47 / 80
6.君のためならなんでもできます。
8
しおりを挟む「ごめんね、衣奈ちゃん……。おれ、やっぱり、衣奈ちゃんが他の男にキスされるのはいやだ……」
膝を抱えた由井くんが、ボソボソとなにか話し始める。
「何言ってるの、由井くん……」
自分がアキちゃんを操って、へんな展開になるように仕向けたくせに。由井くんの言うことは、全部ワケがわからない。
呆れ顔でため息を吐くと、膝からちょっと顔をあげた由井くんが恨めしそうに、こっちを見てきた。
「そいつ、カノジョがいるけど、衣奈ちゃんのことも好きなんだよ……」
「そいつ?」
「その、アキちゃんてやつ……」
「何言ってんの。そんなわけないじゃん」
「そんなわけ、あるよ。だって、さっきふたりで話してるとき、そいつ、衣奈ちゃんのことをすごく気にしてた。それに、衣奈ちゃんのことをすごく大事に思ってるみたいだった。もし衣奈ちゃんが、カノジョができる前にそいつに告白してたら……。きっと、衣奈ちゃんがそいつのカノジョになってたと思う」
由井くんがそう言って、自分の言葉にまたドヨーンと落ち込む。
「衣奈ちゃんが、おれのことをなんとも思ってないのはわかってるよ。衣奈ちゃんが、アキちゃんが好きだってことも、そいつとカノジョがキスしてるのを見て傷付いたのもわかってる。だけど、それでも、衣奈ちゃんから離れる方法がわからないから……。だからせめて、衣奈ちゃんが望むことはなんでもしてあげたいって思ったんだよ……。でも――」
うつむいて話す由井くんの声が、少しずつ小さくなっていく。
声といっしょに身体まで縮こまらせていく由井くんの情けない姿を見ていたら、なんだか抗議する気持ちが薄れてきた。
だけど、由井くんに言っておきたいことはある。
「たしかに、わたしはアキちゃんのことが好きだったよ」
冷静な声でそう言うと、ハッと顔をあげた由井くんがショックを受けたように青ざめた。
「でも、由井くんに操られたアキちゃんに好きって言われても少しも嬉しくなかった。だから、勝手に暴走して変なことした由井くんにはすごく怒ってる」
「衣奈ちゃん……」
今にも死にそうな顔で、わたしの名前をつぶやく由井くん。
ドヨーンと、暗黒のオーラを放ち始めた彼を見て、わたしは苦笑いになってしまった。
「ただ……、わたしの気持ちに気付いて心配してくれてたことは嬉しかったよ。方向性は完全に間違ってるけど」
「衣奈ちゃん……」
わたしの言葉に、絶望しかなかった由井くんの瞳にわずかに光が差す。
わたしはさらに苦笑いをすると、ポケットからスマホを出して瑞穂にラインした。
《保健室の先生を中庭に呼んでほしい》
とりあえず今は、気を失ってしまったアキちゃんを保健室で寝かせてあげなきゃいけない。
0
あなたにおすすめの小説
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる