探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

文字の大きさ
7 / 99

よく考えて動きましょう。

しおりを挟む
私はその後、ロールと仲良くなるために一日中彼女と話し合いました。
といってもロールが話せることは辛いことばかりでしたので、ほとんど私の一人語りだったのですが。
私が世界一の魔術師であるアルジェルド様の妻だったこと、旦那様に愛想を尽かして出て行ったことを説明すると、ロールはまるで自分のことのように怒ってくれました。

「酷いです! こんなに優しいラティ様に、なんてこと……!」
「もういいんです。昔のことですから」
「ラティ様、もっといい人探しましょうね!」

何だかロールに熱が入ってしまっています。
短期間でここまで私を慕ってくれたのです。
期待には答えないと。

「ところでロール」
「? はい」
「私は明日から隣の国、フォルテ王国に行こうと思っています。そこで住まいを見つけて、新しい恋を見つけようと思うんです」
「いいと思います!」
「……でもねロール。あなたの記憶、取り戻したいと思わないかしら?」
「え?」

そんなこと考えたこともなかったのでしょう。
ロールはポカンとすると、ふと考え込みます。

「私……は、」
「あなたのことを大事にしていたご家族が、いるかもしれないですよ」
「もちろん取り戻したいです。ですけど、どうやって」
「………」

そこで私はとある提案をしました。

「獣人の国、アストロへ行きましょう」
「ええ!? あ、アストロって……凄く遠いじゃないですか!」

ロールのいう通り、アストロは遠い国です。
まともに行けば一年くらいはかかってしまうでしょう。
そう、まともに行けばの話です。

「あるお方を頼ろうと思います」
「あるお方?」
「はい。アルジェルド様の友である、魔術師のエリクル様です」

◆ ◆ ◆

翌日。
エリクル様のお宅を訪ねる前に、ロールの服を買うことにしました。
奴隷用の服はあまりに簡素で、もう布切れのようなものでしたから。
動きやすいパンツスタイルに身を包むと、ロールは「よし」と気合を入れています。

「これでラティ様をどんな奴からもお守りできます!」
「頼りにしてます」
「はい!」

ロールは勢いよく首を縦に振りました。
そんなに振っては首を痛めますよ。

「……何だかいい匂いがしますね」

そういえば、お昼がまだでした。
ロールのお腹も「ぐぅ」と鳴って、空腹を訴えてきます。

「す、すみません……」
「何か買いましょうか」

実は昨日の薬は思った以上の値段が出ました。
こんな高品質な薬を作ったのかと驚かれましたが、あくまでこれは私の力ではございません。
私はただレシピ通りに作っただけなのですから。
とにかく残りの一本を残して全部薬を売り払い、私は旅の資金を調達しました。
レシピはもう頭に入っていますので、薬草さえ手に入ればいつでも作れます。

「あ……」

ふと、大きな肉の串焼きが目に入りました。
とても美味しそうです。
あれは一体何なのでしょうか。
すると、ロールは私に肉の串焼きの説明をしてくれました。

「あれはビットの肉を焼いてるんですよ! ビットはお肉が柔らかくて美味しいですよ!」
「ビット?」
「はい! 獣人の間ではよく食べられてます!」
「あなた、記憶が……」

私に記憶のことを言われたロールは、やりづらそうに頬をかいてみせます。

「その、少しは覚えてるんです。誰かと一緒に、このお肉をよく食べてました」
「そう……早く思い出せるといいわね」
「はいっ」

では、ロールのお墨付きであるビットの肉をいただきましょう。
お肉を買おうとして屋台の店員さんに声をかけようとした、その時でした。

「おい。その肉は俺たちが買うんだよ」

後ろから声がして振り返れば、何人かの男達が私達を睨んでいます。
店員さんは困ったように、「この二本で最後です……」と言います。

「ちょっと! 私達が先でしたよ!?」
「女が生意気なんだよ。引っ込んでな」

ああ、出ました。
男のほうが偉いと思い込んでいる、私の一番嫌いな人種が。
カチンときたので、つい言ってしまいました。

「あなた達は、順番を守ることもできませんの? それくらい子供にもできますわ」
「……あ?」
「そうでした。あなた達は体ばかりが大きい子供なのですね。気づかなくてすみません。私が教えてあげます。順番は、守るものです」
「やろぉっ!!」

簡単に挑発に乗りましたね。
振りかぶられた拳を避けようとした、その時。

ばしぃんっ!!

「ラティ様に手を出すことは、許しません」

ロールが思い切り男の手を叩きました。
いい音です。

「い、いでぇえええっ」
「バカにする女に負けて、恥ずかしくないんですか? 出直してきてください」
「コケにしやがって……!」

倒れた男とは別の男が、ナイフを取り出しました。
周囲の人からは悲鳴が上がります。

「へっ、今更泣いたってもうおそ……!?」

すると、突然男達の体がふわりと浮き上がりました。
竜巻です。
竜巻が起こって男達をどこかへと連れ去っていきます。

「うわぁあああああっ!?」
「んー、美しくない。美しくないね」

その声に、その言葉。
久しぶりに聞きますが、変わってませんね。

「お久しぶりです、エリクル様」
「やあ、久しぶりだね。ラティアンカ嬢」

そこにはエリクル様が淡い笑みを浮かべて立っていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

悲報!地味系令嬢、学園一のモテ男に「嘘の告白」をされる

恋せよ恋
恋愛
「君のひたむきさに心打たれた」 学園の王子様、マーロン侯爵令息から突然の告白。 けれどそれは、退屈な優等生である彼が仕掛けた「罰ゲーム」だった。 ターゲットにされたのは、地味で貧乏な子爵令嬢・サブリナ。 彼女は震える声で告白を受け入れるが――眼鏡の奥の瞳は、冷徹に利益を計算していた。 (侯爵家の独占契約……手に入れたも同然だわ!) 実は、サブリナの正体は王都で話題の「エアハート商会」を率いる敏腕マネージャー。 「嘘の告白」をした男と、「嘘の快諾」をした女。 互いに利用し合うつもりが、いつの間にか本気に……? お互いの本性を隠したまま進む、腹黒×腹黒の騙し合いラブコメディ! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...