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プロローグ
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ちょ、ちょっと待って。待ってくれなきゃ、ものすごーく困る!
現代日本でのほほんと平和に暮らしていた私、新田菜穂(26歳)がどうやら死んじゃったらしいことは、とりあえず理解した。
空にぷかぷか浮かんで、自分のお葬式をチラ見したしね。遺影にはもうちょいバッチリメイクの写真使って欲しかったな~とか、戒名がいまいち好みじゃないとか、大金かけてコレクションしたキース様グッズをなんで棺に入れてくれないのよ(怒)とかね、言いたいことは山ほどあるけども、それが無理だってことはなんとなくわかる。
けど、もう少し気持ちの整理とか……戦略を練る猶予とか……そういうのあってもいいと思うのよ。
転生初日、なんならこの世界で目覚めてからまだ数時間しか経ってないわけ。それなのに、二度目の人生ももう詰みの段階って……あまりにもひどくない? あまりにも無慈悲じゃない?
なんて、心の中でどれだけ嘆いてみても、目の前の彼女には一ミリも伝わらないようだった。
フィオナ嬢は虫ケラに対するかのような冷たい目で私を見据えている。そこに慈悲の情は少しも感じられない。
「エマ。お茶会に向かう私のドレスを汚すとはどういうつもりなのかしら」
ツンとしつつも、品のある美しい声。「さすがベテラン声優がつとめているだけあるわー」と、いつも感激していたあの声だ。間違いない。
言葉ではとても言い表せない不思議な感覚だった。知らない人間ではない。むしろ毎日のようにこの顔を見て、声を聞いていた。けれど、それは画面の中でのことで……大好きなゲーム『クイーンズルーレット』の悪役令嬢、フィオナが等身大サイズでいま目の前にいるなんて、やっぱりこっちが夢なんじゃないか。そんなふうに思えてくる。
けれど、頬をつねろうが、壁に頭をガシガシぶつけようが、この夢は決して醒めることはない。朝から何度も試したからね、それだけは確定事項。夢オチが期待できない以上、なんとかしてこの場を切り抜けなければならないだろう。
いま現在の私は、エマという名だ。超モブキャラなので苗字は知らない。というかおそらく、設定もされていないだろう。悪役令嬢フィオナの侍女で、ささいなミスを彼女に叱責されクビになる役だ。
物語の序盤で、いかにフィオナが冷たい女かということをユーザーに知らしめるために登場する脇役中の脇役。
そして、エマである私は、たったいまシナリオ通りに主のドレスに紅茶をぶっかけてしまったところだった。
「ち、違うんです!」
「なにが違うのよ?」
なにが違うのかなんて、言った自分が一番よくわからない。が、とにかくシナリオとは違う展開に持っていかなければならないのだ。端的に言えば、なんでもいいからフィオナに取り入るのだ。彼女の侍女という役どころな以上、彼女に嫌われては生き延びられない。
「だから、その……ワザとなんです」
「はぁ?」
刺々しい声には、彼女の怒りがたっぷりと滲んでいる。怖い。でも、超いい声。でも、やっぱり怖い~。エマとしての感情と菜穂としての感情が複雑に入り乱れる。
「実は、今日お召しのそのドレス。深紅の色は王子殿下のお好みではないと小耳に挟んだんです」
嘘ではないのよ、嘘では。この後の展開で、攻略対象である王子ラフェルは「昼のお茶会には淡い色がふさわしいな」と発言するのだ。ヒロインであるユーザーが、淡いドレスを選択していれば好感度アップとなるわけだ。
フィオナはいぶかしげに首をひねった。大人びた深紅のドレスは高級品で、彼女にとてもよく似合っている。今日の装いには自信を持っているのだろう。
「本当なの?」
「ええ。木漏れ日と白バラに似合う、優しい色のドレスで登場すれば殿下の目はフィオナ様に釘付けのはずですわ!」
木漏れ日だの、釘付けなの、普段は絶対に使わないような単語がスラスラと口から出てくる。意識とは裏腹に、すっかりエマになりきっている自分に驚く。
フィオナは仕方ないと言いたげに小さく息を吐いた。
「どのみちシミのついたこのドレスは着れないわ。王子の好みはどうだっていいけれど、新しいドレスはすぐに用意して」
「は、はい! ただいま」
セーフ、とりあえず首の皮一枚つながったぁ!
現代日本でのほほんと平和に暮らしていた私、新田菜穂(26歳)がどうやら死んじゃったらしいことは、とりあえず理解した。
空にぷかぷか浮かんで、自分のお葬式をチラ見したしね。遺影にはもうちょいバッチリメイクの写真使って欲しかったな~とか、戒名がいまいち好みじゃないとか、大金かけてコレクションしたキース様グッズをなんで棺に入れてくれないのよ(怒)とかね、言いたいことは山ほどあるけども、それが無理だってことはなんとなくわかる。
けど、もう少し気持ちの整理とか……戦略を練る猶予とか……そういうのあってもいいと思うのよ。
転生初日、なんならこの世界で目覚めてからまだ数時間しか経ってないわけ。それなのに、二度目の人生ももう詰みの段階って……あまりにもひどくない? あまりにも無慈悲じゃない?
なんて、心の中でどれだけ嘆いてみても、目の前の彼女には一ミリも伝わらないようだった。
フィオナ嬢は虫ケラに対するかのような冷たい目で私を見据えている。そこに慈悲の情は少しも感じられない。
「エマ。お茶会に向かう私のドレスを汚すとはどういうつもりなのかしら」
ツンとしつつも、品のある美しい声。「さすがベテラン声優がつとめているだけあるわー」と、いつも感激していたあの声だ。間違いない。
言葉ではとても言い表せない不思議な感覚だった。知らない人間ではない。むしろ毎日のようにこの顔を見て、声を聞いていた。けれど、それは画面の中でのことで……大好きなゲーム『クイーンズルーレット』の悪役令嬢、フィオナが等身大サイズでいま目の前にいるなんて、やっぱりこっちが夢なんじゃないか。そんなふうに思えてくる。
けれど、頬をつねろうが、壁に頭をガシガシぶつけようが、この夢は決して醒めることはない。朝から何度も試したからね、それだけは確定事項。夢オチが期待できない以上、なんとかしてこの場を切り抜けなければならないだろう。
いま現在の私は、エマという名だ。超モブキャラなので苗字は知らない。というかおそらく、設定もされていないだろう。悪役令嬢フィオナの侍女で、ささいなミスを彼女に叱責されクビになる役だ。
物語の序盤で、いかにフィオナが冷たい女かということをユーザーに知らしめるために登場する脇役中の脇役。
そして、エマである私は、たったいまシナリオ通りに主のドレスに紅茶をぶっかけてしまったところだった。
「ち、違うんです!」
「なにが違うのよ?」
なにが違うのかなんて、言った自分が一番よくわからない。が、とにかくシナリオとは違う展開に持っていかなければならないのだ。端的に言えば、なんでもいいからフィオナに取り入るのだ。彼女の侍女という役どころな以上、彼女に嫌われては生き延びられない。
「だから、その……ワザとなんです」
「はぁ?」
刺々しい声には、彼女の怒りがたっぷりと滲んでいる。怖い。でも、超いい声。でも、やっぱり怖い~。エマとしての感情と菜穂としての感情が複雑に入り乱れる。
「実は、今日お召しのそのドレス。深紅の色は王子殿下のお好みではないと小耳に挟んだんです」
嘘ではないのよ、嘘では。この後の展開で、攻略対象である王子ラフェルは「昼のお茶会には淡い色がふさわしいな」と発言するのだ。ヒロインであるユーザーが、淡いドレスを選択していれば好感度アップとなるわけだ。
フィオナはいぶかしげに首をひねった。大人びた深紅のドレスは高級品で、彼女にとてもよく似合っている。今日の装いには自信を持っているのだろう。
「本当なの?」
「ええ。木漏れ日と白バラに似合う、優しい色のドレスで登場すれば殿下の目はフィオナ様に釘付けのはずですわ!」
木漏れ日だの、釘付けなの、普段は絶対に使わないような単語がスラスラと口から出てくる。意識とは裏腹に、すっかりエマになりきっている自分に驚く。
フィオナは仕方ないと言いたげに小さく息を吐いた。
「どのみちシミのついたこのドレスは着れないわ。王子の好みはどうだっていいけれど、新しいドレスはすぐに用意して」
「は、はい! ただいま」
セーフ、とりあえず首の皮一枚つながったぁ!
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