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アルスフォード編
第八十六話 短剣完成
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結局、アレク達はそのまま、ポルカの家へと帰宅することになった。
帰ってきたアレク達を見たポルカは、早々に尋ねる。
「ガブリエルには会えたかの?」
「会えました。でも、肝心なことはあまり」
アレクが答えると、「ふぅむ」と唸るようにポルカが喉を鳴らす。
「あやつも堅物じゃの。それほどまでに主人が大切か」
「ポルカさん……僕、どうしても、ティファンのこと認められなくて」
自分でも強情だと思う。
あそこで頷けさえすれば、未来は変わっていたのだろう。
しかし、あの優しい視線に応えられる自信が、アレクにはなかったのだ。
すると、ポルカは穏やかに目尻を下げる。
「いいのじゃよ。お前さんの意志は尊重すべきじゃ。さ、気分を切り替えるぞ」
ポルカがアレクの後ろに立っていた双子を呼びつける。
「完成したぞ。お前さん達の相棒が」
「見せてもらおうか」
興奮した様子で前に出れば、「がっつくのはおよし」とポルカが呆れる。
ポルカがクッションの上に置かれた短剣を二人に見せた。
「渾身の二振りじゃ。これに、アレク。お前さんの魔力を注げば完成する」
「僕?」
「そうじゃ。エルミアの時もそうした」
短剣を差し出され、アレクはまじまじとそれを眺める。
鞘に納められたままの剣は、酷く洗練されて見えた。
今まで二人が使っていたものは大違いだ。
恐らく、アレクが見てきた剣の中で、一番の業物だろう。
「俺にも見せてくれ」
どうやらラフテルにも、その出来は伝わったらしい。
アレクの後ろから短剣を覗き込み、感嘆の吐息を漏らす。
「凄いな、これ。まあウチの名剣も負けてないが」
ラフテルが腰に下げた剣を撫でる。
何だか我が子の自慢のように聞こえて、アレクは微笑ましくなった。
「……あ」
その後ろで、恨めしそうな顔をするナオがいる。
恐らく剣に嫉妬しているのだろう。
見なかったフリをして、アレクは短剣へと視線を戻す。
「魔力を注ぐだけでいいんですか?」
「ああ。天族の魔力は特殊じゃからの」
アレクは短剣に手を添えると、早速魔力を流し込む。
尊敬する、大好きな兄と姉が使う剣だ。
大切に仕上げよう。
(どうか二人を守ってくれますように)
そう祈って魔力を注いだ。
アレクから溢れた白色の魔力は、ポルカの家全体を包み込むばかりに膨らんだ。
「……おい、エルル」
「なによ」
ラフテルがエルルに声をかける。
怪訝そうな表情を浮かべた彼女に、ラフテルは言った。
「アレクの魔力は本当に暖かいな。なんか、凄く安心する」
「……そうでしょう。私達は昔からこれを愛し、守ってきた。アレクは私達の宝物なのよ」
「それはそうだろう。俺もそうだ」
「年期はこっちのほうが長いのよ。舐めないでちょうだい」
「別に舐めてない。お前達のことも何となく理解できる」
ラフテルは天然なのだろう。
エルルの言葉を素直に噛み砕いて、そのまま答えを返す。
ラフテルに対してエルルが警戒心を抱かないのは、異常なまでのアレクへの感情が影響しているのだろう。
ラフテルはアレクに甘い。
今回、短剣のことを言い出したのも、きっとアレクのためだ。
「我が弟の末恐ろしさに涙が出そう」
「?」
「あなたこそ被害者ね」
何もわかっていないような、無垢な顔をする。
別に教えてやるほどエルルは親切ではないので、そのまま見送った。
アレクの魔力は全て短剣に入り込んだようで、より一層清廉な空気を短剣は纏っていた。
「完成じゃ。受け取るがいい」
ポルカが双子に短剣を渡す。
それを二人は揃って抜いた。
現れた刃の美しさに、思わず息を呑む。
素晴らしいの一言だ。
これには双子も感謝を告げた。
「ありがとう。これほどのものを打ってもらえるなんて、思ってなかった」
「大事にするわ」
「好評なようで何よりじゃ。その短剣は、お主らの本来のポテンシャルを、思う存分引き出してくれるじゃろう」
あるべきものが戻ったような、そんな感覚だった。
二人は短剣を仕舞い込むと、アレクに確かめる。
「アレク。ライアン達を迎えに行くぞ」
「あ、うん。もう雑用終わってるかな」
今頃なにをしているのだろう。
アレクはライアン達がルイーズにこき使われているのを想像し、早めに迎えに行ってあげようと心に決めた。
◆ ◆ ◆
一方、時はアレク達がルイーズの部屋を離れたところまで戻る。
ルイーズに引き摺られるまま部屋の奥へと連行され、三人はあるものの前でロボットの手から下ろされた。
「愚者共、よく聞け」
「すごい偉そう」
「やっぱりこの人変よね」
「黙れ愚鈍共。その口も閉じられないのか?」
「アリスちゃんに聞かせていいのかな、これ」
「いいんだよ、フワフワさん。私平気」
ルイーズは相変わらずふんぞり返っていた。
早くもやる気の失せそうな四人に、ルイーズはあるものを見せる。
「これは……?」
「私からお前らに依頼だ。これを殺してみせろ」
ルイーズが見せたのは、とある植物であった。
帰ってきたアレク達を見たポルカは、早々に尋ねる。
「ガブリエルには会えたかの?」
「会えました。でも、肝心なことはあまり」
アレクが答えると、「ふぅむ」と唸るようにポルカが喉を鳴らす。
「あやつも堅物じゃの。それほどまでに主人が大切か」
「ポルカさん……僕、どうしても、ティファンのこと認められなくて」
自分でも強情だと思う。
あそこで頷けさえすれば、未来は変わっていたのだろう。
しかし、あの優しい視線に応えられる自信が、アレクにはなかったのだ。
すると、ポルカは穏やかに目尻を下げる。
「いいのじゃよ。お前さんの意志は尊重すべきじゃ。さ、気分を切り替えるぞ」
ポルカがアレクの後ろに立っていた双子を呼びつける。
「完成したぞ。お前さん達の相棒が」
「見せてもらおうか」
興奮した様子で前に出れば、「がっつくのはおよし」とポルカが呆れる。
ポルカがクッションの上に置かれた短剣を二人に見せた。
「渾身の二振りじゃ。これに、アレク。お前さんの魔力を注げば完成する」
「僕?」
「そうじゃ。エルミアの時もそうした」
短剣を差し出され、アレクはまじまじとそれを眺める。
鞘に納められたままの剣は、酷く洗練されて見えた。
今まで二人が使っていたものは大違いだ。
恐らく、アレクが見てきた剣の中で、一番の業物だろう。
「俺にも見せてくれ」
どうやらラフテルにも、その出来は伝わったらしい。
アレクの後ろから短剣を覗き込み、感嘆の吐息を漏らす。
「凄いな、これ。まあウチの名剣も負けてないが」
ラフテルが腰に下げた剣を撫でる。
何だか我が子の自慢のように聞こえて、アレクは微笑ましくなった。
「……あ」
その後ろで、恨めしそうな顔をするナオがいる。
恐らく剣に嫉妬しているのだろう。
見なかったフリをして、アレクは短剣へと視線を戻す。
「魔力を注ぐだけでいいんですか?」
「ああ。天族の魔力は特殊じゃからの」
アレクは短剣に手を添えると、早速魔力を流し込む。
尊敬する、大好きな兄と姉が使う剣だ。
大切に仕上げよう。
(どうか二人を守ってくれますように)
そう祈って魔力を注いだ。
アレクから溢れた白色の魔力は、ポルカの家全体を包み込むばかりに膨らんだ。
「……おい、エルル」
「なによ」
ラフテルがエルルに声をかける。
怪訝そうな表情を浮かべた彼女に、ラフテルは言った。
「アレクの魔力は本当に暖かいな。なんか、凄く安心する」
「……そうでしょう。私達は昔からこれを愛し、守ってきた。アレクは私達の宝物なのよ」
「それはそうだろう。俺もそうだ」
「年期はこっちのほうが長いのよ。舐めないでちょうだい」
「別に舐めてない。お前達のことも何となく理解できる」
ラフテルは天然なのだろう。
エルルの言葉を素直に噛み砕いて、そのまま答えを返す。
ラフテルに対してエルルが警戒心を抱かないのは、異常なまでのアレクへの感情が影響しているのだろう。
ラフテルはアレクに甘い。
今回、短剣のことを言い出したのも、きっとアレクのためだ。
「我が弟の末恐ろしさに涙が出そう」
「?」
「あなたこそ被害者ね」
何もわかっていないような、無垢な顔をする。
別に教えてやるほどエルルは親切ではないので、そのまま見送った。
アレクの魔力は全て短剣に入り込んだようで、より一層清廉な空気を短剣は纏っていた。
「完成じゃ。受け取るがいい」
ポルカが双子に短剣を渡す。
それを二人は揃って抜いた。
現れた刃の美しさに、思わず息を呑む。
素晴らしいの一言だ。
これには双子も感謝を告げた。
「ありがとう。これほどのものを打ってもらえるなんて、思ってなかった」
「大事にするわ」
「好評なようで何よりじゃ。その短剣は、お主らの本来のポテンシャルを、思う存分引き出してくれるじゃろう」
あるべきものが戻ったような、そんな感覚だった。
二人は短剣を仕舞い込むと、アレクに確かめる。
「アレク。ライアン達を迎えに行くぞ」
「あ、うん。もう雑用終わってるかな」
今頃なにをしているのだろう。
アレクはライアン達がルイーズにこき使われているのを想像し、早めに迎えに行ってあげようと心に決めた。
◆ ◆ ◆
一方、時はアレク達がルイーズの部屋を離れたところまで戻る。
ルイーズに引き摺られるまま部屋の奥へと連行され、三人はあるものの前でロボットの手から下ろされた。
「愚者共、よく聞け」
「すごい偉そう」
「やっぱりこの人変よね」
「黙れ愚鈍共。その口も閉じられないのか?」
「アリスちゃんに聞かせていいのかな、これ」
「いいんだよ、フワフワさん。私平気」
ルイーズは相変わらずふんぞり返っていた。
早くもやる気の失せそうな四人に、ルイーズはあるものを見せる。
「これは……?」
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ルイーズが見せたのは、とある植物であった。
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