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35.疑念(Side亮祐)
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まさかこんな形で百合の過去を知ることになるとは全く予想外だった。
だけど、これによって今まで見聞きしたことが色々と繋がっていき、腑に落ちる感覚があったーー。
その女が百合に声をかけてきたのは突然だった。
美術館のカフェで休憩をしていると、「並木さん?」と百合の高校の同級生が話しかけてきたのだ。
最初は百合の知り合いかなと様子を眺めていたのだが、百合の顔色を見るとどうやら心当たりがないらしい。
しかもその女は俺を見て「春樹くん!?」と知らない男の名を呼びながら驚愕の表情になった。
(春樹?誰かと間違われているのか?)
その名前にピクっとわずかに身体を反応させたのは百合の方だった。
どうやら高校の同級生だったらしい百合とその女は、そこから2人で会話を始める。
同級生なら俺も挨拶しようかと思ったのだが、百合が俺に黙っていて欲しいと全身で訴えかけてくるので静観した。
ただ、田島という女は明らかに百合に対して悪意があり、聞いていて苛立ちが募る。
さらに田島は意味深な発言も含ませる。
ーー「あいかわらず並木さんは綺麗で、いい男と一緒なのね。しかも春樹くんにそっくりな」
(つまり、春樹という男は百合の知り合いで、俺に似てるってことか?前後の会話から、おそらく春樹というのは百合の当時の彼氏だろうけど)
百合の過去の彼氏に俺が似てるというのは初めて聞く話だ。
百合からも特に言われたことはない。
そのあとも、ひたすら田島に苛立つ会話が続き、百合もいい加減限界だったのか、会話を切り上げて俺の手を引いてその場を去った。
車内で2人になると、俺は気になっていたことを百合に聞いてみることにした。
百合は特に隠すこともなく、素直にすべてを話してくれる。
やはり俺の予想通り、春樹という男は百合の当時の彼氏だった。
そして俺に外見が似ているらしい。
外見が似ている俺と百合が一緒にいたから、田島は俺を見てあんなに驚いた顔をしたのかと納得しかけた直後、百合は思わぬことを口にする。
ーー「‥‥彼、春樹は10年前に亡くなってるんです」
予想外すぎて一瞬反応ができなかった。
(亡くなってる‥‥?しかも10年も前に‥‥?)
そこから百合はポツリポツリと自分の過去を静かに打ち明け出した。
百合が俺に明かしてくれたことは、
・春樹くんと高校3年間付き合っていたこと
・春樹くんは高校3年の卒業間際に交通事故で亡くなったこと
だった。
つまり、百合は交際中に彼氏を亡くしているということだ。
そしてその亡くなった彼氏に俺が似ているのだ。
その事実を知った今、百合と出会ってから今までのことを思い出す中で、俺が疑問に思っていたことが腑に落ちるような気がした。
まず百合に初めて会った時だ。
広報部のメンバーで常務室に来てくれたあの時、百合は俺を見るなり、なぜか驚いたように目を見開いて動揺するように瞳を揺らしていた。
あの時俺はこの反応に少し不自然さを感じたはずだ。
そのあとも、社内報の取材や社内で百合とすれ違った時など、百合の俺を見る瞳は印象的だった。
まるで恋する相手を見るような暖かな色と、少し淋しげな憂いを帯びた色が混ざっていて、なんとも言えない色が浮かぶ瞳だ。
こんな目で見られるのは初めてだと俺は感じていたはずで、目が離せなくなったのだ。
(事実を知った今考えると、百合は亡くなった彼氏に似た俺を見て驚き動揺していたのだ。本人じゃないと分かっていても彼を重ねて、俺を見つめていたのだろう‥‥)
加えて、百合の弟である蒼太くんと会った時のことも思い出す。
蒼太くんは百合は”来る者拒まず、去る者追わず”で男が途切れずいるみたいな付き合いをしていたと言っていた。
(それは彼氏を亡くした百合がその苦しみから逃げるためだったんじゃないだろうか‥‥?)
それに、百合は友人から蒼太くんを紹介してとよく頼まれて困ったがその逆は全くなかったと言っていて、俺はあの時も不思議に思った。
(蒼太くんは肯定も否定もしていなかったけど、高校時代は春樹くんという彼氏がずっといたし、その後は彼を亡くして不安定な百合を紹介できる状態じゃなかったからじゃないだろうか‥‥?)
だからあの時、百合はあんな風だったし、蒼太くんはあんなこと言ってたのかと、どんどん理由が分かっていく。
それと同時に俺には百合に対してある疑念が湧いてくる。
ーー百合はまだ亡くなった彼氏を忘れられずにいるのでは‥‥?
ーーだから亡くなった彼氏に似た俺を選んだ‥‥?
ーー俺に亡くなった彼氏を重ねている‥‥?
ーー俺自身を好きなのか‥‥?
その疑念は瞬く間に大きく膨らんでいく。
そして俺の心を黒く塗り潰すように抱え込んでしまった。
百合から話を聞いたことは覚えているが、その後のことは正直よく覚えていない。
確か車内で話してそのまま箱根を離れ、東京に戻ったはずだ。
百合をマンションに送り届けて、俺も自宅へ帰ってきたと思う。
帰りの車内では普通に百合と会話をしたように思うが、疑念に駆られていた俺は少し態度がおかしかったかもしれない。
俺は百合から過去を聞いたこの箱根旅行の時、疑問に感じたことを聞けなかった。
急に事実を知り、俺自身も動揺していたのだろう。
聞いて百合の返事を聞くのも怖かった。
そして旅行の時だけでなく、その後もなかなか聞けず、何事もなかったように百合と接した。
もし亡くなった彼が忘れられないから俺と付き合ったと言われたら?と想像してしまい、聞けなかったのだ。
それでも俺は聞くべきだったのだ。
そして百合と本音できちんと話し合うべきだった。
なぜなら、何事もなかったようにしていても、心の底で黒い疑念を抱える俺の態度はどこかよそよそしく、それを百合も感じ取っているようだった。
当然ながら俺たちの関係はギクシャクしていく。
一緒にいても心が通じ合っていないような、すれ違っているような、そんな微妙に気まずい雰囲気が漂う。
百合はなんとかしたそうには見えたが、基本的に受身であり、特に自分から何か切り出したりしてくることはなかった。
そうして関係を修復できないまま、数週間が過ぎた頃、俺に長期の海外出張が決まった。
年始からそろそろ現地へ行く必要がありそうだと思っていた分だ。
この海外出張は約2ヶ月間になる見込みである。
(百合と会えない期間が2ヶ月か。しかも今このタイミングで‥‥)
不安もあるが仕事だから致し方ない。
百合には長期の海外出張が入ったことは伝えた。
百合は「そう、分かった」とアッサリ受け入れるだけだった。
迎えた2月下旬。
俺は百合とギクシャクした関係を改善できないまま、百合を日本に残し、長期出張のためアメリカへと旅立ったーー。
だけど、これによって今まで見聞きしたことが色々と繋がっていき、腑に落ちる感覚があったーー。
その女が百合に声をかけてきたのは突然だった。
美術館のカフェで休憩をしていると、「並木さん?」と百合の高校の同級生が話しかけてきたのだ。
最初は百合の知り合いかなと様子を眺めていたのだが、百合の顔色を見るとどうやら心当たりがないらしい。
しかもその女は俺を見て「春樹くん!?」と知らない男の名を呼びながら驚愕の表情になった。
(春樹?誰かと間違われているのか?)
その名前にピクっとわずかに身体を反応させたのは百合の方だった。
どうやら高校の同級生だったらしい百合とその女は、そこから2人で会話を始める。
同級生なら俺も挨拶しようかと思ったのだが、百合が俺に黙っていて欲しいと全身で訴えかけてくるので静観した。
ただ、田島という女は明らかに百合に対して悪意があり、聞いていて苛立ちが募る。
さらに田島は意味深な発言も含ませる。
ーー「あいかわらず並木さんは綺麗で、いい男と一緒なのね。しかも春樹くんにそっくりな」
(つまり、春樹という男は百合の知り合いで、俺に似てるってことか?前後の会話から、おそらく春樹というのは百合の当時の彼氏だろうけど)
百合の過去の彼氏に俺が似てるというのは初めて聞く話だ。
百合からも特に言われたことはない。
そのあとも、ひたすら田島に苛立つ会話が続き、百合もいい加減限界だったのか、会話を切り上げて俺の手を引いてその場を去った。
車内で2人になると、俺は気になっていたことを百合に聞いてみることにした。
百合は特に隠すこともなく、素直にすべてを話してくれる。
やはり俺の予想通り、春樹という男は百合の当時の彼氏だった。
そして俺に外見が似ているらしい。
外見が似ている俺と百合が一緒にいたから、田島は俺を見てあんなに驚いた顔をしたのかと納得しかけた直後、百合は思わぬことを口にする。
ーー「‥‥彼、春樹は10年前に亡くなってるんです」
予想外すぎて一瞬反応ができなかった。
(亡くなってる‥‥?しかも10年も前に‥‥?)
そこから百合はポツリポツリと自分の過去を静かに打ち明け出した。
百合が俺に明かしてくれたことは、
・春樹くんと高校3年間付き合っていたこと
・春樹くんは高校3年の卒業間際に交通事故で亡くなったこと
だった。
つまり、百合は交際中に彼氏を亡くしているということだ。
そしてその亡くなった彼氏に俺が似ているのだ。
その事実を知った今、百合と出会ってから今までのことを思い出す中で、俺が疑問に思っていたことが腑に落ちるような気がした。
まず百合に初めて会った時だ。
広報部のメンバーで常務室に来てくれたあの時、百合は俺を見るなり、なぜか驚いたように目を見開いて動揺するように瞳を揺らしていた。
あの時俺はこの反応に少し不自然さを感じたはずだ。
そのあとも、社内報の取材や社内で百合とすれ違った時など、百合の俺を見る瞳は印象的だった。
まるで恋する相手を見るような暖かな色と、少し淋しげな憂いを帯びた色が混ざっていて、なんとも言えない色が浮かぶ瞳だ。
こんな目で見られるのは初めてだと俺は感じていたはずで、目が離せなくなったのだ。
(事実を知った今考えると、百合は亡くなった彼氏に似た俺を見て驚き動揺していたのだ。本人じゃないと分かっていても彼を重ねて、俺を見つめていたのだろう‥‥)
加えて、百合の弟である蒼太くんと会った時のことも思い出す。
蒼太くんは百合は”来る者拒まず、去る者追わず”で男が途切れずいるみたいな付き合いをしていたと言っていた。
(それは彼氏を亡くした百合がその苦しみから逃げるためだったんじゃないだろうか‥‥?)
それに、百合は友人から蒼太くんを紹介してとよく頼まれて困ったがその逆は全くなかったと言っていて、俺はあの時も不思議に思った。
(蒼太くんは肯定も否定もしていなかったけど、高校時代は春樹くんという彼氏がずっといたし、その後は彼を亡くして不安定な百合を紹介できる状態じゃなかったからじゃないだろうか‥‥?)
だからあの時、百合はあんな風だったし、蒼太くんはあんなこと言ってたのかと、どんどん理由が分かっていく。
それと同時に俺には百合に対してある疑念が湧いてくる。
ーー百合はまだ亡くなった彼氏を忘れられずにいるのでは‥‥?
ーーだから亡くなった彼氏に似た俺を選んだ‥‥?
ーー俺に亡くなった彼氏を重ねている‥‥?
ーー俺自身を好きなのか‥‥?
その疑念は瞬く間に大きく膨らんでいく。
そして俺の心を黒く塗り潰すように抱え込んでしまった。
百合から話を聞いたことは覚えているが、その後のことは正直よく覚えていない。
確か車内で話してそのまま箱根を離れ、東京に戻ったはずだ。
百合をマンションに送り届けて、俺も自宅へ帰ってきたと思う。
帰りの車内では普通に百合と会話をしたように思うが、疑念に駆られていた俺は少し態度がおかしかったかもしれない。
俺は百合から過去を聞いたこの箱根旅行の時、疑問に感じたことを聞けなかった。
急に事実を知り、俺自身も動揺していたのだろう。
聞いて百合の返事を聞くのも怖かった。
そして旅行の時だけでなく、その後もなかなか聞けず、何事もなかったように百合と接した。
もし亡くなった彼が忘れられないから俺と付き合ったと言われたら?と想像してしまい、聞けなかったのだ。
それでも俺は聞くべきだったのだ。
そして百合と本音できちんと話し合うべきだった。
なぜなら、何事もなかったようにしていても、心の底で黒い疑念を抱える俺の態度はどこかよそよそしく、それを百合も感じ取っているようだった。
当然ながら俺たちの関係はギクシャクしていく。
一緒にいても心が通じ合っていないような、すれ違っているような、そんな微妙に気まずい雰囲気が漂う。
百合はなんとかしたそうには見えたが、基本的に受身であり、特に自分から何か切り出したりしてくることはなかった。
そうして関係を修復できないまま、数週間が過ぎた頃、俺に長期の海外出張が決まった。
年始からそろそろ現地へ行く必要がありそうだと思っていた分だ。
この海外出張は約2ヶ月間になる見込みである。
(百合と会えない期間が2ヶ月か。しかも今このタイミングで‥‥)
不安もあるが仕事だから致し方ない。
百合には長期の海外出張が入ったことは伝えた。
百合は「そう、分かった」とアッサリ受け入れるだけだった。
迎えた2月下旬。
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