探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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作戦と状況を把握しましょう。

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「ダメね」

ズバリ、と。
容赦なく切られた意見に、私達は思わず辟易しました。
予想はついていましたが。
王宮の一室を借り、ロールに無理を通してもらい三人で夜を明かしました。
上役と思われるロールに頭を下げていた配下達が非常に騒いでおりましたが、ロールが黙らせていました。
普段のロールからは想像もつかないようなカリスマっぷりに、「ほう」と声が出てしまったくらいです。
ロールには人を惹きつける何かがあります。
そして忙しい女王様に空けていただいた僅かな朝方の時間。
そこでロマドにエリクル様のことを尋ねられないかと聞きましたが、案の定断られました。

「ここ、アストロとロマドの状態をどこまでご存知で?」
「……過去、交流があったと」
「何も知らないのね。まあ、無理はないわ」

女王様は今の現状を憂うように、ロマドのあるほうを向きました。
その目は遠くを見つめています。

「ロマドとは昔から交流があったの。女神と勇者は相棒のような立ち位置だったから。アストロが女神の魂を匿ったのは、それを悪用できる者がいなかったから」
「悪用ですか」
「そう。獣人は、魔術が使えないでしょ? だから魔術の力の源と呼べる女神の魂を国民が手にしても、利用価値がなかった。獣人国家なだけあって人間が移り住んでくることもない。だから女神の魂は安置できていた」

女神の魂。
そう呼ばれるものが一体なんなのかは、知りません。
きっと知らないほうがいい情報なのでしょう。
そんな国家レベルの秘密を抱え込んでいるほうが、精神がすり減りそうです。

「ロマドは勇者が作った国。勇者の子孫が王族の血を引き、国を纏め上げた。だから互いに助け合ってきた。昔はまともな交流があるのはロマドくらいだったけど、最近は交流先を増やしているわ。ヒイロは知っている?」
「そこに、白龍がいる」

旦那様の言葉に、女王様は驚いたようで目を見開きました。

「白龍様のことを知っているの」
「俺の契約相手だ」
「……白龍様は、女神様に仕えた神の一人のはず。そんな方と契約だなんて、さすがね」
「別に。子供の命を助けただけだ」
「黒龍様が、今は表立ったヒイロの神様だものね。あなたがいなければ黒龍様はいなかったかもしれないーーと考えると、運命的なものを感じるわね」

どうやらアストロは神と関連のある国と交流があるみたいです。
まあ、女神の魂という神聖なものがあるので当たり前といえば当たり前なのかもしれません。

「……ロマドはアストロにとって、親友のようなものだったの。だけど、関係性は変わってしまった。アルジェルド様。あなたが見たのは、人形?」
「ああ。陶器でできた人形を、誰かが操っていた」
「人形操術……そんなことができるの、勇者の末裔しかいないわ。でも、自爆することで証拠を揉み消している。過去、シャルロッテを襲いに来たのは全員本物の人間だったけど、捕まえた者達はもれなく自害した。徹底的に、尻尾を掴ませてくれないの。確たる証拠なきままロマドに詰め寄れば、言いがかりをつけた国として、悪評が広まってしまう」

そうすれば、アストロが見放されるのは時間の問題なのでしょう。
アストロは貿易が盛んな国です。
他の国に見捨てられれば経済は回らなくなり、あっという間に崩れてしまう。

「シャルロッテを殺し、女神の魂をこの世に顕現させないこと。それが、奴らの目的か」
「……ほぼ、確定でしょうね」

ヒュ、と、ロールの喉が鳴りました。
自分が命を狙われ、恐ろしくないはずがありません。

「それほどまでにロールは、この国にとっても、世界にとっても、大きい存在なのですね」
「手付かずの宝石の原石だと思ってくれていいわ。綺麗な形に姿を変えることもあれば、間違えればそれは歪む。それに……シャルロッテに女神の魂を移すべきだと、訴える者達も国内にいる」
「女神教徒か。面倒だな、なぜ犯罪者として捕らえない」

旦那様がそう言いますが、簡単な話ではないようです。

「何度も言うけど、この国は女神の魂を匿い……彼女と共に生きてきた。その女神を信仰することは、国民の誉れだと言ってもいいわ。女神教徒を捕まえてしまえば、国民は丸ごといなくなる。でも、私はシャルロッテを女神の入れ物にしたくない」

女王様はロールのそばへ行くと、そっとロールを撫でました。

「シャルロッテは神子です。それは変わりません。でも……私は普通の子供として、この子を愛しています」
「あの、女王様。気になったんですけど……私の両親は、どこにいますか?」

ロールの両親。
記憶を思い出すようになってから、苦しげにその名を呼ぶことが増えた、大切な人。

「……シャルロッテの両親は、アンナと共にこの地を離れました。シャルロッテと深い関わりがありましたので、命を狙われる、もしくは人質に取られる可能性があったからです。連絡を取ることはできません」
「そうですか……」

しゅん、と落ち込むロール。
きっとご両親やアンナさんに会いたかったのでしょう。

「現状は、足踏みしてしまっているわ。シャルロッテが帰ってきてくれたことは嬉しいのだけど、いつどこで敵が現れるかもわからない。どうか王宮でじっとしていて」
「女王様」
「あなたを危険な目にあわせたくないの」

ロールには悪いですが、私もそれに賛成です。
迂闊に出歩き襲われでもしたら、どうすることもできませんから。

「………わかりました」

反論するかと思われたロールですが、ここは素直に引き下がりました。
本当に、女王様も困っているのでしょう。
何かできませんでしょうか。
すると、旦那様はなにかを思いついたようで。

「ラティアンカ。癪だがあいつを頼ろう」
「あいつ、とは?」
「千里眼の王子だ」
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