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第二十話 無事でよかった

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「ーーはっ」

目覚めた場所は、レオナルドのベッドの上。
慌てて起き上がれば、アンちゃんと目が合った。

「……リア」
「あ、アンちゃん~」

良かった、生きてる。
アンちゃんが生きてる。
そのことに安心して、私は思わず脱力した。
アンちゃんが心配げに私に駆け寄ってきた。

「大丈夫? どこか痛いところは……あるよね。あれだけの戦闘だもん。擦り傷切り傷は多いけど、目立った外傷はないかな」
「え、あ、アンちゃん。お腹の傷は」

すると、突然アンちゃんがペロンと服を捲る。
そこには綺麗な肌しかなかった。
あの痛々しい裂傷はどこにも存在しない。

「ど、どうして」
「どうしてって……リアが治してくれたじゃない」
「え?」
「だから、リアが私の傷を治してくれたの。痛みもないからびっくりした。体はちょっとダルいけどね」

ケロッとして言うアンちゃんに、私は戸惑いを隠せない。
私が治したって、どういうこと?
でもアンちゃんは、当然って顔してるし。
そう言えば……アンちゃんがカナリアに刺されてからのこと、よく覚えてない。

「あれ……私、何して」
「リア」
「レオナルド」

レオナルドが水を持ってきてくれた。
コップを受け取り水を飲むと、乾いた喉が潤される。
レオナルドは心配げに私を覗き込んだ。

「その、大丈夫か?」
「うん。平気」
「よかった。お前に何かあったら、どうしようかと……」

それを一概に「大袈裟だよ」と笑い飛ばすことはできなかった。
あの時のことを思い出せば、まるで背筋が凍るような思いがある。
死と隣り合わせとは、これほど恐ろしいものなのか。

「……あ、ライヴ先輩」

気づけばライヴ先輩も来ていた。
私が声をかけると、ライヴ先輩はおずおずと私のほうを見る。

「その……今の君は、リアちゃん?」
「?」

どういう意味なんだろう。
キョトンとする私に、「そっか」とだけ言って、ライヴ先輩は穏やかな微笑を浮かべる。

「いや、リアちゃん! よかったよ。君は本当に大変だね」
「あはは……」

苦笑いをする私に、まったくだとばかりにレオナルドとアンちゃんが頷く。
ふと、私の頭にミリスお姉様とべークリフトお兄様のことが浮かんだ。

「そうだった! ミリスお姉様と、べークリフトお兄様は!?」

私の質問に答えてくれたのはライヴ先輩だった。

「王位争いの席から外れたんじゃないかな。リアちゃんに負けたんだからね」
「そうですか……」
「これであの二人が襲ってくることはなくなった。カナリアとボアもね」

二人が外れたとあれば、刺客が来る回数も大分減るだろう。
残りは、アリエルお姉様、リュドミラお兄様、ネアルお兄様だ。
ユーグお兄様は辞退したと聞いているし。
アリエルお姉様は……きっと襲ってはこない。
ネアルお兄様はまず無い。
リュドミラお兄様は、よくわからない。
彼は読めない人だった。
物静かで、あまり喋らない。
だから彼のことは理解できないままである。

「それはそうと、リア。これを」

レオナルドから渡されたのは、例の水時計だった。
それは相変わらず汚れていて、せっかくの水時計が台無しである。

「このゴミを退かしてみろ」
「えぇ?」

つい最近までできなかったから、できないままだと思うんだけど。
それでもレオナルドは水時計を押し付けてくるので、私はゴミを取り出そうと集中してみた。

「!」

驚くことに、私には水時計の状態がすんなりとわかってしまった。
事細かに溢れてくる情報で、頭が痛くなる。
でも、わかってしまえば簡単だ。
無属性魔法で、そのゴミを小さく固める。
もっと小さく。圧縮して。
すると、水は瞬く間に綺麗になった。

「わぁ……」
「リア、凄い!」

ライヴ先輩が感嘆の声を上げ、アンちゃんはまるで自分のことのように喜んでくれた。
レオナルドはその結果に満足したようで、力強く頷く。

「よし。リア、お前……〔全知〕ができるようになってるな」
「でも、何で急に」
「アンナの傷を治したこと、覚えてないのか?」

そう言われても、全く思い出せない。
私がアンちゃんの傷を治した?
どうやって?
考えていると、突然くらりと目眩がした。

「っ……」
「リアちゃん?」

ライヴ先輩の気遣う声。
そこに、レオナルドの声が重なる。

「きっと魔力消費が大きかったからだろう。〔全知〕はその名の通り、全てを知ることができる魔法だからな。リアは魔力量が多いから、魔力切れなんて起こしたことないだろ」
「う、うん」
「慣れておけ。必要なことだ」

レオナルドに言われて、私は「わかった」と返事をした。
また、無自覚に治したみたい。
レオナルドの時もそうだったみたいだし。
考え込んでいると、アンちゃんが私に笑いかけてくれる。

「リア、お腹減ってない? 何か食べれるもの持ってこようか?」
「あ、お願いしようかな……」
「うん」

アンちゃんが振り返った時、トン、と体がライヴ先輩とぶつかった。
あ、マズいかも。
アンちゃん、男性恐怖症なのに。

「………あれ?」
「あ、ごめんね、アンナさん。触れちゃった」
「待ってください」

離れようとするライヴ先輩の手を、アンちゃんはがしりと掴む。
その対応に私達は目を剥いた。
まさか、男性恐怖症のアンちゃんが。
ライヴ先輩に触れてるだなんて!

「だ、男性恐怖症、治ったんじゃない!?」
「ライオネル様に触れても全然嫌じゃない……」
「じゃあレオナルドは?」

試しにレオナルドの手に触れてみれば、途端にアンちゃんは青くなる。

「ひぃいいっ! ち、近寄らないで!」
「………」

何だかレオナルドは複雑そうな顔。
そりゃあ、雑菌みたいな扱いをされたからだろう。

「どういうこと?」
「ライオネル様だけ、平気です」

ペタ、ペタ、と面白そうにアンちゃんはライヴ先輩を触りまくる。
どうやら神秘の泉は少しだけ願いを叶えてくれたみたいだ。

「……あ」

そこで私は思いついた。

「神秘の泉に行けば、何か思い出せるかも」
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