One-sided

碧月あめり

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彼女を知りたいおれの恋の話

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 部活の練習が校庭でサッカー部と一緒になると、視線が無意識に南の姿を探している。それを自覚したのは、秋も深まる頃だった。

 思いきって三カ月以上ぶりに南にラインを送ってみたら、一週間待っても既読にならず……。それからしばらく、結構本気で落ち込んでいる。

 今まで自分から南にラインなんて送ったことがない。

 付き合っていた頃は返事が面倒くさいとすら思っていたのに。いざ連絡がつかないとショックを受けるなんて、虫のいい話だ。

 既読にすらならないということは、おれのラインは南にブロックされているんだろう。部活中に見かける南のそばには、よく弓岡が立っているし、部活後にふたりで歩いているのを見たこともある。南にはもう、おれの連絡先なんて必要ないのだ。

 今さら南のことが気になったって手遅れだ。

 手が届く場所にいたときには、あの子のことを見ようともしなかったのに。やっぱりそばにいて欲しいと言ったら、あの子はおれの身勝手さを笑うだろう。それでも、部活中や登下校の道中で南の姿を求めてしまうおれは、ほんとうにどうしようもないと思う。

 学校から駅へと続くなだらかな下り坂。日が落ちて、暗くなり始めている通学路をひとりで歩いていると、同じ高校の女子生徒たちのグループが笑いながら通り過ぎていく。

 そのなかのひとりの横顔が南に見える。その瞬間、冷静さを失ったおれは、その子に声をかけていた。

「南……」

 考えるよりも先に体が動いて、余裕なくその子の手をつかまえる。だけど……。

「あ、の……?」
「あ、ごめん……。人違い……」

 よく見たら、似ていたのはショートボブの髪型だけで南とは別人。おれが慌てて手を離すと、その子は驚いたように目を見開いて、一緒にいた友達と早足で逃げて行った。

「あれって、梁井先輩だよね?」
「二年の?」

 彼女たちが去り際にコソコソ話す声が聞こえてくる。

 絶対に不審に思われた。でも、人違いをした気まずさよりも、彼女が南じゃなかったことのガッカリ感のほうが大きい。

 自分らしくもない思考や行動に驚くけれど、他人を南に間違えて理性を失うくらい、おれはあの子と会って話したい。

 ため息を吐きながらとぼとぼと歩いていくと、下り坂が終わって平坦な道になり、交差点のある大通りにぶつかる。

 大通りの向こう側に渡る横断歩道の前では、部活帰りの生徒たちが何人か信号待ちをしている。そのなかに見つけたショートボブの女の子は、今度こそ間違いなく南だった。

急いで駆け寄ろうとしたとき、信号が青に変わる。

「南……!」

 他の生徒に混ざって横断歩道を渡ろうとする南を大声で呼び止めると、立ち止まった彼女が振り向いた。南の目がおれをとらえ、ひさしぶりに真っ直ぐに視線が交わる。それだけで、胸がぎゅっと痛くなった。

 だけど、南のほうは気まずげに瞳を揺らして、ふいっと顔をそらしてしまう。途端に、胸を締め付ける痛みが、喜びから失望に変わる。

 南のそばには、弓岡も他に一緒に歩いていた友達もいない。それなのに、しっかりと目が合ったあとで故意に無視された。それがショックだったし、淋しかった。正直、めちゃくちゃ傷付いた。

 おれはもう、南の視界にすら入れてもらえない。でも、このまま自分の気持ちをうやむやに消すこともできない。

 嫌われていてもいいからもう一度ちゃんと話したくて、南の背中を追いかける。

「南!」

 横断歩道を渡りきったところで追い付いて、もう一度名前を呼ぶ。南はおれの声に反応してビクッと肩を揺らしたけれど、振り向いてはくれない。

 聞こえてるくせに聞こえないフリをして歩いていく南の背中を見つめながら、おれはこれまで、隣にいてくれたあの子の気持ちをどれだけ蔑ろにしてきたのだろうと思った。

 これが南にしてきたことの見返りなら、どれだけ痛くても苦しくても受け止めるしかないのかもしれない。

 ため息を吐いたとき、ふと大通りと歩道を仕切る白いガードレールが目に留まった。その瞬間、頭の中にパッといつかの光景が浮かぶ。

 おれは肩にかけていたスポーツバッグを放り投げると、ガードレールに大股一歩で近付いた。

 支柱に片足をかけると、勢いをつけてそこに飛び乗る。バランスをとるのが案外難しくて体が少しぐらつく。すぐそばを、次々と車が走り抜けて行って。その度に、背中に風圧を感じてドキドキした。

 花火大会の日、おれを振り向かせたくて危険なことをした南の気持ちがちょっとだけわかる気がする。だからおれも、思いきり息を吸い込んで叫んだ。

 あの子が、もう一度おれに振り向いてくれることを願って。

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