいないときのことを考えたら……。怖くて、桜介くんに会いに行く勇気が出ない。
結局、わたしは桜の木のそばには行かず、二時間目の授業から出席した。
だけど、授業中もずっと桜介くんのことが気になって仕方なくて。
桜介くんのところに行くべきかどうか迷っているうちに、一日が過ぎていった。
ホームルームが終わったあと帰る用意をしていると、ハルちゃんが教室までわたしを迎えに来た。
「心桜、体調大丈夫?」
スクールバッグを持って廊下に出ると、ハルちゃんが学校に遅刻したわましのことをすごく心配してくれた。
《心配かけてごめんね》
スマホのメモアプリに文字を打って見せると、ハルちゃんがにこっと笑いかけてくれる。
「心桜が元気ならいいんだよ。帰ろっか」
ハルちゃんの言葉にうなずきながら、わたしは桜介くんのことを考えていた。
このまま、桜の下に行かずに帰ってしまっていいのかな。
迷っていると、教室から出てきた大和くんたちの男子グループがわたしとハルちゃんの横を通り過ぎていった。
そのあとすぐに教室から出てきたみさとちゃんと綾香ちゃんが大和くんたちに声をかける。
「ねえ、今日、みんなで遊んで帰らない?」
「いいよ、どこ行く?」
誘われた男子たちは、遊びに行くのに乗り気みたい。だけど……。
「ごめん。おれ、今日は行かない」
いつもだったら一番に誘いにのるはずの大和くんが、そんなふうに断っていた。
「え、なんで? 大和行かないの?」
そっけない態度で歩いていこうとする大和くんを、みさとちゃんが追いかける。
「待って。大和も行こうよ。大和いないとつまんないよ」
「気分がのらない」
「そんなこと言わないでよ。今日は桜の木を伐るから、校庭の部活は全部中止でしょ。せっかくだし、みんなで遊ぼうよ」
大和くんを引き止めようとするみさとちゃん。聞こえてきたその言葉に、ドキッとした。
今、なんて……? 桜の木を、伐るって言った……?
1
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる