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2.憑いていっちゃダメですか?
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しおりを挟む「じゃあ、俺行くな」
乱された髪を手櫛で整えていると、アキちゃんがそう言って笑う。
わたしに手を振るアキちゃんの身体は、既に駅の改札の向かいにあるコンビニのほうに向いていて。その入り口の前で、里桜先輩が待っている。
里桜先輩は、わたし達のひとつ上の高校二年生。
アキちゃんが入っているサッカー部のマネージャーで、アキちゃんのカノジョ。
長く伸ばした髪はサラサラで、少し下がった目元がいつも笑っているように見える、癒し系の美人だ。
高校生になってサッカー部に入ったときから、アキちゃんはずっと里桜先輩に片想いをしていて。夏休み前に思いきってアキちゃんのほうから告白したら、里桜先輩からオッケーの返事をもらえたらしい。
憧れの里桜先輩と付き合えることになったアキちゃんは、かなり浮かれていて。
夏休み中は、「デートはどこに誘えばいいと思う?」とか「昼メシ食べるならどんな店が喜ばれるかな?」とか。
相談のラインが毎日のように送られてきた。
そんなアキちゃんからのラインに面倒くさいが半分、複雑な気持ちが半分でせっせと返信しているうちに、気付いてしまった。
アキちゃんと里桜先輩との関係がうまくいけばいくほど、胸が痛くなって、ドス黒い感情がちょっとずつ心に溜まっていくことに。
わたしは、アキちゃんのことが好きなのかもしれない……。
小学生の頃からの幼なじみに恋人ができた。そんな間の悪いタイミングで、わたしはアキちゃんへの恋心を自覚してしまったのだ。
少し先のコンビニの前では、里桜先輩の隣に立ったアキちゃんが、なんとも締まりのない顔でデレデレ笑っている。
好きな人のそんな顔を目の当たりにして、胸が苦しくなるとか、嫉妬でおかしくなるとか、そこまでではないけど……。
憂鬱にはなる。ため息が出る。
あー、やっぱり。
さっきはわたしのピンチを救ってくれたけど、アキちゃんの好きな人は里桜先輩なんだよな。
はぁー、っと盛大なため息をついてアキちゃんと里桜先輩から顔をそむける。
駅からの通学路を学校に向かってひとりで歩き始めたとき、「衣奈ー」と後ろから声をかけられた。
立ち止まって振り向くと、同じクラスの松川瑞穂が走ってきて隣に並ぶ。
「おはよう、衣奈」
「おはよ……」
ボソリと挨拶を返すと、瑞穂がバッチリとアイメイクした大きな目を瞬かせた。
「どうしたの? 朝からテンション低いじゃん」
トンッと、わたしの背中を励ますように叩いてくる瑞穂は溌剌としていて、わたしとは反対に朝から元気だ。
「別に。わたしはこれが通常運転。そっちこそ、なんかあった?」
訊ねると、瑞穂が「その言葉を待ってました」とばかりに、キランと目を輝かせる。
「わかる? 実はねー、じゃーんっ!」
にこっと歯をみせて笑いながら瑞穂が見せつけてきたのは、右の手の甲。その薬指には、昨日まではなかった銀色の指輪が嵌まっていた。
「昨日が三ヶ月の記念日でね、先輩が買ってくれたんだあ」
嬉しそうに話す瑞穂の口元は、ヘラヘラと緩んでいる。
瑞穂の彼氏はひとつ上の先輩。彼氏とは委員会がキッカケで仲良くなったらしく、夏休み前から付き合っている。
高校生になってから、わたしの周りにはカップルが増えた気がする。
アキちゃんもだし、瑞穂もそう。どうやったらみんな、好きな人と両想いになれるんだろう。
片想いを自覚したばかりのわたしは、里桜先輩と付き合っているアキちゃんや先輩とうまくいっている瑞穂がちょっと羨ましい。
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