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何やら不穏な雰囲気です。
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宿で一夜を明け、迎えた朝。
しかしそれはいつものように清々しいものではありませんでした。
「アル~! これはどう?」
「………」
「美味しい? じゃあ、これは?」
「やめろ」
「つれないんだから!」
食卓で、ジェシーさんと旦那様がイチャイチャしています。
美味しいはずの朝食が、何だか味気のないものへと変わったような気がします。
それでも二人のことを見ないふりをして、もぐもぐと咀嚼を続けます。
「ねえ、アル。海の宝石取りに行くの、手伝ってよ」
「………」
「海の宝石はね、すっごく綺麗なの。深い青色をしていてね。私、それが欲しくて」
「………」
「ね、いいでしょ? なんならちょっとあげるわ!」
旦那様のことだから断るだろう。
そう思っていた矢先でした。
「いいだろう」
「えっ……」
「いいの? やった!」
旦那様が、頷きました。
ジェシーさんの誘いに乗ったのです。
「~~~っ、アルジェルド!!」
エリクル様が声を張り上げ、旦那様に怒鳴りました。
周りのお客さんの目が一斉にこちらに集中します。
「お前って奴は……!! ふざけるのも大概にしろよ!!」
「ふざけてなんかいない」
「だったら何で今もしつこくラティアンカ嬢に追い縋る!? ジェシーの誘いを受けるのなら、誤解されたって仕方ないんだぞ!!」
「別に大した意味はない」
「っ、もうっ、いいっ」
「行こう」とエリクル様の言葉をきっかけに、ロールが席から立ちました。
私にも二人は移動するよう急かします。
私もこの場からは離れたいと思っていたので、ちょうどいいです。
「そうですね。行きましょう」
「ラティアンカ」
「どうやらお二人の邪魔になってしまうようですし」
名前を呼んできた旦那様に強調するように言えば、その先の言葉はありませんでした。
飽きるとは思っていましたが、心変わりも早いものですね。
自分がなぜか、酷くイライラしているように感じます。
そのまま私は、二人とその場を離れました。
◆ ◆ ◆
「ラティ様、元気を出してください」
宿を出て、真っ先にロールはそう言ってきました。
元気を出すも何も、私は元気です。
安心させるように笑ってみせるも、ロールは何か言いたげにこちらを見るばかりです。
「私、アルジェルド様に期待をしていたかもしれません。まさかあれほど酷いお方とは思いませんでした」
腹ただしげな表情で宿を睨むロールに、私は否定しました。
「違いますよ、ロール。アルジェルド様は、正気に戻っただけです。元々私のことなんて、好きじゃなかったんですから」
「でも! ラティ様の前であんなっ……」
「ロールちゃんの言う通りだよ」
エリクル様は、ゾッとするような低い声で唸ります。
「あいつを信用していた僕がバカだった。あんな奴の親友だなんて、どうかしてるよ」
「アルジェルド様は……酷いお方ではありません」
「庇う必要なんてないよ、ラティアンカ嬢。もうダメだ、僕にも庇いきれない。あいつはあのまま、ジェシーと仲良くやってればいいのさ」
困りました。
私のせいで、ロールの信頼どころかエリクル様との友情も危ういものとなってしまいました。
ここは、距離を置くのが最善でしょう。
「旦那様とは、ラグランドにいる間は会わないようにしましょう。それが互いにとっていいことです」
「ラグランドどころか、僕はもう見捨てていいと思うけど」
「そうですよ、ラティ様!」
私も、今は旦那様とジェシーさんのことは見たくありません。
でももう会えないのかと思うと、なぜか嫌なのです。
エリクル様とロールを振り回してしまうのは申し訳ないけれど、私は「いいえ」と続けます。
「誰を好きになるかは、旦那様の自由ですから」
「それはそうですけどっ、アルジェルド様はラティ様に求婚なさると言っていたじゃないですか!」
「ラティアンカ嬢、怒ってもいいんだよ」
二人は本気で私を心配してくれています。
怒る、ですか。
先程までイライラしていたはずなのに、なぜかその怒りは消えていました。
残ったのは虚しさだけ。
胸にぽっかりと穴が空いたような、そんな心だけが取り残されています。
「……観光に、行きましょう。この国で少しでもいい思い出を作るために」
ロールがそう提案してくれたので、私はそれに乗ることにしました。
◆ ◆ ◆
ラグランドは別名「人魚の国」と呼ばれています。
理由はこの国に人魚が住まい、魚介類が豊富だからです。
この国の人々は人魚と手を取り合い、賑やかに暮らしています。
お伽話では人魚と魚は友達だと書かれていますが、実際には魚も彼女達の捕食対象なのだそう。
ですので良好な関係を保てています。
つまり、何が言いたいのかと言うと。
「やあお嬢さん! とっても可愛いね!」
「はあ……どうも」
「そこのお嬢さん! こっちはどうだい?」
人魚の方も、普通に街中にいるわけで。
人魚は陸に上がる際には水槽を用意して、その中に入って職場まで運んでもらうそうです。
街中には色とりどりの尾ひれが輝いて見えますね。
男性の人魚ーーいわゆるマーマンの方からの声かけが凄いです。
「ラティ様はダメです!」
「そうかい残念。なら君はどうだい? 可愛いウサギちゃん」
「かっ、かわっ……」
人魚には男女差別がないらしく、こうやって色々な女性にどんどん声をかけています。
誰にでも可愛いと言っていれば、いずれ街の人も慣れたのでしょう。
通りすがりの女性も適当に流して歩いていきます。
普通男性に可愛いと言われれば、顔を真っ赤に染めて立ち止まるでしょうに。
「そこのおにーさん! 寄ってってよ!」
「僕は遠慮しておくよ」
色っぽい人魚のお姉さん方が、エリクル様を誘います。
しかし、いつもの笑顔で華麗に回避しましたね。
人魚には美人さんが多いですね。
特にあの真っ赤な尾ひれが印象的な、金髪の美人さん。
人魚が持つに相応わしい美貌で、さぞかし男性にモテモテだと思いきや。
「そこ! キビキビ動きな!」
「ひいいい! すんませんっ!」
どうやら周りの人がこき使われているようですね。
話を聞く限り、彼女はここらを仕切る女商人のようです。
本当に色んな人がいますね。
「……ん? ちょっと、そこのあなた」
「え?」
ふと、その人魚さんに引き止められました。
呼ばれたので水槽まで近寄ってみれば、彼女は私の胸元をじっと見つめてきます。
「それ、売ってもらえる?」
「そ、それって」
「ネックレスよ」
彼女が指を差したのは、私のネックレスでした。
紫の宝石が加工された、誰もが羨む綺麗なもの。
これは差し上げられません。
「申し訳ありません。これは無理です」
「あ、残念。それ、凄い魔術がかけられてるからさ。気になったんだけど」
「魔術……?」
「あれ、ラティアンカ嬢。気づいてなかったの?」
気づいていなかったとは。
このネックレスに、凄い効果が秘められているなんて知りませんでした。
エリクル様が説明してくれます。
「それ、防護魔術がかけられてるよ。致命傷から庇ってくれるんだ」
「そうなんですか……」
これは、旦那様のくれたものです。
新婚だった時に、「やる」と言われてもらったもの。
「それ、アルにもらったんだろ? 本当、何考えてるかわかんないよね」
呆れているエリクル様を横目に、私は場違いながらも感動してしまいました。
旦那様が、こんなものをくれるなんて。
……ひょっとしたら、どこかですれ違っていたのかもしれません。
本当は旦那様はーー、いえ、こんなこと考えたってもう。
「ラティ様。私達が、そばにいます」
ロールがギュッと、抱きしめてくれます。
何だか泣きそうになって、私はロールの手を握り返しました。
しかしそれはいつものように清々しいものではありませんでした。
「アル~! これはどう?」
「………」
「美味しい? じゃあ、これは?」
「やめろ」
「つれないんだから!」
食卓で、ジェシーさんと旦那様がイチャイチャしています。
美味しいはずの朝食が、何だか味気のないものへと変わったような気がします。
それでも二人のことを見ないふりをして、もぐもぐと咀嚼を続けます。
「ねえ、アル。海の宝石取りに行くの、手伝ってよ」
「………」
「海の宝石はね、すっごく綺麗なの。深い青色をしていてね。私、それが欲しくて」
「………」
「ね、いいでしょ? なんならちょっとあげるわ!」
旦那様のことだから断るだろう。
そう思っていた矢先でした。
「いいだろう」
「えっ……」
「いいの? やった!」
旦那様が、頷きました。
ジェシーさんの誘いに乗ったのです。
「~~~っ、アルジェルド!!」
エリクル様が声を張り上げ、旦那様に怒鳴りました。
周りのお客さんの目が一斉にこちらに集中します。
「お前って奴は……!! ふざけるのも大概にしろよ!!」
「ふざけてなんかいない」
「だったら何で今もしつこくラティアンカ嬢に追い縋る!? ジェシーの誘いを受けるのなら、誤解されたって仕方ないんだぞ!!」
「別に大した意味はない」
「っ、もうっ、いいっ」
「行こう」とエリクル様の言葉をきっかけに、ロールが席から立ちました。
私にも二人は移動するよう急かします。
私もこの場からは離れたいと思っていたので、ちょうどいいです。
「そうですね。行きましょう」
「ラティアンカ」
「どうやらお二人の邪魔になってしまうようですし」
名前を呼んできた旦那様に強調するように言えば、その先の言葉はありませんでした。
飽きるとは思っていましたが、心変わりも早いものですね。
自分がなぜか、酷くイライラしているように感じます。
そのまま私は、二人とその場を離れました。
◆ ◆ ◆
「ラティ様、元気を出してください」
宿を出て、真っ先にロールはそう言ってきました。
元気を出すも何も、私は元気です。
安心させるように笑ってみせるも、ロールは何か言いたげにこちらを見るばかりです。
「私、アルジェルド様に期待をしていたかもしれません。まさかあれほど酷いお方とは思いませんでした」
腹ただしげな表情で宿を睨むロールに、私は否定しました。
「違いますよ、ロール。アルジェルド様は、正気に戻っただけです。元々私のことなんて、好きじゃなかったんですから」
「でも! ラティ様の前であんなっ……」
「ロールちゃんの言う通りだよ」
エリクル様は、ゾッとするような低い声で唸ります。
「あいつを信用していた僕がバカだった。あんな奴の親友だなんて、どうかしてるよ」
「アルジェルド様は……酷いお方ではありません」
「庇う必要なんてないよ、ラティアンカ嬢。もうダメだ、僕にも庇いきれない。あいつはあのまま、ジェシーと仲良くやってればいいのさ」
困りました。
私のせいで、ロールの信頼どころかエリクル様との友情も危ういものとなってしまいました。
ここは、距離を置くのが最善でしょう。
「旦那様とは、ラグランドにいる間は会わないようにしましょう。それが互いにとっていいことです」
「ラグランドどころか、僕はもう見捨てていいと思うけど」
「そうですよ、ラティ様!」
私も、今は旦那様とジェシーさんのことは見たくありません。
でももう会えないのかと思うと、なぜか嫌なのです。
エリクル様とロールを振り回してしまうのは申し訳ないけれど、私は「いいえ」と続けます。
「誰を好きになるかは、旦那様の自由ですから」
「それはそうですけどっ、アルジェルド様はラティ様に求婚なさると言っていたじゃないですか!」
「ラティアンカ嬢、怒ってもいいんだよ」
二人は本気で私を心配してくれています。
怒る、ですか。
先程までイライラしていたはずなのに、なぜかその怒りは消えていました。
残ったのは虚しさだけ。
胸にぽっかりと穴が空いたような、そんな心だけが取り残されています。
「……観光に、行きましょう。この国で少しでもいい思い出を作るために」
ロールがそう提案してくれたので、私はそれに乗ることにしました。
◆ ◆ ◆
ラグランドは別名「人魚の国」と呼ばれています。
理由はこの国に人魚が住まい、魚介類が豊富だからです。
この国の人々は人魚と手を取り合い、賑やかに暮らしています。
お伽話では人魚と魚は友達だと書かれていますが、実際には魚も彼女達の捕食対象なのだそう。
ですので良好な関係を保てています。
つまり、何が言いたいのかと言うと。
「やあお嬢さん! とっても可愛いね!」
「はあ……どうも」
「そこのお嬢さん! こっちはどうだい?」
人魚の方も、普通に街中にいるわけで。
人魚は陸に上がる際には水槽を用意して、その中に入って職場まで運んでもらうそうです。
街中には色とりどりの尾ひれが輝いて見えますね。
男性の人魚ーーいわゆるマーマンの方からの声かけが凄いです。
「ラティ様はダメです!」
「そうかい残念。なら君はどうだい? 可愛いウサギちゃん」
「かっ、かわっ……」
人魚には男女差別がないらしく、こうやって色々な女性にどんどん声をかけています。
誰にでも可愛いと言っていれば、いずれ街の人も慣れたのでしょう。
通りすがりの女性も適当に流して歩いていきます。
普通男性に可愛いと言われれば、顔を真っ赤に染めて立ち止まるでしょうに。
「そこのおにーさん! 寄ってってよ!」
「僕は遠慮しておくよ」
色っぽい人魚のお姉さん方が、エリクル様を誘います。
しかし、いつもの笑顔で華麗に回避しましたね。
人魚には美人さんが多いですね。
特にあの真っ赤な尾ひれが印象的な、金髪の美人さん。
人魚が持つに相応わしい美貌で、さぞかし男性にモテモテだと思いきや。
「そこ! キビキビ動きな!」
「ひいいい! すんませんっ!」
どうやら周りの人がこき使われているようですね。
話を聞く限り、彼女はここらを仕切る女商人のようです。
本当に色んな人がいますね。
「……ん? ちょっと、そこのあなた」
「え?」
ふと、その人魚さんに引き止められました。
呼ばれたので水槽まで近寄ってみれば、彼女は私の胸元をじっと見つめてきます。
「それ、売ってもらえる?」
「そ、それって」
「ネックレスよ」
彼女が指を差したのは、私のネックレスでした。
紫の宝石が加工された、誰もが羨む綺麗なもの。
これは差し上げられません。
「申し訳ありません。これは無理です」
「あ、残念。それ、凄い魔術がかけられてるからさ。気になったんだけど」
「魔術……?」
「あれ、ラティアンカ嬢。気づいてなかったの?」
気づいていなかったとは。
このネックレスに、凄い効果が秘められているなんて知りませんでした。
エリクル様が説明してくれます。
「それ、防護魔術がかけられてるよ。致命傷から庇ってくれるんだ」
「そうなんですか……」
これは、旦那様のくれたものです。
新婚だった時に、「やる」と言われてもらったもの。
「それ、アルにもらったんだろ? 本当、何考えてるかわかんないよね」
呆れているエリクル様を横目に、私は場違いながらも感動してしまいました。
旦那様が、こんなものをくれるなんて。
……ひょっとしたら、どこかですれ違っていたのかもしれません。
本当は旦那様はーー、いえ、こんなこと考えたってもう。
「ラティ様。私達が、そばにいます」
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そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
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