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一章 僕は彼女を忘れない

9 僕は王子ではない ※R

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「待って! 私、もう大丈夫だから、ねえ三好君!」

 あいらを引きずるように抱えて、寝室のドアを開いた。ベッドに彼女の背中を押し付ける。
 ワンピースをビリビリ引き裂きたくなる衝動を、堪えた。

「今回だけだ」

 僕なりの宣言だ。僕の彼女は星佳よりいい女。そのポリシーは変わらない。
 彼女がこのあと誰と付き合おうが誰としようが、好きにすればいい。
 が、彼女の最初の相手は、僕が務めるべきだ。彼女は僕を求めてる。このまま追い返すのは、可哀相すぎる。
 決して、二十代独身の四割が未経験だとか、やっぱり十代のうちに済ませたいとか、ワンピースの下の大きな胸に惹かれたわけではない!

「いーの? だいじょーぶ?」

 彼女の「だいじょーぶ」という労りが、僕のプライドをひどく傷つける。

「任せて。そこそこ経験はあるから」

 嘘ではない。星佳とはキス以上のことをした。最終工程を全うしなかったに過ぎない。

「そうよね。三好君、すごいモテるよね」

 あいらは目を閉じ、胸を隠すように両腕を交差させた。銅像のように横たわっている。
 え? その硬直した態度は何だ? 彼女は本当に僕としたいのか? これじゃまるで生贄じゃないか……そうか。彼女は何も知らない。男と手をつないで歩いたこともないかもしれない。

 女の額に軽くキスすると、パチッと大きな目が開いた。
 彼女は腕を伸ばし、僕の頬を包み込んだ。そのまま引き寄せられ、僕らは唇を合わせる。
 柔らかな感触。三か月ぶりのキス。彼女の唇はポテッとして見た目は微妙だが、触れると気持ちいい。何度も重ね、舌を絡ませる。

「へへ、三好君ってエッチだね」

 先ほどまで泣いていた彼女が、笑っている。もう突き進むしかない。
 僕は、ワンピースの上から胸の谷間に顔をうずめる。硬い布地から伝わる弾力。彼女の胸の大きさに気がついた時から、これを触りたかった。
 が、弾力を味わう手に小さな手が重なり、僕の望みは阻まれる。

「どうした?」

 せっかくの楽しみを、彼女はどうして奪うんだ?

「待って! やっぱり今度にしようよ」

 こっちこそ待ってと言いたい! 君がしたいんだろ?

「ここまで来てやめるのか!」

「そ、その……避妊しないと……」

 また泣きそうな顔に戻った。

「それなら大丈夫だよ」

 僕は身を起こし、サイドテーブルの引き出しを開け、彼女を安心させる小さな道具を見せた。

「三好君、用意いいね。いつもここで彼女としてるんだ」

 あいらが呆れたように笑っている。僕はその問いに応えることなく、工程を進めた。
 宗太は僕に二つのグッズを買うようアドバイスした。
 一つは、フルーツたっぷりのケーキ。
 もう一つが、コンドームだった。

 あいらを迎えに行く前、軽くシャワーを浴びた。ベッドのシーツは取り換えた。リビングだけではなく、寝室も掃除した。
 念には念を入れたリスク管理にすぎない。決して、彼女とこうなることを期待したわけではない。


 ワンピースを脱がすのは難しくなかったが、ブラを外すのは少々手間取った。僕は、十数年ぶりにナマの女の裸を見た。以前見たのは、幼い時母に風呂に入れてもらったときだ。星佳とは残念ながら、そこまでは進めなかった。

「ナマだと胸すごいな」

「や、やだよ」

 女は両手で顔を隠した。柔らかな肌を指と舌で味わう。そのたびに彼女は反応する。

「すごい、本当に私、三好君としてるんだ」

 顔を覆った手の隙間から、曇った声が聞こえる。君が誘ったんじゃないか。僕は君の要請に応えているだけだ。
 そろそろ時が来たことを、僕の全身が訴えていた。結合する部分をそっと確かめる。すでにそこは濡れていた。指を這わせるたびに、普段とはまったく違う彼女の声が漏れる。
 そのまま腰を押し付けようとする。
 が、僕は激しく抵抗され、胸を押しとどめられた。

「ダ! ダメ!」

「なんだよ! したいんだろ!」

「ゴム、ちゃんと着けて。それだけは絶対!」

 そうだった。宗太に言われた通り用意したのに、うっかり忘れていた。いや、うっかりでは許されない。僕は、女を孕ませて逃げる卑怯な男にはなりたくない。

 ゴムの装着は手間取った。そこまでは予習してこなかった。次の機会のために練習しておこう……え? 次ってなんだ?

「ど、どうだ? これでいいのか?」

 彼女に装着状態を確認してもらおうとするが、また、顔を覆われてしまった。

「やだ、わからないよ。そこまで見たことないもの」

 彼女に聞いてもわかるわけない。
 ともあれ今度こそ了解を得て、僕は彼女の中に侵入する。ゆっくり角度を変えながら結合できたが、中の温かさに僕はまもなく果ててしまった。
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