久し振りに実家の喫茶店に帰って来たら不良(レディース)のたまり場になっていた件

アカヤシ

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第8話 鮫島希色 その1

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「くそ!くそ!くそ!」

「もっと全力で走れよ!追い付かれるぞ!」

「うっせえ!口じゃなく足動かせ!」

人気のない路地裏を3人の男が全速力で駆ける。
男達の格好は三人とも上下が黒でフードを深く被りマスクをして顔を隠している。手にバールを持っている者と黒い鞄を抱えて走る者と懐に忍ばせてあるサバイバルナイフをいつでも出せるように柄を握りながら走る者。
この三人は盗みの常習犯。今日も仕事に精を出し自販機3、賽銭箱1、車場荒らし8、空き巣2。今日の成果は350万円弱だった。窃盗グループメンバー『6人』で意気揚々と歓楽街に赴こうとした矢先に奴等に見つかってしつこく追い回されている。
先に6人と言ったように3人は既に奴等に捕まった。最初は4台のスクーターで逃げていたが奴等から逃げ切るのは不可能だったため乗り捨てて走って逃走を謀った。ある者は民家に忍び込みやり過ごそうとするが見つかり、ある者は観念して大人しく連行されて行き、ある者は立ち向かって行ったがボコボコにされて連行されていった。連中がそのまま警察に突き出すわけがない。噂では奴等に捕まった場合様々な制裁を加えた後に警察に引き渡されるか放置されるらしい。

お~ほほほほ!!!お~ほほほ!!!

「「「ひっ!!!」」」

「この高笑いは・・・」

「奴だ!奴が近くにいるぞ!」

「くそっ!しつこいんだよ!」

3人は立ち止まりお互いの背中を守るように合わせてからバールやナイフを構える。

「来ない?・・・まいたのか?」

「・・・へへっ、じゃあささっと離れようぜ」

3人は構えを警戒を解き再び走り出そうとする。彼等は油断してしまった。逃げ切れる・・・もう少しで逃げ切れると。

ドゴンッ!!!

突如男達が通っていた建物のコンクリートの壁が破壊され、そこから女性らしき腕が伸びてきて最後尾を走る男の頭を鷲掴みする。

「御一人様ご案内致しますわ」

ぎゃあああああああああああ!!!

頭を掴まれた男が必死にもがくがびくともせず力づくで建物の中へと引っぱり込まれた。そして打撃音と男の悲鳴が聞こえてきたのを皮切りに残りの2人が逃げ出した。今度は形振り構わずに。ナイフも成果の入った鞄もほたり捨てて、少しでも軽くして速く逃げれるように。

「あらあら、それで全力で逃げているのかしら?」

形振り構わず全力疾走する男達を後ろから抜き去り話し掛けてきたそいつはバック走で男達より速く走ってる。

「あの『野犬』は追いかけがいがありましたのに」

お嬢様学校である『白百合国際学園』の黒の制服の上に特攻服を着ている女性。長身で長い艶のある金髪を靡かせながら息を切らせることなく汗すらかいていない。彼女の金髪は地毛であるがもみあげ部分だけは赤色に染めて三つ編みにしてある髪を『誰かさん』の事を想い弄りながらの余裕の様子。

男達はついに力尽きて足を止めてしまう。

「てめえ、はあ、はあ、イエローシャークの鮫島希色か!」

「まじかよ!・・・へへっ、1人で追いかけてきたのか?お前馬鹿だろ?」

男達は絶望しかけたが相手は1人、しかも女だ。体力は向こうが上かもしれないがこっちは2人。しかも自分達は格闘技の経験者だ。

「はっ、ははははは!てめえを人質にすれば部下共も手を引くだろ?」

いやいや、それどころじゃない。コイツがいればまた好き勝手暴れられる。ブラックドラゴンにいた頃のように。イエローシャークの連中を手中に、金はこの女から搾り取ればいい。この女のレイプ映像でも撮って父親でも脅迫するか?

「くくっ、おい女!まずはボコボコにしてやるよ!」

「動けなくなるまで痛めつけてから散々犯してやるからな!」

男達はボクシングの経験者で高校時代は喧嘩で退学してしまうが全国大会にも出場経験を持つ実力者。学校を辞めた後はブラックドラゴンというチームの幹部に『強さだけ』は認められ護衛に任命されていた。

『『俺達は強いんだよ!!!』』

男達は鮫島希色に殴り掛かる。ジャブなんていらねえだろとそのご自慢の顔をぐしゃぐしゃにしてやるよ。

だが、

パッパン!!!

『『・・・・は?』』

2人の渾身のストレートをまるで蝿でもはたき落とすように片手で軽く弾いてみせた。

「まあまあ・・・全てにおいて魅力を感じませんわ」

ぎゃあああああああああああ!!!

2人は鮫島希色にボコボコにされました。

「こ、こん、な、こどじで、ただ、すぶどおもぶなよ、くぞおんな!!!」

「ぜっ、でえに、ゆるだでえ!ぶっごれしてやる!いずれ、ぜぶっだいに、ふくじゅ、じでやる!」

「・・・負け犬が何をほざいているのかしら?」

ぎゃあああああああああああ!!!

指を一本一本丁寧に折るタイミングを秒読みしながら逆方向に折り曲げる。一気に折らず、じわじわじわじわ見せつけながら結局最後は思い切り曲げる。

「やべで、がんべん、じでぐださい!」

「ながまのじょほう、も、いいますから!」

情けない。鮫島希色はあの時の事を思い出しながら男達の指をへし折っていく。

『俺をすきに殴ればいい。その女には指一本触れるんじゃねえ』

自分よりも小さいくせに、自分より貧しいくせに。

あの野犬は銃で撃たれても、ナイフで何ヵ所も刺され抉られようともけして倒れなかった。『軍人』の拷問のような苛烈な責めにもけして折れなかった。

『力に屈したら男に生まれた意味がねえだろうが、ば~か』

あの時の最後は傭兵部隊をたった1人で全滅させ、私が『高層ビルから突き落とされた』時もあの野犬は躊躇いもせずに飛び降り私を掴んでくれた。

『きいろおおおおおおおおお!!!手を伸ばせえええええええ!!!』

あの時は本当にもうダメだと思ったけど。手繰り寄せられ彼に抱き止められた時、私は不覚にも相手には申し訳ないけどこんな終わりも悪くないと思ってしまった。

ああ、ダメ、思い出してしまった。

鮫島希色は今や癖になってしまった赤色に染めたもみあげ部分の三つ編みを手で弄り始めた。自分の気持ちに気付いてから染めて、彼と同じ三つ編みにした。あの人の事を考えている時、ついつい手が伸びてしまう。

狂わされる。

会っても素直になれなず悪態をついてしまう。いつも側にいたいのに彼が近づくと自分から離れてしまう。

あの野犬に会ってから。

自分に何も告げずに遠くへ行ってしまった野犬を想う。
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