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9.君にちゃんと触れたいです。
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しおりを挟む廊下を引き返そうとしたとき、病室の窓のカーテンが揺れたような気がした。
よく見ると、窓のそばに青南高校の制服を着た男子生徒がぼんやりと立っている。
彼の身体は青白く透けていて、足は地面から少し浮いていた。
「由井くん……!」
窓のそばにいるのは、横断歩道のそばでわたしの前から姿を消した由井くんだった。
だけど気のせいだろうか。由井くんの身体の透明度が、いつもより強い気がする。
窓から差し込む沈みかけの太陽の残り日。それに照らされる彼の身体は今にも消えそうで。わたしは余裕なく彼に駆け寄った。
「由井くん、どうしてここに……?」
肩をつかもうと伸ばした手が、彼の身体をすり抜けて宙で止まる。
わたし、触れないのに……。
もどかしい気持ちで、引き戻した手をぎゅっと握りしめる。そんなわたしに気づいた由井くんが、ぼんやりとした表情で首をかしげた。
「君、は……?」
わたしのことが誰だがわかっていないような、そんな反応をされて、ちょっとショックだった。
「由井くん、わたしのこと、わからない――?」
泣きそうな声で訊ねると、ぼんやりとしていた由井くんの瞳に、ふと光が戻る。
「衣奈、ちゃん……?」
ハッと目を見開いた由井くんに、確かめるように名前を呼ばれてほっとする。
「よかった。忘れられてなくて……。由井くん、急に消えちゃうから、焦ったよ」
「おれ、急に消えたの?」
「そうだよ。トラックに轢かれそうになったわたしを助けてくれたあと、横断歩道のそばで突然うずくまって震え出して……。それから、煙みたいに消えちゃった。覚えてない?」
「ごめん、わからない。でも、轢かれそうになった衣奈ちゃんを助けようとしたときに、急に自分のことをいろいろ思い出して……。身体が震えて頭が痛くなって……。気付いたら、この病室にいた」
由井くんが、そんなふうに状況を説明してくれる。
「前に衣奈ちゃんの幼なじみが話してくれたことは、間違ってなかったよ。おれ、こんなふうにユーレイみたいになる前、中条瑛士たちから嫌がらせを受けてた」
話しながら、由井くんが苦しそうに表情を歪める。
「おれは放課後に学校の外で中条たちにからまれて逃げてる途中に、青信号が点滅し始めた横断歩道に飛び込んで……トラックにはねられた」
「え……」
由井くんの事故の状況は、さっきわたしが轢かれそうになった状況と似ている。
もしかして、それが思い出す引き金になったの……?
考えていると、由井くんが不安そうに瞳を揺らした。
「衣奈ちゃん、おれ、自分から死のうと思って横断歩道に飛び込んだわけじゃないよ……?」
「由井くん……」
「信じて……」と、由井くんの掠れた声が耳に届いて、胸が少し苦しくなる。
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