探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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綺麗な護衛。

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ギルドの一部屋を借りて、私は少女にまず名前を聞くことにしました。

「あなた、名前は何といいます?」
「……えと、私、数ヶ月前に記憶喪失になってしまいまして。自分の名前を覚えてないんです」
「記憶喪失?」

少女は困ったように私に言いました。
ここで嘘をついても彼女にメリットはありませんし、そもそも嘘をつく理由が見当たりません。
ということは、本当に記憶喪失なのでしょう。

「では、何と呼ばれていたんです?」
「私はおい、とか、お前、とか呼ばれていました」
「………」

呼び名すら与えられていなかったのですか。
私は驚きのあまり、口が開いてしまいました。
男尊女卑は世界に根付いた悪いルールですね。
男性が優先的につきたい仕事につき、女性にはあまり物の仕事が回されることが多いです。
奴隷も、男性の奴隷のほうが若干ですが丁寧に扱われます。
この子も色々と苦労をしてきたのでしょう。

「そうですか……一旦、お風呂に入りましょうか。その後私が名前をつけてもいいですか?」
「えっ。い、いいんですか? ら、ラティ様につけていただけるなんて……」

オドオドとして申し訳なさそうにする彼女に、私は再度言い聞かせます。

「あなたはもう奴隷じゃないんですよ。私はあなたを護衛として雇っていますので、名前がないと不便でしょう?」
「……ありがとう、ございます」

ほぅ、と安心したように、彼女が息をつきました。
受付係さんにお風呂の場所を聞き、彼女がお風呂を上がるのを待ちます。
それから数十分後。

「お待たせしてしまいすみませんっ」
「……まぁ」

とても彼女が綺麗になったので、私は声を上げました。
泥だらけだった体は白く、彼女が白ウサギの獣人であることがわかります。
ピンク色の大きな瞳が庇護欲を誘ってきます。

「……あの?」

気づけば私は彼女の頭を撫でていました。

「! すみません、つい……」

ぽろ。

「!」

彼女はポロポロと涙を流していました。
私、何かやってしまいましたでしょうか。
頭を撫でられるのは嫌だったでしょうか。

「ご、ごめんなさい! 嫌でした?」
「と、とんでも、ありませんっ……あったかくて、何だか、懐かしくて……」

目をゴシゴシと擦り、しゃくり上げる彼女。
見れば十五歳くらいでしょうか。
その若さで記憶喪失、おまけに奴隷という立場。
辛くて当然でしょう。
私には彼女の境遇はわかりませんので、下手に同情することもできません。
でも彼女を慰めたくて、ただひたすらに泣き止むまで彼女の頭を撫で続けました。

◆ ◆ ◆

「その、大変お見苦しいところをお見せしました」
「いいんですよ」

泣き止んだ彼女は、恥ずかしそうに顔を赤らめながらそう言いました。

「私、嬉しかったです。ラティ様に撫でていただいて」
「ならよかったのですが……嫌なことがあったら言ってくださいね。遠慮はいりませんから」
「はい」

柔らかく微笑むと、彼女は「それで……」と続けます。

「名前のほう、なんですが……」
「ああ、ちゃんと考えてありますよ」
「本当ですか!」
「ええ。あなたの名前は、今日からロールです」
「ロール……」
「私の好きな、花の名前ですよ」

淡いピンクの花のロールは、彼女にきっと似合うだろう。
そう思って名付けさせていただきました。
彼女は嬉しそうに「ロール、ロール」と確かめるようにつぶやくと、私に向かって膝まづきました。

「私、ロールは今日から護衛として、ラティ様を全力でお守りいたします」
「ええ。よろしくね、ロール」

彼女ーーロールは頼りになるでしょう。
ロールさえよければ、一緒に暮らしても楽しそうです。

「っと、忘れるところでした」

荷物から薬瓶を取り出すと、それをロールに差し出します。

「これは?」
「飲めば傷が多少は癒えますよ」
「! で、でも、さっきのと同じですよね? 宿代が賄えるほどの薬を私が……」
「あなたは私の仲間となりましたから。このくらい当然です」

別に誇るようなことでもありません。
彼女が傷を負っているのを放置するなんてこと、したくありませんから。
ロールは薬瓶を開けると、それを一気に飲み干しました。

「うっ」
「あー、一気に飲んでしまいましたか」

それは効果が強い分大分苦いので、ゆっくり飲むものです。
ロールは苦そうな顔をしたものの、何事もなかったように「ありがとうございます」と薬瓶を返してくれました。

「……あれ? 痛くない?」

早いですね。
ロールの傷が癒え始めたようです。
さすが元旦那様のレシピとも思いますが、彼女が獣人なのも関係しているでしょう。
獣人は魔術が使えない分、身体能力が突出した一族です。
その分回復も早いのでしょう。

「ラティ様は、有名な魔術師様なのですか?」
「……いいえ。私はただの、ラティです」

あの人の嫁であったのは、もう過去の話。
今の私はただのラティアンカなのです。
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