探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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神様に会いました。

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収穫祭当日になりました。
私達は早速街へと繰り出しました。
さすがはお祭りと豪語するだけあって、屋台やら踊りやら、賑やかさが目立ちますね。

「ラティ様! 私、ベクルが食べたいです!」

ロールがはしゃぎ気味に早口でそう言いました。
風魔で私が話したベクルのことを、覚えてくれたんですね。

「なに? ベクルが食べたいの?」
「スズカさん」

一方、整備士であるスズカさんも今回の収穫祭は一緒に回ることになりました。
この地に住んでいるので、凄く詳しいです。

「ベクルなら……ほら。あのおっちゃんが売ってるだろう?」
「本当です!」

屋台の一つに、一人のおじ様が器に麺を盛り付けて売っていました。
ロールは初めて見るベクルに興奮し、走っていきます。

「元気だね、ロールちゃん」
「エリクル様も、楽しんでいるみたいですね」

しばらく離れていたかと思えば、エリクル様の手にはたくさんの食材が並んでいます。
果物の飴なんかは美味しそうですね。

「それ、どこで売ってます?」
「気になるかい? なら一つあげるよ」

もらった飴に齧り付いてみれば、ブワリと果物の甘さが口一杯に広がります。
おまけに柔らかいので、食べやすいです。

「この果物の名前は?」
「それ、チゴイっていうんだよ」

スズカさんに教えてもらった果物の名前は、やっぱり聞き覚えのないものです。
それに、収穫祭だからと言って渡されたお面は独特なもののような気がします。
私のはキツネのお面ですね。

「ラティ様! 買ってきました!」

ロールがニコニコ顔でベクルを片手に戻ってきます。

「これ、モチモチしててすっごく美味しいですよ!」
「一口もらっていいかしら?」
「はい!」

ロールからベクルを受け取り、思い切り啜ります。
懐かしい、思い出の味が舌に広がります。
ヒイロは箸というフォークやナイフ、スプーンとは違うものを使って食べるのですが、あまり慣れないので少し食べづらいですね。
それを補う分の美味しさがあるのですが。
でも……旦那様に食べさせてもらった時はもっと美味しかった気がします。

「ラティ様?」
「……っ、ごめんなさい。ボーッとしてました。このベクル、とても美味しいですね」
「ですね!」
「おっ、アタシももらっていい?」
「もちろんです!」

スズカさんにベクルを渡せば、彼女も一口啜りました。

「やーっぱこれだよね! ヒイロの名物と言っても過言じゃないよ!」
「ねえ、ロールちゃん。僕ももらっていい?」
「ーーー!」

ヒョイ、とエリクル様が横から出てきます。
エリクル様を見て顔を真っ赤にしたロールが、「ダメです!!」と大声で叫びました。

「だ、だって、か、間接……」
「あー、間接キスか」
「~~~!!」
「ごめんね。そうだよね、気にするよね」
「あっ、いやっ」

慌てるロールに、エリクル様がしゅんとうつむきました。
どうすればいいのかわからず困っているみたいですね。
そう言えば、さっき買ったものについてきた余分な箸があった気がします。

「これ使います?」
「いいのかい? ラティアンカ嬢」
「構いません」
「なら、遠慮なく」

箸を受け取ったエリクル様は、ベクルをもらいました。
すると、スズカさんがこっそり耳打ちしてきます。

「あんた、ちょっと思ったけど……天然?」
「? 天然とは」
「それか鈍感」
「鈍感? なぜ?」
「だって、ロールは多分エリクルのこと……」

そこまで言いかけて、スズカさんは口を閉ざしました。

「いや、まあ、気のせいかもしれないけどな!」
「?」
「さーさー次つぎ」

何だか話を逸らされた気がします。
天然とか、鈍感とか……言われたことはありますけど。
急に言われたのは初めてですよ。

「っ、ラティ様、お下がりください」
「?」

ふと、ロールが何かに気づいて私の前に出ました。
不思議に思っていれば、太陽が覆い隠されて暗くなりました。

「雲り……?」

てっきり天気が悪くなったと思って空を見上げれば、驚くことに、黒く細長い体が空を泳いでいました。
龍ーー神様です。
龍の琥珀色の瞳が私を見つめると、ゆっくりと下へ降りてきます。
それに気づいた人達は、神様が降りられるように道を開けました。
地面に降りた神様は自分の大きさが邪魔になると思ったのか、体を縮めてみせました。
人間くらいのサイズになれば、じっと私、エリクル様の順に眺めます。

「あの……?」
「………」

神様は何も言いません。
どうすればいいのかわからず困っていると、ロールがなぜか返答しました。

「そうです。こちらの方が、ラティ様とエリクル様です」
「ロール?」
「……ですから、アルジェルド様はいませんよ」
「あの、ロール? 何か言ってらっしゃるの?」
「え?」

ロールがポカン、としてこちらを振り返ります。
私には何も聞こえません。
エリクル様のほうを見ても、彼も理解できていないようです。
スズカさんや周りの人達は、ロールを見て呆然としています。

「魔道具なしで神様の声が聞こえる人なんて、何年振りなんだ……」
「それも、外部の者だぞ」
「珍しいこともあるんだな」

反応を見るに、普通は聞こえないもののようですね。
ロールは「え? え?」と困ったように辺りを見回していますが、ロールに通訳してもらうしかありません。

「ロール、神様は何と?」
「え、ええっと、アルジェルド様には昔、世話になったと。それで奥様であるラティ様、友人であるエリクル様と会いたかったと」

神様がス、とこちらに進み出ると、周りの人のざわめきがさらに大きくなります。

「……クルル」

あ、鳴いた。
ふとそう思うと、神様は琥珀の瞳を閉じて見せます。

「お礼がしたいそうです。エリクル様はお強いですから大丈夫だろうと言っていますが、ラティ様が心配だと。だから、加護を渡したいと」
「加護だって!?」

スズカさんの叫び声を皮切りに、一気に騒がしさが増しました。

「加護!?」
「珍しいどころの話じゃないぞ!」
「こりゃあ凄い!」
「彼女は何者なんだ……!?」

騒ぐ人々を気にも止めずに、神様は前に出て私の目線まで細長い体を曲げました。

「ツノに触れてくれと。それで、加護が授けられる、と」

ロールに通訳してもらったまま、ツノに触れようと手を伸ばします。
ーーその時でした。

「俺の妻に、何をしている」

私の手が、ひとまわり大きな手に覆われました。
驚いているうちに後ろにぐんと引っ張られ、何かに抱きしめられます。
その声は、知っているものでした。

「………旦那様?」

なぜか怒った様子の旦那様が、神様をギロリと睨んでいました。
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