今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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5.それは、デートってことですか?

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「出発していいよ~、衣奈ちゃん」

 自転車の荷台に座ってるふうに、ちょっと宙に浮いている由井くんの重さは全く感じない。だけど……。


「ふつう、逆じゃない?」

 わたしの後ろで嬉しそうに足をぷらぷらさせている由井くんを呆れた目で見る。


「だとしても、おれには自転車漕げないし」

「そうだけどさ。ふたり乗りは違反だよ」

「ほかの人にはふたり乗りしてるようには見えないよ。おれの姿は衣奈ちゃんにしか見えてないんだし」

「まあ、そうだけど……」

 口の中でぶつぶつ文句を言いながら、自転車のペダルを踏み込む。

 家から地元の駅までは、自転車だと五分くらい。

 体重のない由井くんは、うしろに乗せていても乗っていないのと変わらない。

 家の近くから駅まで続く緑道を、風を切りながらビュンビュン飛ばしていると、「飛ばされそう~」と背中から由井くんのか細い悲鳴が聞こえてきた。

 ん? 飛ばされる……? 

 たしかに、由井くんの体は空気よりも軽いもんね。

 てことはもしかして、このままわたしがハイスピードで自転車を漕げば、由井くんを引き離せるんじゃないかな。

 ものは試しだ。

 ペダルを踏み込む足に力を入れて、さらにスピードをあげる。

 さあ、どうだ……!

 駅前の広場が見えてくる頃、スピードを緩めて振り向く。だけど、そこにはちゃんと由井くんがいた。

 結構なスピードで自転車を漕いだのに、うしろに座っていた彼は、髪の毛ひとつ乱れていない。

 むしろ、ちょっと汗ばんで、風に髪の毛がかき乱されてしまったのはわたしのほうだった。

 また、作戦失敗……。


「衣奈ちゃん、ハンドル握ると性格変わるタイプ?」

 少し残念に思いながら駅前の駐輪場に向かってゆっくりと自転車を走らせていると、由井くんが心配そうな声で聞いてきた。


「さっきの緑道は車が通らないけど、歩行者はいるし、もうちょっとスピードを気をつけたほうがいいよ」

 そんなふうに諭してくる由井くんは、たった今わたしが、自転車で彼を振り切ろうとしていたことに気付いていない。

 わたしは出会ってからずっと、由井くんが離れてくれる方法を考えてて。そうしたいと思っているということを言葉にもしているのに。

 由井くんはどうしてこうも、わたしになついてくっついてくるのだろう。それでもわたしが好きなんて……。

 ほんとうに、ユーレイになる前の由井くんとわたしのあいだになにがあったんだろう。

 彼のことがわからなすぎて、困る。


 駅前の駐輪場に自転車を停めると、わたしと由井くんはいつもの通学経路でまず、うちの高校の最寄り駅に向かった。

 由井くんをはじめに視た3両目の乗り場でホームに降りて、青南学院の最寄り駅に行く別路線の電車に乗り換える。

 今まで特に用もなかったから、青南学院方面の電車に乗るのは初めてだ。

 平日に学生がメインで利用する路線なのもあって、土曜日の昼前の時間帯はどの車両も空いている。


「この電車に乗って、なにか思い出したことはない?」

 わたしは座席に座ると、あたりまえみたいに隣に腰かけた由井くんにひそひそ声で話しかけた。

 電車は空いていて、座席に座るほかの乗客との間隔がだいぶ離れているから、窓の外を見るフリでもしながら小声でなら由井くんと話せる。

 青南学院までは、ここから十分ほど。そのあいだになにか少しでも手がかりになるようなことを思い出してくれないかな……。

 期待のこもった目で、由井くんを見つめる。だけど……。


「うーん……。おれ、ほんとうにこの電車に乗って学校行ってたのかな……」

 車窓を眺めながら腕組みする由井くんのようすを見て、あまり期待できなさそうとすぐに悟った。


「これは、学校まで行っても収穫ゼロの可能性大だな……」

 はぁーっとため息をついて天井を仰ぐ。そんなわたしに、由井くんがにこっと笑いかけてきた。


「でもおれは楽しいよ。衣奈ちゃんと出かけられて」

「あ、そう……」

 わたしと並んで座る由井くんは、なんだかとても満たされたような、幸せそうな顔をしている。

 もしかしたら、由井くんがなにも思い出さないのは、彼自身がそれを望んでいないからなのかも。

 ふとそんな考えがよぎるけれど、それを追求するのはよくない気がした。
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