探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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街を訪ねて。

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私の家は、街から少し離れた場所にありました。
人に注目されることを嫌う旦那様が、街に住むのを嫌がったからです。
私は特に不満はありませんでしたので、旦那様に了承しましたが、今思えばこの場所が丁度よかった気がします。
まあ、もう私の家ではありませんけれど。
街を訪ねてまずしたのは、商店の並ぶ場所へ行くことです。
この国に留まるつもりはありませんので、保存食を買わねばなりません。

「そこの綺麗なお姉さん! 買ってかない?」

干し肉を売っているおじ様が私に声をかけてくれました。
お姉さんと呼ばれると、変な感じがしますね。
旦那様には、たまに「ラティアンカ」と呼ばれるくらいでしたから。

「ええ、ぜひ」

肉屋に近寄り、長旅でも持つ量の干し肉を買わせていただきました。

「毎度ぉ! ところでお姉さん、旅行かい?」
「いいえ。旅に出るところです」
「旅?」

すると肉屋のおじ様は、心配げな目を私に向けてきます。

「お姉さん、一人で旅するつもりかい? ここならまだしも、外に出れば厄介な野郎に絡まれるぞ」
「そうですね……護衛でも探しましょうか」
「それならギルドに行きなよ。お姉さんみたいな別嬪さんなら、護衛になりたい奴は山ほどいるだろ」

ギルドですか。
いいかもしれません。
私は早速ギルドへ向かいました。
ギルドとは一般の人から国に渡り、多方面から依頼を受けるところです。
そのギルドに登録すれば、食い扶持を探すことができます。
せっかくですし、私も登録しておきましょうか。
そうこう考えながらギルドに入った時、怒鳴り声が聞こえてきました。

「また失敗か!!」
「うぁっ」

続けて、バシンという何かを叩く音。
これはただ事ではありませんね。
たくさんの人が、黙って現場を見守っているのが見えます。
私は人混みをすり抜け、騒ぎの原因まで駆けつけました。

「何回言えばわかる!! これを取ってこいと言っているだろう!!」
「でっ、でもっ、ビアンカの花は全部取り尽くされてて……」
「うるさい!! 獣人で、奴隷のくせに、口出しするんじゃない!!」

どうやら奴隷が持ち主に折檻を受けているようです。
見ていて気分が悪くなります。
大柄の男が獣人の少女を叩いているようでした。
奴隷の持ち主は彼ですので、誰も口出しする権利はありません。
もちろん私にも。
ただ……これは見ていられません。

「もし」
「あ?」

私が話しかければ、大柄の男が私のほうへ向きました。
私は旅荷物から財布を取り出すと、それを丸ごと男へ差し出しました。

「は?」
「これを差し上げますので、その子の所有権を譲ってくださいまし」
「は、こんな大金……っ、後で返せと言われても知らないからなっ」

旦那様は世界一の魔術師でしたので、金ならあまるほどありました。
それを全て差し上げたので、男は逃げるようにその場から去っていきました。

「大丈夫ですか」
「……女神様、ですか?」

獣人の少女は涙を目に浮かべながら、私を怯えるように見つめてきました。
……可哀想に。
腕や足があざだらけです。
どうしてこんな酷いことができるのでしょう。

「立てます? 私は、ラティアンカといいます」
「ご主人、様」
「ラティとお呼びください」
「えっ、でも」
「私はあなたのご主人様にはなれません」

所有権を譲ってもらったといっても、彼女を奴隷のままでいさせることは私にとって居心地はよくありません。
戸惑う彼女に私は質問します。

「あなたは戦えますか?」
「……はい」

先ほどの会話で聞こえてきた、ビアンカという花の名前。
あれは断崖絶壁に咲く幻想の花の名前です。
その断崖に行くのも難しいのに、咲いていることが滅多にないので見つけられたらもう奇跡というしかないのです。
男は彼女に無茶振りをしたとしか思えませんが、彼女はどうやら断崖絶壁に行くことができたようなのです。
頷いてみせた彼女の瞳は本物でした。

「そうですか。なら、私の護衛をお願いしたいと思います」
「わ、わかりました」

彼女を引っ張り上げると、そのみずぼらしさが目につきます。
どうにかしてあげないと。

「受付係さん。ギルドの宿泊スペース、お借りしても?」
「はっ……はい。ですが、料金は」

一部始終を見ていたであろう受付係さんは、言いづらそうに料金のことを口にします。
何も考えなしで男に金をやったわけではありません。

「これを、換金してくださるかしら」
「!」

私が受付係さんに渡したのは、私が調合した薬です。
旦那様が執筆した薬学の本を元に作ったので、相当高値がつくでしょう。
受付係さんは「わかりました」と返して、私達を部屋へ案内してくれました。
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