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風の魔術の貴公子様。
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ポカン……とする周りの人達を放って、エリクル様はその優しげな笑顔を、ビットの肉売りの店員さんへ向けました。
「その最後のお肉、くれるかい? お金は払うから」
「あ、はい」
慌てて店員さんが肉を準備してくれました。
エリクル様は、私達に一本ずつそれを渡してくれました。
「ありがとうございます、エリクル様」
「あのっ、ありがとうございます!」
「おや。これは可愛いお嬢さんだね。どうしたの?」
ロールのことが気になったらしく、エリクル様が私に尋ねます。
「私の護衛です。名をロールといいます。彼女は頼りになりますわ」
「うん。見てたよ。君すごいね。臆さずラティアンカ嬢を守ってた」
「………」
エリクル様に微笑まれ、ロールは恥ずかしげにうつむいてみせます。
それもそうでしょう。
エリクル様は細身ですが、引き締まった体をされているお方で、おまけに顔もいいのです。
この方は女性にモテモテですからね。
「お代、いいんですか?」
「ああ。ラティアンカ嬢だからね」
そう言ってくれたので、お言葉に甘えることにしました。
冷めないうちにいただきましょう。
私はビットの肉にかぶりつきました。
「!」
じゅわりと肉汁が口の中で溢れ、塩胡椒でしっかり味付けのされた肉の味が口一杯に広がりました。
これは美味しいですね。
横を見れば、ロールも夢中になって頬張っています。
「ちょっと待って、あれってエリクル様じゃ……」
「本物!?」
おや、どうやら周りが騒がしくなり始めました。
ここにいては面倒なことになるでしょう。
既にそれを察していたエリクル様が、早足でその場から抜け出します。
私達もそれについていきますと、広場に出ることができました。
「その、エリクル様は有名なのですね」
ロールがおずおずとエリクル様に言いました。
ロールの言葉にエリクル様は驚いたようで、緑の目をめいいっぱいに見開きます。
「僕のこと、知らないんだね」
「えっ、あのっ、すみません」
ロールが咄嗟に謝ると、エリクル様は慌てた様子で「いや」と続けます。
「珍しいなって思っただけだから。何かここら辺では変に有名になっちゃってね」
「確か、風の魔術の貴公子様でしたっけ」
「……恥ずかしいなぁ」
ひっそりと呼ばれている二つ名を呼べば、エリクル様は照れ臭そうに笑いました。
改めて見ると、破壊力が凄いですね。
この笑顔に女性は惚れるのでしょう。
「ところでラティアンカ嬢。アルがいないなんて珍しいね? どうしたんだい?」
「………実は」
エリクル様に私は事情を説明しました。
わかりやすいように、簡潔にですけれど。
全て聞き終えたエリクル様は、なぜかとても困ったような顔をされました。
「ここまでとは……アルが帰ってきたらどうなることやら」
「あの、エリクル様?」
「うーん、君の行きつけの服屋に行ったんだろう? そこで止められなかったかい?」
行きつけの服屋とは、ルルの店のことです。
私がコクリと頷くと、エリクル様はしばし考え込みました。
「……うん、まあ。あのルルが許したんだ。たまにはこういうのもいいだろう」
「私達、アストロへ行きたいんです。エリクル様の力をお借りしたいと思いまして」
「へぇ、アストロに。……そこのロールちゃんも訳ありっぽいね」
どうやら彼はロールがただの護衛でないことをもう見抜いたようです。
相変わらず鋭いお方です。
「うん。いいよ」
「ありがとうございます」
「……ところでさ。アルを振ったんだろ?」
「振ったといいますか、先に浮気したのはあちらです」
「うーん、あいつが浮気するなんてとこは想像できないけど、まあいいや。ラティアンカ嬢、今からでも僕に乗り換えないか?」
乗り換える? ということは、恋人にならないかと誘われているのでしょうか。
……確かにエリクル様なら大切にしてくれそうです。
でも。
「いいえ、お断りいたします」
「振られちゃった」
「ごめんなさい。新しい恋を見つけるとは言いましたけれど、まだ考えがまとまったわけではありませんの」
例えまとまったとしても、エリクル様の恋人になると旦那様に顔をあわせなくてはならない日だってあるでしょう。
それはごめんですから。
残念そうに肩を竦めて見せたエリクル様ですが、切り替えの早いお方です。
すぐに本題へ移りました。
「よし。アストロに行きたいなら、まずは僕の家に行こう」
「その最後のお肉、くれるかい? お金は払うから」
「あ、はい」
慌てて店員さんが肉を準備してくれました。
エリクル様は、私達に一本ずつそれを渡してくれました。
「ありがとうございます、エリクル様」
「あのっ、ありがとうございます!」
「おや。これは可愛いお嬢さんだね。どうしたの?」
ロールのことが気になったらしく、エリクル様が私に尋ねます。
「私の護衛です。名をロールといいます。彼女は頼りになりますわ」
「うん。見てたよ。君すごいね。臆さずラティアンカ嬢を守ってた」
「………」
エリクル様に微笑まれ、ロールは恥ずかしげにうつむいてみせます。
それもそうでしょう。
エリクル様は細身ですが、引き締まった体をされているお方で、おまけに顔もいいのです。
この方は女性にモテモテですからね。
「お代、いいんですか?」
「ああ。ラティアンカ嬢だからね」
そう言ってくれたので、お言葉に甘えることにしました。
冷めないうちにいただきましょう。
私はビットの肉にかぶりつきました。
「!」
じゅわりと肉汁が口の中で溢れ、塩胡椒でしっかり味付けのされた肉の味が口一杯に広がりました。
これは美味しいですね。
横を見れば、ロールも夢中になって頬張っています。
「ちょっと待って、あれってエリクル様じゃ……」
「本物!?」
おや、どうやら周りが騒がしくなり始めました。
ここにいては面倒なことになるでしょう。
既にそれを察していたエリクル様が、早足でその場から抜け出します。
私達もそれについていきますと、広場に出ることができました。
「その、エリクル様は有名なのですね」
ロールがおずおずとエリクル様に言いました。
ロールの言葉にエリクル様は驚いたようで、緑の目をめいいっぱいに見開きます。
「僕のこと、知らないんだね」
「えっ、あのっ、すみません」
ロールが咄嗟に謝ると、エリクル様は慌てた様子で「いや」と続けます。
「珍しいなって思っただけだから。何かここら辺では変に有名になっちゃってね」
「確か、風の魔術の貴公子様でしたっけ」
「……恥ずかしいなぁ」
ひっそりと呼ばれている二つ名を呼べば、エリクル様は照れ臭そうに笑いました。
改めて見ると、破壊力が凄いですね。
この笑顔に女性は惚れるのでしょう。
「ところでラティアンカ嬢。アルがいないなんて珍しいね? どうしたんだい?」
「………実は」
エリクル様に私は事情を説明しました。
わかりやすいように、簡潔にですけれど。
全て聞き終えたエリクル様は、なぜかとても困ったような顔をされました。
「ここまでとは……アルが帰ってきたらどうなることやら」
「あの、エリクル様?」
「うーん、君の行きつけの服屋に行ったんだろう? そこで止められなかったかい?」
行きつけの服屋とは、ルルの店のことです。
私がコクリと頷くと、エリクル様はしばし考え込みました。
「……うん、まあ。あのルルが許したんだ。たまにはこういうのもいいだろう」
「私達、アストロへ行きたいんです。エリクル様の力をお借りしたいと思いまして」
「へぇ、アストロに。……そこのロールちゃんも訳ありっぽいね」
どうやら彼はロールがただの護衛でないことをもう見抜いたようです。
相変わらず鋭いお方です。
「うん。いいよ」
「ありがとうございます」
「……ところでさ。アルを振ったんだろ?」
「振ったといいますか、先に浮気したのはあちらです」
「うーん、あいつが浮気するなんてとこは想像できないけど、まあいいや。ラティアンカ嬢、今からでも僕に乗り換えないか?」
乗り換える? ということは、恋人にならないかと誘われているのでしょうか。
……確かにエリクル様なら大切にしてくれそうです。
でも。
「いいえ、お断りいたします」
「振られちゃった」
「ごめんなさい。新しい恋を見つけるとは言いましたけれど、まだ考えがまとまったわけではありませんの」
例えまとまったとしても、エリクル様の恋人になると旦那様に顔をあわせなくてはならない日だってあるでしょう。
それはごめんですから。
残念そうに肩を竦めて見せたエリクル様ですが、切り替えの早いお方です。
すぐに本題へ移りました。
「よし。アストロに行きたいなら、まずは僕の家に行こう」
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