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第1話 始まりは牢の中から
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・・・ここは、どこだよ!!!
気が付くと不衛生で窓がない薄暗い部屋にいた。ベッドと糞尿が入ったたらいだけが置かれた部屋。
ベッドには痩せ細った金髪の女性が虚ろな目をして『お父様お母様、誰でもいいから助けて、死にたくない、食事を恵んで、もう逃げません、なんでもします、水をください、叩かないで、』とブツブツと呟いていた。
その姿を見た俺は助けを呼ぶが返事がない。鍵を掛けられたドアを叩くも返事がない。
「どうする?ていうかどんな状況だよ!訳がわからねえ!一体何が起きた!うおい!しっかりしろ!」
ゲームをやっていて気が付くとどう見ても少女が監禁されている部屋にいるとかあり得ないだろ。
「とりあえず食い物は~あるはずねえよな!ゲームしてたんだし!・・・あれ?何で俺は革ジャンなんて着てんだ?俺はジャージで・・・これって、うん、ゲームで使ってるキャラの装備じゃん!」
オールバックの黒髪にサングラスに革ジャンにロングブーツで腕や足にベルトを何ヵ所も巻いてる服装。
背中には『ミュージシャン』である俺の武器であるエレキギター『マイケルサンダースMk―Ⅱ』を背負っていた。
「ならアイテムボックスは・・・よし!使えるが食べ物って食べれるのか?」
俺のやっていたゲームには空腹ゲージが存在するため回復するために食べ物がある。
とりあえず俺はアイテムボックスから魚肉ソーセージを取り出し少女の口元に運ぶ。
その瞬間、少女が飢えた猛獣のように魚肉ソーセージ噛りついた。危うく指ごと食われると思って心臓がバクバクなっちゃってるから。
涙を流しながら食らい付く少女が落ち着いたのかこちらを向くと。
「・・・クライス侯爵の長男であるライアン様に様々な無礼を行った事を謝罪させてください!」
金髪の少女がいきなり土下座をしだした。
「お願いします!言われた通り愛人でも性奴隷にでもなんでもなりますから・・・どうか人間扱いして下さい!もうイヤ!乗馬用の鞭で叩かないで!腐った残飯はもうイヤ!」
少女はまだ状況がわかってないようで。関係ない俺に泣きながら許しを乞う。
しばらく少女は泣き続けた。
30分ほど経ってようやく落ち着いたようで話を聞くことができた。
彼女の名はカナリア=オーライト。
彼女の父はバハルス帝国の領地持ちの貴族様らしく爵位は男爵。
バハルス帝国では爵位は高くても領地経営能力がない者には領地を与えられないらしい。逆に能力さえあれば低い爵位だろうが領地を任される事もあるらしい。
それを妬んだ連中は数知れず、更に最近になって金の10~15倍以上の値で取引される『雷皇金』と呼ばれる鉱石を『領主自ら』が発見し前領主のクライス侯爵を激怒させた。
オーライト男爵の前任の領主だったクライス侯爵はバハルス皇帝から経営能力がないと無能の烙印を捺され領主を解任された貴族。150年以上も領主を任されていた領地を自分の代で追い出されるという屈辱を与えられたと逆恨みしていた矢先の雷皇金の発見。
貴族のお茶会での笑い話になってしまっている。150年以上もいたのにお宝に気付かない鈍感で怠慢な奴等だと馬鹿にされ、怒りのあまり無計画でオーライト男爵の娘であるカナリアを誘拐してしまう。
カナリアが誘拐されて一週間以上経過しており、最初の1日だけ残飯が運ばれ、それ以降はまともな食事は与えられず、世話役のライアンはカナリアに暴行を加えるだけで部屋に留まる事を嫌がりすぐに帰ってしまうそうだ。
さて、助けてあげたいけど。俺も閉じ込められてるんだよね。世話役のライアンが扉を開けさせた後に殴って気絶させるか?隠密行動か、場合によっては強行突破するか?
俺の姿はとあるゲームで使用していた自身のキャラ。現実世界の俺よりは戦闘能力値はあるだろうが俺の使っているのは超がつく不遇職『ミュージシャン』だ。
この世界の人間に通用するのか?
このキャラはとあるゲームで使用しているキャラだ。
そのゲームはVRMMORPG『フロンティア・スピリッツ・オンライン』、通称『FSO』。
FSOは人が住んでおらず魔獣が犇めく新大陸を様々な困難に立ち向かいながら開拓していくゲーム。
俺は正式サービス開始から3年間ほぼ毎日プレイしてきたため『レベルだけは高い』ものの強さでいえばガチ勢には遠く及ばないランク外だ。
FSOでは職業を選ぶ事ができ、レベルを上げていく事により選んだ職業に応じたスキルや魔法を覚えられるようになっていく。レベル10までは全プレイヤーは共通の職業『冒険者』で基本的なスキルを覚えてからその後は選んだ職業で遊んでいく。
職業変更は『上位職への昇華』か『特殊なアイテムを利用する』か『レベルリセット』をしない限りは基本できない。
『上位職への昇華』は一定以上のレベルと条件クリアだけで可能だが、特殊アイテム『職業転生』の利用はレベルを上げるために必要なポイントはそのままだがスキルや魔法を強化するためのポイントが半分消失。
※レベルを上げるポイントとスキルや魔法を強化するポイントは別物である。
※レベルリセットは一定以上のレベルがなければできない。
※職業転生とレベルリセットをした場合、前職業専用スキルを忘れてしまうが共通スキルは覚えたまま。
レベルリセットはレベル0になり両ポイント全てを消失する代わりに一定以上のレベルまでは得る経験値が増える。
俺の職業は『ミュージシャン』で、ぶっちぎりのNo.1だ。
ただし不人気職業No.1!!!
ミュージシャンの攻撃手段は声や楽器を使った音響攻撃。攻撃範囲は広いものの攻撃力が低い。生物系以外の魔獣に対して攻撃力が更に下がる。
楽器の中には銃に変形するものがあるがサービス開始1年もせずに銃を扱う本職がアップデートされ、銃の中では使えない部類である手数は多いが攻撃力が低いとされる2丁拳銃以下の性能。
支援魔法も覚えられるが魔法の本職である魔導師と比べると草。
追い討ちをかけたのが大型アップデートで追加された新ボス魔獣『爆響竜ディエロスピッター』だ。
爆響竜ディエロスピッターはエリマキトカゲのような姿の魔獣でプレイヤー『ミュージシャンの上位互換』のような存在だった。ディエロスピッターに有効なアイテム全てがミュージシャンの持つスキルや魔法を弱体化又は無効化できる事が発覚した時は地獄だったね。しかもディエロスピッターはHPが8割より下回るとボスであるにも関わらず逃走するのだ。その姿をミュージシャンに重ねて馬鹿にされる事が多い。
『爆響竜ディエロスピッターを見習えよミュージシャン。あ、逃げ足を見習えって訳じゃないからwww』
それからミュージシャンを的にしたプレイヤー狩りが横行したためミュージシャンは不遇職以上・・・死職と化した(FSOプレイヤー人口約2万人に対してミュージシャンは50人以下、そのプレイヤーもほとんどは何もしらない新規勢のプレイヤーか不遇職を検証してみる実況動画配信プレイヤー)。
俺のように長年愛用している者は片手で足りる。
俺は楽器を扱う職業ミュージシャンに一目惚れしてゲームなどほとんどやった事がなく、バイトもしていない高校生には高過ぎるゲーム器を買い揃えてFSOをプレイしているのだから。
俺の名前は宝月響夜。高校生で家は楽器屋だ。
俺には夢があったがその夢は挫折してしまう。
俺には楽器を弾く才能が皆無だった。何年も何年もただひたすら練習した。しかし上達しなかった。父親は十分上手いと言ってくれるがそれではダメなんだよ!俺はこれで飯を食っていきたいんだよ!
理想と現実のギャップに悩み苦しみ、練習に熱中し過ぎるあまりぶっ倒れる事が度々ありそれでも上達しない俺は結局諦めてしまった。
家の手伝いもしなくなり時間があるかぎり楽器を弾く練習をしていた俺は暇になった。そんな時偶々パソコンでユーチューブを見ていた俺はある動画を見つける。FSOのPV動画に一瞬だけ映った職業ミュージシャンの映像だ。俺は即効で貯金のほとんど使ってFSOをプレイするために必要な機器を買い揃えた。その後に母親に殺人拳骨をくらったけど。
実際には弾いておらずシステムアシストにより指が勝手に動いてるだけだ。それでも良かった。結局俺は理解してしまった。俺は幼い頃見たカッコよく楽器を弾く父親の姿に憧れてただけなんだと。
カッコよく楽器を弾きたい、ただそれだけだった。
俺はFSOで3年間ただ弾き続けた。
そして俺自身初めて遭遇した。爆響竜ディエロスピッターに。ディエロスピッターはミュージシャンの上位互換・・・それが痛いほどよくわかった。コイツの持つ技全てがミュージシャンに酷似していて威力や効果が悪魔的に桁違いだ。対策なしじゃヤバ過ぎる相手だ。同時に羨ましく思った・・・カッコ良すぎるだろ!!!
ディエロスピッターは巨大なエリマキトカゲがエレキギターを背負っている姿。
俺の心を鷲掴みにしたわ!!!
「くっ倒せねよ俺には・・・ふっ、殺せよお前に殺されるなら悔いはねえ」
だが俺は死ななかった。
ディエロスピッターが逃げる暇すら与えず倒されたからだ。
「ディエロスピッターーーー!!!」
俺は思わず手を伸ばし叫んでしまった。
先ほどディエロスピッターのいた場所には同じ顔の人間が8人立っていたがやがて1人になった。
「分身スキルか?・・・まさかあの姿は聖銀のマリアか!!!」
桃髪ポニーテールの長身女性、白銀の鎧、大盾に大剣型の聖剣。
FSOで1年1回行われるログインしている全プレイヤー強制参加型の大会で優勝者だけが選べるようになる職業『神聖騎士』。聖銀のマリアはFSOで『唯一の神聖騎士』である。つまり2万人の頂点にして三連覇を成し遂げた怪物である。
確か神聖騎士は両手用の武器を片手武器として威力や速さを損わず使用できるスキルがあったり本来騎士職では覚えられないスキルや魔法が使えるという噂がある。使えるのが一人だけのためあくまで噂だが。
彼女は俺を見て背中に背負っているエレキギターを見ると鼻で笑った。
俺はイラッとして武器を構えようとした瞬間、聖銀のマリアの大剣が俺の首の直前で寸止めされていた。
「遅い、遅すぎる。私より『レベルは上』だが所詮は最弱職のミュージシャン。ハローワークに行く事をオススメする、わ、よ?」
何故か俺の顔を見て黙んるマリア。ふとマリアの顔をどこかで見た事があるのに気付く。コイツ、同じクラスの奴じゃねえか!しかもキャラメイクできるのにコイツ髪色しかイジッてないのかよ!顔面偏差値高いな!・・・まあ俺も身長と髪の長さと色をイジッて顔にタトゥーいれただけだけど。
「わ、わ、わ、わ、私は、これでひ、ひ、ひつれいするわね!貴方の事なんて全然!これっぽっちも興味ないんだからね!勘違いしないでよね!今日は偶々通りかかったんだからね!」
なんか知らんがディエロスピッターの討伐報酬とドロップアイテムも拾わずにどこかへと走り去ってしまう。
「・・・いらないのかな~、いらないのかな~、聖銀のマリア様は戻ってこない。なら貰っちゃってもよくない?勿体無いし~後で要求されたら渡せばいいだけだし~」
正直ディエロスピッターのドロップアイテムが気になる。なんせミュージシャンの上位互換とも呼ばれる存在。
※FSOでは魔獣を倒すと手に乗る程度の四角い黒い箱が出現し拾うと討伐報酬とアイテムが手に入る。
俺は黒い箱を拾いアイテムを確認しようとするが突如空間に亀裂が生じた。
「まさか、ディエロスピッターの第二形態!!!」
ディエロスピッターのドロップアイテムを開封した瞬間に発生したためディエロスピッター関連する何かのイベントが発生したと思っていた俺は逃げずに武器だけ構えていたら気が付くと監禁部屋に転移していた。
ちなみに俺は入賞した事がないランク外の弱さだ。
そんな俺の強さはこの世界で通用するのか?
気が付くと不衛生で窓がない薄暗い部屋にいた。ベッドと糞尿が入ったたらいだけが置かれた部屋。
ベッドには痩せ細った金髪の女性が虚ろな目をして『お父様お母様、誰でもいいから助けて、死にたくない、食事を恵んで、もう逃げません、なんでもします、水をください、叩かないで、』とブツブツと呟いていた。
その姿を見た俺は助けを呼ぶが返事がない。鍵を掛けられたドアを叩くも返事がない。
「どうする?ていうかどんな状況だよ!訳がわからねえ!一体何が起きた!うおい!しっかりしろ!」
ゲームをやっていて気が付くとどう見ても少女が監禁されている部屋にいるとかあり得ないだろ。
「とりあえず食い物は~あるはずねえよな!ゲームしてたんだし!・・・あれ?何で俺は革ジャンなんて着てんだ?俺はジャージで・・・これって、うん、ゲームで使ってるキャラの装備じゃん!」
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背中には『ミュージシャン』である俺の武器であるエレキギター『マイケルサンダースMk―Ⅱ』を背負っていた。
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俺のやっていたゲームには空腹ゲージが存在するため回復するために食べ物がある。
とりあえず俺はアイテムボックスから魚肉ソーセージを取り出し少女の口元に運ぶ。
その瞬間、少女が飢えた猛獣のように魚肉ソーセージ噛りついた。危うく指ごと食われると思って心臓がバクバクなっちゃってるから。
涙を流しながら食らい付く少女が落ち着いたのかこちらを向くと。
「・・・クライス侯爵の長男であるライアン様に様々な無礼を行った事を謝罪させてください!」
金髪の少女がいきなり土下座をしだした。
「お願いします!言われた通り愛人でも性奴隷にでもなんでもなりますから・・・どうか人間扱いして下さい!もうイヤ!乗馬用の鞭で叩かないで!腐った残飯はもうイヤ!」
少女はまだ状況がわかってないようで。関係ない俺に泣きながら許しを乞う。
しばらく少女は泣き続けた。
30分ほど経ってようやく落ち着いたようで話を聞くことができた。
彼女の名はカナリア=オーライト。
彼女の父はバハルス帝国の領地持ちの貴族様らしく爵位は男爵。
バハルス帝国では爵位は高くても領地経営能力がない者には領地を与えられないらしい。逆に能力さえあれば低い爵位だろうが領地を任される事もあるらしい。
それを妬んだ連中は数知れず、更に最近になって金の10~15倍以上の値で取引される『雷皇金』と呼ばれる鉱石を『領主自ら』が発見し前領主のクライス侯爵を激怒させた。
オーライト男爵の前任の領主だったクライス侯爵はバハルス皇帝から経営能力がないと無能の烙印を捺され領主を解任された貴族。150年以上も領主を任されていた領地を自分の代で追い出されるという屈辱を与えられたと逆恨みしていた矢先の雷皇金の発見。
貴族のお茶会での笑い話になってしまっている。150年以上もいたのにお宝に気付かない鈍感で怠慢な奴等だと馬鹿にされ、怒りのあまり無計画でオーライト男爵の娘であるカナリアを誘拐してしまう。
カナリアが誘拐されて一週間以上経過しており、最初の1日だけ残飯が運ばれ、それ以降はまともな食事は与えられず、世話役のライアンはカナリアに暴行を加えるだけで部屋に留まる事を嫌がりすぐに帰ってしまうそうだ。
さて、助けてあげたいけど。俺も閉じ込められてるんだよね。世話役のライアンが扉を開けさせた後に殴って気絶させるか?隠密行動か、場合によっては強行突破するか?
俺の姿はとあるゲームで使用していた自身のキャラ。現実世界の俺よりは戦闘能力値はあるだろうが俺の使っているのは超がつく不遇職『ミュージシャン』だ。
この世界の人間に通用するのか?
このキャラはとあるゲームで使用しているキャラだ。
そのゲームはVRMMORPG『フロンティア・スピリッツ・オンライン』、通称『FSO』。
FSOは人が住んでおらず魔獣が犇めく新大陸を様々な困難に立ち向かいながら開拓していくゲーム。
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FSOでは職業を選ぶ事ができ、レベルを上げていく事により選んだ職業に応じたスキルや魔法を覚えられるようになっていく。レベル10までは全プレイヤーは共通の職業『冒険者』で基本的なスキルを覚えてからその後は選んだ職業で遊んでいく。
職業変更は『上位職への昇華』か『特殊なアイテムを利用する』か『レベルリセット』をしない限りは基本できない。
『上位職への昇華』は一定以上のレベルと条件クリアだけで可能だが、特殊アイテム『職業転生』の利用はレベルを上げるために必要なポイントはそのままだがスキルや魔法を強化するためのポイントが半分消失。
※レベルを上げるポイントとスキルや魔法を強化するポイントは別物である。
※レベルリセットは一定以上のレベルがなければできない。
※職業転生とレベルリセットをした場合、前職業専用スキルを忘れてしまうが共通スキルは覚えたまま。
レベルリセットはレベル0になり両ポイント全てを消失する代わりに一定以上のレベルまでは得る経験値が増える。
俺の職業は『ミュージシャン』で、ぶっちぎりのNo.1だ。
ただし不人気職業No.1!!!
ミュージシャンの攻撃手段は声や楽器を使った音響攻撃。攻撃範囲は広いものの攻撃力が低い。生物系以外の魔獣に対して攻撃力が更に下がる。
楽器の中には銃に変形するものがあるがサービス開始1年もせずに銃を扱う本職がアップデートされ、銃の中では使えない部類である手数は多いが攻撃力が低いとされる2丁拳銃以下の性能。
支援魔法も覚えられるが魔法の本職である魔導師と比べると草。
追い討ちをかけたのが大型アップデートで追加された新ボス魔獣『爆響竜ディエロスピッター』だ。
爆響竜ディエロスピッターはエリマキトカゲのような姿の魔獣でプレイヤー『ミュージシャンの上位互換』のような存在だった。ディエロスピッターに有効なアイテム全てがミュージシャンの持つスキルや魔法を弱体化又は無効化できる事が発覚した時は地獄だったね。しかもディエロスピッターはHPが8割より下回るとボスであるにも関わらず逃走するのだ。その姿をミュージシャンに重ねて馬鹿にされる事が多い。
『爆響竜ディエロスピッターを見習えよミュージシャン。あ、逃げ足を見習えって訳じゃないからwww』
それからミュージシャンを的にしたプレイヤー狩りが横行したためミュージシャンは不遇職以上・・・死職と化した(FSOプレイヤー人口約2万人に対してミュージシャンは50人以下、そのプレイヤーもほとんどは何もしらない新規勢のプレイヤーか不遇職を検証してみる実況動画配信プレイヤー)。
俺のように長年愛用している者は片手で足りる。
俺は楽器を扱う職業ミュージシャンに一目惚れしてゲームなどほとんどやった事がなく、バイトもしていない高校生には高過ぎるゲーム器を買い揃えてFSOをプレイしているのだから。
俺の名前は宝月響夜。高校生で家は楽器屋だ。
俺には夢があったがその夢は挫折してしまう。
俺には楽器を弾く才能が皆無だった。何年も何年もただひたすら練習した。しかし上達しなかった。父親は十分上手いと言ってくれるがそれではダメなんだよ!俺はこれで飯を食っていきたいんだよ!
理想と現実のギャップに悩み苦しみ、練習に熱中し過ぎるあまりぶっ倒れる事が度々ありそれでも上達しない俺は結局諦めてしまった。
家の手伝いもしなくなり時間があるかぎり楽器を弾く練習をしていた俺は暇になった。そんな時偶々パソコンでユーチューブを見ていた俺はある動画を見つける。FSOのPV動画に一瞬だけ映った職業ミュージシャンの映像だ。俺は即効で貯金のほとんど使ってFSOをプレイするために必要な機器を買い揃えた。その後に母親に殺人拳骨をくらったけど。
実際には弾いておらずシステムアシストにより指が勝手に動いてるだけだ。それでも良かった。結局俺は理解してしまった。俺は幼い頃見たカッコよく楽器を弾く父親の姿に憧れてただけなんだと。
カッコよく楽器を弾きたい、ただそれだけだった。
俺はFSOで3年間ただ弾き続けた。
そして俺自身初めて遭遇した。爆響竜ディエロスピッターに。ディエロスピッターはミュージシャンの上位互換・・・それが痛いほどよくわかった。コイツの持つ技全てがミュージシャンに酷似していて威力や効果が悪魔的に桁違いだ。対策なしじゃヤバ過ぎる相手だ。同時に羨ましく思った・・・カッコ良すぎるだろ!!!
ディエロスピッターは巨大なエリマキトカゲがエレキギターを背負っている姿。
俺の心を鷲掴みにしたわ!!!
「くっ倒せねよ俺には・・・ふっ、殺せよお前に殺されるなら悔いはねえ」
だが俺は死ななかった。
ディエロスピッターが逃げる暇すら与えず倒されたからだ。
「ディエロスピッターーーー!!!」
俺は思わず手を伸ばし叫んでしまった。
先ほどディエロスピッターのいた場所には同じ顔の人間が8人立っていたがやがて1人になった。
「分身スキルか?・・・まさかあの姿は聖銀のマリアか!!!」
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FSOで1年1回行われるログインしている全プレイヤー強制参加型の大会で優勝者だけが選べるようになる職業『神聖騎士』。聖銀のマリアはFSOで『唯一の神聖騎士』である。つまり2万人の頂点にして三連覇を成し遂げた怪物である。
確か神聖騎士は両手用の武器を片手武器として威力や速さを損わず使用できるスキルがあったり本来騎士職では覚えられないスキルや魔法が使えるという噂がある。使えるのが一人だけのためあくまで噂だが。
彼女は俺を見て背中に背負っているエレキギターを見ると鼻で笑った。
俺はイラッとして武器を構えようとした瞬間、聖銀のマリアの大剣が俺の首の直前で寸止めされていた。
「遅い、遅すぎる。私より『レベルは上』だが所詮は最弱職のミュージシャン。ハローワークに行く事をオススメする、わ、よ?」
何故か俺の顔を見て黙んるマリア。ふとマリアの顔をどこかで見た事があるのに気付く。コイツ、同じクラスの奴じゃねえか!しかもキャラメイクできるのにコイツ髪色しかイジッてないのかよ!顔面偏差値高いな!・・・まあ俺も身長と髪の長さと色をイジッて顔にタトゥーいれただけだけど。
「わ、わ、わ、わ、私は、これでひ、ひ、ひつれいするわね!貴方の事なんて全然!これっぽっちも興味ないんだからね!勘違いしないでよね!今日は偶々通りかかったんだからね!」
なんか知らんがディエロスピッターの討伐報酬とドロップアイテムも拾わずにどこかへと走り去ってしまう。
「・・・いらないのかな~、いらないのかな~、聖銀のマリア様は戻ってこない。なら貰っちゃってもよくない?勿体無いし~後で要求されたら渡せばいいだけだし~」
正直ディエロスピッターのドロップアイテムが気になる。なんせミュージシャンの上位互換とも呼ばれる存在。
※FSOでは魔獣を倒すと手に乗る程度の四角い黒い箱が出現し拾うと討伐報酬とアイテムが手に入る。
俺は黒い箱を拾いアイテムを確認しようとするが突如空間に亀裂が生じた。
「まさか、ディエロスピッターの第二形態!!!」
ディエロスピッターのドロップアイテムを開封した瞬間に発生したためディエロスピッター関連する何かのイベントが発生したと思っていた俺は逃げずに武器だけ構えていたら気が付くと監禁部屋に転移していた。
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