5 / 99
街を訪ねて。
しおりを挟む
私の家は、街から少し離れた場所にありました。
人に注目されることを嫌う旦那様が、街に住むのを嫌がったからです。
私は特に不満はありませんでしたので、旦那様に了承しましたが、今思えばこの場所が丁度よかった気がします。
まあ、もう私の家ではありませんけれど。
街を訪ねてまずしたのは、商店の並ぶ場所へ行くことです。
この国に留まるつもりはありませんので、保存食を買わねばなりません。
「そこの綺麗なお姉さん! 買ってかない?」
干し肉を売っているおじ様が私に声をかけてくれました。
お姉さんと呼ばれると、変な感じがしますね。
旦那様には、たまに「ラティアンカ」と呼ばれるくらいでしたから。
「ええ、ぜひ」
肉屋に近寄り、長旅でも持つ量の干し肉を買わせていただきました。
「毎度ぉ! ところでお姉さん、旅行かい?」
「いいえ。旅に出るところです」
「旅?」
すると肉屋のおじ様は、心配げな目を私に向けてきます。
「お姉さん、一人で旅するつもりかい? ここならまだしも、外に出れば厄介な野郎に絡まれるぞ」
「そうですね……護衛でも探しましょうか」
「それならギルドに行きなよ。お姉さんみたいな別嬪さんなら、護衛になりたい奴は山ほどいるだろ」
ギルドですか。
いいかもしれません。
私は早速ギルドへ向かいました。
ギルドとは一般の人から国に渡り、多方面から依頼を受けるところです。
そのギルドに登録すれば、食い扶持を探すことができます。
せっかくですし、私も登録しておきましょうか。
そうこう考えながらギルドに入った時、怒鳴り声が聞こえてきました。
「また失敗か!!」
「うぁっ」
続けて、バシンという何かを叩く音。
これはただ事ではありませんね。
たくさんの人が、黙って現場を見守っているのが見えます。
私は人混みをすり抜け、騒ぎの原因まで駆けつけました。
「何回言えばわかる!! これを取ってこいと言っているだろう!!」
「でっ、でもっ、ビアンカの花は全部取り尽くされてて……」
「うるさい!! 獣人で、奴隷のくせに、口出しするんじゃない!!」
どうやら奴隷が持ち主に折檻を受けているようです。
見ていて気分が悪くなります。
大柄の男が獣人の少女を叩いているようでした。
奴隷の持ち主は彼ですので、誰も口出しする権利はありません。
もちろん私にも。
ただ……これは見ていられません。
「もし」
「あ?」
私が話しかければ、大柄の男が私のほうへ向きました。
私は旅荷物から財布を取り出すと、それを丸ごと男へ差し出しました。
「は?」
「これを差し上げますので、その子の所有権を譲ってくださいまし」
「は、こんな大金……っ、後で返せと言われても知らないからなっ」
旦那様は世界一の魔術師でしたので、金ならあまるほどありました。
それを全て差し上げたので、男は逃げるようにその場から去っていきました。
「大丈夫ですか」
「……女神様、ですか?」
獣人の少女は涙を目に浮かべながら、私を怯えるように見つめてきました。
……可哀想に。
腕や足があざだらけです。
どうしてこんな酷いことができるのでしょう。
「立てます? 私は、ラティアンカといいます」
「ご主人、様」
「ラティとお呼びください」
「えっ、でも」
「私はあなたのご主人様にはなれません」
所有権を譲ってもらったといっても、彼女を奴隷のままでいさせることは私にとって居心地はよくありません。
戸惑う彼女に私は質問します。
「あなたは戦えますか?」
「……はい」
先ほどの会話で聞こえてきた、ビアンカという花の名前。
あれは断崖絶壁に咲く幻想の花の名前です。
その断崖に行くのも難しいのに、咲いていることが滅多にないので見つけられたらもう奇跡というしかないのです。
男は彼女に無茶振りをしたとしか思えませんが、彼女はどうやら断崖絶壁に行くことができたようなのです。
頷いてみせた彼女の瞳は本物でした。
「そうですか。なら、私の護衛をお願いしたいと思います」
「わ、わかりました」
彼女を引っ張り上げると、そのみずぼらしさが目につきます。
どうにかしてあげないと。
「受付係さん。ギルドの宿泊スペース、お借りしても?」
「はっ……はい。ですが、料金は」
一部始終を見ていたであろう受付係さんは、言いづらそうに料金のことを口にします。
何も考えなしで男に金をやったわけではありません。
「これを、換金してくださるかしら」
「!」
私が受付係さんに渡したのは、私が調合した薬です。
旦那様が執筆した薬学の本を元に作ったので、相当高値がつくでしょう。
受付係さんは「わかりました」と返して、私達を部屋へ案内してくれました。
人に注目されることを嫌う旦那様が、街に住むのを嫌がったからです。
私は特に不満はありませんでしたので、旦那様に了承しましたが、今思えばこの場所が丁度よかった気がします。
まあ、もう私の家ではありませんけれど。
街を訪ねてまずしたのは、商店の並ぶ場所へ行くことです。
この国に留まるつもりはありませんので、保存食を買わねばなりません。
「そこの綺麗なお姉さん! 買ってかない?」
干し肉を売っているおじ様が私に声をかけてくれました。
お姉さんと呼ばれると、変な感じがしますね。
旦那様には、たまに「ラティアンカ」と呼ばれるくらいでしたから。
「ええ、ぜひ」
肉屋に近寄り、長旅でも持つ量の干し肉を買わせていただきました。
「毎度ぉ! ところでお姉さん、旅行かい?」
「いいえ。旅に出るところです」
「旅?」
すると肉屋のおじ様は、心配げな目を私に向けてきます。
「お姉さん、一人で旅するつもりかい? ここならまだしも、外に出れば厄介な野郎に絡まれるぞ」
「そうですね……護衛でも探しましょうか」
「それならギルドに行きなよ。お姉さんみたいな別嬪さんなら、護衛になりたい奴は山ほどいるだろ」
ギルドですか。
いいかもしれません。
私は早速ギルドへ向かいました。
ギルドとは一般の人から国に渡り、多方面から依頼を受けるところです。
そのギルドに登録すれば、食い扶持を探すことができます。
せっかくですし、私も登録しておきましょうか。
そうこう考えながらギルドに入った時、怒鳴り声が聞こえてきました。
「また失敗か!!」
「うぁっ」
続けて、バシンという何かを叩く音。
これはただ事ではありませんね。
たくさんの人が、黙って現場を見守っているのが見えます。
私は人混みをすり抜け、騒ぎの原因まで駆けつけました。
「何回言えばわかる!! これを取ってこいと言っているだろう!!」
「でっ、でもっ、ビアンカの花は全部取り尽くされてて……」
「うるさい!! 獣人で、奴隷のくせに、口出しするんじゃない!!」
どうやら奴隷が持ち主に折檻を受けているようです。
見ていて気分が悪くなります。
大柄の男が獣人の少女を叩いているようでした。
奴隷の持ち主は彼ですので、誰も口出しする権利はありません。
もちろん私にも。
ただ……これは見ていられません。
「もし」
「あ?」
私が話しかければ、大柄の男が私のほうへ向きました。
私は旅荷物から財布を取り出すと、それを丸ごと男へ差し出しました。
「は?」
「これを差し上げますので、その子の所有権を譲ってくださいまし」
「は、こんな大金……っ、後で返せと言われても知らないからなっ」
旦那様は世界一の魔術師でしたので、金ならあまるほどありました。
それを全て差し上げたので、男は逃げるようにその場から去っていきました。
「大丈夫ですか」
「……女神様、ですか?」
獣人の少女は涙を目に浮かべながら、私を怯えるように見つめてきました。
……可哀想に。
腕や足があざだらけです。
どうしてこんな酷いことができるのでしょう。
「立てます? 私は、ラティアンカといいます」
「ご主人、様」
「ラティとお呼びください」
「えっ、でも」
「私はあなたのご主人様にはなれません」
所有権を譲ってもらったといっても、彼女を奴隷のままでいさせることは私にとって居心地はよくありません。
戸惑う彼女に私は質問します。
「あなたは戦えますか?」
「……はい」
先ほどの会話で聞こえてきた、ビアンカという花の名前。
あれは断崖絶壁に咲く幻想の花の名前です。
その断崖に行くのも難しいのに、咲いていることが滅多にないので見つけられたらもう奇跡というしかないのです。
男は彼女に無茶振りをしたとしか思えませんが、彼女はどうやら断崖絶壁に行くことができたようなのです。
頷いてみせた彼女の瞳は本物でした。
「そうですか。なら、私の護衛をお願いしたいと思います」
「わ、わかりました」
彼女を引っ張り上げると、そのみずぼらしさが目につきます。
どうにかしてあげないと。
「受付係さん。ギルドの宿泊スペース、お借りしても?」
「はっ……はい。ですが、料金は」
一部始終を見ていたであろう受付係さんは、言いづらそうに料金のことを口にします。
何も考えなしで男に金をやったわけではありません。
「これを、換金してくださるかしら」
「!」
私が受付係さんに渡したのは、私が調合した薬です。
旦那様が執筆した薬学の本を元に作ったので、相当高値がつくでしょう。
受付係さんは「わかりました」と返して、私達を部屋へ案内してくれました。
1,320
あなたにおすすめの小説
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる