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プロローグ
第3話 灯士夜子 その2
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「は?喧嘩を教えてほしい?」
私は強くなりたかった。
「はい!私に喧嘩を教えてください!お願いします!」
男気家にお世話になって三日目の朝、私は庭で筋トレしている男気さんに頭を下げてお願いしてみる。
「なら・・・必殺技だな」
「・・・・はい?」
腕立て伏せをしていた男気さんが立ち上がり3mほど離れた場所に空き缶を置くと大きく深呼吸すると構えに入る。
一体何をするのだろうか?
「か~~~め~~~は~~~め~~~」
はい?いやこれってあれだよね?私でも名前くらいは知っている漫画のキャラの技だよね?けどあれなんかビームみたいなの出してるよね?無理だよね?
「はあああああああああ!!!!」
パコン!!!カランカラン
立てていた空き缶が何かに当たったかのように倒れた。
え?嘘?風だよね?え?けど風なんて吹いてなかった。それに風で倒れて凹みなんて出来ないよね?
夜子は空き缶を拾い仕掛けがないか確認する。もしかしたら男気が自分をびっくりさせるために用意したものと疑ったがそれらしい形跡は見当たらない。
「う~ん、そうか~」
男気さんは私の反応を見て、
「確かにな、俺でもここまでくるのに10年掛かったからな。そんな技より早く習得できる技の方がいっか。もう少しランクを下げるかな」
「10年?」
「ん?おお、毎朝1000回動作を反復し、最後に全力一回、渾身のかめはめ波をだな」
何をやっているんだこの人。
「あら、もう6時?今日も一本君は元気ね~」
「さあて、なんか気合い入ったし今日も1日頑張るか!」
「男気さん家の息子さんは毎日頑張ってるね~」
どうやらご近所さん達にとってはもはや日常のようだ。隣の家や道路側からそんな声が聞こえてきた。
「・・・・となると殺気を放つ訓練をするか?」
この人は何を目指しているのだろうか?不明である。
「え?ダメか?」
私の反応で察してくれる。
「じゃあ、このポン刀の扱い方を、」
察してくれてはいなかった。
「あの男気さんはいつもこういうその、奇抜な鍛練をしてるんですか?」
「ん~、確かに小さい頃は普通の柔道や空手や剣道の指南書を読んだりしてたけどピンとこなくてな。漫画に載ってた修行方法をなんとなくやってみたらそっちの方が強くなれてる気がしたからなんとなくかな?」
「・・・そうですか」
「ならランクを下げてまずは体力作りからだな」
そして用意されたものは!
「えっと男気さん?これってあれですよね?ハムスターの、回し車ですよね?」
ただし人間サイズ。
「ん?そうだけど?」
「なんかバチバチって音がするんですけど?」
「そりゃあ走るのやめたら感電するように電気を流してるから」
何でですか!
「ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと近所迷惑を考えて回転音を下げるサイレントホイール仕様だから」
そこじゃねえよ!!!
「それじゃ始めよっか」
その日、回転音は抑えられていたが私の悲鳴が家周辺に響き渡り近所迷惑だからと使用禁止令が発令されたのは言うまでもない。
灯士夜子は朝鍛練、昼学校、夕方バイトが1日のサイクルになっていった。
その間灯士夜子は一度も家には帰っていない。
男気家での暮らしが1週間過ぎた頃、『俺』は自分に自信が持てるようになった。
「男気先輩!一子さん!おはようございます!」
「オッス、1週間もたったのに俺はまだ先輩呼びか?母さんは名前で呼んでるのに。名前で呼べないなら兄貴、兄さん、お兄ちゃんでもいいぞ?」
「それは、ちょっと、その、恥ずかしい、です」
「おはよう夜子ちゃん、ご飯にする?パンにする?」
「ご飯でお願いします!」
楽しい、まるで本物の家族のように俺を扱ってくれる。一子は娘のように。男気先輩は妹のように。
それは凄く嬉しい。けど、男気先輩とはもう一歩踏み出した関係になりたい。俺を妹としてではなく、女として見て欲しかった。
一度だけ男気と夜子は風呂場で裸同士で鉢合わせしてしまったことがある。
原因は風呂を使用するときは使用中と書いた札をドアノブに掛けるという取り決めがあるのだが、夜子が掛け忘れていたのである。
夜子は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして必死に体を隠そうと慌て、足を滑らし転けそうなところを男気に抱き止めてもらったのだが、一般男性なら裸の女性を見て、ましてや動揺しない者は稀だろう。
どうやら男気一本は稀な方の人間だったようだ。
男気の下半身にある部位は全く反応していなかった。半立ちですらない。無反応だった。
「悪い悪い、札が掛けてなかったから人がいないかと思った」
イベント終了~。何もなし。風呂場から出て脱衣所で着替えて男気は普通に出て行った。
夜子はさりげなく女の子アピールを1ヶ月続けた。
結果・・・進展なし。
そして夜子は最終手段をとった。
深夜、男気の部屋の扉を音をたてないように慎重に開ける夜子。ベッドで爆睡する男気一本を確認すると部屋に入る。男気は夜子の侵入にいまだ気付かず大口を開け、いびきをかいて寝ている。
夜子は服を脱ぎだし裸になる。
『うう、恥ずかしい!まるで夜這いじゃないか!』
どっからどう見ても夜這いである。
ベッドの上にのり男気に覆い被さる夜子。
『勢いでやっちゃたけどこの後はどうすればいいの!』
大胆な行動に出ながらもノープランの夜子であった。
『起こせばいいの?でも忍び込んだ意味なくない?』
未経験の夜子には迷走し始める。
『キスしちゃおうか?それとも、その、寝てる内に?最後まで?やっぱり最初は、その口、でするのかな?』
未経験の夜子は性知識は基本、幼馴染(隠れオタク)からの情報なので偏りが半端じゃない。
どうすればいいのか分からずオタオタと狼狽えだす夜子は見つけてしまう。
机の上にある複数の写真立て。男気と一人の女性が写ってる写真。
小柄な男気より身長が高く、ライダースを着て頭にサングラスを乗せて男気の腕に抱き付き満面の笑みでピースをしている。その写真には明らかに男気の物ではない女の子が書くような丸みがある字で『大好き』やら『彼氏が格好いい!』やら『愛してる』やら『結婚しようぜ!』と書いている。ちなみに男気の字はThe達筆である。
『・・・・なんだ、彼女がいたんだ』
男気の『普段』を見ていて彼女がいるとは思わなかった。デートに行くような素振りを見せたこともない。1ヶ月以上ここで暮らしているが家に一度も来たわけでもない。一子さんもそれらしいことは話してくれたことはなかった。
夜子はベッドから降りて脱いだ服を着ると男気の部屋から出てそのまま家を出て夜の散歩に出掛けた。
「はあ、馬鹿みたい・・・・ん?」
考え事をしながらテキトーに歩いていたため見覚えのない場所まで来てしまった。ちょうど公園があったので休憩してから帰ろうと思い進んで行くと。
「調子に乗ってんじゃねーぞくそアマ!!!」
「ぶっ殺すぞ!!!」
「拉致って犯しちまおうぜ。男の怖さを教えてやるよ!!!」
「たっぷり可愛がってやる!!!」
物騒なことを大声で喋る馬鹿な男四人組に囲まれている女。
『あ、あいつは!!!』
会うのは初めてで、だけど知っている。いや、さっき見た。
ライダースを着てサングラスをかけており、長身で・・・おっぱいデカ!!!じゃなかった。あの顔は。
『男気先輩と一緒に写ってた女だ!!!』
正直気に入らないが男気先輩の大切な人だ。四人なら余裕で相手はできる。助けないと。
夜子は彼女を助けるために駆け出そうとするが必要はなかった。
『うん?何あの化け物?』
夜子が見たもの→彼女が男一人殴る→7~8mくらい後方にバウンドしながら吹き飛ぶ→彼女が男一人の側頭部にハイキック→二回転しながら地面に落下→彼女が近くにあったベンチを片手で持ち上げまるで小枝のように振り回す→男二人が吹き飛ぶ。
『怪物じゃん!!!ってこっち来たああああああ!』
女は夜子がいる方へと歩いて来た。夜子がいる場所は公園の出入口。女は夜子を全く見ていない。サングラス越しでも分かる。夜子を空気のようにいないものとしている。夜子はそれが気に入らず女が通り過ぎる瞬間に。
「男気一本」
夜子のたった一言で女は立ち止まり、首は動かさずに視線だけこちらに向ける。扱いが空気から道端に転がる小石に上がった。
「あんた男気先輩の彼女?」
女は何も答えない。ただただ次の言葉を催促しているように思えた。
「私男気先輩の家でお世話になってるんですけど」
夜子のその言葉を聞いて女の目に強烈な敵意が宿る。怖い。コイツ本当にあの写真の女か?いや、少し離れた公園の街灯の光頼りでも分かる。けど写真の中の女とはまるで『別人』のようだ。写真の中の女は全てが笑顔で写ってる。明るい印象があったが目の前にいる女は無表情、触れる物全てを傷付け兼ねないような危なく冷たい感じがする。
こっちが素なのか?ひょっとしたら別れたとか?しかも円満な別れ方じゃなかったのか?
分からない、色々聞きたいことが山程あるがとりあえず、私の今の気持ちをぶつけてみた。
「私、男気先輩のことが好きです。男気先輩をください」
次の瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
頬に激しいズキズキと痛みを感じ目を覚ます。
私が気が付くとあの女はおらずベンチに寝かされていた。もしかしてあの女が自分を?夜子はある異変に気付く。
「あれ?嘘、なんかスースーすると思ったら、私、ブラとパンツ履いてない!」
何故?まさか!さっき女を囲んでいた男達にと思い周辺を見渡すが倒れていたはずの男達はおらず地面に何かを引きずった跡がある。あの女が男達を?なら私のブラとパンツは?え?もしかしてあの女に剥ぎ取られた?わからん!訳がわからない!
「・・・・考えても分からないや人に気付かれないようにもう帰ろって・・・・ここどこ?」
「うおおおおおおおおおおおお!!!どこだあああああ!!!よるこおおおおおおお!!!どこだあああああ!!!」
・・・・男気先輩!!!なんで!!!
しかも深夜にも関わらず大声で自分の名前を呼んで走っていた。
「夜子!!!無事か!!!ってその顔どうした!!!めっちゃ腫れてるぞ!!!」
「えっと男気先輩?なんで私を探してたんですか?あれ?ここにいるって分かりましたね?」
「気配を探ったら分かった」
本当に何者ですか?
「冗談、ただの勘だ。えっと、それで探していた理由はな。その、俺が起きてトイレに行こうとしたら、その、お前のらしき下着が床に落ちていてな」
ふぅあああああああああ!!!!!やらかしたああああああ!!!多分男気先輩彼女発覚ショックで気が動転して服だけ着て下着を履くのを忘れたんだと思う!!!
「寝る前にはなかったから不思議に思ってな。お前の部屋に行ったんだがいなかったから慌てたぞ。ああ、ちゃんとノックして声をかけたぞ部屋に入る前に。携帯電話や財布が机の上にあるし、なんか変だと思ってな。もしかしたらこれはSOSなんじゃないかってな」
お騒がせしましたごめんなさいいいいいい!!!
「だが間違ってなかったようだな」
すいません違います。思い切り違います。
「で、お前を殴った奴はどこだ?」
「違うんです男気先輩!あれは・・・」
なんて説明すればいいの!
「その、瞬間移動です!!!」
私は何をくちばしってるの!!!
「その、逃げられる状況じゃなくて咄嗟に瞬間移動しようとしたら下着だけが跳んで行っちゃって!」
んなわけないでしょ!何?咄嗟に瞬間移動って!自分で言っててありえないだろ!!!と思う。
「・・・・マジでか!!!!」
凄いくいついた!!!
「冗談はさておき、夜遅くに出歩くな」
・・・・ああ、子供扱い、か。
「『女』が深夜にこの辺りを彷徨くな。ここらは前にブラックドラゴンとかいう馬鹿共がアジトにしていた場所が近い。まあ頭と主だった連中はもういないが傘下にいた奴等がなりを潜めてやがる。平気で人拐いするような奴等がな。それに・・・アイツがいる、さっさと帰るぞ」
歩きだした男気の真横について歩く夜子。チラチラ男気の顔を覗き見る夜子。
聞きたい。
男気と一緒に写っていた女のことを。
しかし、いきなり男気に『彼女とは上手くいっていますか?』なんて聞けない。何かきっかけはないだろうか?なら『彼女いますか?』と聞くか?
「どうした?」
深く思考し過ぎていつの間にか立ち止まっていたようだ。
「男気先輩って彼女いますか?」
あ、やらかした。突然話しかけられ焦った私は考えていた事を言葉に出してしまった。
「・・・・いた。少し前まではな。死んだよ」
え?今、何て言いました?
男気が突然立ち止まる。
前方から女一人、男二人の三人組がこちらに歩いてくる。その三人組の一人が先ほどの女がいた。
「ああん!!!男気!!!てめえ何でここにいやがる!!!ここは『ブルーウェイ』の縄張りだろうがとっとと消えろや!!!」
「頭(ヘッド)になんか用ですか男気さん?」
「でしゃばんじゃねーよカス共、壊されてえのか?」
「「すいません頭(ヘッド)」」
「会いに来てくれたんだ・・・・嬉しいぜ」
「まだやってんのか?」
女は先ほどとは違い笑顔で近寄ってくるが、男気の顔はどんどん険しくなっていく。
「なんの事?」
「お前の姉『青園彩夏(アオソノアヤカ)』は死んだ。酔っ払いが運転する乗用車に跳ねられて。お前は『青園春陽(アオソノハルヒ)』だろ。いい加減ゴッコはやめろと言ったハズだ!!!」
「青園春陽?そんな奴は初めからこの世界にいないよ。私は青園彩夏だよ。お前の恋人。つれないこといわないで、また前のように愛し合おう?子供いっぱい作って幸せになろ?」
私は強くなりたかった。
「はい!私に喧嘩を教えてください!お願いします!」
男気家にお世話になって三日目の朝、私は庭で筋トレしている男気さんに頭を下げてお願いしてみる。
「なら・・・必殺技だな」
「・・・・はい?」
腕立て伏せをしていた男気さんが立ち上がり3mほど離れた場所に空き缶を置くと大きく深呼吸すると構えに入る。
一体何をするのだろうか?
「か~~~め~~~は~~~め~~~」
はい?いやこれってあれだよね?私でも名前くらいは知っている漫画のキャラの技だよね?けどあれなんかビームみたいなの出してるよね?無理だよね?
「はあああああああああ!!!!」
パコン!!!カランカラン
立てていた空き缶が何かに当たったかのように倒れた。
え?嘘?風だよね?え?けど風なんて吹いてなかった。それに風で倒れて凹みなんて出来ないよね?
夜子は空き缶を拾い仕掛けがないか確認する。もしかしたら男気が自分をびっくりさせるために用意したものと疑ったがそれらしい形跡は見当たらない。
「う~ん、そうか~」
男気さんは私の反応を見て、
「確かにな、俺でもここまでくるのに10年掛かったからな。そんな技より早く習得できる技の方がいっか。もう少しランクを下げるかな」
「10年?」
「ん?おお、毎朝1000回動作を反復し、最後に全力一回、渾身のかめはめ波をだな」
何をやっているんだこの人。
「あら、もう6時?今日も一本君は元気ね~」
「さあて、なんか気合い入ったし今日も1日頑張るか!」
「男気さん家の息子さんは毎日頑張ってるね~」
どうやらご近所さん達にとってはもはや日常のようだ。隣の家や道路側からそんな声が聞こえてきた。
「・・・・となると殺気を放つ訓練をするか?」
この人は何を目指しているのだろうか?不明である。
「え?ダメか?」
私の反応で察してくれる。
「じゃあ、このポン刀の扱い方を、」
察してくれてはいなかった。
「あの男気さんはいつもこういうその、奇抜な鍛練をしてるんですか?」
「ん~、確かに小さい頃は普通の柔道や空手や剣道の指南書を読んだりしてたけどピンとこなくてな。漫画に載ってた修行方法をなんとなくやってみたらそっちの方が強くなれてる気がしたからなんとなくかな?」
「・・・そうですか」
「ならランクを下げてまずは体力作りからだな」
そして用意されたものは!
「えっと男気さん?これってあれですよね?ハムスターの、回し車ですよね?」
ただし人間サイズ。
「ん?そうだけど?」
「なんかバチバチって音がするんですけど?」
「そりゃあ走るのやめたら感電するように電気を流してるから」
何でですか!
「ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと近所迷惑を考えて回転音を下げるサイレントホイール仕様だから」
そこじゃねえよ!!!
「それじゃ始めよっか」
その日、回転音は抑えられていたが私の悲鳴が家周辺に響き渡り近所迷惑だからと使用禁止令が発令されたのは言うまでもない。
灯士夜子は朝鍛練、昼学校、夕方バイトが1日のサイクルになっていった。
その間灯士夜子は一度も家には帰っていない。
男気家での暮らしが1週間過ぎた頃、『俺』は自分に自信が持てるようになった。
「男気先輩!一子さん!おはようございます!」
「オッス、1週間もたったのに俺はまだ先輩呼びか?母さんは名前で呼んでるのに。名前で呼べないなら兄貴、兄さん、お兄ちゃんでもいいぞ?」
「それは、ちょっと、その、恥ずかしい、です」
「おはよう夜子ちゃん、ご飯にする?パンにする?」
「ご飯でお願いします!」
楽しい、まるで本物の家族のように俺を扱ってくれる。一子は娘のように。男気先輩は妹のように。
それは凄く嬉しい。けど、男気先輩とはもう一歩踏み出した関係になりたい。俺を妹としてではなく、女として見て欲しかった。
一度だけ男気と夜子は風呂場で裸同士で鉢合わせしてしまったことがある。
原因は風呂を使用するときは使用中と書いた札をドアノブに掛けるという取り決めがあるのだが、夜子が掛け忘れていたのである。
夜子は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして必死に体を隠そうと慌て、足を滑らし転けそうなところを男気に抱き止めてもらったのだが、一般男性なら裸の女性を見て、ましてや動揺しない者は稀だろう。
どうやら男気一本は稀な方の人間だったようだ。
男気の下半身にある部位は全く反応していなかった。半立ちですらない。無反応だった。
「悪い悪い、札が掛けてなかったから人がいないかと思った」
イベント終了~。何もなし。風呂場から出て脱衣所で着替えて男気は普通に出て行った。
夜子はさりげなく女の子アピールを1ヶ月続けた。
結果・・・進展なし。
そして夜子は最終手段をとった。
深夜、男気の部屋の扉を音をたてないように慎重に開ける夜子。ベッドで爆睡する男気一本を確認すると部屋に入る。男気は夜子の侵入にいまだ気付かず大口を開け、いびきをかいて寝ている。
夜子は服を脱ぎだし裸になる。
『うう、恥ずかしい!まるで夜這いじゃないか!』
どっからどう見ても夜這いである。
ベッドの上にのり男気に覆い被さる夜子。
『勢いでやっちゃたけどこの後はどうすればいいの!』
大胆な行動に出ながらもノープランの夜子であった。
『起こせばいいの?でも忍び込んだ意味なくない?』
未経験の夜子には迷走し始める。
『キスしちゃおうか?それとも、その、寝てる内に?最後まで?やっぱり最初は、その口、でするのかな?』
未経験の夜子は性知識は基本、幼馴染(隠れオタク)からの情報なので偏りが半端じゃない。
どうすればいいのか分からずオタオタと狼狽えだす夜子は見つけてしまう。
机の上にある複数の写真立て。男気と一人の女性が写ってる写真。
小柄な男気より身長が高く、ライダースを着て頭にサングラスを乗せて男気の腕に抱き付き満面の笑みでピースをしている。その写真には明らかに男気の物ではない女の子が書くような丸みがある字で『大好き』やら『彼氏が格好いい!』やら『愛してる』やら『結婚しようぜ!』と書いている。ちなみに男気の字はThe達筆である。
『・・・・なんだ、彼女がいたんだ』
男気の『普段』を見ていて彼女がいるとは思わなかった。デートに行くような素振りを見せたこともない。1ヶ月以上ここで暮らしているが家に一度も来たわけでもない。一子さんもそれらしいことは話してくれたことはなかった。
夜子はベッドから降りて脱いだ服を着ると男気の部屋から出てそのまま家を出て夜の散歩に出掛けた。
「はあ、馬鹿みたい・・・・ん?」
考え事をしながらテキトーに歩いていたため見覚えのない場所まで来てしまった。ちょうど公園があったので休憩してから帰ろうと思い進んで行くと。
「調子に乗ってんじゃねーぞくそアマ!!!」
「ぶっ殺すぞ!!!」
「拉致って犯しちまおうぜ。男の怖さを教えてやるよ!!!」
「たっぷり可愛がってやる!!!」
物騒なことを大声で喋る馬鹿な男四人組に囲まれている女。
『あ、あいつは!!!』
会うのは初めてで、だけど知っている。いや、さっき見た。
ライダースを着てサングラスをかけており、長身で・・・おっぱいデカ!!!じゃなかった。あの顔は。
『男気先輩と一緒に写ってた女だ!!!』
正直気に入らないが男気先輩の大切な人だ。四人なら余裕で相手はできる。助けないと。
夜子は彼女を助けるために駆け出そうとするが必要はなかった。
『うん?何あの化け物?』
夜子が見たもの→彼女が男一人殴る→7~8mくらい後方にバウンドしながら吹き飛ぶ→彼女が男一人の側頭部にハイキック→二回転しながら地面に落下→彼女が近くにあったベンチを片手で持ち上げまるで小枝のように振り回す→男二人が吹き飛ぶ。
『怪物じゃん!!!ってこっち来たああああああ!』
女は夜子がいる方へと歩いて来た。夜子がいる場所は公園の出入口。女は夜子を全く見ていない。サングラス越しでも分かる。夜子を空気のようにいないものとしている。夜子はそれが気に入らず女が通り過ぎる瞬間に。
「男気一本」
夜子のたった一言で女は立ち止まり、首は動かさずに視線だけこちらに向ける。扱いが空気から道端に転がる小石に上がった。
「あんた男気先輩の彼女?」
女は何も答えない。ただただ次の言葉を催促しているように思えた。
「私男気先輩の家でお世話になってるんですけど」
夜子のその言葉を聞いて女の目に強烈な敵意が宿る。怖い。コイツ本当にあの写真の女か?いや、少し離れた公園の街灯の光頼りでも分かる。けど写真の中の女とはまるで『別人』のようだ。写真の中の女は全てが笑顔で写ってる。明るい印象があったが目の前にいる女は無表情、触れる物全てを傷付け兼ねないような危なく冷たい感じがする。
こっちが素なのか?ひょっとしたら別れたとか?しかも円満な別れ方じゃなかったのか?
分からない、色々聞きたいことが山程あるがとりあえず、私の今の気持ちをぶつけてみた。
「私、男気先輩のことが好きです。男気先輩をください」
次の瞬間、私の目の前が真っ暗になった。
頬に激しいズキズキと痛みを感じ目を覚ます。
私が気が付くとあの女はおらずベンチに寝かされていた。もしかしてあの女が自分を?夜子はある異変に気付く。
「あれ?嘘、なんかスースーすると思ったら、私、ブラとパンツ履いてない!」
何故?まさか!さっき女を囲んでいた男達にと思い周辺を見渡すが倒れていたはずの男達はおらず地面に何かを引きずった跡がある。あの女が男達を?なら私のブラとパンツは?え?もしかしてあの女に剥ぎ取られた?わからん!訳がわからない!
「・・・・考えても分からないや人に気付かれないようにもう帰ろって・・・・ここどこ?」
「うおおおおおおおおおおおお!!!どこだあああああ!!!よるこおおおおおおお!!!どこだあああああ!!!」
・・・・男気先輩!!!なんで!!!
しかも深夜にも関わらず大声で自分の名前を呼んで走っていた。
「夜子!!!無事か!!!ってその顔どうした!!!めっちゃ腫れてるぞ!!!」
「えっと男気先輩?なんで私を探してたんですか?あれ?ここにいるって分かりましたね?」
「気配を探ったら分かった」
本当に何者ですか?
「冗談、ただの勘だ。えっと、それで探していた理由はな。その、俺が起きてトイレに行こうとしたら、その、お前のらしき下着が床に落ちていてな」
ふぅあああああああああ!!!!!やらかしたああああああ!!!多分男気先輩彼女発覚ショックで気が動転して服だけ着て下着を履くのを忘れたんだと思う!!!
「寝る前にはなかったから不思議に思ってな。お前の部屋に行ったんだがいなかったから慌てたぞ。ああ、ちゃんとノックして声をかけたぞ部屋に入る前に。携帯電話や財布が机の上にあるし、なんか変だと思ってな。もしかしたらこれはSOSなんじゃないかってな」
お騒がせしましたごめんなさいいいいいい!!!
「だが間違ってなかったようだな」
すいません違います。思い切り違います。
「で、お前を殴った奴はどこだ?」
「違うんです男気先輩!あれは・・・」
なんて説明すればいいの!
「その、瞬間移動です!!!」
私は何をくちばしってるの!!!
「その、逃げられる状況じゃなくて咄嗟に瞬間移動しようとしたら下着だけが跳んで行っちゃって!」
んなわけないでしょ!何?咄嗟に瞬間移動って!自分で言っててありえないだろ!!!と思う。
「・・・・マジでか!!!!」
凄いくいついた!!!
「冗談はさておき、夜遅くに出歩くな」
・・・・ああ、子供扱い、か。
「『女』が深夜にこの辺りを彷徨くな。ここらは前にブラックドラゴンとかいう馬鹿共がアジトにしていた場所が近い。まあ頭と主だった連中はもういないが傘下にいた奴等がなりを潜めてやがる。平気で人拐いするような奴等がな。それに・・・アイツがいる、さっさと帰るぞ」
歩きだした男気の真横について歩く夜子。チラチラ男気の顔を覗き見る夜子。
聞きたい。
男気と一緒に写っていた女のことを。
しかし、いきなり男気に『彼女とは上手くいっていますか?』なんて聞けない。何かきっかけはないだろうか?なら『彼女いますか?』と聞くか?
「どうした?」
深く思考し過ぎていつの間にか立ち止まっていたようだ。
「男気先輩って彼女いますか?」
あ、やらかした。突然話しかけられ焦った私は考えていた事を言葉に出してしまった。
「・・・・いた。少し前まではな。死んだよ」
え?今、何て言いました?
男気が突然立ち止まる。
前方から女一人、男二人の三人組がこちらに歩いてくる。その三人組の一人が先ほどの女がいた。
「ああん!!!男気!!!てめえ何でここにいやがる!!!ここは『ブルーウェイ』の縄張りだろうがとっとと消えろや!!!」
「頭(ヘッド)になんか用ですか男気さん?」
「でしゃばんじゃねーよカス共、壊されてえのか?」
「「すいません頭(ヘッド)」」
「会いに来てくれたんだ・・・・嬉しいぜ」
「まだやってんのか?」
女は先ほどとは違い笑顔で近寄ってくるが、男気の顔はどんどん険しくなっていく。
「なんの事?」
「お前の姉『青園彩夏(アオソノアヤカ)』は死んだ。酔っ払いが運転する乗用車に跳ねられて。お前は『青園春陽(アオソノハルヒ)』だろ。いい加減ゴッコはやめろと言ったハズだ!!!」
「青園春陽?そんな奴は初めからこの世界にいないよ。私は青園彩夏だよ。お前の恋人。つれないこといわないで、また前のように愛し合おう?子供いっぱい作って幸せになろ?」
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