精霊機伝説

南雲遊火

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激戦の砂漠編

第四十八章 炎の鳥 風の狼 土の……

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 巨大な機影を呑み込みながら、さらに巨大な赤い鳥は暗闇を裂いて飛ぶ。

「ほう……」

 初陣の皇帝が、瞬いた。

「ヘパイストに、このような眷族がいたとは」

 その間も、優美に──そして踊るようにアレスフィードは旋回し、敵のVDをまとめて四体、切り伏せる。

「あがーなモン、帝都なんかで召喚したら、大惨事おおごとじゃぁ……」
「バカに解説、先を越されましたが、そういうこと・・・・・・です。召喚するには、ある一定数以上の炎の精霊がいりますし、帝都の地上部分表面が、こんがり焦げちゃいます」

 バカ……というステラの言葉にムッとしつつも、「果たして、表面だけで済むかのぉ……」と、アックスは眉間にしわを寄せた。

 アックスの中のアレスフィードエヘイエーの記憶……過去、何度もあの鳥に焼かれ、炙られ、操者を焼き殺されたり蒸し殺された苦い思い出がフラッシュバック。顔が青くなり、頭をかかえる。

「おい、アレスにはああいった眷族はいないのか!」
「え……あー。おることはおるけど……」

 まるで、子どももう一人のユーディンのように、目を輝かせる修羅ユーディンに言われ、アックスが周囲に満ちる精霊を確認した。

 ヘルメガータの杭が炎を生み、そこから生まれたヘパイストの炎の鳥が、さらに敵のVDを焼き、大量の風と瓦礫を生み出す。

 精霊の数は、十分、問題ないだろう。

「じゃあ。久しぶりに呼んでみようかのぉ。陛下。操縦権限コントロール、ちょいと返してつかぁーさい」

 アックスが炎から生まれた風を集める。
 アレスフィードの周囲が淡く、明るく輝いたかと思うと、白と黒の二匹の獣──これまた、VDのサイズに負けない巨大な狼が、勢いよく飛び出し、杭の間をぬう疾風のように地上を駆け抜け、飛び上がったと同時、VDの装甲を一気に噛み砕いた。

「じゃーん! ロムルス! レムス! いっちょ暴れちゃれぇ!」
「いや、アンタ命じる前に、もう暴れてるから」

 躾のなってないだこと……と、ため息交じりのステラに、アックスが「なんじゃとー!」と、くってかかる。

「犬じゃない! 狼!」
「どっちでもよいからアレスの権限を早くこっちに寄越もどせ!」

 的になる気かッ! 凄むユーディンに睨まれ、「はいッ!」と、慌ててアックスが権限コントロールをユーディンに委ね、ついでに二匹の狼の制御をエノクに渡した。

 瞬間、アレスフィードは素早く動いて、また一機、相手のVDを貫く。

 元々、人間同士の剣術だと負け知らずであり戦闘技能が格段に高いことは解ってはいたが、ユーディンのその動きは、精霊機に乗ることが初めてとは思えない操縦技術であり──アキシナイト=ヘリオドール本来の操者として嫉妬半分、残りの半分は、エヘイエーアレスフィードに宿る神として、大変心強く思う。

 同時に、ユーディンに精霊の加護が無いのが、本当に惜しい。口に出すとまた刺されそうなので、音にはしないが。

「お、おい……兄ちゃん?」

 ふと、少し目を離していた間、兄の様子がおかしい事にアックスは気づいた。

 先ほどまで、魔物の形相で、苦しそうに叫びながら、巨大な岩の杭を造り、『眼球』を操っていた兄が、姿はそのままだが、憑き物が落ちたように、ぼんやりと前を見つめている。
 地上のヘルメガータも、どこか動きが鈍い。

 なんだか、嫌な予感がする……と思ったと同時、ヘルメガータの周囲に転がる、焼けこげたり、穴の開いたアレイオラのVDが、ガタガタと動き始めた。

「うぇッ!」

 マテマテマテーッ! ぎょっとアックスは目を見開く。

 どう見ても……誰が見ても、そのVDは、まともに動けるような代物ではない。

 しかし、ぎこちなく動くその機体は、次第に数を増やし、ヘルメガータの周囲に集まってきた。

 欠損した部分は、他の機体のパーツで補うか、または、地上の砂や石が、装甲の代わりをするようにまとわりついて、補っている。

「兄ちゃん……まさか……」 

 信じたくないが、アックスの脳裏に、ある「答え」が浮かぶ。
 確かに先ほど、炎の鳥が、大量の風と、瓦礫・・を生み出すのを、確認したが……。

「Soli ei soli,cinis ut cinis,pulvis et pulvis……」

 アックスの声が、聴こえたわけではないだろう。

「Soli ei soli,cinis ut cinis,pulvis et pulvis……」

 しかし、うっとりと恍惚の笑みを浮かべるアィーアツブスモルガは、歌うように先ほどと同じ言葉を、何度も何度も繰り返す。

「Soli ei soli,cinis ut cinis,pulvis et pulvis……」

 そして。

「Abeamus!」

 それはさながら、死霊の集団。

 モルガの命令を受けた、大量の瓦礫の兵たちは、一斉に散り、『眼球』と同様、アレイオラ軍に突っ込んでゆく。

「……どういう状況なのだ? これは」

 隣の皇帝が、この不気味なモノの正体を教えろと、アックスに詰め寄った。

「キャーッ! 気持ち悪いッ!」
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁッ!」

 ほぼ同時に、通信機からステラとギードの悲鳴もギャーギャーと聴こえる。

「あー……まぁ、兄ちゃんらしい・・・といえば、らしいわな……」

 要するに。です。と、アックスはため息を吐きながら、機嫌良さそうな赤い瞳の魔物モルガを見上げた。
 黒い鱗に包まれた尾っぽが、ゆらゆらと動く。

「元々、ヘルメガータに眷族を召喚するという機能・・は無かったんじゃが……。しかし、兄ちゃんには、ソル=プラーナ師匠から教わったVDに関する知識・・があり、スフェーン=ヘリオドール兄ちゃんカイヤナイト=ヘリオドール姉ちゃんに、モノを組み立て修理してきた容赦なくこき使われた経験・・がある」

 モルガの性格上、アィーアツブスに侵食されて理性がぶっ飛んでいなければ、たとえ思いついたとしても、倫理観から、こんなことは絶対にしなかっただろう。

 しかし、アックスによる身内贔屓の個人的な意見ではあるが……目の付け所アイデアとしては、相変わらずさすが・・・というか、悪くはない。

「つまり、ワシらのやりとりを見て、疑似的に真似・・をして、即席で召喚獣ゴーレム作った・・・んじゃ」

 例によって、『質』より『量』を、優先して。

「技術云々に関しては、少し、余には難しいが……」

 眉間にシワを寄せ、ユーディンは言葉を選んだ。
 しかし、その間もきちんと体を動かし、敵機を墜とすことを忘れない。

モルガよくやったあっぱれ。ということか?」
「……そーゆーことで、大丈夫オッケーです」
『全然良くないッ!』

 ステラとギードの悲鳴のような抗議の声が、通信越しに響き渡る。
 その、大きな声で溢れかえる中──ふと、ユーディンの耳に、モルガのぽつりと歌うようにつぶやく、小さな声が聞こえた。

「……Te amoアイシテル
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