婚約破棄、絶望~そしてゴブリンの巣穴から始まる再生の物語

アカヤシ

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第2話 ラジム村は優しさでできてました

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「さあヤミさん着きました!ここが私の住んでいるラジム村です!」

村?これが?

簡易的なテントにその周囲をみすぼらしい木の柵を立ててあるだけだった。

「誰か建築に詳しい人はいないの?近くに森があるんだから木を切ってきて小屋くらいなら、」

「前に申請したんですけど森に入る許可は貰えたけど伐採の許可が下りなかったんですね」

木を切るのは許可しないで危険な森には入る許可を出すって死なせる気満々か?

「だから国に村として使っていい指定された土地の範囲で木材を集めたんですけど。木の柵を作るのがやっとでとても家なんて」

「国から貰ったお金はどのくらい残っているの?」

「貰ってません」

・・・・え?そんな馬鹿な!無一文で放り出したの!

「正直生活できるような状況ではないんです。村の周りには魔物が出るし畑も1から作らなければならない。飲み水として利用出来る水場は往復で1時間以上掛かる川。森は危険で水場まで辿り着けません。狩りをやろうにも武器や防具を整備する道具も底を尽きそうでボロボロの武器で狩りをしてるんです。持ってきた保存食も底を尽きそうで、」

「けど昨日ワイルドボアを狩れたんでしょ?」

「冒険者に盗られたんで残ってないんです」

どうやらワイルドボアに襲われ弱らせたところで通りかかった冒険者に助力を願い一緒に討伐したが協力した報酬として肉と皮を持って行かれ残りのワイルドボアの魔石だけ置いていったらしい。ワイルドボアは魔石より肉や皮の方が高く売れる。

酷い奴等だ!その冒険者達の顔を見てみたいよ!見た顔はすぐブッ飛ばして変形させるけどな!

「私、ウサギくらいなら狩れるかなと思ってたんですけど」

「ウサギを狩る前にグレーウルフに追い回されたと」

「お恥ずかしながら」

「おおおい、サミが帰って来たぞおおお!」

村人の1人がサミに気付いたのか大声を出し皆に知らせている。

すぐに80人ほどの村人が私達の前に現れその集団の中からサミより少し年上ぽい顔がよく似た女性が出て来てサミに抱き付いた。

「もうサミ!あれほど1人で出るなって言われてたでしょ!けど無事でよかった!」

「ごめんなさいお母さん」

え?お母さん!!!お母さんわかっ!てっきりサミのお姉さんかと思ったよ!

「全く村の皆が心配しとったんだ皆にも謝らんか馬鹿娘!」

「お父さん!」

うわっ、サミのお父さんは随分怖そうな顔をした人だ。

「で?隣のお嬢さんは何者かね?ワシはこのラジム村の村長でサミの父のサザンだ。こっちは妻のファナだ」

私はサミがグレーウルフに追い回されていたのを助けたと私が世間知らずとしか説明しなかった。

「そうか馬鹿娘を助けてくれて感謝する。だが何者かという質問は答えて貰ってないが?」

「お父さん違うの!ヤミさんは社会不適合者じゃないのよ!ヤミさんは悪くない!悪いのはヤミさんを受け入れない社会が悪いの!」

サミちゃん!!!私を完全に引きこもりだったって信じちゃてる!ほらあああ!村の人達が皆視線逸らしてるよ!聞いてない振りしてくれてるよ!

「このアホ娘!アホだアホだと思っておったがここまでアホだったとは、ワシには社会不適合者ではないと一目で分かったわ!」

私の事情を知っているの?まさか私の素性を知っているの?

「死んだ魚のような目に薄れておるが身体中にある傷跡に何よりその両腕の腕輪!それは最上級の犯罪者にはめられてる魔法封じの腕輪だ!」

私の両腕にはめられてる腕輪は黒色。

この国の犯罪を犯した者には全員に腕輪を着けさせる。

そして腕輪にはそれぞれ色が違っていて白色→灰色→赤色→黒色の四種類があって黒色が一番上で重犯罪者にはめられるものだ。

「これらから導き出される答え、それは・・・やってもいない罪により長い年月牢獄に入れられて最近になって冤罪が晴れて釈放された元囚人に違いない!」

「「「「なんだってえええええ!!!」」」」

「可哀想に・・・ぐすっ!」

「これから取り戻せばいいさ!大丈夫!まだ若いんだ!」

「行く所がないならこの村で暮らすといいって他の村や町の方が安全か、ははははは!」

「元気出して!頑張ろう!困った事があるなら言いな!相談に乗るぜ!」

や、優しすぎるだろ!村の人達優しいいいいい!勘違いされてるけど全然違うわけじゃない!カスってる!めっちゃカスってる!

「黒色の腕輪は死ぬまで一定の痛みを与え続けるがお嬢さんの様子だとそれはない。魔法も封じられとるわけではない。確か黒色の腕輪は死ななければ外せないからな。つまり腕輪の効果がだけ停止しておるようだ。腕輪の機能を停止できるのははめた人間だけだからな」

結局その日はラジム村に泊まることになりテントを借りた。

そして夜、村長のサザンさんが私のテントを訪ねてきた。

「すまんな、夜に女1人のテントに訪れるのはどうかと思ったがサミや村の皆の前では話せないこともあろう」

やはりサザンさんは私の事を知っているのだろうか?

「・・・テントの位置は本当にここでいいかね?」

は?テントの位置?

「ラジム村の状況を見たであろう?村の周りは見張りを立たせているが簡単な柵を建てとるだけだからな。魔物が来るかもと怖がっとるなら村の中心に移動してやるし見知らぬ連中の中で怖くて寝れないなら皆のテントとは離した位置に張ってやるが?」

「あ、えっと、大丈夫です」

「遠慮はいらんぞ?」

結局それだけ聞くとサザンさんは去っていった。

それから10分後、今度はファナさんがやって来た。

「ごめんなさいねこんな時間に」

「いいえ、起きてたので大丈夫です」

「実は言っておきたい事があったの」

ッ!今度こそ私の素性の事だろうか?

「灯りは気にしないでいいから」

は?灯り?

「蝋燭の消費なんて気にしなくていいから朝まで灯りをつけていいからね」

「えっと、どういう事ですか?」

「真っ暗だと怖くて寝れないかなと思ってね。それか私の寝るテントに来る?それともサミのテントに行く?遠慮なく言ってね」

結局ファナさんはそれだけ言うと怖くないようにサミちゃんが子供の頃抱いて寝ていたというクマさんのヌイグルミを置いて去っていった。

ラジム村は優しさでできてます!!!

疑ってごめんなさい!
まだわかんないけど今の内に謝罪しとこ!
仕方がないじゃない!
こんなに優しくしてもらったの初めてだもん!
何か裏があるんじゃないかと疑ってました!
今までの人生で一番心配されたよ!

更に10分後、サミちゃんがやって来た。

「ヤ~ミさん!一緒に寝よ!」

その日私はサミと一緒に寝た。

今まで誰かと一緒の寝床で寝たことなんてなかった。

貴族だった時もずっと1人で私に近づく者はいなかった。

冒険者だった時もずっと1人で私に近づく者は体目当ての男だった。

精処理道具だった時もずっと1人で盗賊達やゴブリン達は性行為が終わるとさっさと立ち去っていった。性行為を行う時以外に私に近づく者はいなかった。

私はサミちゃんに気付かれないように泣いた。

『誰かと一緒に寝るのはいいものだな』

私は決めたラジム村を守り安心して皆が暮らせるような場所にすると。

チョロい女だと笑うなら笑うがいい!!!

ちょっと優しくされてその気になってしまったんだから仕方がない。

明日から忙しくなる。

だから今日だけは泣かせてほしい。

明日からはもう泣かないから。
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